他の作者さんは、どうしてあんなに上手いんでしょうかね?
「ふぅ……」
大きく息を一つ。ゆっくりと体内から押し出された空気が、かすかに大気を震わすのを、レンは感じた。いいや、正確には彼の極限にまで高められた戦闘思考……ソレを構築するその精神が、彼にそう体感させているのだ。脳はまるで麻薬でも投与されたかのように高揚し、それでいて澄んだ水のごとくクリアだ。そればかりか、自分は今置かれているこの状況を渇望していたかのようでもある。
――ハハッ、実は俺もバトルジャンキーなのかもな
これでは、その代名詞たるキリトのことを、自分は笑えない。そんなどうでもいいことを考えつつ、レンはその目の前にたたずむ“影”を見やった。いや、“もう一人の自分そのもの”と表現するのがぴったりなのか。その立振る舞い、姿かたちは勿論のこと、息遣いや重心の置き方、力の入れ具合から果てはその紺碧の瞳を閉じるタイミングに至るまで、全てがそのオリジナルであるレンそのものであった。
「では、カウントダウンを始めさせてもらおう」
そんな茅場の宣言の下、レンの視界の前にカウントダウンのタイマーが表示された。それとほぼ同一のタイミングで、影はその体を大きく後ろにひねると、そのまま連続した動作でバックフリップを繰り返し、その間合いを大きく開いた。
――動作も体の使い方も、俺と全くの一緒、か
その一連の動作を観察し、得た情報を基に最も有効打となるであろう初動の一手を、戦闘用に最適化された思考で模索する。浮かんだ手は実に十通り、本来ならそこから相手の動向や今までの経験をもとに一つずつ限定、絞り込んでいくのだが、今回はその勝手も少々違った。茅場のプログラムしたAIの再現度、思考パターンは未知であるが、今までに影が見せてきたその身のこなしと、先の茅場の発言から、その挙動は自分のものと完全に同じであると判断。限定するというプロセスを踏むことなく最適解の一手を構築する。
――初撃から全力で行かせてもらう。狙いは……
残りカウントは10、レンがやや腰を落として重心を下げると、影も同じように姿勢を作った。
6……4……2……
お互いの殺気にも似た闘志が、チリチリとその肌を刺激する。
1……
――曝け出された弱点を一気に突くッ!!
構えていた左のB-ナイフをぬらりと動かし、レンはそのトリガーを引き絞った。パシュッという作動音、空を切り裂いて飛翔するその刃は、吸い込まれるように影のクリティカルポイントである胸部心臓付近へと……届くことはなく、“まったくの同一射線上”に“同じタイミング”で射出された“影”の刃によって防がれた。
「ちっ」
舌打ちを一つ、されどレンはすでに動き出していた。エイミングはパーフェクトだが、所詮当たればもうけもの、運が良ければ初手で決着がつく、くらいにしか考えていなかったからだ。A-ナイファーが持つその特性上、対人戦においてクリティカルポイントを狙わない理由がない。人によってはその場所はまちまちであれど、相手はもう一人の“自分”そのもの。クリティカルポイントがどこにあるのかは、目をつむっていたとしても当てられる。つまり、“A-ナイファーにおける初手射出による決着”とはいうなれば常套手段であり、自分がソレを狙ってくるなら相手も当然ソレを狙ってくるのは自明の理。加えその確殺性もあくまでランダムであるため、その次を想定するのは当たり前のことなのだ。“活歩”による超高速移動で射線上の側面へと滑り込みつつ、リロードが必要な左をC-アックスに持ち替えてから近接へと持ち込む。
「なっ!!」
しかし、そこで待ち構えていたモノに、レンは思わず目を見開いた。なぜなら、確実に踏み込めると踏んでいたその先に、“同じく左手にC-アックスを構えた”影がいたから。
『せっ!』
驚くレンへと、影は気合と共にB-ナイフを水平に走らせる。
「ちっ」
ソレを左のC-アックスで打ちそらし、レンは影の胸部めがけて左の突きを放つが、影は左ひじを合わせて軸捻転、“纏”による回避運動でやり過ごす。
