SAO:Assaulted Field   作:夢見草

66 / 70
近所で夏祭りが有ったんですが、そこで久々に食べたかき氷が美味しすぎて泣きました。皆さん何味が好きですか?私はブルハかコーラですかね〜


Ep57: Dear 2 u

「動くな」

 

首元へと、まるで具現化した殺意のようにギラギラとした刃を首元に突き付けられたとき、アルゴは一瞬何が起きたのか理解できずにいた。しかし、さも全てを拒み続けるかのように冷え切ったその声を耳にしたとき、アルゴが感じたのは果てしない懐かしさと、そして深い悲しみだった。訳の分からぬまま、しかし生じた動揺を隠ぺいして、アルゴは振り返ろうとするが――そんな彼女を、更に突き立てられたナイフが制する。

 

「――ヤレヤレ、随分な挨拶だナ」

「…………」

「…….呼び出したのはソッチだろウ?」

「…………」

 

返事はなく、ただむなしく行き場のない声だけが響く。だが、アルゴには彼が、今何をしているのかが手に取るように解る。――大凡四秒。それが、彼の持つスカウティングスキルの最大範囲の索敵に掛かる時間。彼女が知る中で、最速。

 

「…………どうやら、追っ手はいないようだな」

「当たり前ダネ。オネーサンを甘く見ないでほしいナ」

「ちゃんと、一人で来たか」

 

静かに、向けられたナイフと、それに乗せられた殺意がすっと遠のいてゆく。

 

「良く言うヨ。最初カラ、オネーサン以外に解かせる気なんてなかったクセニ」

 

そう。あの暗号は全て、アルゴにしか解くことのできぬ、彼だからこそ作れるモノだったのだ。正月の時に、もらったあのぬいぐるみも、嘗てこの同じ部屋で、カズと情報交換をしたのも、全てはレンとアルゴ、そして今は亡きカズにしか知りえない情報だ。初め、ぬいぐるみが反応を見せた時、彼女はすでにその可能性にうすうす辿り着いていた。

 

「そうだな」

 

フッと、いつものどこか飄々とした彼の薄ら笑いが聞こえる。こみ上げる懐かしさ。三週間、たった三週間でしかないのに、随分と昔の事のように感じるからだ不思議だった。そんな思いを胸にかき抱きつつ、彼女は静かに彼の方へと振り返る。久方ぶりに目にしたその姿は、記憶と随分と乖離していた。彼の印象的な服装であるエメラルドグリーンのチェスターコートはマッドブラックとても形容すべきコンバットシャツへと変わり、全体的に投げナイフなどを収納するホルスターなど、武装面での攻撃性が増したように思える。目深に被られたフードはそんな彼の表情を隠ぺいさせ、そのいで立ちは、どこか暗殺者のようだった。

 

「まタ、ずいぶんな衣替えダネ」

「かもしれないな」

 

皮肉交じりの声に、レンは肩をすくめておどけて見せた。そのまま、備え付けのオンボロイスへと腰掛けると、未だ立ち尽くすままのアルゴへ、どうぞとこの部屋一つだけのベッドを指し示した。座れということなのだろう。そう解釈したアルゴは、素直に従うことにした。彼女が浅くベッドへと腰掛ければ、古くなり、経年劣化したバネがギシリと悲鳴を発する。アルゴが重いというわけではなく、単にそれだけこの宿がボロイという証拠だ。

 

「相変らズ、ボロっちい宿ダナ。寝れるのカ?こんなベッドデ」

「攻略組は、敵地のど真ん中、硬いフィールドの上でも寝れるように訓練されているんだよ」

「ハハハ」

 

冗談ではなく、紛れもない事実だ。多くの攻略組はソレができるし、キリトやレナほどの上級者ともなれば、たとえボス部屋の中だろうが寝てしまえる。攻略組は、人間を辞めてしまった者たちの集まりだ、巷ではそんなことがまことしやかにささやかれているらしいが、あえてアルゴはそれを否定しない。

 

「さてと、雑談もここまでだ」

 

その一言で、今までこの場所に漂っていた雰囲気が、がらりと一変したのをアルゴは感じた。ピリピリとした緊張が、チリチリと肌を刺す。無駄話はもうしない。フードに隠れたその表情はうかがい知れぬが、自然体のまま椅子に座る彼の全身が、そういっていた。

