ごーかい・くえすと!   作:若人の気紛れ

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短い文で終わらせるつもりで分割で書いたのに、今回も一万字超えてしまった……。文章が崩壊していないよう願うばかりです。


船失き海賊④

 怪我人でごった返すイリアス神殿。普段はイリアス様への信仰に用いられる神聖な場所は、いまや神聖さとはかけ離れた血の匂いや人々の呻き声で溢れている。

 神官やシスターといった神殿に仕える人々が怪我人の介抱または治療に勤しむ中、神殿に駆け込んできた比較的怪我の浅い者たちは、神殿の出入口付近から、外にある石造りの境内を覗き込んでいた。

 彼らの視線の先にて繰り広げられる侵略者たちと謎の五人組の熾烈な戦闘。残骸に点いた火はすでに消え、立ちこめる白煙の中で五人の持つ変わった形をした剣の刀身に太陽の光が反射し、腕を振るう度に火花と共に煌めく。

 

「おりゃあっ!」

 

「ふっ!はっ!」

 

「ほいっ、よっと!」

 

「えいっ!とりゃあ!」

 

「はいっ!はいっ!」

 

 色鮮やかな五色の戦士。彼らの荒々しく豪快に戦う姿は勇者とも天使からは程遠い、どちらかと言えば賊の戦い方。しかし彼らの強さは本物で、先ほどまで一方的に村を蹂躙した灰色の兵隊たちを容易く蹴散らしてゆく。

 彼らが何者であるか定かでない。しかし今は藁にも縋る状況。自分たちの運命を戦士たちに委ね、ただ彼らの勝利を女神に祈るしかなかった。

 

──────────

 

「それにしても、コイツらいつものゴーミンと違くない?」

 

 ゴーミンをゴーカイサーベル片手にテンポよく斬り倒しながら、ゴーカイイエローが少し離れたところで戦うゴーカイピンクに向かって愚痴る。

 

「確かに、いつもと見た目が女性っぽいような…」

 

 ピンクがゴーミンを払いのけながら違和感を口にすると、そこからまた少し離れた場所でゴーミンを淡々と斬り捨てるゴーカイブルーがそれに答える。

 

「俺がザンギャックにいた頃、噂で聞いた事がある。ザンギャックには皇帝の妻……皇后が率いる、女性のみで編成された特殊部隊があると」

 

「ああ!だからスカート履いてるんだあ!!納得納得!!」

 

 声を張り上げて、愉快な動きでゴーミンの攻撃を掻い潜りながら逃げ回るゴーカイグリーン。手頃な岩に身を隠すと、岩の影からゴーカイガンを追いかけてきたゴーミンに向けて撃ちまくる。

 

「だが、その部隊はとっくの昔に解散したと聞いていたが…」

 

「そんな事は今はどうでもいい。さっさとこの雑魚どもを片付けるぞ!」

 

「あいよ。アイム!」

 

「はい!ルカさん!」

 

 ゴーミンを蹴飛ばしながら檄を飛ばすゴーカイレッド。レッドの言葉にイエローが適当に相槌を打ち、ピンクに向かって自身のゴーカイガン、一方ピンクもイエローに向けて自身のゴーカイサーベルを投げ渡す。

 

「じゃんじゃん行くよ?おらおらおら!!」

 

 ピンクから投げ渡されたサーベルを掴むと、自身とピンクのサーベルにワイヤーを繋げる。二つのワイヤーに繋げたサーベルを器用に鞭のように振り回し、周囲のゴーミンたちを一掃した。

 

「参ります!」

 

 イエローのゴーカイガンを受け取ったピンクも、両手に拳銃を構え、左右二方向に発砲。回転しながら飛び上がり、下にいるゴーミンたちに無数の弾丸を撃ち放った。

 

「よっ!おっと!もう、しつこいなぁ!」

 

「ハカセ!!」

 

 地面を転がりながらゴーミンのハンマーを避けるグリーンに、ブルーがゴーカイガンを投げ渡す。

 

「ジョー!えいっ!」

 

 ブルーの投擲に気づいたグリーンも自分のサーベルを足で蹴飛ばし、二つの武器が宙を交差する。

 

