ごーかい・くえすと!   作:若人の気紛れ

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 お久しぶりです。
 すっかり半年も過ぎてしまい、作品を楽しみにしてくださっている方々にも、そうでない方々にも、お待たせさせて大変申し訳ございませんでした!




勇気を剣にのせて 〜ゴー・マジ・イデア・ルカス〜③

『怖いんだ』

 

 燦々と煌めく星空の下、稽古が終わって野営地に戻る途中、何を思ったのか僕はふと森の中で立ち止まる。前を歩いていたジョーさんが振り返ると、気付いたら僕は心に秘めていた本心を吐露していた。

 

『僕はマーベラスさん達のように強くないし、ジョーさんみたく剣の腕も良いわけじゃない。何より……魔物との戦いが怖いんだ…』

 

 薄々気付いてはいたが、改めて今朝の戦いで、人と魔物との力の差を思い知った。彼女達からしたら、僕なんていつでもどうにでも出来る存在なのだ。

 すると、何も言わずに僕の話を静かに聞いていたジョーさんが開口する。

 

『恐怖を持って何が悪い』

 

『えっ?』

 

 ジョーさんがそっけなく言いのけると、鍛え上げられた逞しい拳が間抜けな声をあげた僕の頭を軽く小突く。そして留めていた足を再び前に進めながら、彼は言葉を続けた。

 

『昨日までお前はただの子どもだったんだ。それがいきなり魔物と戦って恐怖を浮かべない方がどうかしてる』

 

『それは…そうかもしれないけど』

 

『………お前は恐怖を知った。なら後は、それをどう乗り越えるか、だ』

 

「えっ……?」

 

 下を向いて項垂れる僕を見かねたジョーさんの言葉に、目を見張り息を呑む。

 

『それって…どうすれば…』

 

『甘えるな』

 

 震える声で聞き返す僕の言葉をピシャリと断ち切る。

 

『そのくらい、自分で探せ』

 

─────────────

 

「あの子が心配ですか?」

 

 少年ルカのいる通りから反対の通りにある建物の陰。そこから密かに静観していたジョーにアイムが声をかける。

 

「……さあな」

 

 振り返らず無愛想に返答するジョー。だがその声色には微かに感情が乗る。

 

「おかしな奴だ。ザンギャックに無謀な戦いを挑んだ癖に、魔物と戦うのは怖いらしい」

 

「それは…」

 

「アイツには……まだ足りない」

 

 物陰から同じように覗き込むアイムの瞳に、なかなか一歩を踏み出せず、殻に閉じこもったままの勇者見習いの姿が映る。

 

「自分に足りないもの……それに気付けないようなら、アイツもここまでだ」

 

 宇宙最強の賞金稼ぎと称された男により、ひと時恐怖に囚われた船長。そのかつての姿を重ねながら、ジョーは静かに少年を見つめた。

 

 

 

────────────────

 

 

 

「おいばあさん、メシだ」

 

「……アンタたち正気かい?」

 

 一方、イリアス大陸随一の高級宿『サザーランド』に一足早く到着したマーベラスたち。高級宿というのもあって、建物は勿論、ロビーも煌びやかな装飾で彩られてまさに豪華という二文字を体現している。しかし魔物の襲撃のせいか、受付にいる宿の女将とマーベラス達を除くと、ロビーは閑散としていて賑わいは皆無である。

 

「魔物が居ようが、メシは作れるだろ」

 

「アンタたち、それでも勇者なのかい!?」

 

「俺たちは勇者じゃねえ、海賊だ」

 

 女将に対して物怖じせず太々しい態度を崩さないマーベラスがあまあま団子を要求する。だが女将の方も一歩も引かず問答は平行線となる。

 

「悪いけども出せないものは出せないんだ。そもそも情けない事にウチの従業員たちがすっかり怯えちゃってね、文句を言いたきゃ、あの魔王軍の魔物にでも言っておくれ」

 

 その言葉を最後に、女将もカウンター越しにある部屋の奥に引っ込んでしまった。

 

「……おい、あまあま団子はどうなる」

 

