ごーかい・くえすと!   作:若人の気紛れ

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ごめんなさい二週間以上も空けてしまいました!
レポートが…あまりにも…多すぎて…。


勇気を剣にのせて 〜ゴー・マジ・イデア・ルカス〜①

 広大な草原は夕日に染まり、やがて無数の小さな星の光が空を覆うと、辺り一面の緑の景色に黒い影を落とす。風に揺れる草花のさざめきが、羽を振るわせる鈴虫が、夢幻の闇に快い音色を奏でる中、黒いキャンパスに一つの小さな橙が浮かび上がると、その周りを幾つかの影が揺らめく。

 パチパチと焚き木の弾ける音と共に火の粉が舞う。少年は火の上に置いたフライパンを掴むと、人数分のお皿に炒めたきのこや山菜を盛り付ける。最後に雀の涙ほど僅かに残った塩を振りかけると、少年は腹を空かせた同行人たちの方を振り向いた。

 

「アリス!マーベラスさん!出来たよ」

 

 少年ルカの声を聞き、一瞬で隣に移動した二人の腹ペコが同時に皿に手を伸ばした。

 

─────────

 

「あんたさぁ、勇者より料理人が向いてるんじゃない?」

 

「なんて事言うんだよ…」

 

 僕の作った料理は思った以上に好評だった。遠回しに勇者に向いてないと言われてるような気がして、僕の心は複雑だが。

 ちなみに今僕はマーベラスさんたちとタメ口で話している。

 マーベラスさん曰く、「ガキのくせに謙遜するな」という事で、僕はいつも通りの話し方で会話をすることにした。

 

「ですけど勇者さんのお料理、子どもが作ったとは思えないくらいとても美味しいです」

 

「勇者は勇者でも見習いだがな」

 

「ジョ、ジョーさんまで…」

 

 褒められたと同時に貶されて、僕の情緒はボロボロだ。

 

「センスがあるのは認めてやるよ。ま、僕の方がまだまだ全然上だけどね」

 

 そして何故かムキになって上から目線で話すハカセことドンさん。後から聞いた話だと、あの時僕の料理を口にしたハカセさんは自分の役割を奪われる危機感を覚えていたらしい。別に奪う気なんてないのに…。

 

「今はな。だが油断してるとお前、あっという間に抜かされるぞ?」

 

「え、縁起でもない事を言わないでよマーベラス!!」

 

 ショックを受けたハカセさんが肩を落とす。ルカさんがよしよしと頭を撫でて慰めている様子に、なんだか申し訳なく思ってきた。

 

「ふむ、塩無しでも美味かったな。大したものだ。……これで剣の腕も良ければ良いのだがな…」

 

 ……アリスといい、この人たちは上げて落とさないと気が済まないのか?

 

「…ところで、そのへっぽこ剣技は何処で教わったのだ?あまりにも酷くて見ていられないのだが」

 

 へっぽこ剣技……?毎日研鑽を重ねた僕の剣技が……?

 

「何を言うんだアリス……僕の五年も積み重ねてきた剣技を……」

 

「…マジか」

 

「…お前、五年も何してたんだ?」

 

「う、うぐ……!」

 

 あんな顔も出来たのか、マーベラスさんが呆然とした表情で絶句。ゴーカイジャー随一の剣の腕を持つジョーさんも、怪訝な表情を浮かべて辛辣に評する。

 

「あの程度の魔物に塩を殆ど振り撒いてしまうとは、なんと情け無い勇者……おっとニセ勇者だったな」

 

 返す言葉もない。確かにあの戦いはとても見苦しいものだった。それは夕刻前まで遡る。

 

─────────

 

 村を出てしばらくして、イリアスベルクに続く一本道を僕はひたすら、海賊と妖魔は呑気に進んでいると、ある魔物が僕らの前に姿を現した。

 

ナメクジ娘が現れた!