「いただき!うりゃあーー!」

 

 落ちるゴーカイガンをキャッチし尻もちをついたグリーンが、二丁拳銃をゴーミンたちに思い切りぶっ放す。その隣で二刀流のブルーの流れる剣捌きにより、周囲のゴーミンたちを斬り伏せた。

 

「邪魔だ」

 

 ドスの効いた声で銃口を向けたレッドがゴーミンを威嚇し、ゴーミンが怯んだ隙に容赦なくサーベルで斬り裂く。

 

「ゴー!ゴー!」

 

「あぁ?」

 

 声が聞こえた方を振り向くと、離れた場所にいる複数のゴーミンがレッドに向け、手に持つ棍棒の先端部分からミサイルを発射。数発のミサイルが火を吹きながらレッドに接近する。

 

「はっ」

 

 レッドはこれを一瞥すると、片手に持つゴーカイガンでそれらをいとも簡単に全て撃ち落とす。

 

「これは返すぜ!」

 

 お返しに軌道の逸れたミサイルをサーベルの峰で打ち返し、打ち返されたミサイルはそのまま真っ直ぐゴーミンの足元に着弾。大きな音を立てながら、ゴーミンたちは爆煙の中を舞い踊るように吹っ飛んだ。

 

 

 

「マーベラスさん、あなた達は一体…!」

 

 彼らから少し離れた所でルカが木にもたれかかって呟く。

 今日はにわかに信じられないような事が矢継ぎ早に起きる。夢の中でのイリアス様の天啓に始まり、目の前で見た事のない武器を使い、魔法とも違う謎の力で戦う宇宙から来訪した海賊たち。イリアス様…僕は一体どうすれば良いのでしょうか…。

 

 

 

「ゴー!」「ゴー!」「ゴー!」「ゴー!」「ゴー!」「ゴー!」

 

「ほーんと、相変わらず数だけはいるわね」

 

 しかしいくら倒しても減る気配の無い灰色。いつもの光景にうんざりしながらサーベルを片手間に振り回すイエローを見かねたグリーンが、集まったゴーカイジャーの面々にある提案をする。

 

「じゃあ、そろそろアレやっちゃう?」

 

「アレか」

 

「アレですね!」

 

 グリーンの言葉にブルーとピンクも頷く。

 

「よっしゃ、ド派手にいくぜ!」

 

 レッドが腰に装備してるゴーカイバックルに手をかざし、回転したバックルから五人は五色のレンジャーキーを取り出す。

 

『ゴーカイチェンジ!」

 

《マァァジレンジャー!!》

 

 五人の頭上に展開する魔法陣。上から下にゴーカイジャーの全身を通過すると、五人の魔法使いの姿に変身する。彼らの姿こそ、かつて天空聖者の力を借り『絶対神ン・マ』と戦い地球を守った魔法家族にして29番目のスーパー戦隊「魔法戦隊マジレンジャー」。

 

ジー・マジカ!!

 

 五つのマジスティックから解き放たれる五属性のエレメントが周囲を囲むゴーミンたちを吹き飛ばす。あれだけいた灰色が瞬く間に掃討されると、ゴーカイジャーはすぐさま新しいレンジャーキーを取り出す。

 

『ゴーカイチェンジ!』

 

《ガァァオレンジャー!!》

 

牙吠!!

 

 パワーアニマルに選ばれた若者たちが、邪悪なる意思の集合体『オルグ』と呼ばれる鬼達との激闘を重ね、見事闇を晴らした百獣戦士。25番目のスーパー戦隊「百獣戦隊ガオレンジャー」。野生の力漲るパワフルな戦法で、残ったゴーミンたちを殲滅していく。

 

「ガオッ!」

 

「ガオ!」

 

「ガオ!」

 

「ガオガオ〜!」

 

「ガオっ!」

 

「おのれぇ〜…!調子に乗るな!」

 

 不意打ちを狙ったヴァルネがウサギのごとく超スピードで、ゴーミンを全て倒したレッドに迫る。

 

「はっ、相手になるぜ。おりゃあッ!」

 

 しかしすぐに反応したレッドはヴァネルの拳を避けつつ、逆にすれ違い様に胸部と腹部を爪で引っ掻き、痛みに悶えてる隙に、背後を再度爪で引っ掻く。

 

