SAO:Assaulted Field   作:夢見草

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Kept you waithing Huh ?
(ま た せ た な !!!@二回目)

Caution !! Caution !! Caution !! Caution !! Caution !!

これは第54話の後編です。前編をまだ観ていない方は先に前編をご覧ください!!


Ep38: Wedding day - Dawn the Catastrophe 2 -

主役であるキリトとレナ二人による誓いのキスの交わし合い(メインイベント)も終え、その後の式もスムーズにかつ賑やかに進み、空が鮮やかな茜色に染まる頃には、その全ての項目が終わりを迎えていた。

 

「でも、レナとっても可愛かったね」

「キー坊も意外と似合ってたナ」

「だな」

 

そして今、外の広場で用意されている立食と共に雑談したり晴れて夫婦となったキリトとレナへ祝を上げたりと各人がそれぞれ思いのままに時を過ごしていた。そんな中で、レンはシェリーとアルゴと共に教会の近くにある湖畔の砂浜に腰を下ろし、そよ風に揺らめく水面を眺めていた。漆黒の空の中で、煌々と輝く完全なる満月。そして、その輝きに埋もれることなく連なる星々。それらを映し出す湖は正に夜空の合わせ鏡のようで......間違いなく、現実ではほとんど目にすることができないであろうこの絶景は、酷く神秘的にレンの瞳に映った。

 

「こんな所に居たんだ。探したよ、レン君」

「うん?」

 

近づいてくる足音とその声に目を向ければ、其処には相変わらず感嘆の息でも漏れそうな程にドレスアップされたアスナがいた。シェリーやアルゴ、そしてレナにも負けず劣らず、とっても大人びていて綺麗だ。月夜に照らされ、優雅に佇むその姿は俗世界に迷い込んだ妖精か。改めて、レンがその美しさに目を惹かれてしまうのも無理はないだろう。

 

「ホント似合ってるな。ありきたりな言葉だけど、本当に綺麗だ」

 

ここずっと、その言葉しか口にしていないような気もするのだが。

 

「今日は素直なのね」

「心外だな。いつも素直だろ」

「何処がよ」

 

そうは言いつつも、アスナはふわりと一つ微笑んで、その艶やかな栗色の髪を揺らした。

 

「俺に何か用か?」

「うん。団長がキミのことを探していたから。見つけたら呼んでくれって」

「ヒースクリフが?」

「ええ」

 

そこで、レンは僅かに眉尻を顰めた。普段、基本的にソロであるレンと、三大ギルドの一端を担うヒースクリフとの間に、接点は意外にも少ない。強いて言えば攻略会議の時くらいだが、ヒースクリフ自体それに参加することが稀だし、基本的に立っている立場に雲泥の差がある。だから、ヒースクリフが自分を読んだその理由がレンには図りかねていた。

 

「ヒースクリフがレー坊に用なんテ、チョット珍しイ」

「レンが何かしたんじゃないの?」

「まったく身に覚えがないんだが」

 

アスナなら何か知っているのではとレンが目配せしても、彼女ものその理由は分からないようで、そっと肩をすくめるのみだった。

 

「副団のアスナも知らない......と。残るは本人のみ......か」

「行くの?」

 

訪ねてくるシェリーに、レンは小さく頷いた。兎に角も、その理由を知りためにもヒースクリフに合うより他にない。

 

「はぁ〜」

 

大きく溜息をついて、レンは重い腰を上げた。出来るのなら行きたくはない。何となく厄介ごとの匂いがするからだ。そして悲しいかな、このレンの直感にも似た予感は、主に悪い方向にはとことん敏い。彼からしてみれば全く要らない要素だ。それでも、行くしかない。名残惜しげに湖畔の風景を一瞥して、レンはゆっくりと歩き始めた。

 

「レン君、ネクタイ」

「分かってるさ」

 

アスナに言われ、だらしなく緩めていたネクタイを再び整え、レンはまた大きく溜息をついた。

 

***

 

夜に染まり切った教会のアンバランスなまでに広大な広場は、未だにその賑わいの衰えを知るところがなかった。そして、

 

