ごーかい・くえすと!   作:若人の気紛れ

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一週間も空けてしまった…。



※行動隊長の台詞に重大な誤りがございましたため、一部訂正しました。


船失き海賊③

 この世界にある小さな村イリアスヴィル。この世界ではごくありふれた小さな人里だが、他の村々と一線を書く点が一つある。それはイリアス神殿という大きな神殿の存在である。

 この世界では、旅立ちの年齢になった時、このイリアス神殿で女神の洗礼を受けることで勇者になることが出来るのだという。

 勇者の使命は世界を脅かす魔王を倒し、世界を平和に導くこと。

 

 この日、とある一人の少年も、女神イリアスの光の洗礼を受け、今日勇者になろうとしていた。

 

 少年の名は"ルカ"。

 

 母は幼い時に流行り病で亡くし、父も生前の母とルカを残して家を出て行き、彼は幼くして天涯孤独の身となってしまった。

 しかし数少ない親切な村人の助けもあり、今日まで彼は一人の村の住人として、畑仕事に精を出しつつ、適度な基礎体力と剣術を培いながら暮らして来た。

 

 そして今日は女神の洗礼の日。今朝も夢にイリアス様ご本人が降臨して、勇者の使命を御教授なさってくれた。

 途中、村の近くの森に出たスライム娘との死闘(?)をイリアス様の助言のもとに制し、いざ村に戻ろうとしたところ、突然大きな轟音と共に地響きが鳴り渡った。

 音の発生源が近くだったのと、何故かほっとけない胸のざわめきがしたため、音の響いた方へ向かうと────そこには地面にめり込んだ美しい妖魔とそれを取り囲む奇妙な服を着た珍妙な集団。

 それを見た瞬間、その集団が魔物を虐めているのかと思った僕は思わず声を荒げた。

 

「お、お前たち、そこで何をやってるんだ!」

 

「あっ?」

 

 僕の声に、赤い服を着た目つきの悪い男性がこちらを訝しげに見る。

 

「うっ…!」

 

「いけませんよ、マーベラスさん。初対面の人に、しかも子どもにそんな態度をとっては」

 

 その目つきの悪さに思わず尻込みそうになった時、一緒にいたお淑やかな雰囲気を醸す女性がその男性をやんわりと宥めると、バツが悪そうに咳払いをする。

 

「なんだ、人間の子どもいるじゃん」

 

「ちょうどいい、お前に聞きたいことがあるんだ」

 

 黄色の服を着た強気そうな女性と青色の服を着たクールな男性に続き、さっきの赤い男性が僕に一歩近付く。

 

「おいガキ、ここはどこだ」

 

────────

 

「ふむ、余もまずはそれを聞きたい」

 

「わっ!起きた!」

 

 いつから聞いていたのか、めり込んでいた魔物もムクリと起き上がってこちらを見る。それと下敷きになっていたのか、髪が小さく爆発したような髪型をした金髪の男性が腰を押さえながら、魔物がどいた隙に這い出てきた。

 それよりもあの魔物───多少土汚れがついてはいるが、その程度では損なわれない美貌に加え、身なりや雰囲気からかなり上級の妖魔のようだ。

 

 僕は魔物を敵視しているわけではない。むしろ人と魔物が共存する世界を望んでいる。しかし今の僕には時間がなかった。

 何せこれからイリアス様の洗礼を受けるため、イリアス神殿に向かわねばならないのだ。

 確かに正午まではまだ時間がある。だが、ゴタゴタに巻き込まれて遅刻してしまう可能性もある。しかも、見るからに怪しい集団と妖魔、目の前の状況からトラブルの匂いは濃厚。

 

「おい、なにボケっとしてるんだ」

 

「此処は何処かと聞いている。さっさと答えぬか」

 

「こ、此処はイリアスヴィルの近くだよ!」

 

 二人の圧に押されて、ついポロッと口走ってしまった。

 

「イリアスヴィル?」

 

「そんな所まで飛ばされたのか……あの女、なんて馬鹿力なんだ……」

 

 妖魔が少し考えるように沈黙するのに対し、珍妙な服を着た集団は互いに顔を見合わせる。

 

「…さっぱりわからん」

 

「まあ、初めて降りた星だしね」

 

「初めて降りた星…?」

 

 聞き慣れない妙な言い回しに僕も疑問を浮かべてると、先程まで沈黙していた妖魔がこちらに向き、僕の疑問を無視してまた質問した。

 

「……で、貴様らは何者なのだ?」

 

 質問の対象は僕だけでなく、後ろの彼らにも及ぶらしい。

 