「『はっ!!』」
互いに流れる体軸を無理やり押し止め、両者足を掬い上げるように蹴り上げる。ガツンッと肉のぶつかり合う音が響き、全く同一軌道を描く蹴りが空中にて重なる。同じ軌道、等しい威力でぶつかるその足々は、やがてその運動エネルギーを拡散させつつ両者の体を逆へと振り戻す。
「ちィ!!」
結果、その体をきれいに逆回転させたレンは、タッチダウンするや否や両手を地面において体を回転、水平に這うようにして放った水面蹴りで着地しようとする影を迎撃せんとする。が、影は二ヤリと口元を歪めると、空中で更に体を反転させ迫るレンの右足に手を添え、そのまま自身を大きく上へと押し上げて回避した。
『ハハッ!!』
そんな嘲笑を一つ浮かべて、空中で身を翻した影はB-ナイフを突き出すと、流星の如き速度で地上にいるレンに追撃を仕掛ける。
「くそっ!」
それに対し、レンは更なる迎撃を繰り出すことはできずに、結局後ろへとドッジロールしてその一撃を躱すことしかできなかった。その、僅か五秒にも満たぬ駆け引きで、両者の間は七メートルほど開いた。
『フン』
「はっ」
ひらりと着地する影と、体をはね起こすレン。
『…………』
「…………」
ほんの少しの間、両者の視線と視線とが混ざり合い…………
『しっ』
「せいっ!!」
両者“活歩”を発動させ、その場から爆ぜた。同じタイミングでジャンプし、体を大きく空中でしならせてから、両手に持つ得手を後ろへと振りかぶり、全体重を乗せた一撃を相手に叩きつける。ガィィンと金属音が響き、火花を散らしてからそれぞれの得手がぶつかり合い、二人ともそのまま体ごと後ろに弾ける。
『はぁぁぁぁ!!』
間髪入れずに再び飛び込んで、二重三重と金属音を奏でる。
「あああっ!!」
『っ!!』
四度目となる空中での凌ぎあいのさなか、レンは強引に体をねじり回してから左足の振り下しを影へと叩き込むと、そのまま相手を後方へと吹き飛ばした。
――手ごたえが薄い。ガードされ……っ!!!
刹那、レンは自分へと一直線に向かってくるトマホークの存在に気付いた。吹き飛ばされるさなか、地面へと着地するレンを狙って、影が投擲しておいたのだ。その投擲は、まさに必中の一撃。だが、ほんの数秒だけレンが気付くのが早かった。軌道そのものはまっすぐ自分へと向かってくる単調なモノ。何の苦もなく、レンは力強く迫るトマホークを左に持つC-アックスで思いっきり弾いた……ハズだった。
「はっ!!!」
弾かれ、外へと逸れてゆくトマホーク。その同一軌道上に、もう一つのトマホークが隠されていた。
――ブラインドショット!!やられた!!
不意を突かれたレン。一投目のトマホークの勢いが強かったのは、あえて強く弾かせることによって次の動作を封殺するためだったのだ。それでも、レンはどうにか回避しようと上半身を捻るが……それをあざ笑うかのごとく、トマホークの刃はレンの右肩口を切り裂いた。
「ぐっ!!」
おそわれる不快感に思わずその場所を手で押さえつつ、レンは足と体捌きのみで背転を繰り返し、影と十分に間合いを開けた。削られたHP量を横目で確認し、“出血”の状態異常が付属されていないことを確認しつつ、レンはダメもとでC-アックスを投げ放つと、すぐさまB-ナイフへと握り替え、手慣れた動作で取り出した替えの刃を挿入した。飛翔するC-アックスを、当然ながら影は易々と躱す。あえて武器で弾かなかったのは、C-アックスのもつ特殊効果である“武器破壊”を警戒してのことだろう。その一部始終を見届けていたレンは、改めて茅場が作り上げたというAIの完成度の高さに舌を巻いていた。先の近接戦による体捌きもさることながら、思考の不意を突く二重の投擲法といい、何から何までレン自身そのものであった。
――どうする……投擲はお互いに射線の潰しあいになるだけ、たとえ不意を突くトリックショットを狙っても、相手がオレである以上タネを読まれる。同様に近接戦も有効打になりはしない