「おーぅレの字ぃ〜〜。こっちきて飲むかぁ〜〜〜〜?」

「結構。仮にもいい大人が、未成年に軽々酒を勧めるな」

「んな堅いこと言うなよぉ〜」

 

幾つかあるテーブルの一角では、クラインを始めとする野郎どもで大いに酒盛りが行われていた。基本的かつ当たり前の話ではあるが、このSAOに於いては“アルコール”なんて物は再現されていないし実装もされていない。仮にされていたとすれば、それはそれは大変なことになること間違いなしだろう。したがって、現実のようにお酒を口にしたからといって見た目は現実のソレでも“アルコール”が再現されていないためにただの発泡飲料である為に酔うことはなく、逆に言えば未成年でもダンディーなオトナの気分を味わえるわけでは有るのだが......

 

「いいじゃねぇかよぉ〜〜〜〜オレ様の酒が飲めねえってかぁ?」

「見事なまでに酔ってやがる......」

 

しかしどうだ、半ば強引にレンをテーブルに引きずり入れようとするクラインは、まごう事なき酔っ払い特有の絡みそのものだ。つまり、俄かには信じがたいどころか有り得るはずがないのだが、彼は“アルコール”なしのデータのみで器用に酔い、ヤケ酒が出来るというナゾ(?)の芸当を成しているのだ。しかもなかなかどうして、そんなクラインの姿は実に板についていた。さながら、社会の波に揉まれてきたサラリーマン。それが日頃の鬱憤を居酒屋で晴らしているの図。この場にもしも社蓄がいるとすれば、同情の涙を流すこと禁じ得ないだろう。兎に角も、レンはそんな酔っ払いと酒を酌み交わすつもりはさらさらないため、どうやって逃げようかを思考していた。

 

「あれ?どうしたんだい?レン君」

「おっ、ディアベルか。丁度良い所に」

 

そんなレンの元に、まるで見計らったのかと疑いたくなるほどのタイミングの良さで、ダークスーツを実にシックに着こなす青髪の好青年ーーディアベルがワイングラス片手に居た。見た所、彼も彼のギルドメンバーと共に風林火山の皆と酒を飲んでいたようだが、クラインのように器用に酔っているわけでもなければ純粋に楽しんでいるようで、同じ成年でもクラインとは随分な差があった。加えて常に他人が楽しめるような気配りができているあたり、流石といえよう。

 

“成る程、これなら女性人気も高い訳だ。今までその影が見えないのがまったく不思議なんだよな”

 

レンは心の中でそんなことを考えていた。

 

「どうもこうも何も、この酔っ払い(クライン)をどうにかしてくれ」

「ハハ、そういう事か」

「んだよぅ〜つれないぜレの字よぉ〜」

「おいバカやめろ、キスしようとしてくるな!!!」

「まぁまぁ、そう言ってあげずに。彼も今回のことが嬉しくて仕方ないみたいだし」

「おめえらばっかりずりぃぜ。オレにも美人さんが欲しいんだぁ〜!!」

「..................今回の事が、なんだって?」

「ははは......多分ね」

「露骨に目を逸らすなよ」

 

どっからどう見ても、そうとしか見えなかった。心の本音がだだ漏れな時点でお察しレベルである。

 

「けどまぁ、そうかもな......」

 

そう口にしつつ、レンは何やら横でブツブツ呪詛でも吐いているかのようなクラインの横顔を見た。ディアベルの言う通り、今回の事を自分の事のように喜んでいるのもまたクライン位だろう。人付き合いのあまり得意ではないキリトの事を常に気にかけ、親友としてその行く末を見守っている。クリスマスの件でもそうだった。レナを除けば、クラインが一番に心配していし、無事レナがキリトを連れて帰ってきたときには、最初こそ取り乱していたものの後からまるで実の親のように膝をつきその手を取ってレナにお礼をひたすら述べていた。そのクラインが、今回の事で喜ばないハズがないのもまた道理。

 