「無理でしょ、どう考えても」

 

 二人のやりとりを静観していたアリスが明らかに不機嫌な声色を発するが、隣に立っていた海賊ルカはどこ吹く風といった感じで気にも溜めない。

 

「やっぱり、あの広場にいた魔物を何とかしないと無理だよ」

 

「そうねぇ……でも」

 

 ルカの視線に鼻を鳴らすマーベラス。知っての通り、マーベラスと少年ルカの関係はあくまで旅の同行人に過ぎない。そのためマーベラスたちは、彼の戦いもとい、この星の問題に首を突っ込む気はさらさらなく、助ける義理はない。

 

「だがあの偽勇者にあの魔物……グランベリアの相手が務まるとは思えん。彼奴に勝ち目でもあるのか?」

 

「そんなものねぇよ。十中十確実にあのガキが負ける」

 

 少年ルカの戦いには介入しないとは言ったが、それはあまりに酷な宣言。今の彼があの魔物に勝ち目がない事くらい誰もが理解していた。しかし、ここはあえて彼を突き放す。

 

「だが死にはしねえ」

 

 あの魔物の周りに倒れていた者たち。パッと見だが、いずれも剣士や武闘家などの戦士或いは勇者ばかりで、少なくとも一般人が被害に遭ってはおらず、また全員気を失ってはいたが、誰一人死んではいなかった。

 あれほどの強大な力を持っているにもかかわらず、むやみに命を奪わない一人の戦士としての姿。話した事もない相手だが、あのような武人気質の根本にある信条をマーベラスは信頼した。

 

「マーベラス…貴様は」

 

「…ジョー(あいつ)が大丈夫って言ったんだ。だったら大丈夫だろ」

 

────────────────

 

 町の中央にある噴水の前に仁王立ちする竜人。その姿を見た僕を"恐怖"の感情が支配する。

 幾ら決意を固めたところで、未だ僕の心の奥底では、魔王軍四天王という圧倒的強者への恐怖が渦巻いている。それは生物としての本能か、根底に眠る恐怖心が僕の足を地面に縛り付けていた。

 

 

 

 

 だが僕の心にあった感情はそれだけではなかった。

 

 それはほんのちっぽけなものだったが、確かにここに存在していた。

 

 

 あの堂々とした立ち振る舞い、見事なる烈火の剣技、迫り来る戦士をモノともしない覇者の貫禄。彼女は敵の魔物、しかも魔王軍の幹部であるにもかかわらず、そんな彼女に抱いたそれは剣を扱う者としての羨望か、或いは憧憬か。

 恐怖の感情の中に埋もれたちっぽけなそれは、いつしか足の震えを治め、僕の心に熱を与える。

 

 僕は見惚れていたのだ。僕の目指す剣士のあるべき姿に。夢に届くための力の境地に。

 

 そう心に秘めた一途な感情は、徐々に心を占めた恐怖を打ち解き、火を灯す。

 

 そうか…、昨日、ジョーさんの言っていた言葉の意味がようやく理解できたような気がする。

 

 恐怖を抱き、恐怖を知り、恐怖を糧に乗り越え、力に昇華する強い意志。

 

 僕に足りなかったもの──────それは"勇気"だったんだ。

 

 

 

 

 

「待て!」

 

 気付けば僕は足を踏み出し、あの竜戦士に向けて、声を振り絞り叫んでいた。

 

「……なんだ少年」

 

 静まる鋭利な視線が此方を射抜く。たった一目、たった一目で僕の胸の中でたぎる炎が掻き消されそうになるが、なんとか踏み止まる。凄まじい圧迫感だ。まるで内臓を直で掴まれたように息苦しい。心臓の鼓動が鼓膜の中を反響し、色彩がぼんやりと霞む。

 

「剣を持ち、私の前に立つ。それがどういう意味か理解しているのか?」

 

 グランベリアが静かに問う。

 

「……理解しているよ。僕だって……勇者だ!」

 

「ほう…、ならば貴様も私に挑む戦士として扱う。異論はないな?」

 

「あ、あるもんか……!!」

 

 僕の解を聞いたグランベリアが背中に背負う魔剣に手を伸ばし、鞘から巨大な刀身が姿を見せる。

 

グランベリアがあらわれた!