「えっと……僕は勇者見習いのルカ」

 

 勇者見習い、という単語を聞いた瞬間、妖魔の目つきが変わり、じゅるりと舌舐めずりをする。

 

「ほぅ、勇者見習い……ということは洗礼を受けていない身か。道理で美味そうな匂いがぷんぷんしている訳だ」

 

 何故だか知らないが、僕の背中に悪寒が走る。

 

「貴様のことはわかった。……だが後ろの貴様ら、さっさと名を名乗らぬか」

 

 妖魔の目と質問が後ろの集団に向く。

 

「はっ、人に名前を聞く時は、まず自分からって習わなかったか?」

 

「ちょ、ちょっとマーベラス!」

 

 赤い男が挑発じみた言葉を送った途端、明らかに空気が変わるのを感じた。

 

 な、何を考えているんだ!?まだ見習いではあるが僕でもわかる。目の前の妖魔は圧倒的に強い。それも僕が挑めば一瞬で消し炭になるほど。

 その事を察したのか、さっきまで妖魔の下敷きになっていた金髪の男性も慌てて赤い男の腕を不安そうな面持ちで離さない。

 

 それでも尚、赤い男は太々しい態度で妖魔を睨み、一方の妖魔も無言で赤い男を睨む。両者の間の空気が揺らぎ、一触即発の雰囲気になりかけた時、先程赤い服の男を宥めたお淑やかな女性が一歩踏み出した。

 

「お二人とも落ち着いて下さい。マーベラスさんも初対面の人に向かって挑発しないで下さい」

 

「ふん…」

 

「むぅっ…」

 

 彼女が間に入ったことにより、徐々に二者間の冷え切った空気の温度が戻り始め、当事者の二人も渋々引き下がる。

 

「先ほどのマーベラスさんのご無礼をお許し下さい。わたくしは"アイム・ド・ファミーユ"と申します。それでこちらの方が…」

 

「僕はドン・ドッゴイヤー。みんなからハカセって呼ばれてるんだ」

 

「私はルカ・ミルフィ。そこの彼と名前は一緒みたいだけど、少なくとも血縁者というわけじゃないから。そんで、そこの無愛想な顔をしたのが"ジョー・ギブケン"」

 

「おい、勝手に…!」

 

「そしてあちらの方が、船長の"キャプテン・マーベラス"さん。ああ見えて優しい方なのですよ?」

 

「おいアイム…余計な事を言うな」

 

 アイムさんの発言にマーベラスと呼ばれた男が顔をしかめ、その様子に他の人たちもくすりと笑みを浮かべる。反応を見るに、意外と良い人たちなのだろうか?

 

「わたくしたちは宇宙を旅する宇宙海賊と呼ばれているのですが、この星に訪れた際、訳あってつい先ほど船を失くしてしまい、遭難してしまったのです」

 

 彼らの事情はわかった。突拍子のない話だが、彼らの見慣れない服装やアイムさんやドンさんの深刻そうな表情から、流石に信じざるを得ない。だけども、僕じゃ力になれそうにない。それにこれから洗礼が…

 

「そうだ!洗礼だ!」

 

 目の前の妖魔や海賊に呆気に取られて忘れていたが、これからイリアス神殿に向かって勇者になるための洗礼を受けなければならない。

 それに大した怪我も負ってないようだし、これなら放っておいても大丈夫そうだろう。

 

「イリアスヴィルの村はこの道をまっすぐ進めばあります。それじゃあ僕は用事があるのでこれで…」

 

「待て」

 

 立ち去ろうとしたその時、妖魔の下半身の大蛇部分がいきなり僕の胴を巻き上げ、無理矢理自分の方に向ける。

 

「成程、事情は分かった。今日はイリアスの降臨日、だから洗礼を受けようとしていたわけか……」

 

「そ、その通りだよ…。だから離してくれないか?」

 

 僕は勇者になると誓ってから、ずっとこの日を心待ちにしていたのだ。

 

「イリアスの洗礼など受けるな、くだらん」

 

「く、くだらん……!?」

 

 今までの僕の根底を、くだらんの一言で吐き捨てられる。もはや腹が立つを通り越してがっくりと肩を落とす。そもそも何で会ったばかりの妖魔に、僕の生き方を否定されなきゃならないんだ。

 

「……もう、何だっていいよ。とにかく離してくれないかな?」

 

「……」

 

 とにかく早く洗礼を受けに行きたかった僕は、半ば投げやりになりながら、妖魔に身体を離してほしいと懇願する。

 しかし妖魔は離す気配すら見せず、海賊たちも僕らのやりとりを静かに傍観している。すると、黙っていた妖魔がこんな事を言い出した。

 