「まぁ、クラインは僕に任せていいよ」

「悪いな、ディアベル」

「いいさ、これくらい」

「ウィ〜〜〜ク」

 

幸せそうに酒を煽るクラインをディアベルに預けて、レンは小さく手を振ってからその場を後にした。

 

「さて、あいつはどこにいるのやら」

 

ざっと辺りを見渡してみても、レンの視界にヒースクリフの姿が映ることはなかった。これだけの人数が集まっているのだから、見つけるのが困難だと予想しなかったわけではなかったが、しかしこうも見つからないとやる気が削がれていくのも仕方あるまい。取り敢えず、思い立つ場所を片っ端から調べていこうとレンは再び捜索を続けることにした。

 

そうして、探し続けることのゆうに数十分。彼は今教会の扉の前にいた。広場は勿論のこと、森の近くも探してみたがヒースクリフの姿は見当たらなかったので後は消去法で教会内しか残っていなかった。何故人を探していながら自分は教会の内部などという非効率な場所にいるのかは甚だ疑問だが、レンはその冷たいドアを押した。するとすぐに、目的人物が目に入った。

 

「ここに居たのかよ」

 

礼拝用の長椅子にゆったりと腰掛けているヒースクリフに声を掛けると、こちらに気付いたのかゆっくりとした動作で立ち上がった。

 

「やぁレン君。随分と探したよ」

「よく言うぜ、自分は教会内でノンビリ寛いでいたクセに」

「それについては謝ろう。この教会のシックな内装が実に興味深かったものでね」

「シック......ねぇ......」

 

実に興味深げな趣で教会内を見渡したのち、ヒースクリフはその双眸をレンへと当てた。

 

「今日君を呼んだのは他でもない。レン君、再度聞くが君は血盟騎士団に入るつもりはないかな?」

「はい?」

 

そうして、いたって真面目な顔持ちのままシレッととんでもないことを告げていた。今日ヒースクリフがレンを呼んだその理由。それが血盟騎士団加入への誘いであったとは、レンの予想の遙先を行っている。何かの冗談かと思い至ってその感情の読めない顔を顧みても、ヒースクリフに巫山戯ている様子はなく、ただ静かにレンをその双眸に捉えていた。

 

「......何回も懲りないな、アンタ。どうしてそこまで俺に拘ろうとする?理由はなんだ?」

「さて、いわざわざ口にするまでも無いと思うのだが。実直に言って、君の力が欲しいのだよ」

「力......か」

 

明言はされなかったものの、ヒースクリフの口にしたことが唯一無二たるユニークスキル《A-ナイファー》の事を指しているのだろうとはレンにもすぐに察しがついた。この世界に存在、いやプログラムされた各種様々なスキル。その頂点に立つものこそ、このユニークスキルに他ならない。現状確認されているのはヒースクリフの《神聖剣》そしてレンの《A-ナイファー》の二つのみ。その取得方法又は条件は勿論のこと、その総数すら未だに解明されていない。

 

だがレンから言わせてみれば、それは名倒れも甚だしいものだ。確かに、ヒースクリフのユニークスキルである《神聖剣》はその名に恥じぬ程の強力なスキルだ。「かの者のHPバーが危険値へと達したことは未だ無し」という伝説と共にあるその堅牢な防御力の前には、ありとあらゆる矛は無に帰す。それに比べて、《A-ナイファー》は余りにも非力も良いところだ。即死効果のある武器と投剣以外の遠距離投擲手段と言えば聞こえは良いが、実際にはそんなものあって無いようなものだ。単純火力の低さ、ソードスキルが使えないというその制約、装備数の制約。その実態はお粗末にもほどがある。FPSでいうところならば、変態装備に次ぐネタ武器間違いなし。

 

「買い被りすぎだ。俺にそんな力は無い」

 

だから、レンはさも当たり前のように呟いた。そんな返答が意外だったのか、ヒースクリフは少しばかり驚いたような表情を見せると、すぐさま呆れたように続けた。

 

「そんな事はない。君の《A-ナイファー》は確かに強い。そして何より、君自身を私が高く評価している」

「そりゃどうも。けど......」

 

そんな事はない。

 

真にレンが力を持っているならば、

 

“イヤダ、タスケテ”

 

“シニタクナイ”

 

あの悲鳴も

 

“後は......”