 

「良いだろう…。では、炎の魔剣士グランベリアが相手をしよう!」

 

 圧倒させる気迫を放ちながら、グランベリアも剣を構える。相対しているだけでも全身にとてつもない重圧(プレッシャー)がのしかかり、身体がひしゃげそうになる。

 

「始めるぞ」

 

「……っ!やぁあああああ!!」

 

 斬撃を与えようと駆け出した次の瞬間、一瞬足に鋭い痛みが流れたと思った時には僕は地面に突っ伏していた。

 

「…えっ?」

 

 呆気に取られる僕の股下に、ズンッと巨大な魔剣が突き立てられる。

 

「…あまりに未熟」

 

 僕は目視のできない速さで移動したグランベリアによって、足を掛けられ転ばされていたのだ。

 

「未熟者は斬らん。未熟ゆえ、過ちもあるだろう…」

 

 そう言うとグランベリアは剣を鞘に収め、背を向ける。

 

「多くの大人が屈した中、勇気を振り絞り抵抗しようとした……その点は評価しよう。だが二度目は無いぞ」

 

 助かった…のか?

 

 一時の安堵と同時に怒りに似た感情が沸いてくる。

 

 負けて安堵する勇者がどこにいるものか。敵わない事くらい最初から分かっていた筈だ。だったら、ここで勇者として討ち死にした方が遥かにマシだ!!

 

 僕はフラフラと立ち上がり、剣を構えて再びグランベリアの前に立ちはだかる。

 

「私の忠告を聞いていなかったのか……?一度の蛮勇も許さぬほど、私は狭量では無い。だが二度目は無いと言ったはずだ……」

 

「覚悟の上だ!」

 

 僕は怯まず咆哮する。とはいえ、やはりグランベリアと相対すると足が凄みそうになる。何より相手は今の自分じゃどう転んでも勝てない実力者。だけど、ここで逃げる訳にはいかない!

 

「やれやれ、気は進まないが……悔いは無いな?」

 

「ああ…!」

 

 再度背中の剣を抜き、両者は構える。

 

「てやあっ!」

 

 先に動いたのは僕。グランベリアの元に駆け出し、真上に上げた剣を振り下ろすが、あっさりと剣で弾かれる。その後も幾度となく攻撃を加えるが、全て小手先でいなされてしまう。やはり僕の剣技ではグランベリアの相手にもならない。

 

『お前は剣術の要を"剣"だけだと捉えてる節がある。他にも学べることがあるだろ』

 

「はあっ!」

 

「おっ?」

 

 腹に向けて打ち付けられた持ち手の柄によるグランベリアの一撃。それを僕が瞬時に後ろに跳躍し、ギリギリのところで回避する。あの一撃を貰っていたら今頃気を失っていただろう。一瞬、グランベリアが小さく感嘆する声を聴いたような気がするが、気にしてる暇はない。その隙に僕は再び足に力を込め、今度は逆に前方に跳躍する。目指すはグランベリアの喉元。

 

 僕は物覚えが良かった。ジョーさんにはまだまだ遠く及ばないが、動きの基礎はバッチリと身体に身に付いていたのだ。そして僕は同時に、アリスに教えてもらった剣技を繰り出す。

 

 

『鋭く踏み込み、相手の懐に入りながら切り上げろ。剣というものは己の腕力だけを用いて使うものではない』

 

『この技は、貴様のように小柄な体格を逆に利点とし、相手の懐に潜り込み一気に喉を掻っ切る技だ』

 

『かつて魔界最恐の剣士として名を馳せた妖剣士ザックスは、この技を用いて、自身に立ち向かってきた数百に及ぶ人間の首を斬り落としたという』

 

『貴様もこの技を使いこなし、立ちはだかる敵を葬るのだ』

 

 

 物騒な技名に多少の不満を抱くが、選りすぐり出来る立場でない。僕はジョーさんの動きと合わせて、その技で一心不乱に剣を振るった。そして、その特訓の成果が、グランベリアを相手に早くも実を結ぼうとしていた。