「……なぜ余に止めを刺そうとしなかった?」

 

「えっ?とどめ……?」

 

 妖魔の言葉にただ困惑する。

 

「人間が余を討つ千載一遇のチャンスだったはず。仮にも勇者を目指すはずの貴様がなぜそれをしなかったのだ?」

 

 そう問われても返答に困る。

 

「良いやつか悪いやつかもわからないのに、そんなこと出来るわけないだろ」

 

「……ほう、人間にとって、魔物は敵である筈がないのか?」

 

 確かにそんな人もいる……けど、僕は違う。魔物という理由だけで憎むような人間にはなりたくない。

 

「ましてや貴様は勇者志望なのだろう?魔物を敵だと思っていない者が、いかなる理由で魔王を倒そうとする?英雄願望か?功名心か?それとも───」

 

「…僕は英雄になりたいわけじゃない。魔王だって、別に憎んでるわけじゃない。ただ、悪いことをやめさせたいだけなんだ」

 

 そうだ。僕は人と魔物が争い、無益な戦いで傷つけ合うのを見たくない。互いに互いを傷付けて、それをどちらかが滅びるまで続けるなんて絶対に間違ってる。そのおかげで、人間も良い魔物も迷惑してるのだから。

 

「僕は、人間と魔物が手を取り合って暮らす世界を築きたいんだ!」

 

「はぁ?」

 

 僕の描く夢に対し、妖魔の間抜けた声が返ってくる。

 

ドアホだろう。貴様」

 

「うぐっ……」

 

 胸にグサッとくる冷たい一言。妖魔は言葉を続ける。

 

「幼稚な善悪の二輪元を土台に、歯が浮くようなお花畑の世迷い事……ドアホと言わずに何と言うか。」

 

「う……ぐ……」

 

 悔しいが、何も言い返せない。なにせそれを実現させる力も知識も経験もない。妖魔からしたら、僕の言っている事は世間知らずの子供がほざく絵空事という認識なのだろう。実際その通りだから反論できない。

 

「世の中というのを知らん年齢でもあるまい。人間と魔物が手を取り合って暮らす?人間はいつから、起きたまま寝言を言うようになったのだ」

 

「でも、僕は…!」

 

「別に良いじゃねぇか。ドアホで」

 

「え?」

 

 僕の抗議を遮り、今までこちらを傍観していたマーベラスさんが腕を組んだまま言い放つ。その自身を体現したかのような彼の立ち振る舞いに、妖魔も興味が湧いたのか耳を傾ける。

 

「夢を見る奴ってのは、どいつもこいつも馬鹿げた理想を掲げて、その根拠のない自信でがむしゃらに進むようなアホばかりだからだ。だがそういうアホが、大体そんな馬鹿げた夢を掴み取っちまうんだよ」

 

「……」

 

 彼は言葉を続ける。

 

「俺たちは別にお前たちの事情なんか知らねえし、興味もねえ。けどな、どんなにこいつの夢がアホみてぇな夢でも、そのアホみてぇな夢を否定していい理由にはならねえだろ」

 

 彼は僕のために言ったわけではないのだろう。それでも、彼の話を聞いた僕は、心に刺さっていたトゲがスゥーッと消え去ったような気がした。

 

「…なるほど、貴様の言い分は理解した。海賊らしく物事の本質を捉えず、抽象的かつ曖昧な感情論。結局このアホの掲げる夢の本質が未熟がゆえの幼稚な使命感という点は変わらん」

 

「…だが余の方も、少々大人気なく言葉が過ぎた」

 

 僕の身体を巻き上げていた尻尾の拘束が緩む。

 

「もう行っていいぞ」

 

 そう言うと、妖魔は呆気なく僕を解放してしまった。

 

「あの……ありがとうございます」

 

 解放された僕は、腕を組んで木の幹に寄りかかるマーベラスさんに一言お礼を言った。本人からしたら、別に僕の事を庇ったつもりじゃないのだろう。ただあの人はきっと、誰よりも夢を大切にする人で、夢を貶した事を許せなかったのだ。例えそれが見知らぬ他人の夢であったとしても。

 それに、僕の心が救われたのには変わらない。

 

「はっ、お前に感謝言われる筋合いはねぇよ。それに何か勘違いしてるようだが、別にあの蛇女の意見を否定したわけじゃねえ」

 

「お前が幼稚なアホガキだってことは事実だしな」

 

 さっきの不敵な笑みとは打って変わって、すっかり馬鹿にし切った顔でマーベラスさんは僕の肩を叩く。

 

「えっ?」

 

「急いでんだろ?さっさと行ったらどうだ?未熟者のアホガキ

 

「っ〜〜〜!!!」

 

 こ、こいつ!!最後に余計な一言を、しかもしたり顔で!!数秒前までこんな奴の言葉に若干心が響いていた自分が馬鹿みたいじゃないか!