 

その悲劇も

 

失われて行く命など、何一つ無かったハズなのだから。

 

「..................俺はそんなんじゃない。俺に......」

 

思い返すことも、今更。そんな光景は、目に、記憶に灼き付いたモノだ。起こった悲劇の全ては、何処までも無力な己の罪科。それも全て今更なことだ。

 

「力なんて......ない。キリト達の方が、遥かに強いさ」

 

最後の方は、力弱く諦めの色の方が強いように思われた。そうして、教会は本来の静けさを取り戻す。それに比例するかのごとく、ひどい虚無感と無力さがレンを襲った。

 

「それで?用ってのはそれだけか?

 

少々口早に、レンは口を動かす。はっきり言って、早くこの場から立ち去りたかった。しかし、ヒースクリフはおもむろにレンの横へと歩み寄ると、そのすれ違いざまに風格のある声を持って告げた。

 

「いや、実はもう一件あってね。ついてきたまえ」

「?」

 

此の期に及んでまだ何かあるのか。ゆっくりと遠ざかって行くその赤い後ろ姿尻目に、レンは疲れた表情のまま追随していく。

 

***

 

何やら、ヒースクリフからレンに、紹介したい人物がいるそうだ。

 

彼がレンに引きわせたいというそのプレイヤー。その人物は教会広場の、今は皆が集まってキリトとレナ夫妻を主役に祝い賑わいダンスを開いているその集団の中にいた。

 

「初めまして、ですかね?レンさん」

 

レンとは似て異なるクリーム色の髪。少々丸っこい目つきと幼さを感じささせる同色の眉。そして何よりも、常に浮かべている人懐っこい笑みが全体的に少年のような印象をを抱かせる彼の事をさらに幼く錯覚させる。

 

「紹介しよう。この度の選抜テストで素晴らしい成績を収め、見事リーダーを務めることとなった、情報統括ギルド“タークス”隊長のベノナ君だ」

 

ベノナと呼ばれた少年は、ヒースクリフの紹介に丁寧な物腰で頭を下げて、やがてどこか惹きつけられる人懐っこい笑みを、立ったままのレンへと向けた。

 

「ベノナです。以後、お見知り置きを」

「ああ、こちらこそ宜しく」

 

そんな彼に促されるように、笑みを浮かべながらレンは差し出された左手を握り返す。その時、

 

ゾクリッ

 

「ッ!」

「どうしました?」

「あ、いや。何でも」

 

レンがその手を握ったその瞬間、ベノナのフワフワとした雰囲気が、まるっきり別の、例えるなら研ぎ澄まされた刃物を首元に突きつけているよな......そんな邪悪な物に変わったかのように感ぜられた。しかしそれも、瞬き1回分くらいの瞬間の出来事。次の瞬間には、またフワフワとした人懐っこいモノ戻っていた。確信などまるっきり無いし、そもそもベノナから発せられたとは到底思えない。只の勘違いだろうとレンは不思議そうに尋ねるベノナの質問を曖昧に濁した。

 

「レンさんは、私達《タークス隊》についてはどれ位?」

「ある程度は」

「それは良かった」

 

情報統括ギルド計画、タークスP(プロジェクト)については、レンもアルゴを伝って耳にしたことがある。ことの始まりは、ボス攻略に欠かせない偵察部隊に、初めて損害の出た五十五層でのことと、ある事件のことでだ。通常、攻略会議において最も重要とさせるボスの事前情報。それを仕入れるために編成される通称“偵察隊”は攻略毎に計十五名前後、三大ギルドからそれぞれ均等に選出される。これが決まりだった。しかし、その偵察隊に極めて深刻な被害を出したクォーターポイントの五十層以降ではその勝手も異なり、どのギルドもメンバー及び重要戦力の損失を恐れて出し渋りするようになった。そして、全攻略組を震撼させた、歴史的事件である“血盟団事件”。偏り過ぎたパワーバランスと集中した権力が引き起こしたとある狩場スポットの争いによるこの事件は三大ギルド間での内部抗争にまで発展し、遂には血盟騎士団のメンバー二人が青竜連合のメンバー一人と、DDAメンバー一人を殺害するという前代未聞の事態にまで陥った。