 

 貴婦人のよう出立ちをした、一見人にも見える魔物。しかし体色や触覚、下半身の軟体部分からも分かるように、れっきとしたナメクジの魔物だ。

 

「ご機嫌よう」

 

 最初、魔物だと気付かなかったアイムさんが礼儀正しく挨拶をし、そのまま素通りしようとする。が、当然そんな事許してくれる筈もなく、ナメクジ娘は通せんぼするように道の真ん中に立ちはだかった。

 

「あら?」

 

「あれも魔物って奴だろ」

 

 不思議そうに首を傾げるアイムさん。それをジョーさんが後ろに下げると、入れ替わるように僕が前に出る。

 

「これはお前の戦いだ。俺たちは手を出さねえ。負けたらそのまま見捨てる」

 

「わかってるよ」

 

 マーベラスさんの忠告に耳を傾けながら、僕は目の前の魔物と相対する。

 

 そうだ。これは僕の戦いなのだ。それに、こんなところでつまずいていては、勇者にも、僕の夢も、なれないし叶いっこないのだから。

 

 僕は腰に差した鉄の剣を抜き、剣の柄を両手で持つと、刃先を魔物に向けて構える。

 

「……旅人ね。しかも洗礼を受けていない美味しそうな男が四人も」

 

「うわぁ、なんかやだぁ…」

 

 ナメクジ娘がいやらしく舌で唇を舐める仕草に対し、マーベラスさんとジョーさんは鼻を鳴らす一方、すっかり怯えてしまったハカセさんはルカさんの後ろに隠れると、盾にされた本人に肘打ちされた。

 そういう僕も人生二度目の魔物との遭遇。この先の事を考えると慣れなければいけないことだが、どうしても緊張してしまう。

 

「ふふっ…まずは貴方ね」

 

 ゆっくりとこちらに近寄り、スカート部分をたくし上げる。そこにはピンク色のネバネバとした軟体がうごめいていた。

 

「あなた達はこの私の餌食になるの……ナメクジのニュルニュル、ネバネバを味わいながらたっぷりと射◯してしまいなさい……」

 

「しゃっ!?」

 

「しゃ…?」

 

 モンスターと言えども傷つけたくないと葛藤しつつも、遂に決心を決めた僕の背後で、酷く驚いたような吹き出す声が聞こえる。振り向くと、そこには首を傾げるアイムさんの目と耳を塞ぐジョーさんとハカセさんが、腕を組みしかめ面をしたマーベラスさんが、そして顔を真っ赤にしたルカさんがワナワナと震えていた。

 

「あの…どうかした?」

 

「…ッ!!ウチらのアイムになんて事を聞かせんのよ!?ちょっと勇者!さっさとソイツ倒しなさい!!」

 

「は、はいぃ!!」

 

 鬼の形相を浮かべたルカさんの凄みに押され、僕は慌てて前を向いて魔物に剣を構える。

 

「…来ないなら、こっちから行くわよ?」

 

「ま、負けるもんか!」

 

 そこからの戦いは見るに耐えないものだった。僕の剣の攻撃はナメクジ娘の粘液に阻まれ、全くのダメージを与えられず、逆にあっさりと組み伏せられてしまった。僕の身体は粘液によってベトベト。しかも快楽物資を含むものだったため、みんなに…特にルカさんの冷ややかな目に視姦されながら快楽によがる醜態を晒した挙句、最後の手段として用いたのが夕食時に使う予定だった塩。僕が無我夢中で弱点の塩を投げつけると、これはたまらぬとナメクジ娘は退散。なんとか追い払った僕だが、今日の夕食に使う筈だった塩を殆ど使い果たしてしまった。

 

「……」

 

 膝を付いて息を切らす僕がふと顔を上げると、無表情のジョーさんと目が合う。そしてそんな僕にジョーさんは一言。

 

「…なんて無様な戦い方だ」

 

「ぐはっ…!」

 

 ジョーさんの忌憚のない率直な意見が、無情に僕の心に突き刺さる。勇者を名乗ってる癖に、剣はおろか力でさえも勝てなかったのだ。それどころか、魔物に塩を投げて戦うなど、これ以上ないみっともない戦い方があるだろうか?