「ぐおっ!?」

 

「ガオメインバスター!ファイナルモード!」

 

「ぎゃっ!!」

 

 ガオメインバスターの砲撃がヴァネルに直撃。身体から焼け焦げたにおいと煙を上げながら、無様に地面を転がる。

 

「くっ…スゴーミン!!」

 

「スゴッ!」「スゴッ!」「スゴッ!」

 

 口紅を付けた三体のスゴーミンがヴァネルの盾になるように前に並ぶと、光弾を発射しようと腕の開口部位を集まった五人に向ける。

 

『ゴーカイチェンジ!』

 

《ダァァイレンジャー!!》

 

 古来中国より続く妖と気の戦い。永久に繰り返す戦いの歴史を、己の気力と精神、そして仲間と共に未来へ繋いだ熱き戦士達。17番目のスーパー戦隊「五星戦隊ダイレンジャー」にゴーカイチェンジしたゴーカイジャーは、大輪剣を向けて構える。

 

大輪剣・気力シュート!

 

 三体のスゴーミンに向けて掌を突き出し、猛スピードでまっすぐ飛空した大輪剣がスゴーミンの身体を通過。攻撃を妨害して怯ませるだけでなくダメージを与える。

 

『ゴーカイチェンジ!』

 

《ジュゥゥウレンジャー!!》

 

 間髪入れずに披露する最後のゴーカイチェンジ。一億七千年に及ぶ封印から目覚めた悪魔と魔女バンドーラ一味を倒すため、同じく一億七千年の眠りから目覚めた五人の伝説の戦士が変身する古代戦士。16番目のスーパー戦隊「恐竜戦隊ジュウレンジャー」。

 

「いくぜ」

 

バベルアタック!

 

 ティラノレンジャー、トリケラレンジャー、足を震わせるマンモスレンジャーを土台に、タイガーレンジャー、プテラレンジャーが肩に乗ってやぐらを作る。その後やぐらを組んだ状態で逆星型に合体したレンジャースティックから衝撃波を放つ『バベルアタック』を繰り出し、三体のスゴーミンは大きな炎と音を立てて爆散した。

 

「あとはてめぇだけだ」

 

「ぐっ……海賊どもぉ…!死ねぇ!」

 

「危ない!」

 

 攻撃に巻き込まれ、全身に火傷を負ったヴァネルが、海賊たちに向けて放つ苦しみ紛れの熱線。あの五つの赤眼から放たれた光の威力を知っているルカが思わず声を上げるが、熱線はそこから仁王立ちしたまま動かない海賊たちの足元に直撃。爆発の熱風がルカの頬を撫でたその直後、一つの赤い影が煙の奥から飛び出した。

 

「おりゃあッ!!」

 

「なにッ!?」

 

 頭上から振り下ろすゴーカイレッドのサーベルがヴァネルの身体を一閃。さらにそれに続き、ブルー、イエロー、グリーン、ピンクもゴーカイサーベルで通りすがりに一撃を叩き込む。

 

「だりゃあ!」

 

「はぁ!」

 

「ギャァァァァッ!!」

 

 グリーンとピンクのゴーカイガンから放たれる弾丸の雨が肉体を打ちのめす。

 

「はぁッ!」

 

「うらあッ!」

 

「ギャッ!ギャッ!」

 

 ブルーとイエローによる斬撃が岩のように硬質化した皮膚を刻む。

 

「おりゃッ!」

 

「ま、待ってくれ!」

 

 腹を蹴飛ばしたレッドがサーベルで斬りかかると、刃を身体で受けたヴァネルが突如命乞いをしてきた。

 

「な、なぁ、分かってると思うが俺は女だ。こんなか弱き女一人に、ヒーローが寄って集って攻撃して良いのか?」

 

「今更何言ってんだお前?」

 

 そんなヴァネルの命乞いをレッドは一蹴し、サーベルを持つ手に力を入れる。

 

「戦場で、男も女も関係あるか!!」

 

「ぐぎゃあッ!!」

 

 そのまま力任せにサーベルを引いて振り切ると、下からの追撃でヴァネルの身体が大きく吹っ飛ぶ。

 