 

「うおぉ……!」

 

「なにっ…!?」

 

 中途半端な技では通用しない。一瞬で間合いを詰め、懐に入り込んだ僕が彼女の首に向けて全身全霊の力を込めて刃を振るう。

 

「この技はまさか…!」

 

 人間が魔物の技を使うなんて聞いた事がない。仰天してる間にも、少年勇者の剣がグランベリアの喉元に迫る。

 

「魔剣・首刈り!!」

 

 死に物狂いで放った、今の僕が出せる渾身の一撃。彼女の魔剣がその一撃を防ぐより速く、切先が吸い込まれるかのように首に向かって一直線に突き進み、

 

「そ、そんな…!」

 

 剣が刺さるよりさらに速く、僕の技はひらりとかわされてしまった。

 

「……何故お前が魔族の技を知っている?」

 

「え……?」

 

 剣を下げ、攻撃の手を止めたグランベリアが、興味深そうに質問する。

 

「踏み込みも未熟ならば、突きも未熟。……だが、その技を知っていた事のみが気にかかる。お前程度の腕前で偶然編み出したとも思えん。……その技を誰に教わったのか、教えて貰おうか」

 

「……っ!」

 

 圧を掛けて迫るグランベリア。だけどアリスの事は口が裂けても言うわけにはいかない。別にあいつをかばっているわけではない。これは僕自身の誇りの問題だ。

 

「そんなの知ってどうするつもりだ……?」

 

「知れたことよ。その技を知っている以上はかなりの使い手に違いない。ぜひ、それほどの者と手合わせを願いたいと思ってな。……さぁ、教えるがいい。その者は、お前の師匠か何かか?」

 

「それは、言えない……」

 

「そうか…。ならば……」

 

「あぐっ……!?」

 

 目を伏せた刹那、グランベリアは剣の柄でルカの腹に一撃食らわせる。

 

 突然の急所への衝撃に胃から戻しそうになるが、吹き飛ばされて壁に強く叩きつけられたおかげで何とか堪えることができた。だが…、

 

「一撃で命を奪わんように手加減した。さて、喋って貰おうか……」

 

 グランベリアはつかつかとルカに歩み寄り、瓦礫の山にて一撃で動けなくなった僕を見下ろす。この威力で手加減しているなんて……。

 

「そ、それでも……言うもんか……!!」

 

「そうか……。弱者に剣を振るう事は好かんが……」

 

 グランベリアが剣を振り上げる。

 

「……っ……!」

 

「一度の蛮勇を見逃した故、命を奪わないだろうと軽んじられるのも癪だ。果敢に挑んだ勇気を評して、一撃で終わらせてやろう」

 

 そう宣告し、高々の振り上げた大剣を僕の脳天に振り下ろす。今度こそ万事休すかと思われたその時、

 

ガキンッ!!

 

 颯爽と物陰から飛び出した一つの影が、僕の前に立ちはだかると同時に、金属音が大きな火花と共に響き渡る。目を開けた僕の目の前にいたのは、青い革服を着た長髪の男。片膝をつき、海賊マークがあしらわれた銀刀身のサーベルで、グランベリアの大剣を真っ向から受け止めていた。

 

「なにっ?」

 

「ジョ、ジョーさん……!」

 

 ふと口から出る気の抜けた声。しかしそれを一瞥すらせずに背を向けたジョーさんがグランベリアの剣を押し返して弾くと、刃先を相手に向けたまま立ち上がる。

 

「やるじゃないか」

 

 僕を見下ろす雄大な背中がそう僕に一言語りかけた。

 

「勇者さん!」

 

 それから少し遅れて、心配な顔をしたアイムさんが倒れる僕の元に駆け寄り介抱すると、ジョーさんが改めて僕に言葉を掛ける。

 

「乗り越えられたな」

 

 背中を向けているため表情は見えない。しかしその平時と比べてまろやかな声色から、純粋な優しさが滲み出ているような気がした。

 

「……はいっ!」

 