まるで、写し鏡に映る自分と、シャドーイングでもしているようだった。つまるところ、この闘いはお互いの行動の読みあいでしかなかった。力の入れ方、クセ、そして思考を読み、次なる一手を予測してからソレを迎え撃つ。ソレは、どこまでも平行線で終わりの見つからないようなものだった。二人にとっての
――ソレは……
一つだけ、あのAIの思考を凌駕する一手に、レンは心当たりがある。だが、ソレを同じく影が知っているのであれば意味はないし、そもそも、レンはソレを“実行”できない。なぜなら、彼は未だソレを体得できていないからだ。完成度が云々ではなく、そもそも今の彼ではソレを再現すらできていない。強敵との実践のなかで、技術あるいは技を会得する、そんなのはフィクションの世界だけだ。現実でソレを成すというのは、ただの夢見がちな妄言に過ぎない。
――だが、それでも
恐らくその手が、レンの模索する一手の中で、一番影を仕留められるであろう確率が高い手であるのもまた事実だった。手にしたB-ナイフの柄を強く握りしめ、再び構え直したレンはゆっくりと息を吐き出す。一つ一つの神経から、指先に至るまでの“レンクス”を構成する機能の全てを戦闘のソレへと再び作り替え、対峙する己自身へと集中を向ける。あたりは無音へと静まってゆき、耳に届く音はもうない。
そうして――二人は、全くの同じタイミングで、再び相手へと駆け出した。
***
俺にとって、あいつの背中は、いつも目にしてきた――見慣れた光景であったと同時に、決して届くことのない、目標でもあった。思えば、あいつと最初に出会った時から、俺にとってあいつは超えるべき目標でもあった。
もうずいぶん昔の、小さなころの話だ。カズ、周りの皆も、そして俺もそう呼んでいた。たまたま同じ地域で、たまたま同じ学校で、たまたま同じサッカーが好きで、たまたま同じ、チームに入っていた。そんな偶然の積み重ねが、俺とカズを、互いに認め合える腐れ縁――有り体に言えば、親友へと導いた。自慢じゃないが、俺とカズ、俺たちは同世代間では有名なサッカープレイヤーとして有名だった。MFの俺と、FWのカズ、プレイスタイルもクセも全く違う俺たちだったが、そのコンビネーションは抜群だった。俺がエリアをコントロールし、カズにパスを出せば、あいつは獣じみた嗅覚と鋭いドリブルでボールをゴールへと導く。サッカークラブでは何度か優勝もしたし、世代別の候補にも挙がった。成長を続ければ、このまま二人は将来のA代表――つまりサムライブルーを背負う存在として期待もされていた。皆がその才能をほめ、皆が神童と、サッカーの天才と称賛した。が、ただ一人俺だけは、その称賛に首をかしげていた。確かにサッカーが得意で、上手かったのは事実だ。だが、俺とカズを同列に並べるのは、間違っているような気がした。カズの才能は天性のものだ。ボールコントロールは譲らなくとも、あの敵陣を切り裂いていくようなドリブルとか、誰にも止められないと錯覚させるかのようなフェイントも、初めて見た時から叶わないと感じた。思えば始めから、俺はあいつに“いつか自分が越える”
走る
走る
走る――
『シッ!!』
もう何度、迫る投擲物を躱し、そして弾いただろうか。
「はあっ!!」
もう何度、この攻防を続けているのだろうか。時がたつにつれて、“時間”という概念そのものが希薄となってゆき、意識から欠落していく。だがそれでも、闘争心は薄れず、むしろ益々そのキレを増していく。
『チッ』
「……フゥ」
――都合三十五本目となるトマホークを弾き落とし、レンはようやくその両足を停止させた。そしてその対極……ちょうど彼と反対の場所に位置する“影”もまた、その両足を止め、レンの動向を静かに見ていた。そのいでたちは、ひどくレンと似通っている。ソレはまるで鏡写しのように、血を分かった双子のように、あるいは、コピーしたかの如く。その上背も、その髪も、瞳の色も、呼吸の仕方も、重心の置き方も、果ては浮かべる表情すら、おおよそ人間という生物の特徴から“ヒト”としての特徴に至るまでの全てが共有されている。