 これでは勇者になるという夢も、魔物との共存という夢も、夢のまた夢。

 僕は一応の辛勝を収めたにもかかわらず、僕の心は惨めな思いでいっぱいだった。

 

─────────

 

「あんな戦い方はハカセだけで十分だ」

 

「ゴホッ! ジョー!?」

 

「それよりなんなのアレ?この世界の魔物ってあんなのばっかなわけ?」

 

 思わぬ被弾に咳き込むハカセを軽く流しながら、海賊のルカがこの世界で薄々感じ取っていた違和感を口にする。

 

「確かに妙な世界だ。魔物と言うからには、もっとおどろおどろしいものだと身構えていたが…」

 

「みなさん女性でしたね」

 

 アルマエルマやアリス、先ほどのナメクジ娘や村の外で見かけたスライム娘。偶然なのか、出会う魔物が全て女体姿なのだ。

 

「しかもセクハラ同然の攻撃に言動…今まで私たちが相手にしてきた奴らとは別物ね」

 

 そうため息をつくルカ。ザンギャック達とは違い、直接命は狙ってこないものの、代わりに頂くのは男としてのプライドと尊厳。ある意味ザンギャックよりタチが悪い。

 

「もちろん命に関わる魔物もいるけど、基本的にこの世界の魔物はみんなああいう感じの魔物娘だよ」

 

「…厄介な生態だ」

 

 少年ルカの話を聞く限り、どうやらこれがこの星の常識らしい。様々な星に降り立ち、幾度となく死線を潜り抜けてきたマーベラスたちだが、これほど方向性が逆を向いた世界観は初めてだった。

 

「ふっ、それにしても貴様らは豪運だ。なにせアルマエルマと対峙して無傷で生還するとはな。あやつにしては珍しい」

 

 魔王軍四天王にしてクイーンサキュバスであるアルマエルマ。彼女は積極的に人間を襲うタイプではないが、剣を向けられたのであれば話は別。向けた男は誰であろうと例外なく完膚なきまで打ち負かし、犯し、貪り、死ぬほどの快楽を叩きつけ、最期は彼女に挑んだ愚かさを自覚させてその身を喰らう。その冷酷な本性を何故か(・・・)知っているアリスからしたら、彼女の行動とは思えないものだった。

 

「というか、何でアリス、あの時居なかったんだよ」

 

 ナメクジ娘と戦っていた際、アリスは忽然と姿を消していた。別に恐れて逃げたわけではないと思うが、言い分によっては薄情な奴だ。

 

「余が人間とつるんで魔物が倒されるのを見てるだけ……というわけにはいかぬだろう。今後も余が戦いで手助けするとは思うなよ」

 

「だけどあの剣技じゃ、彼、この先長くないよ」

 

「うぅ……」

 

 ルカさんの言葉に意気消沈するが、尤もな意見である。僕も旅に出るまで、神殿を訪れた剣士達に教わった技を独自に編みわせてみたりしたが、今回の戦いで魔物に対して全く効き目がない事を痛感した。このままではいずれ魔物の種馬になる事間違いなしだ。

 こうなったら……僕は意を決して、皿を置いたジョーさんの方を振り向き、頭を下げた。

 

「ジョーさん!僕に剣を」

 

「断る」

 

「ええっ!?」

 

 下げた頭を勢いよく上げながら素っ頓狂な声を上げる。教えを乞いた僕の懇願を即答────どころか最後まで言い切る前に拒まれてしまった。

 

「教えて差し上げてもよろしいのでは?」

 

 アイムさんも進言するが、依然としてジョーさんの顔は厳しい。

 

「なんで俺がこいつに剣を教えなければならない」

 

「僕、強くなりたいんだ!」

 

「だったら俺に教えを乞う事自体が間違いだ。少なくとも、俺の剣はお前の信条に背く。────それに、人に師事するのは性に合わん」

 

 そう言うとジョーさんは徐に立ち上がり、一人森の奥に歩を進める。

 

「どこに行く」

 

「いつもの筋トレだ。身体が鈍っては元も子もないからな」

 

 そうマーベラスさんに告げ、サーベルを片手に持ったジョーさんは森の中に入っていった。

 

「……」

 

「行かねえのか?」

 

「…えっ?」

 

 黙ってジョーさんの背中を見送った僕に、マーベラスさんが言葉を投げる。

 