「というかさぁ、私もアイムも女なんだけど、いつも寄って集って襲うザンギャック(あんたたち)が言う?」

 

「それにわたくしたちはスーパー戦隊であると同時に、海賊ですから」

 

「うっ…!」

 

 レッドの正論に加え、イエローとピンクの反論にヴァネルはぐうの音も出ない。

 

「そんじゃ、とっとと終わらせようぜ」

 

 五人が自身の姿をしたレンジャーキーをゴーカイガンに装填し、銃口を怯むヴァネルに向ける。

 

《ファァァイナルウェイィィブ!!》

 

『ゴーカイブラスト!!』

 

 ゴーカイガンから五色のエネルギーが込められた弾丸を一斉に射出。ヴァネルの五つある赤眼を同時に撃ち抜く。

 

「こ、この私が…俺がこんなところで……ぐッ!?皇后万歳ィィッ!!」

 

 身体が崩壊する直前、ヴァネルが苦悶の声を漏らしながら膝をつき天を仰ぐと、自らが仕えた主を称える断末魔を上げる。その後、彼女の大いなる忠誠心を見事に表したような大きな爆発と共に、非道なる極悪メイドは木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

─────────

 

「皇后陛下、行動隊長ヴァネルが海賊どもに敗れた模様です」

 

 そこが何処であるかも分からない空間に停滞する、二匹の馬が牽引するチャリオットのようなデザインをした巨大戦艦、旗艦ギガントホース。その艦内にてヴァネルの戦死の報告を受けた女性。体色が水色である事以外、ザンギャック「開発技官」と呼ばれた科学者に瓜二つの容姿をした彼女は、司令官の席に座る"皇后"と呼ばれる女性にヴァネルが戦死した旨を報告する。

 

「そうか……惜しいメイドを亡くしたものよ」

 

 かつての自分に仕えた彼女への思いを馳せる異形の女性。あの皇帝のバカ息子と揶揄された男の姿に酷似してるが、体色が水色であった部分が薄桃色に染まっており、体型も人妻特有の色気を帯びたグラマーな体つきをしている。しかしそれすら塗り変える、彼女が放つ凄まじい重厚感ある雰囲気が、ワルズのカリスマより段違い上で事を認識させられる。

 

「賞金首の宇宙海賊……我が最愛の夫と息子をはじめとした一族の仇……」

 

 静かに怒りを顕にする彼女こそ、いまは亡きザンギャック皇帝『アクドス・ギル』の妻にして、同じくいまは亡きザンギャック司令官『ワルズ・ギル』の母親、ザンギャック皇后『ドエロス・ギル』。

 

 重い腰を上げた彼女は、家族を奪った海賊たちへの復讐を誓う。

 

「多少我々の計画に想定外の事が起きたが、修繕は容易い……我が愛する夫よ、そして愛息子よ……そなたたちの無念、奴らの首を以って、この我が晴らさせてやろうぞ」

 

─────────

 

 鼻腔に伝わる香ばしい匂い横になっていた僕が食欲を唆られる匂いに釣られて目を開けると、見慣れたいつもの景色。ここは僕の家。

 

「むっ?起きたか?」

 

 森で遭遇したいつかの妖魔が、硬い木のベッドに腰を掛け、このお腹の空く匂いの正体、皿に乗った色とりどりの野菜と肉を炒めた料理を頬張っていた。

 

「お、起きたかガキ」

 

 そしてその隣で同じように肉と野菜の炒め物を頬張っているマーベラスさん。それだけじゃない、他の四人も全員僕の家に勢揃いしている。

 

「いやいやいや、ちょっと待ってよ!?ここ僕の家だよね!?」

 

 何で彼らは僕の家にいるのだろうか。彼らに僕の家を教えた記憶はない。

 

「あの後お前が倒れてたから、村の人たちに聞いて連れて来てやったんだ」

 

「大した怪我もしていなくて、本当に良かったです」

 

 ぶっきらぼうにジョーさんが言うと、アイムさんも手を合わせて微笑む。

 

「そうだったんですか……。ここまで運んでくれてありがとうございます」

 