 

そんな偵察隊の問題と余りにも三大ギルドの権力が集中し過ぎたこの現状を打破するために生まれたのがこのTActical Rivarly Core-intelligent UnitS(対戦術的諜報部隊)構想だった。ボス情報を始めとするありとあらゆる戦術的、つまり攻略情報の統括及び捜査を目的とした諜報のエキスパート部隊と、どの三大ギルドのいかなる権力も及ぶことのない、攻略組に対する監査、取り締まり的執行機関の編成。その為のメンバー招集。三大ギルドから各四人、そしてアインクラッド内の優秀なプレイヤーを選ぶための選考テスト。実は三大ギルトが発行した“アインクラッド勢調査”も、このプロジェクトの一環だったりする。事が事なため、編成が完了したのはつい最近のこと。

 

因みに、レンも声を掛けられたことがあるし、有能な情報屋としてアルゴは言うべくもないが、二人とも断っている。

 

「じゃあ、ベノナがあの噂の“Stealthy(ステルシー)”か」

「いやぁ、偶々運が良かっただけですよ」

 

照れたように頭を掻きながらベノナが手を横に振る。謙遜はしているものの、ベノナがかなりの実力者であることは、攻略組内ではかなりの噂になっている。飛び入りでのテスト参加にも関わらず、三大ギルトメンバーが真っ青になるほどの成績を叩き出したこと。その非攻略組とは思えないほどの実力から“ステルシー(姿無き者)”の二つ名がついたこと。そして何よりも、その自信に溢れた濡れ羽色の瞳が、その実力に高さを雄弁に語っている。

 

「では、レンさんも攻略会議の時はよろしくお願いしますね」

「こっちこそ、期待しているよ」

 

そうして、2人がなんて事ない会話を終えた、その時だった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!」

 

あたかも年端のいかぬ子供が、自身にとってどうしようもない恐怖に直面したときに放たれるであろう、その叫び。それが、今や福音の絶頂期にあるであろう無雑な森に木霊した。

 

「今のは何処から!?」

「......あっちからだ!!」

「レン君っ!待ちたまえっ!!」

 

ほんの刹那に過ぎぬソレ、しかしソレだけでレンの思考回路を強制的に叩き起こすには十分過ぎた。ヒースクリフの制止の声すらその耳に聞き届けることなく、レンはバケモノじみた反応速度でその場から爆ぜた。向かう先は、悲鳴の発生源であろうその場所へと。《活歩》による移動方法で地面を飛ぶように移動しながら、切り替わった回路で思考を弾けさせていた。悲鳴の発生源は広場から東の方角。半ば反射的に立ち上げた《スカウティング》スキルの索敵情報から、場所は圏外と判っている。これら二つの情報から導き出される答えは......自ずと限られてくる。

 

「チッ、クソッ!!」

 

頭に中に浮かんだ最悪の結果をレンは強引に振り切ってから更に自身を加速させる。一歩一歩がひどく散漫に感じられ、もどかしさと敏感になり過ぎた五感に気が狂いそうになる。

 

「「「「「レンッ/レー坊ッ!!」」」」」

 

自身を呼び止めようと叫ぶ声すら遠く、レンは神隠しの森へと飛び込む。

 

これは後より知ったことだが、元々この協会は圏内外の境界線近くに位置する。これの意味するところはつまり、ここに辿り着くには困難だが出るのは容易いということだ。

 

そして、レンは微塵の迷いもなくただ一直線に森を駆ける。木々を掻き分け、岩などの障害物を乗り越えたその先に、レンが目にしたものとはーー

 

 