 

「ア、アホアホって…!う、うるさいばーか!!」

 

 そうやって碌な悪口も思い付かず、逃げながら捨て台詞を吐くなんて、本当に子どもみたいじゃないか。自分で自分が情けなくなる。

 それでも仕返しが怖くて振り向くことが出来なかった僕は、そのまま全速力で森の中を駆け抜けていった。

 

────────

 

「あーあ、行っちゃった」

 

「マーベラスさん、素直に言わないと意地悪な方だと思われますよ?」

 

「知らねえな。ほんとの事を言ったまでだ」

 

「ほーんと不器用だよね。そんなんだからいつまで経っても第一印象悪いんだよ」

 

「引っ叩くぞ」

 

 少年の姿が見えなくなってからしばらくして、見知らぬ森に見知らぬ妖魔と残された五人。乾いた音とハカセの小さなうめき声が木々のさざめきと共に鳴り響く中、そんな五人に向けて妖魔が口を開く。

 

「…海賊というものは己の利益のために、平気で他人を裏切り、傷つけ、顧みないものだと思っていたが、少々認識を改める必要があるようだ」

 

「なぜ改める必要がある」

 

 妖魔の言葉にジョーが素っ気なく疑問を投げると、それにハカセとルカが続く。

 

「そうだよ。海賊なんて、基本そんな奴らばっかだし」

 

「でもさ、これで少しはあの子の理想の現実味が増したんじゃない?」

 

「ほう…?」

 

 どういう意味かと唸る妖魔に、アイムが歩みを寄せる。

 

「お互いがお互いの持つ一方的な先入観で物を見るのではなく、それが誤ってるかもしれないと、少しでも疑問を持つことが大事なのだと思います」

 

「異なる種族が、お互いを分かち合うのはとても難しい事です。ですが、先程のあなたの海賊への認識のように、互いに向く偏見をゆっくりと解いていくことが、人と魔物(あなたがた)の和解のきっかけの一つになるのだと思います」

 

 大きく捉える必要はない。ほんの些細なことでもいい。今まで自分が決めつけていた相手に対する偏見を一度立ち止まって考え直す。一つ一つの効果は微力だが、次第にそれらが積み重なり、少しでもお互いの偏見がなくなれば、異なる思想、種族の共存への道と繋がるのではないか。

 

「まあ、その相手が人間を殺る気な以上、あのガキはそれに抗える力がねえと話になんねぇがな」

 

 しかし、どんな理想を並べ立てようと力が無ければ話にならない。血を流さない手段を取るために、相応の力を持たなければならないとは、何とも皮肉な話であるが、それが現実なのだ。

 

「……夢みがちな理想論だと高を括っていたが、意外にも現実を見据える理性もあるらしい。それが貴様らが異形の余にトドメを刺さなかった理由か」

 

「売られた喧嘩は買うが、こっちから喧嘩は売らねえよ」

 

「……数分前の貴様に聞かせてやりたいものだ」

 

「というか、そろそろあんたの名前教えてくれない?私たちも名乗ったんだから、教えるってのがマナーってもんでしょ?」

 

 自分たちが名乗ったのに対し、ちっとも名前を言わないことを海賊の方のルカに指摘されると、妖魔は目を閉じ、自嘲するように乾いた笑みを浮かべる。

 

「ふっ、海賊にマナーの何たるかを言われたらおしまいだな。だがよかろう」

 

「我が名は"アリスフィーズ・フェイタルベルン"。特別にアリスと呼ぶ事を許そう」

 

「まあ、御伽話に出てくるような素敵な名前です!」

 

「でもなんか似合わないなぁ〜」

 

「おい貴様、締め殺すぞ」

 

 ようやく名前を名乗った妖魔に対し、アイムが心から賛する一方、余計なことを言ったハカセが案の定尻尾で締め付けられ、苦悶の声をもらす。

 

「それに貴様、先刻の女性に対する不躾な『重い』などという発言。本来であれば不敬として断罪せねばならぬが、余は寛大だ」

 

一発殴らせろ。さすれば先ほどの不敬は全て水に流してやる」

 

 そう言いながら、アリスは魔力を右手に集中させ、拳周りの空気に色を付ける。

 