 僕は素直に感謝の言葉を述べて頭を下げる。

 

「そういえばこの料理は一体誰が…?旅に出る予定だったから、調理器具も食材も全部処分しちゃってこんな料理作れる筈が…」

 

「野菜は貰ったんだよ。村を救ってくれたお礼にって。調理器具と食器は村の人が快く貸してくれたんだ。勝手に干し肉使っちゃってごめんね?」

 

 料理を作ったドンさんが沢山の野菜の入ったバッグを背中から下ろしながら申し訳なさそうに言う。

 僕はアイムさんに手渡された皿に乗った料理をフォークで一口、口に含んだ。

 

「!?」

 

 舌に乗せた瞬間、肉と野菜の仄かな旨みとまろやかな味わいが口全体に広がる。口に運ぶ手の動きが止まらない。いつも食べてるイリアスヴィルの野菜だというのに。あっという間に、僕は自分の皿の上にあった分を完食してしまった。

 

「どうだ?美味いだろ、ハカセのメシは」

 

 ドヤ顔で聞いてくるマーベラスさん。それに僕は否応なく即答。どんな味付けをしてるんだ?僕が作ったのより断然味が違う。

 

「うむ、非常に美味であった。あの程度の簡素な食材を最上級の品に仕立て上げるとは。喜べ、メインディッシュと先ほどの不敬は不問にしてやる。それよりどうだ、余の元で料理人として雇われる気はないか?」

 

「いや、僕料理人じゃなくて海賊だし…」

 

「というか、なんでお前もここにいるんだよ!?」

 

 海賊たちとの会話に自然に溶け込んでいたせいでツッコむのが遅れてしまったが、どうしてあの妖魔までいるのだろうか?まさか海賊たちに着いて来たのか?

 

「匂いだ。貴様の初々しい匂いを辿ればわかる」

 

「犬か」

 

 僕の思ったことをマーベラスさんが代弁した結果、妖魔がマーベラスさんの皿の上に乗った料理をフォークで掻っ攫う。すると怒ったマーベラスさんと取っ組み合いを始めた。子どもか。

 

「それにしてもどうやってここに入ってきたんだ?」

 

 この村はイリアス様への信仰が根深く、魔物排斥の思想が強い。それもスライム娘一匹入り込んだだけで大騒ぎするほど魔物には敏感だ。それこそ、僕の家にこれほどの妖魔がいるとなると、大騒ぎどころでは済まない。

 

「人目を盗むことなど容易。余を誰だと思ってる」

 

「誰だよ…」

 

「この方はアリスさん、旅の妖魔だそうです」

 

 僕の指摘にアイムさんが柔らかな声で補足する。

 

「アリス?なんだか似合わないなぁ…」

 

「おい貴様もか、締め殺すぞ」

 

「ひぇ……!す、すみません!!」

 

 少年ルカが必死に謝ると、アリスが荒ぶる尻尾を押さえてひとまず許してくれた。

 

「そ、そういえば、さっきの村を襲撃してきた軍隊がアリスさんの事を探していたみたいだけど、何か知ってる?」

 

「"アリス"でよい。なるほど、先の軍団は余を狙ったものだったのか…。多方傷を負った余にトドメを刺すべく、放ったというわけか。ふん、あの女が考えそうな事よ。

 まあ、余があれだけの手傷を負わされたのだ。文字通り面目を潰せたのであれば態々乗り込んだ甲斐があったものよ」

 

 一人合点して満足げに笑みを浮かべるアリス。何がなんだかさっぱり分からない。

 

「しかし貴様の村を襲った連中、魔物でも天使でもない余も知らぬ存在。彼奴らは一体…」

 

「アイツらは宇宙帝国ザンギャック。宇宙征服を企む悪い連中よ」

 

 壁に背を預け、腕を組む海賊のルカが言い放つ。

 

「奴らはいくつもの星を滅ぼし、侵略してきた」

 

「わたくしたちの星も、あの方々に滅ぼされてしまったのです」

 

「そこで、アイツらに反旗を翻したのが僕たち宇宙海賊ってわけ」

 