「……あとは任せろ」

 

 出逢ってまだ二日。だがそのクールな人柄と魔物に劣らない剣の腕は、今まで会ったどの勇者よりも頼もしかった。

 

「ほう…、人間が私の剣を受け止めた上で、押し返すとは……"ジョー"とか言ったか、貴様何者だ?」

 

 一方のグランベリアも、自分の剣を受け止めた相手をじっと見据えながら素性を問う。だがその面様は、自分の飢えを満たすに足りえる相手に出会えたかもしれない、という期待と喜びに満ちた笑みを浮かべていた。

 

「……生憎、今から斬る相手に明かすほどお人よしでないんでな。…それに、剣士の言葉に口は必要か?」

 

 アイムから投げ渡されたもう一本のゴーカイサーベルを受け取ったジョーが二刀流の構えを取った。

 

「ふっ、ならば語り合おうか。だが私の剣は───」

 

 グランベリアもまた背中の大剣に手を伸ばし、

 

「───少々荒々しいぞ」

 

 大剣アレスから生じる大炎がグランベリアの心情と共鳴するように空気を熱し、大地を焼く。

 しかし、それに怯まぬどころか、ジョーは焼き尽くすさんばかりの炎の空間を二本の剣と共に歩み、遂に炎の中心にいるグランベリアの元に辿り着くと、彼の視界に映る自身とほぼ同じ背丈の竜人の全貌が明らかになる。

 甲冑を身に纏い、炎に照らされ艶やかに染まる規則的に並んだ強固な鱗。そしてあのアルマエルマに引けを取らない無駄のない引き締まった筋肉。まさに剣を振るうためだけに仕上げられたと言っても過言ではない完璧な肉体。

 その見事な肉体美にジョーもまた、心の底から湧き上がる高揚感に興奮を覚えていた。

 

「いざ尋常に…」

 

「……はぁっ!!」

 

 炎を纏う一本の大剣。迎え打つは二本の銀刀身のサーベル。二人の剣が交差した刹那、

 

ガキィィーーーン!!

 

 凄まじい風圧と共に空気の振動が大炎を掻き消し、一撃、二撃と無数の剣戟が舞う。目にも止まらぬ程の剣術の応酬。その壮絶なる光景に、僕は思わず唾を飲み込んだ。僕がジョーさんに敵わないように、僕がグランベリアに敵わない事は分かりきっていた事だった。

 だけど、ここまで圧倒的な剣舞を見させられると、憧れや驚嘆の感情に紛れる小さな嫉妬──────やっぱり、

 

「悔しいなぁ……」

 

 もし、あの剣舞を踊るのが自分であったら、どれほど良かったか。

 

 そんな少年の心情を読み取ったのか、アイムが慈愛の眼差しを送る。だが目の前の戦いに夢中になったルカがそれに気付くことはなかった。

 

────────────────

 

 ルカ達の視線の先にて、死闘を演じる二者。お互いの放つ斬撃をいなし、又は弾き、両者は互角の戦いを繰り広げる。しかし、

 

(こいつ……)

 

 ジョーが内心毒を吐く。第三者から見れば一進一退の攻防を繰り広げているように見えるだろう。だがジョーは、二刀で大剣を受けながら、目前の敵を冷静に観察する。

 

 手を抜いているわけではない。油断すれば死に直結する太刀捌き。竜人の眼光は鋭い。

 だが明らかにまだグランベリアに余裕がある。それは研ぎ澄まされた野生の本能か、剣士としての勘か、彼の目には彼女の炎が燻ってるように見えたのだ。

 

「人間にしては、かなりの上澄みだ」

 

「っ!!」

 

 技の応酬が続き、鍔迫り合いの膠着状態からジョーを間合いから弾き飛ばす。今放たれた一撃。たった一撃であるが、初めてジョーが力負けした。

 

「だが……この私の魂を昂らせるには程遠い!」

 

「っ…!!」

 

 二撃。咄嗟にジョーが二刀で斬撃を防ぐが、今度は完全に押し負ける。足で地面に跡を付けながら、ジョーは砂煙を舞い上げて後退する。

 