「ストップストップ!それほんとに死んじゃうから!」

 

「ええい、喚くな!標準がズレる!」

 

 そんな揉める二人を呑気に観ながら、マーベラスは今後のするべき事を話し出す。

 

「とりあえず俺たちがこの星でやるべきことは四つ。①食料の確保、②はぐれた仲間の捜索、③ゴーカイガレオンの奪還、④アルマエルマとかいう奴への御礼参り」

 

「あいつがあの程度で死んだとは思えねえ。俺たちをこんな目に合わせたんだ。一発ギャフンと言わせねえと気が済まねえ」

 

 マーベラスが拳を木に叩きつけ、ルカも拳をパンパンと打ち鳴らす様子を見て、ハカセの胸ぐらを掴み、今にも拳を振り下げようとした妖魔が拳を止め、しばらく考え込む仕草をするとこんな事を言い出した。

 

「貴様らに問いておきたい。貴様らの追う(かたき)はおそらくこの星に蔓延る魔王軍の幹部。其奴に牙を向くということは、魔王軍を敵に回すと同じ」

 

「貴様らは、たった数人で幾万もの規模を誇る魔王軍を相手取るつもりか?」

 

「決まってんだろ。もしあの所業が魔王か何かの命令だったら、ソイツや軍を率いる長として、きっちりけじめは付けてもらう」

 

「…そうか」

 

 即答するマーベラスの言葉に、アリスは視線を下げる。しかしマーベラスの言葉には続きがあった。

 

「だが、それが魔王の意思でもなんでもねぇのなら、あの女を張り倒して終わりだ。そもそも俺たちは他所の星の揉め事に介入する気もねえしな。奪われたものを取り返して、奪った当人に礼を送って勘弁してやる」

 

「もちろん、アチラが直々に邪魔立てや喧嘩を売ってきたりなどすれば、その限りではありませんが」

 

 地球での交流を通してやや丸くなったと思いきや、そうではない。そもそも彼らはレジェンド戦隊たちにレンジャーキーを一刻も早く返しに行かなければいけない状況であり、元から敵対してるザンギャックならまだしも、見知らぬ軍勢を相手にしている暇がないのだ。無論、この星の魔王軍とやらが吹っ掛けてくれば、海賊らしく話は別だが。

 

「全か個か。その区別は付けてるというわけか」

 

「ねえ、マーベラス。そろそろあの子の言ってた村に行こうよ。ずっと食べてなかったこと、忘れたとは言わせないよ?」

 

「わかってる」

 

「おいハカセ、いつまでそんな格好している。行くぞ」

 

「ジョー、そんな事言われても、この人が離してくれな」

 

「アリスさん、身体には気をつけて、ご機嫌よう」

 

「ああ、建設的な会話になった。達者でな」

 

「ああ!!ちょっと待ってよ置いてかな……ってうわぁぁぁぁーー!?」

 

ボガァァァァァンッッ!!!!

 

 森の奥にて木霊する大きな爆発。衝撃による風が砂埃を巻き上げながら、別れを告げた六人を襲う。

 

「あっちの方向って…」

 

「さっきの子どもが行った方向だ」

 

「あ、マーベラス!」

 

「マーベラスさん!」

 

 無言で少年ルカが走り去った方向に駆け出すマーベラス。それに唖然としながらも、マーベラスの性格を知るジョーたちは顔を見合わせると後に続いた。

 

「お人よしな海賊め…」

 

────────

 

───数分前、

 

「ぁぁ……ぉぅ……ぅぁ……ぉ……ぅぁぉぅ……」

 

 時刻は正午過ぎ、僕はこの世の者ではない声で呻きながら、イリアス神殿を出た。顔面は蒼白で、まるでゾンビと思われるほどだろう。

 今日は一生に一度、洗礼を受けられる日。それなのに僕は洗礼を受けられなかったのだ。

 決して遅刻した訳じゃない。海賊と妖魔から逃げてきてから、ちゃんと正午前にはイリアス神殿に出向いたのだ。にもかかわらず、何故かイリアス様は降臨されなかったのだ。

 

『イリアス様が姿をお見せにならないとは前代未聞の事態だ。イリアス様は君を見捨てたのではないか?』

 

 なんて神官からの辛辣な言葉が、今も頭の中をぐるぐる回る。

 僕は一生に一度しかない勇者になるチャンスを逃してしまったのだ。つまり僕にはもう、勇者になれるチャンスは無い。

 

「た、大変だ!毒に冒されているのですか!?この毒消し草をお使い下さい!」

 