 宇宙帝国ザンギャック。随分とスケールの大きな話だ。その後の話も聞くと、マーベラスさんたちがその帝国を率いていた皇帝とその一族を次々と撃破したため、司令塔と本星を失ったザンギャックは忽ち瓦解、宇宙最大の勢力を誇っていたザンギャックも今では残党軍と化し、マーベラスさんたちは宝探しのついでに残党狩りを行っているらしい。

 

「だが、あのヴァネルとやらが言っていた"皇后"という名前。おそらくそいつが、今回お前の村を襲った連中の首領に違いない」

 

「多分僕たちが倒した皇帝の親族だろうね」

 

「関係ねぇよ」

 

 乱れた襟を正しながら、マーベラスが言いのける。

 

「相手が誰だろうが、俺たちの邪魔をする奴はぶっ潰す。海賊として、スーパー戦隊としてな」

 

「スーパー戦隊……」

 

 あの軍勢を容易に打ち破ったあの五色の戦士。戦闘中何度も姿が変わったが、もしかしてアレが彼らの言う"スーパー戦隊"というものなのだろうか。

 

「スーパー戦隊とは、地球という惑星の平和を守り続けてきた戦士の方々の名前です」

 

「僕たちは、このスーパー戦隊の力が秘められたレンジャーキーを使って、その歴代のスーパー戦隊に変身することが出来るんだ」

 

「だが、戦いが終わり、借りた戦隊の力を持ち主に返そうとしていた矢先」

 

「この星で遭難しちゃったってわけ」

 

「だからまずは、はぐれた仲間と船を探して、俺たちを陥れたあの蝙蝠女をぶっ飛ばす」

 

「ついでにザンギャックを潰しながらね」

 

「これが俺たちの当分の旅の目的だ」

 

「そんで、お前はこれからどうするんだ?勇者にはなれなかったんだろ?」

 

 ひと通り彼らの旅の目的を聞かされたところで、まるで僕の覚悟を試すようにマーベラスさんの視線が僕の身体に突き刺さる。

 ───確かに、あの時は勢い余ってあんな事言っちゃったけど、正直、勇者特典の恩恵を受けられないこの現状を打破する具体策なんてものは、なにも思いつかない。

 ───それでも僕は、足掻けるだけ足掻くだけだ。

 

「…予定通り、魔王退治の旅に出るよ。勇者じゃなくたって、旅はできるからね」

 

 なにも魔王を倒すのは勇者だけではない。ただの旅人にだって可能な筈だ。

───という事でもしておこう。じゃないと、今の僕は悲しすぎる。

 イリアス様のご加護が無い身で旅立つのは些か不安ではあるが、ここはもう割り切るしかない。

 

「くくく……、それでいい……実は、余は少しばかり貴様らに興味が湧いたのだ」

 

 するとアリスが薄ら笑いを浮かべながら、僕を品定めするかのような目を向けてきた。

 

「興味……?僕に……?」

 

「その通り、貴様は興味深い。人と魔物との共存などという世迷いごとを胸を張って口にしているのだからな」

 

 アリスの言葉に少しムッとする。

 

「世迷いごとなんかじゃない。僕はそういう日が来ることを信じてる。必ず、そういう世の中にしてみせる」

 

「くっくく……!いつまでそんな世迷いごとを言っていられるか見物だな……。貴様の旅についていき、化けの皮が剥がれる所を見てやろう……」

 

「えっ、僕の旅に……?」

 

 何とこの妖魔は僕の旅に同行するというのだ。一体何を考えてるんだ?

 

「余はこの世界を見て回るつもりでいたのだ。どうせなら貴様と世界の両方を見て回ろうと思ってな……理に適っているだろう?」

 

「勝手にしてくれよ…。どうせ僕が嫌がっても無駄なんだろう?」

 

「ああ、無駄だな。どうせ余を追い払う実力もないだろう?」

 

 悲しいがそれが現実。それに……ほんの少しだけ、同行者がいることに安心したのも事実。正直一人旅は心細かったのだ。

 

「じゃあ好きなだけ付きまとえばいいさ。僕の信念が本物だって証明してみせるから」

 

 そんな僕たちのやりとりを見て、マーベラスさんがニッと笑みを浮かべて席を立つ。

 