 人と魔物の間にある生物としての境界線。まず真っ先に思い浮かぶのは見た目だが、次点は身体機能の差だろう。五感は勿論、筋肉量、体力、そして魔法。単純な身体能力から見れば、人間の上位互換とも受け取れる存在。

 補足しておくと、マーベラスやジョーなど宇宙海賊の面々は、身体能力などは人間の枠組みを超えてはいる。だがそれでも単純な力では魔物には敵わない。

 

「もし貴様が我らと同じ(・・)であれば、もっと滾る決闘になっただろうが…」

 

「ふっ…、もう勝ったつもりか」

 

 舞い上がった砂塵を双剣で振り払い、ジョーが剣先を向ける。

 

「悪いがなにも本気でないのは、お前だけではない…!」

 

 そう言いながらジョーがモバイレーツとレンジャーキーを出す。ジョーが取り出した未知のマキナ。それを視界に入れた途端、突然心の底から湧き上がった謎の闘争欲に、グランベリアは静かに戸惑う。しかしすぐにそれが高揚感に変わると、彼女思わず笑みを溢し、剣を握る力が僅かに強まる。

 しかしその瞬間、

 

「ッ!?ぐわぁぁぁぁッ!!」

 

 上空から二つの熱線がジョーがいる地面に着弾。左右からの爆発による炎と黒煙に巻き込まれたジョーは、咄嗟に防御の構えを取るが、衝撃を防ぎ切れず吹き飛ばされてしまった。

 

「「ジョーさん!!」」

 

 少年ルカとアイムの悲痛な叫び声が木霊する。

 

「貴様ら……我らの決闘に横槍を入れるとは、何のつもりだ」

 

 一方のグランベリアも戦いを邪魔された事に対し、不愉快なる感情は抑えるものの、憤慨した鋭利な双眼は見たものを萎縮させる。

 彼女の視線の先には、二体の魔物娘。

 

「ご無礼をお許し下さい。グランベリア様」

 

「我らとて、貴女様の神聖なる決闘を侮辱する意図は決してありません」

 

「そ、そんな…馬鹿な………!」

 

 少年ルカの震えた視線の先で、グランベリアの背後に臣下のように跪く二体の魔物娘。

 彼女らは『ワイバーン娘』と『ベヒーモス娘』。二体とも、魔王城のある魔の大陸と揶揄される『ヘルゴンド大陸』に生息し、大陸の警備を任せられている最上級クラスの魔物娘だ。

 イリアスベルクを滅ぼすのにもグランベリア一人で過剰戦力だというのに、彼女らが加わった事で、放たれるプレッシャーに意識を飛ばしそうになる。

 何よりこの状況は泣きっ面に蜂と言ったところか、とことん運に見放されているらしい。この不条理に対し、僕はあろうことか怒りすら抱きはじめた。

 ──ようやく勇気を出せたのに……少しは強くなれたと思ったのに…!

 

「くッ……!」

 

 爆炎と衝撃で傷を負ったジョーさんが、苦悶の表情を浮かべながら剣を杖代わりにして立ち上がる。彼の目からは未だ闘志は消えていないが、この状況は非常にマズイ。

 

「……ならば、何故邪魔立てしたのか、納得のいく理由を聞かせてもらおうか」

 

 グランベリアは静かにワイバーン娘たちに問う。

 

「…このところ、魔物とも天使とも違う不審な一団が、ヒト魔物問わず各地を脅かしています。

 先日、アルマエルマ様がイリアス大陸上空を飛行する謎の船を襲撃したところ、その者らは謎の未知のマキナを使って抵抗し、信じられないことに五体満足で逃げ仰せたとの報告を受けました」

 

「そして、今目の前にいる奴が持つ変わった形状の剣、報告にあった未知なるマキナ……。

 我々魔王軍は、魔王様を脅かす不穏分子を排除するのが役目。グランベリア様の実力を疑っているわけではありませんが、念には念を入れなければ、我らとしても立つ瀬のないところ。我々は命を受けてこのような暴挙に出させてもらった次第でございます」