教えない(・・・・)とは言ったが、見るな(・・・)とは言ってねえだろ」

 

「!」

 

「本気で強くなりてぇんなら、あいつの動きくらい盗んでみろ」

 

───────

 

 ジョーさんを追いかけて、僕は森の中を歩く。木の根が這い出て隆起した地面のでこぼこした道をしばらく進んでいると、やがて木々が開けた空間に辿り着く。月明かりの通ったその場所は、鬱蒼とした暗闇に満ちた森とは違い、月に照らされた草花が光を銀色に反射して神秘的な光景を生み出す。そんな神秘に彩られた景色を背景に、一人の長身の男が無心で剣を振るっていた。

 急いで木陰に隠れた僕は木の裏から覗き込むと、一際強い風が吹き、当てられた無数の木の葉が宙を舞う。

 

「フッ!」

 

 それをジョーさんは一枚残さず両断。中央の葉脈を境目に真っ二つに斬れた木の葉が花びらのように地面にひらひらと舞い落ちる。

 

 ごくり、と思わず僕は唾を飲み込んだ。

 

 ジョーさんの剣技は圧巻のものだった。力強さの中に溶け込む繊細さ、月光が剣に反射するのも相まって、まるで舞踊のように美しく一切無駄のない滑らかな剣捌き、なによりこれまで出会ったどの剣士よりも、格段にカッコよかった。

 

 

 

「おおっ?なんだか美味そうな匂いがすると思って来たら、こんな所に活きのいい男がいるぞぉ?」

 

 見惚れていた僕の耳に入る草が擦れる音。音がした方を見ると、茂みから一匹の魔物が飛び出してきた。

 

オオカミ娘が現れた!

 

 艶やかな茶色い毛並みをし、長く伸びた長髪を後ろに一つにまとめた大きな耳の快活な獣娘。しかし今宵の彼女は目を金色に、鋭利な爪をキラリと光らせる。

 

「あたしは今腹が減ってるんだ!だから今からお前のこと軽く痛めつけて、その後たくさん○してやる!」

 

「……」

 

 ガルルルと唸り声を上げて、ジョーさんに躙り寄るオオカミ娘。そんなオオカミ娘に対し、ジョーさんは片手に持ったサーベルを無言で向ける。

 

──これは不味いことになったぞ。村で聞いた事がある。普段から凶暴なオオカミ娘だが、彼女たちは本来夜行性で、しかも満月の夜が一番危険だと言う。

 そして今宵は満月。通常時よりどこか興奮したオオカミ娘が手を地面に着いた四足歩行で、夜空に遠吠えを繰り出す。

 

「……来い」

 

 ジョーさんが呟いた次の瞬間、オオカミ娘の姿が消え、一瞬でジョーさんの背後に回り込んだ。

 

 速い!速すぎる!目で追えない尋常じゃないスピード。いくらジョーさんでもこれは…!

 

「うがが!この爪は必殺だぞ!」

 

 目視出来ない程のスピードで後ろに回り込んだオオカミ娘が、大きく爪を振りかぶる。

 

一撃の爪!

 

「ジョーさんッ!!」

 

 後頭部に振り下ろされる強靭な爪を見て、僕は隠れていたのも忘れて大声で飛び出して叫ぶ。

 

キンッ!!

 

 二人の影がすれ違い、同時に金属音が響く。

 

「……」

 

「…………ガ、ガウ……」

 

 オオカミ娘が真っ直ぐ地面に倒れる。

 一瞬の出来事だった。背後からの不意打ちを仕掛けられたと言うのに、ジョーさんは振り向き様に横に一閃。たった一撃で僕より何倍も強いであろうオオカミ娘との戦いを制してしまった。

 

「いたのか…」

 

 呆気に取られた僕にジョーさんが気付く。

 

「ジョ、ジョーさん…!今の魔物…!」

 

「安心しろ。此奴は殺しておらん」

 

「うわぁッ!?」

 

 駆け寄った僕の隣に突然現れたアリス。僕が仰天しているなか、アリスは地面に倒れたオオカミ娘の元に寄ると、掌をオオカミ娘の口元に近づける。

 

「やはりな、息がある。峰打ち、しかも生身で月下の凶暴化したオオカミ娘を鎮めるとは、なかなかの剣筋。どこぞの勇者見習いにも爪の垢を煎じて飲ませたいものだ」

 

「…運が良かっただけだ」

 

 感心するアリスに対し、そっぽを向いたジョーさんが素っ気なく言う。

 

 だけどやっぱりジョーさんは凄い!なんとしてもこの人に剣を教わりたい!