 遂に通りすがりの冒険者にすら心配されてしまう始末。おまけに幻聴まで聴こえてきた。まるで静電気のようなビリビリとした…その瞬間、森の方から一直線に伸びた光がイリアス神殿の柱の一つに直撃し、当たった箇所が大きな音を立てて爆散。

 神殿の壁にも亀裂を作り、白い大理石の瓦礫と化した柱が、瞬く間に音を立てて崩れ去った。

 

「な、なんだ!?」

 

 悲鳴と共に逃げ回る人々。このあまりの異常な事態に、一気に憂鬱な気分が吹き飛んだ僕が、腰元の鉄製の剣に手を伸ばす。

 すると、光が放たれたと思われる森の中から、魔物とは違う異様な集団がぞろぞろと出てきた。

 

 人型であるものの、いくつもの白い貝殻で繋がっているような全身にところどころの隙間から覗き込む赤い光眼。何より頭の上についたウサ耳というアンバランスな組み合わせ。

 生物の尊厳をかなぐり捨てたような外見を持つ怪人を筆頭に、鬼のような形相に小さく赤い口紅をつけた鋭い爪のついた巨大な両腕を持つ青色の兵隊、両手にハンマーのようなものを抱えて頭部が平坦でミニスカを履いたような全身灰色の兵隊が、一糸乱れぬ行進をしながらこちらに進んでくると、一番前にいたウサ耳の怪人が立ち止まって手を上げたと同時に、後ろの兵隊たちも動きを止めた。

 その内の一人の灰色の兵隊が、小走りで拡声器のようなものをウサ耳に手渡すと、そのウサ耳は拡声器を通してこちらを見下すような口調で話し始めた。

 

「あー、あー、ご機嫌よう弱者人間のみなさん。我々は皇帝陛下の奥方"ドエロス・ギル"様率いる宇宙帝国ザンギャック。私はドエロス様に使えるメイド兼行動隊長の"ヴァルネ"と申します。以後お見知りおきを」

 

 見た目に反して礼儀正しくお辞儀をする怪人。姿形とのギャップにこっちは変な気分になる。しかも声の高さからして女性のようだ。

 

「一つ言っておきますが、我々はこの村を攻め滅ぼしにきたわけではありません。我々はある妖魔を始末しに来ました」

 

 挨拶代わりに神聖なるイリアス神殿の柱を破壊しておいて何を言ってるんだ。一言文句を言いたいが、目の前にズラリと並ぶ軍勢の数にそんな気も失せてしまう。それにしても魔物一人にこんな大軍を引き連れるなんて、こいつらの探している妖魔とは一体どんな奴なのだろうか。

 

「この村の近辺に、空から一体のラミアの妖魔が落ちてきた筈です」

 

「なっ…!」

 

 あのヴァルネとか言う奴が言った妖魔の特徴に、僕は冷や汗をかく。

 

 まさか、こいつらの探してる妖魔って…。

 

「長い白髪をした高貴な装いをした妖魔です。知っているもの、または見たものは迷わず名乗り出てきなさい。さすればザンギャックより報奨を出すことを約束しましょう。ただし…」

 

 ヴァルネの赤眼が光る。

 

「もしその妖魔を匿うもの、知っているのに話さない者には、射撃訓練の的にでもなってもらいますが」

 

 後ろに控える夥しい数の灰色が一歩前進する。

 

「さあ正直に教えなさい。隠してもタメになりませんよ」

 

 柔らかい口調で、あくまで自ら名乗り出るよう促す彼女。しかし周りにいる村人や神官は、そんな妖魔など知らないと言うように顔を見合わせたり、魔王軍の襲撃かと怯えている。

 心当たりのある僕も、前に踏み出すことが出来なかった。それは目の前の軍勢の数に気圧されたのもあるが、何よりアイツらなんかに教えたくなかった。

 あいつが何をしたかは知らない。確かに僕はあの森で偶然遭遇しただけだし、なんなら僕の夢をくだらないと一蹴した。けれど少なくとも、僕はあの妖魔が悪い人だとは到底思えなかった。

 僕は人間と魔物が手を取り合って共存する世界を本気で目指している。だからこそ、あんな得体の知れない奴らなんかに、魔物を差し出すような真似を出来る筈がなかった。

 

「そうですかそうですか……では仕方ありませんね」

 

 すると、背後から近づく無数の騒がしい足音と甲冑が打ち鳴らす金属音。振り返ると、神殿を守衛していた兵士たちがこちらに走りながら向かってくる。

 

「やはり()たちにはこのやり方があってるな───」

 