幽玄麗らかな白銀の下、酷く幻想的なその闇夜にてーー

 

「フンっ」

「ア、アアア......」

 

この闇に少しか溶け込んでいない灰色のローブのオレンジプレイヤーが、その右手に手にした長槍を怯えに表情を歪ませ、無抵抗なまでのプレイヤーへと突き刺している、その光景だった。

 

「フン、ようやくお出ましか」

 

レンに気付いたのか、ローブの男はフードに隠れたままの顔をこちらに向けると、ひどく抑揚のない声でそう呟いていた。フードに深く隠されたその容貌では、浮かべる表情すら分からない。が、レンを睨みつけているその鋭い刃物のような眼光は、確かな殺意の炎が揺らめいていた。

 

「あ.........が......うぁぁぁ............」

 

そんなことをしている内にも、槍でチェストプレート越しから貫かれているプレイヤーのHPは減り続け、レッドに差し掛かりつつある。

着実に忍び寄る死神の足音を前に、最早プレイヤーに正常な思考などとうに消え失せ、声にならない悲鳴のままに助けを請う。しかし、そんなプレイヤーを見、そのプレイヤーは心から愉快そうに口元を歪めると、

 

「じゃあな、死ね」

「ぐああああああああっ!!!!」

 

刺さった槍を一気に引き抜き、その喉当ての僅かな隙間に穂先を走らせ、プレイヤーの首より先を両断し、その残り火を摘み取った。

 

「あっ.....................................」

 

信じたくない。

 

両目を大きく見開いたまま地面を転がるプレイヤーの頭部が、その体が、やがて眩いまでのライトエフェクトに包まれてから硝子片を撒き散らした。暗黒一色のみのこの場所で、月と自らの輝きを反射、放つ硝子片は、この世とは思えぬほどキレイだった。その硝子片を全身に浴びながら、ローブのプレイヤーはひどく散漫な動作で立ち上がった。

 

「よく来てくれたな、この偽物」

 

***

 

ソレは、ほんの一瞬の出来事だった。気付いた時にはもう、レンの目の前でプレイヤーがまるで玩具のような呆気なさで死んでいた。いいや、プレイヤーが死んだというその確固たる事実が、レンには受け入れられないでいたのだ。白熱した思考がショートしたかのように瞬き、レンはその熱に浮かされたままローブのプレイヤーを見やった。

 

その、刺すような目線にローブのプレイヤーは気付いたのか、僅かに覗かせるその口元をーー得意そうに吊り上げーー

 

「てめぇ!!!」

 

そこで、レンは正常な思考を放棄した。その場から駆け出し、目前に立ち構えるレッドプレイヤー(殺人者)へと肉薄する。相手の得手は長槍に対し、レンは当然武器など手にしてはいない。構えるのは徒手空拳のみ。有利不利以前に無謀であるのは誰の目に見ても明らかだが、レンにとって、それは至極どうでも良い。

 

ーー今はただ、目に前に不敵と立ち構える殺人者を、この手で打ち倒すのみーー

 

それだけが、レンの思考を埋め尽くしていた。殺人者を捉えるその紺碧は、ただ純粋な怒りだけが灯る。

 

「フンッ!」

 

そんなレンを冷ややかな笑みのみで一蹴し、ローブのプレイヤーはその槍の穂先を向ける。

 

そのモーションを、レンは見逃さない。

 

ーー確かに、レンの行動は無謀でしかない。槍と徒手では、まずそのリーチ差が大きい。しかし、一度その懐に潜り込んでさえしまえば話はまた違ってくる。今までレンは槍使い(ランサー)を多く目にしてきたし、数多の名手の槍捌きを見切ってきた。その初撃を躱し、瞬時にゼロ距離まで肉薄する自信が、レンには有ったーー

 

槍の穂先が僅かに揺らぎーー

 

空気を切り裂くがごとき神速のソレが、レンめがけて迸った。

 

寸分の違いなく迫る穂先、しかしレンは、おじける事なく更にそのギアを引き上げた。その動きは、回避行動と呼ぶには余りにも愚かな、直線的。

 