 この人の剣術を使うことができれば、僕は絶対強くなれる。

 

「お願いしますジョーさん!僕に剣を…うわっ!?」

 

 踏み出そうとした僕の足が何かにつまづき、僕は受け身も取れずに転倒する。

 

「まだ理解らぬか、ドアホめ」

 

 僕を転ばせた犯人─────尻尾をしならせたアリスが腕を組みながら僕を見下ろし、呆れた様子で言葉を続けた。

 

「なぜこいつが貴様に剣を教えないのか、それは貴様の掲げる理想とこいつの扱う剣の型が真っ向から反発するからだ」

 

 いまいち意味を解さない僕にアリスがため息をつく。

 

「こいつの剣は殺陣特化の型。貴様が仮にこれらを習得出来たとしても、その先は修羅の道。つまりこいつの剣技を使っても、貴様の理想は貴様によって流された血の上で築き上げられたもの───貴様の掲げる真の理想には到底なり得ん」

 

「……っ!」

 

 言葉に詰まる。そんな事、心の底では理解していた。だけどこの短い旅の中、今まで培ってきた剣術は魔物には碌に通じず、海賊たちからは呆れられる仕末。

 僕は焦っていた。このままでは僕は何も成し得ぬまま終わってしまう。だからこそ、僕は夢を叶えるための力───魔物に対抗できる力を一刻も早く手に入れたかったのだ。

 

「お前に俺の剣は使えん」

 

「ジョーさん…!」

 

 追い討ちに、ジョーさんが僕の乞いを再び拒む。

 

「剣は容易く命を奪う。そいつの言う通り、俺の剣はそれに特化した剣だ」

 

「でも…、さっきの魔物は…!」

 

「偶々助かっただけだ。次にまたこういった事が起きたら、今度は確実に命を落とす」

 

 淡々と述べるジョーさん。ショックを受けた僕の膝は崩れ、力が抜けたように地面に膝を着いた。

 

「じゃ、じゃあどうすれば良いんだよ…!このままだと僕は何も…!」

 

教えない(・・・・)と言っただけだ」

 

 ジョーさんが放った、どこかで聞いた事のある台詞。確かマーベラスさんも同じような事を…」

 

「お前は剣術の要を"剣"だけだと捉えてる節がある。他にも学べることがあるだろ」

 

 

 

『本気で強くなりてぇんなら、あいつの動きくらい盗んでみろ』

 

 

 

「あっ…!」

 

欲しければ勝手に盗め。できるものならな」

 

 普段無愛想なジョーさんがフッと笑みを溢す。気高き冷静沈着な剣士の新たな一面に、僕は一瞬驚くと共に、心のどこかがほんのりと温まったような気がした。

 

─────────

 

「喜べ。貴様に少しばかり余が稽古をつけてやろう」

 

「なんだよ薮から棒に…」

 

 ジョーさんの身体の動きを小一時間ほど観察していた僕に、同じく隣で眺めてたアリスが、明らかに上から目線な態度で突然そんな事を言い出した。

 

「どういう風の吹き回しだよ…」

 

「余は雑魚同然の雑魚技をミックスした雑魚技しか使えぬ貴様を少々不憫に思ってな。余が特別に魔族の剣技を享受してやる」

 

 憐れんでるのか貶してるのかはっきりしてほしい。……それよりも、人間が魔族の技を?そんなものを覚えて大丈夫なのか?