 

 下手に出ながらも、淡々と理由を述べる。それに対し、グランベリアは瞳を閉じ、一言呟いた。

 

「……エルベティエの差し金か」

 

「……その質問にお答えすることはできません」

 

 魔物たちは頭を深く下げる。グランベリアは呆れたように軽くフッと息を吐く。

 

「ならば手出しは無用、早急に去れ……と言いたいところだが」

 

 彼女らを一瞥し、自身はジョーの方に身体を向ける。

 

「言付けを伝えるためだけに来て帰還するというのも、それこそ貴様らの面を汚す事になるだろう。せっかく辺境の大陸にはるばる来たのだ。お前たちは奴らの相手をしてもらおうか」

 

 刹那、数発の檄鉄が響き渡り、グランベリアが音と共に飛来した弾丸を剣で全て叩き落とす。

 ───彼女の視線の先の大通りから、三つの影。銃口を向けたまま前進する、マーベラスたちが堂々と彼女たちの前に姿を現した。

 

「みなさん!」

 

 マーベラスたちがジョーの前に庇うように立つと、戦いを見守っていたアイムも彼らに駆け寄る。

 

「……悪い、手こずった。………だが、アイツには手を出すな…!」

 

 マーベラスの肩を掴み、邪魔をするなと訴える。そんな彼に対し、マーベラスは軽く鼻を鳴らし、剣先をグランベリアの隣にいるワイバーンたちに向ける。

 

「何年の付き合いだと思ってんだ。俺たちはお前の獲物を取りに来たわけじゃねえ。……ただ、お前の戦いに泥を塗ったアイツらをぶっ倒しに来ただけだ」

 

「「……ッ!!」

 

 この時、敵意を向けられた二体の魔物娘は、直感で彼らの体内で増幅した底知れぬ未知の力を感じ取る。そして、彼女らは目の前の一団を排除するべき敵だと再認識し、唸り声をあげて臨戦態勢を取る。

 

「向こうが先に邪魔してきたんだからね!卑怯なんて言わせないぞ!」

 

「ま、ジョーに可愛い弟子が出来た事だし、今日くらいはマーベラスの八つ当たりのついでに持ち上げてやりますか」

 

「はい、ジョーさんが気にせずに戦えるように、あちらの魔物さん方はわたくしたちに任せて下さい」

 

「おい…!お前ら…」

 

 ジョーはげんなりと俯向く。だがその顔は小さく笑っていた。

 

「つーことだ。アイツがここにいる限り、メシにありつけねぇ。だから、思う存分やって来い」

 

「……恩に切る」

 

 小さく礼を言うと、ジョーを含めた五人は横一列に並び、モバイレーツ及びレンジャーキーを取り出す。

 

「冥土の土産に一つ正しといてやる。俺たちは、アルマエルマ()なんかに負けてねぇ!」

 

『ゴーカイチェンジ!!』

 

《ゴォォカイジャー!!》

 

 五人がモバイレーツにゴーカイジャーのレンジャーキーを挿入。五つのシルエットに海賊旗のマークが重なり、ゴーカイジャーに変身する。

 

「ゴーカイレッド!」

 

「ゴーカイブルー!」

 

「ゴーカイイエロー!」

 

「ゴーカイグリーン!」

 

「ゴーカイピンク!」

 

「海賊戦隊!ゴーカイジャー!!」

 

 

「ほぅ……」

 

 珍妙な集団が珍妙なマキナを使って姿を変えた。それもただの変身ではない。身体能力が何倍も底上げされている。

 

「なるほど、アルマエルマが言っていたのはお前たちの事だったのか」

 

 グランベリアは久しぶりに感じた胸の高鳴りに身を任せ、剣を握る力を強める。

 

 

「さあ、派手に行くぜ!!」

 

 銃声が鳴った。

 

 

つづく




 資格とやらで多忙過ぎて、もんぱら最終章もまだクリアしてない……。それはそうとゲームの作り込みが細かすぎて、終章始めてからエロゲってことを忘れてた事実……。
 ちなみに次回で第二話完結です。
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