 声色と口調を一変させた怪人。すると身体の至るところにある赤眼が一層強く光り出し──電気を帯びた一筋の光が、かき集められるだけかき集めてきたであろう二十人近くいた兵士を瞬く間に蹴散らした。

 

「くっ…!」

 

 当たってもないのに素肌に熱を感じるほどの強力な熱線。そして兵士たちを瞬殺した攻撃を皮切りに、後ろに控えていた無数の灰色の兵隊が動き出す。なんと村人や民家を襲撃し始めたのだ。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

「誰か助けてぇぇぇッ!!」

 

「イリアス様どうか我らにご慈悲を!!」

 

 悲鳴をあげ、次々と糸の切れた人形のように地面に倒れる人々。無惨に破壊された家屋に、村中に広がる火の手。

 ──聖地が、人々の平和な営みはいとも簡単に崩れ去ったのだ。

 

「ギャハハハハ!!探せ探せ探せ!!」

 

 なんてつっけんどんな奴なんだ!

 

 先程の淑女の仮面は何処へ。村が火の海になる様を高笑いをしながら、ウサ耳は神殿に攻撃を加える。

 

「やめろ!!話と違うじゃないか!」

 

「ああん?」

 

 ヴァルネと周りにいた青い剛腕の兵隊が叫んだ僕の方へ振り向く。

 

「さっき村を滅ぼしにきたわけじゃないって…、お前たちは嘘をついたのか!?」

 

「あらあらあら、な〜にをほざいてるのでしょう?お前らがあの妖魔差し出さないから、こうやって一人一人に聞いたり?村のあちこちを探して見てるだけじゃないですか?」

 

「まあその際?手がすべったり、思わず力入れ過ぎて家壊しちゃうかもしれないけどなぁ!!ギャハハハハ!!」

 

 こいつら、やっぱり最初から…!

 

「許せない…!」

 

「ん?」

 

 僕は怒りのあまり、腰元に携えた剣を抜く。

 

「お前たちだけは絶対に許せない!!うぉぉぉーー!!」

 

 剣を振り回し、僕は叫びながらウサ耳の怪人に突撃する。しかし、

 

ガシッ!

 

「あっ……!」

 

 振り回していた剣を容易に掴まれ、僕の手から離れた剣を茂みの奥に投げ捨てられてしまった。

 

「で、それで終わりしょうか?じゃあ、次はこっちの番だなァッ!!」

 

うぐぉぇッ……!

 

 岩のように硬い拳が僕の腹に沈み、身体が一瞬宙を浮く。

 

「う、うぐ……」

 

 腹を押さえながら地面に両膝を付き、蹲る。

 息が苦しい。頭が痛い。目眩がする。口の中が血と胃液の味が広がる。

 

「俺の足にキスしろやぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ごはッ……!」

 

 蹲った僕の横腹をヴァルネは思い切り蹴飛ばし、僕は地面を複数回バウンドしながら、既に破壊された民家の残骸に突っ込んだ。

 

「いいかぁ?よぉく覚えておきなクソガキくぅん?」

 

「う、うあ……」

 

 残骸をどかし、仰向けに倒れる僕を見つけたヴァルネが僕の首を掴み、さっきまでいた広場の方に放り投げた。

 

「お前のような貧弱な男は、俺たちみたいな強靭な女に食いつぶされてれば良いんだよ!」

 

 再度ヴァルネの身体に仕込んだ五つの赤眼が光を灯し始める。おそらくさっき兵士たちを蹴散らしたように、僕の身体を消し飛ばすつもりなのだろう。

 

 身体中が痛い。手足に力が入らない。ここで僕は終わるのだろうか。

 

 夢を笑われ、勇者にすらなれず、村を襲った敵にも一太刀も浴びせられない。ただ蹂躙されて最後には見せしめに殺される。

 とめどなく涙が溢れる。ああ、なんて惨めな人生。一体僕はなんのために生きてきたのだろう。

 

 ごめんなさいお母さん、僕、なにもできなかったよ。

 

「愚かな人間共よ!よぉく見ておけ!これが帝国に逆らった者!女に逆らった者の末路だ!!」

 

 そう高々と死刑宣告するヴァルネ。死を覚悟した僕は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 何かが弾けた音。いつまで経っても来ない痛み。おそるおそる目を開けてみると、

 

「う、ちぃっ……!!」

 

 何故か身体が傷付き、煙を立たせて僕を睨むヴァルネ。いや、正確には僕の後ろの方を見て睨んでいる。

 一体何事かと僕も思わず後ろを振り返ると、地面から登る煙の奥から、五つの影が現れる。ゆっくりと、しかし着実に大地を踏み締め、五人は首だけ起こしてる僕の側まで来ると立ち止まった。

 

[bgm:海賊旗を上げろ!]