 

「それとも何だ?人と魔物の共存を口にする貴様が、魔族の剣など使いたくない、とでも言うのか?」

 

 アリスの目が鋭くなる。

 

「それは魔族に対する差別か?」

 

「いや、そんな事は……」

 

 確かにアリスの言う通りかも知れない。僕の心の中にもまだ魔物への偏見があったのだ。人と魔物が共存する世界を築く僕が心に壁を作ってはいけない、何より僕は強くなりたいのだ!

 

「……じゃあ、お願いしようかな。旅に差し支えない程度に、夕食後の数時間くらいだけど」

 

「決まりだな」

 

 こうして、僕はアリスから魔物の使う技を教えてもらう事となった。

 

─────────

 

「ジョーと言ったか?」

 

「なんだ?」

 

 アリスの教えの下、必死に剣を振るうルカの横で、切り株に腰掛けて汗を拭うジョーの側にアリスが寄る。

 

「なに、貴様の剣筋が見事なものだったものでな。余程師の教えが良かったものと見受けられる」

 

「……ああ、俺にとって、かけがえのない人だった」

 

「……そうか」

 

 二人の間に沈黙が走り、その間ルカの掛け声と吐息が夜空に響く。

 

「……貴様の剣の腕だけを見れば、ヤツ(・・)とも引けを取らぬ。もしかすれば、アイツの飢え(・・)を満たせるかもしれぬか、或いは…」

 

「…何の話をしているんだ?」

 

 訝しげにこちらを覗くジョーに対し、アリスは乾いた笑みをこぼす。

 

「ふっ…ただの些細な身内話だ」

 

─────────

 

 世界の最北端にある、周囲を断崖絶壁の岩山で囲み、上空は常に悪天候に見舞われた巨大な大陸"ヘルゴンド"。そしてその大陸の最も北にある魔王城の王座のある間にて、一人の竜人が座禅を組み、静かに瞑想していた。

 彼女の名はグランベリア。あのアルマエルマと同じ、魔王軍四天王の一人である。

 

「……つまらん」

 

 "炎の魔剣士"と謳われる彼女の心はいま、ひどく冷めていた。

 彼女は"魔物"であり、"武人"である。武人とは、己の技を研磨し、更なる至強の高みへと至ることが喜び。しかし今やそんな彼女と、共に切羽して高みへと至れる者など存在せず、彼女は半ば武人としての自分の意義を失いかけていた。

 

「…失望した。この世にはもはや私と剣で語り合い、私を更なる至高へと成長させる者はいないのか」

 

 背中に背負う大剣『アレス』も憂いている。すると背後からひと吹きの風が、彼女の鍛え上げられた背筋をいやらしく撫で上げた。

 

「……アルマエルマか」

 

「あら、グランベリアちゃん、いつにも増して辛気臭そうな顔をしちゃって」

 

 薄暗く照らされた廊下の奥から、天敵にして淫靡な妖魔の女王の姿が鮮明に映る。

 

「この世には私と肩を並べるほどの剣士が存在しない事を憂いているのだ」

 

 まだ齢25の若輩者であるというのに、その全身から溢れ出る闘気はその道数十年の求道者の貫禄を体現しているようだ。しかしそんな彼女にアルマエルマは物怖じせず、ベリアの耳元で囁いた。

 

「そんなベリアちゃんに朗報があるのだけど…」

 

「…何だ?」

 

 不機嫌ながらも珍しく反応した彼女にクスリと笑うと、アルマエルマは言葉を続ける。

 

「今朝あの船を鹵獲する際、私に挑んだ来た子たちがいて、その中にあなた好みの剣士がいたのだけれど」

 

「ならば興味ない」

 

「あら?」

 

 軽く息を吐き、話を切り上げるとグランベリアは立ち上がる。

 

「どの道貴様に負けたのだろう?ならばそいつは私の求める宿敵には値しない」

 

 剣を担ぎ、背中のマントを翻しながら、グランベリアはアルマエルマの歩いてきた方向に踵を返す。

 

「どこへ行くの?」

 

「"イリアスベルク"へ。魔王様に刃を向ける、身の程知らずの勇者たちの刃をへし折りにな」

 

 そう告げると、だだっ広い部屋にアルマエルマ一人残して、グランベリアは転移魔法でイリアスベルクに飛び立っていった。

 

 

 

つづく

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