ーーバカが、貰ったーー

 

そうして、ローブがその結末を確信した、その瞬間ーー

 

レンの全身が、さもブレるかのように、体を横にズラした。

 

「はっ!?」

 

予想だにしなかった、その回避行動に、ローブは少なからず驚愕した。直線的に向かってきたレンが、穂先が捉えるその瞬間に、体のヨー軸ごと強引に歪め、おおよそ直線的だったそのベクトルを、突然真横に捻じ曲げて回避したのだから。

 

槍の穂先の真横、僅か数ミリのところを躱して、地面を蹴り穿ち、レンはその間合いへと一気に踏み込んだ。腕を矢のように引き絞り、握られた拳を男に据える。放つは《八極拳》スキルの《寸頸》。小さいモーションかつ初動に隙が無く、ディレイもほぼ存在しないようなもので有効打としては十分過ぎるだろう。そして、今まさにレンがその滾りを相手へと開放しようとしたーーその刹那。

 

ある“物”を、レンの瞳が捉えた。

 

「えっ!?」

 

思考が固まり、放たれる筈だったその動作が停止し、無理にソードスキルをキャンセリングしたことによる不快なディレイがレンの体を縛る。

 

「シッ!!」

 

その一瞬に生じた隙を縫って、ローブのプレイヤーは舌を巻くほどの槍捌きで長槍を引き戻すと、

 

「ぐうっ!!」

 

立ち尽くすままのレンを、横殴りに柄で弾き飛ばした。飛ばされた体を地面に激突させながらも、レンは無駄のない動きで再びリカバリングする。が、それでもまだレンは固まったままだった。吹き飛ばされたその驚きよりも、目にした“モノ”が、レンの思考を捉えて離さない。

 

レンが目にしたもの、それはローブに袖からチラリと垣間見せる、プレイヤーの身につけていた白色基調のグローブだった。特徴といえば、手の甲にあたる部分に厚手の紅い十字架、所謂“テンプルクロス”と呼ばれるものが縫い込まれている。そう、なんて事無いグローブだ。

 

“どうして.......どうして()()グローブがある!?”

 

だがレンにとっては違う。そのグローブの名は、《誠実なる救済者のグローブ》ソレは、

 

「どうしてお前が、“カズ”のグローブを持っているっ!!!」

 

他でもない、かつてカズが身につけていたグローブそのものだった。

 

“俺が、お前を守る”

“信じでるぜ?相棒(バディ)

 

灼きついた映像がチラつく。それはやがて頭痛となって、レンの体を蝕んだ。そんなレンの言葉が、ローブのプレイヤーには果たしてどう映ったのだろうか。底冷えのする小さくも嗄れた声とともに、その口元を歪めた。

 

「オレが“カズさん”のグローブを所持している理由なんて、お前が知る必要はない」

「っ!!待てっ!!!」

 

話は終わりだとばかりにローブは背を向けると、レンのその声を無視して懐から取り出した転移結晶を天に高々と掲げ、発動させた。

 

そうして、暗闇が伸びる辺りを眩いまでの輝きが貫き、ローブのプレイヤーの姿がその輝きに溶け込むかのようにしてこの場から消滅した................................................

 

 




遂に、物語は動き出す。


......と言うわけで第54話でした。

このオリジナル編実は二部構成となっていて、今回の話からその第二部のさわり、導入部分となっているんです。なるべく丁寧な描写を心掛けたつもりですが、ホトホト困ったことに全くダメっていう............

それと大変申し訳ないんですが、これからは一ヶ月に一回更新ができるかできないかといった具合が暫く続くと思います。かなりリアルの方が忙しくなってしまうので............

ゲームがしたいよ、
早くV.スネークを操作したいよ。
色んな車でREP稼ぎたい。
フライ兄弟でアサシンしまくりたい。
銃片手に壁走りしたいよ。
メーカーを支援して世界と闘いたいよ。
トホホ......

それでは、感想や評価、アドバイスなどお待ちしております。
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