「世話になったな。そっちはそっちで頑張れよ」

 

 そう僕たちに別れを告げ、仲間たちと共に僕の家を出ようとすると、アリスが彼らを呼び止めた。

 

「待て、何を勘違いしている。貴様らも余の旅に同行するのだ」

 

「!?」

 

「は?」

 

 アリスの言葉に、僕だけでなく海賊たちまで愕然とする。

 

「なんで俺たちまでテメェらの旅に付き合わなきゃならねぇ」

 

 マーベラスさんが不満を隠さず、堂々とアリスの発言に噛み付いた。

 

「貴様ら異星人と旅する機会なんてないからな。それに、余はそこの金髪の男が作る料理が気に入った」

 

「ええ〜!?」

 

「くくく…冗談はこれくらいにして本題に入ろう」

 

「それが本音だろ」

 

 ジョーの指摘に咳払いをしつつ、本題に入る。

 

「ゴホン…貴様らを落とした相手は魔王軍四天王のアルマエルマ。貴様らの話が本当ならば、貴様らの船は今頃魔王城に鹵獲されている筈だ。何故なら、この世界では見た事のないマキナを奴らがみすみす手放す筈がないからな」

 

「何故それが分かる?それに、奴らがガレオンを破壊しない保証がどこにある?現にあの女は俺たちごとガレオンを吹き飛ばそうとした」

 

 突拍子な意見に疑問をぶつけるジョーさんに、アリスが鼻を鳴らす。

 

「破壊するのであれば、わざわざ貴様らの前に姿を現す必要がない。あのまま外から壊せば良かった筈だ。だが其奴はあくまで貴様らのみを攻撃し、船に多少の損害を与えてしまったものの、結果的に貴様らを外に追いやることに成功した」

 

 アリスが言葉を続ける。

 

「貴様らも薄々勘付いている筈だ。アルマエルマは風を操り、容易に嵐を引き起こす。貴様らが脱出した時、風は収まっていたか?

 奴はこれ以上船に被害を出さぬべく、わざと攻撃を受けて船外に追い出された後、戦いを終えたと勘違いした貴様らが船から脱出するのを確信し、ずっと待っていたのだ」

 

 アリスの話を聞いてる内に、僕は身の毛のよだつ思いをした。あんなに強かった海賊たちをたった一人で圧倒し、しかも見事に海賊たちを出し抜いた。アリスの話は仮の話だが、もしこれが本当だとするなら、僕はそんな奴とも相手しないといけないのだ。

 

「なら、魔王城ってのがある場所を教えろ。例え無事だとしても、ソイツらがいつ船を破壊するか分かったもんじゃねえ」

 

「教えたとしても、貴様らでは到底魔王城へは辿り着けぬ。魔王城の立地は標高数千メートルあり、周りは断崖絶壁に囲まれている。おまけに、常に周囲は嵐や雷雨などの悪天候に見舞われていて、何重にも強固な結界が敷かれている。いくら貴様らの力であろうと、それら全てを突破するのは不可能だ」

 

 なんて事だ。これじゃ、人間の僕は魔王城に入る事さえ出来ないじゃないか。

 

「や、やばいよマーベラス!」

 

 アリスの言う言葉にすっかり怖気付いたハカセがマーベラスの身体を揺するが、マーベラスが苛立ち気にそれを振り払い、アリスに鋭い眼差しを向けた。

 

「それが本当だとして、てめえらについて行って俺たちになんの得がある」

 

「余はそれらを掻い潜り、魔王城に辿り着く方法を知っている」

 

「ならそれを俺たちに教えろ」

 

 二人の間にまた一触即発の空気が流れる。このままだと僕の家どころか、せっかく救われたイリアスヴィルが今度は本当に壊滅してしまう。

 するとまたもや二人の前に立ったアイムさんが、マーベラスさんたちの方に向き直り、

 

「わたくしは、この方々と共に旅をする事に賛成です」

 

 なんとアリスのほぼ強制に近い提案に賛同したのだ。

 

「うそでしょアイム!?」

 

 当然、唐突にこんな事を言い出したアイムに一同は目を丸くする。アイムもそれを理解してるのか、自分の考えを説明し始めた。

 