――どうする
既に、彼らが矛を交えてから40分以上の時間がたとうとしている。その間、お互いがお互いに相手のHPを削りはしたものの、未だ有効打となる一撃の一つすら与えられていないのが現状だった。どこをどう攻めて、どんなに奇抜な攻撃を繰り出したところで、その刃は相手の体を切り裂くことはかなわず、そのほとんどが防がれるか、躱されるかのどちらかだった。都合三十五本、今までのどんな戦闘の中でも、これだけの数を投擲しておきながら、ただの一つすらも当てられなかったことはない。故に、未だ決着がつくことはなく、何方も主導権を握れていないこの状況は、レンにとって未だ感じたことがないまでに最悪の状況だった。
――これ以上、徒にトマホークを消費するわけにもいかない。となれば、接近戦主体で突破口を切り開くしかないか
左のB-ナイフを口に加え、開いた手で右をリロード、次いで左もリロードする。同じようにB-ナイフをリロードした影へと、レンは再び肉薄した。
「シッ!!」
右のナイフを順手に持ち替えてから一直線にソレを振るうが、影は右のB-ナイフをはたくように振り下してソレを弾き、更に体を捻って追撃の左袈裟上げをやり過ごす。そのまま体を畳むようにして体感を落とし、レンの開いた胸部へと左の冲捶を放つ。が、レンは辛うじてそれに反応、咄嗟に地面を蹴って背転。狙いの外れた冲捶は、唸りを上げてレンの胸部スレスレを通過した。そのまま、レンは半円を描くような体捌きから連続で蹴りを放つ連環脚を発動するも、影は地面を転がるように後転してその連撃を躱す。やがてその連撃が止まり、蹴り払った足が地面に着いたタイミングを見計らって一気に起き上がり、お返しの振脚を振りぬく。攻撃モーションが終了し僅かなディレイが始まるそのタイミングを狙って放たれた蹴りを、防ぐことも、回避することも不可能。そう咄嗟に判断したレンは、あえてその一撃を右肩で受け止めた。
「ぐぅぅ…」
肩が引きちぎれそうかと錯覚するくらいの衝撃が全身を駆け抜け、それと共にHPバーが減少する。しかし、レンは気にも留めずに体感を固め、両手で抱えるようにその脚をホールド、
『しまっ!!』
「らあああ!!」
叫び声とともに、影を地面へと投げ落とした。更に曝け出された喉元めがけてナイフを振り落とすが、影はレンのホールドを振りほどいて足裏で彼の腕を押し返す。
『調子に……乗るな!!』
更に影は両手を肩裏に回し、全身をバネのように撓らせてから体を引き起こしつつ、両足を振りぬいてレンの体を蹴りぬく。踏鞴を踏むレンと、構えをとる影。二人は一瞬だけ視線を交わし――
「失せろっ!!」
『寝てろっ!!』
一糸違わぬタイミングで、それぞれ右のナイフを相手の胸元へと押し出した。必中を以て放たれた一対のソレは、きれいな直線の軌跡を描き、互いの左肩へとカウンター気味に突き刺さった。
「『あああああっ!』」
のぞける二人。しかし彼らは柄を握っていた手を放して強引に体を左に回転させながら右手を体の方へと引き絞ると、それぞれ相手に突き刺さったままのナイフめがけて川掌を繰り出した。タイミングも、軌道すらも同じ両者の川掌は、交差するようにすれ違い、やがてお互いのナイフへと到達する。押し込まれるナイフは川掌が発生させる凄まじい衝撃を体内へと伝達させながら肩を貫通し、その衝撃に耐えられなかった二人の左肩口より先を、鮮やかに吹き飛ばした――
E3も終わって、そろそろTGSが来るなぁとか考えながら雨の降りがちな日々を過ごす毎日です。
とにかく、E3終わって思ったのは、今年もゲーム界隈は賑やかってとこですかね。特に、PSVRの反響なんか凄まじいように感じます。今度出るGT SPORTと一緒に買いたいんですが、まぁまず無理ですね(笑)
まずはFFXVから。キングスグレイブはぁ...如何しよう?