 

「よう、また会ったなガキ」

 

「マ、マーベラスさん…!」

 

 肩に変わった形をした鉄の棒を担ぎながら、マーベラスはにやりと笑う。

 

「勇者にはなれたか?」

 

「うっ……!」

 

 僕は俯向く。勇者になれなかった今、僕は────

 

「勇者になれなかったからって、夢を諦めんのか?」

 

「え…?」

 

「お前の夢はその程度で折れるものなのかって聞いてんだ」

 

「それは……!」

 

 そうだ。勇者になれなかったからって、僕の夢が潰えたわけじゃない。それに、僕の心はまだ、勇者になることを諦め切れないでいる。

 

「そんなわけ…ないじゃないか…!僕の夢はまだ終わってない…!それに勇者になれなくたって、正式に認められなくたって…これから認められていければいい…!少なくとも、今の僕の心は勇者だから!!

 

「はっ、なんとも無茶苦茶な理由だな。…だが嫌いじゃねぇ。いいぜ、その夢、コイツらから俺たちが守ってやる」

 

「海賊らしく、ただし、スーパー戦隊としてな」

 

 ヴァネルの元に足並み揃えて歩いていく五人。村を襲った無数の帝国軍に立ち向かう彼らの背中は、とても大きく壮大に頼もしく見えた。

 

────────

 

「あの顔…まさか賞金首…?」

 

 部活のゴーミンから手渡された海賊たちの手配書を握り締めながら、ヴァネルは驚愕する。まさかこの星に来るなんて……。

 

「よう、さっきは随分と楽しそうだったな」

 

「……ふん、弱者は強者に食われる。それがこの世の当然の摂理というものですよ。それより、今は我々は探し物を探している最中で忙しい。海賊は海賊らしくくだらない宝探しでもしてさっさと消えなさい」

 

「うっさいバーカ!」

 

「ば、バカ!?」

 

「消えるのはお前たちだ」

 

「あなたたちの言うことなど、聞く耳はありません」

 

「僕たちも、お前らみたいなの大嫌いだ!!」

 

「貴方たち理解しているのですか!?皇帝陛下を討った貴様らはもう、この宇宙に逃げ場など無いというのに!!」

 

「今さら逃げるつもりなんてねぇよ。それに遅かれ早かれザンギャックは残さず潰すつもりだったんだ。探す手間が省ける」

 

「おのれ海賊の分際で……!ゴーミン!!」

 

 ヴァネルの一声で、散り散りになっていたゴーミンたちが一斉に戻ってきて、海賊五人を取り囲む。しかしそんな状況になってもなお、マーベラスの余裕は崩れない。

 

「それが海賊ってもんだからな!行くぜ!お前ら!」

 

『ゴーカイチェンジ!!』

 

《ゴォォカイジャー!!》

 

 マーベラスの声に五人がモバイレーツとゴーカイジャーのレンジャーキーを取り出し、掛け声と共にレンジャーキーをモバイレーツに挿入。

 五人のシルエットに海賊旗のマークが重なり、五人は海賊戦士に姿を変える。

 

「ゴーカイレッド!」

 

「ゴーカイブルー!」

 

「ゴーカイイエロー!」

 

「ゴーカイグリーン!」

 

「ゴーカイピンク!」

 

「海賊戦隊!ゴーカイジャー!!」

 

 冒険とロマンを求め、海賊の名を誇りに宇宙を旅する宇宙海賊にして、35番目のスーパー戦隊。その名も『海賊戦隊ゴーカイジャー』

 新たに降りた星にて、新たな戦い、新たな出会い、そして彼らの新たな冒険が幕を開けた!

 

「派手に行くぜ!!」

 

 

 

つづく




一万文字超えてしまった……。ほんとはここら辺さらっと終わらせる予定だったのに…。ようやく次回で一話完結です。


行動隊長ヴァルネ
 ドエロス・ギルに仕えるメイド兼行動隊長。普段は言葉遣いが丁寧で物腰の柔らかいメイドを演じているが、その本性は凶暴にして凶悪。ウサ耳を弄られるとキレる。
 基本的に人間を見下しており、特に弱い男が大嫌い。かと言って強い男が好きってわけでもない。
 身体は岩のように硬く、また見た目に反してウサギのように素早く移動も可能。顔を含めた身体に彫られた溝の隙間から五つの赤眼が覗いており、そこから超高熱の熱線を発射する。
 モデルは貝類のウミウサギ。
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