「どのみち、わたくし達は鎧さんとナビィを捜さなければなりませんし、この際アリスさんと同じように、この星の人々の暮らしを見て、知見を広げるのも良い経験にもなると思います。それに、旅は多いに越したことはありませんから」

 

「そうは言ってもさぁ…」

 

「…ああ、なるほどね…良いんじゃない?私もアイムに賛成」

 

「ちょっとルカまで!?」

 

 熟考した末、アイムの真意に気付いたらルカも、アイムの意見を汲む。

 

「よくよく考えれば私たちさ、最近"スーパー戦隊"の枠に引っ張られてない?私たちは元々自由気ままにやる海賊よ?

 船や仲間を探すのも良いけど、そういう冒険も偶には良いんじゃない?」

 

 マーベラスの脳裏に、海賊としてマーベラスを作った恩人の姿、そして熱き冒険者の言葉が過ぎる。そしてマーベラスはいつもの不敵な笑みを浮かべ、

 

「ああ、そうだな」

 

「マーベラス!?」

 

 今まで渋い顔をしていたマーベラスも、遂に了承する。

 

「俺たちは自由気ままにやる海賊だ。この際、この星で宝探しってのも悪くねぇ。それに、ザンギャックがあの蛇女を狙ってるんなら、こっちから出向かう必要もねぇしな」

 

「でもマーベラス!鎧やガレオンは…?」

 

「鎧もガレオンも無事だ」

 

「その根拠は?」

 

 口元を少し上げたジョーがマーベラスに訊ねる。

 

「俺のだ」

 

「じゃあアテになんないよぉ…。そうだ、ジョーは」

 

「船長の判断に任せる」

 

 項垂れるハカセ。最後の望みをかけてジョーに同意を求めるが、最後まで言い切る前に、ズバリと言われてしまい、取り付く島もない。

 

「四対一ね」

 

「ううう〜…ああもう分かったよ!僕も賛成!!これで全員一致!!」

 

「決まりだな」

 

 なんだかわからない内に、あの海賊たちも僕の旅に同行する事になってしまった。でも増える分には構わない。なんなら、この人たちがいれば心強い。

 

「心配しなくても、俺たちはお前の戦いに手は出さねぇよ。自分の夢は自分で掴み取れ」

 

「もちろん。夢は自分で叶えることに意味があるのだから」

 

「はっ、生意気なガキだ」

 

 口角を上げたマーベラスさんの逞しい腕で、頭を乱雑にガシガシされた。

 

───────────

 

「じゃあ、そろそろ行くか……!」

 

 旅の準備は既に終わっている。イリアス神殿から帰ってきてその足で旅に出るつもりだったのだ。洗礼こそ受けられなかったが、旅に出るという選択肢に変わりはない。

 

 僕にあるのは、魔王を倒すか、途中で朽ち果てるかの二つに一つ。それ以外に道は無いのだ。

 

「アリスは裏口から出てくれないか?他の村人に姿を見られると色々と面倒だからね」

 

「分かった、余も無駄な騒ぎは好まん。村の外で待っているぞ」

 

 そう言い残して、お騒がせ妖魔は裏口から出ていった。

 

「さて……」

 

 いよいよ旅立ちの時だ。今は亡き母さんと過ごしたこの家にも、しばらく帰ることはない。

 

「行ってくるよ!母さん!」

 

 亡き母にそう語りかけ、僕は住み慣れた家を後にする。

 

 こうして僕は、冒険の第一歩を踏み出したのであった。

 

 

つづく

 

 

───────────

次回予告

次ィィィ回ッ!!第2話!!

 

 

「なんて無様な戦い方だ」

 

 

「我が名は炎の魔剣士グランベリア!この街に強者は誰一人として居ないのか!!」

 

 

「ど、どうして……僕の足は動かないんだ……!」

 

 

『勇気を剣にのせて 〜ゴー・マジ・イデア・ルカス〜』

 

 

「俺たちは勇者じゃねえ。海賊だ」




1話のゴーカイチェンジで登場したスーパー戦隊は、敵やロボの名前に「神」または同等の言葉が付いてたり、本拠地が神殿、種族や名称が天界モチーフなどの共通点があります。
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