 

「何ヲ?」

「とぼけなくてもいいさ。あの謎かけを解いたアルゴなら、俺が何のために呼んだかわかってるだろ?」

「…………」

 

今こうして、何週間ぶりかの再会を果たして、冷静であるかと言えば、ソレは嘘になる。聞きたいことは、それこそ無数にある。どうして、あの日姿を消したのか。何故、あんな無茶を冒し、皆から疑われるかのような行動をとるのか。どうして、出来ることなら、今にでもレンへと詰め寄り、一つ一つ確かめたかった。けれど、今はそうすべき時ではなく、先ずはこちらが先。はやる気持ちを抑え、そう己を律したアルゴは、無言のまま左手を宙に振りかざすと、目の前へウィンドウを呼び出す。それに呼応するように、向かいに座るレンもウィンドウを立ち上げた。

 

「それデ?ほしい情報は何だイ?」

「現時点で手に入る、レッドプレイヤー関連の情報、その全て」

「……オネーサンの聞き違いカナ?レッドに関する情報だっテ?」

「ああ、そうだ」

 

そう口にするレンの口調に、ふざけた様子はなく、あくまでも平然としている。

 

「……それは」

「あるだろ?“ネズミ”なら」

「…………」

「それもただの情報じゃない。あいつら(タークス隊)すら知らないものがある」

 

まるで、全てを見通されているかのような感覚だった。確かに、レンの言うとおりだ。今のアルゴには、攻略組全体が認知している情報と、それとは別の、独自に調べ上げた彼女だけが知る情報がある。

 

「何故ダ?どうしてそう思う?」

「……そう聞き返すってことは、やっぱりあるんだな」

 

まんまとやられた。つまり、レンはカマをかけていたのか。その筋のスペシャリストであるアルゴをして手玉に取ってしまうだけの手腕。こういった交渉の場において、自分のイニシアチブをいかにとるかは大事だ。だがこの場において、支配しているのはレンであり、アルゴはあくまでのその掌の上で踊らされているだけでしかない。しかし、ふとそこで、アルゴは明確なある違和感を抱いた。大きくはないが、決して小さくもない。彼女の中でのレンと、目の前に居るレンが、どこか明確に、致命的にズレているように錯覚した。

 

「……あるヨ。恐らク、レー坊の望むものが」

「だろうな」

 

当然とばかりにレンは返し、徐に表示したウィンドウを慣れた手つきで操作すると、何かしらの決定音が部屋に響く。そして程なくして、アルゴのウィンドウに着信を知らせる通知が届いた。

 

「これハ?」

「取引だ。内容はいたって簡単、俺の持つそのデータと、アルゴの持つ情報を」

 

――データ?

 

その単語に、アルゴは僅かばかりに引っ掛かりを覚えた。どうして、レンはわざわざデータと口にしたのか。

 

――つまり、こいつは情報じゃない。

 

そう、アルゴは確信した。となると、その中身は何なのだろうか。一口にデータと言っても、該当するのはいくつかある。そうして、アルゴは送られてきたファイルを開いた。別枠がポップアウトし、ダウンロードバーが進行を始める。程なくしてそのプロセスが終了し、アルゴは眼前に表示されたそのデータへと目を落とし

 

「なっ」

 

驚愕に絶句した。彼女の目の前に映し出されたデータ、そこには何やら構造図らしきものが描かれており、傍から見ればそれは、何かの地図のようだった。否、描かれているのは紛れもなく“地図”なのだ。

 

――マップデータ。それはゲームなどではよくある、“フィールド”という迷宮へとほうり込まれたプレイヤーへの道標。当然、このSAOにもマップデータは存在し、時にはそのデータのやり取りもままある。別にこれだけなら、アルゴも驚くことはない。が、レンが彼女へと提示したのは、第六十九層のマップデータだった。

 

「どうして?」

「何だよ、お気に召さないのか?」

「惚けないで!!レン!!」

 

変わらぬ様子でおどけて見せるレンに、素の口調のまま、アルゴは思わず声を荒げた。気に召さないわけなんてない。ざっと目を通しただけでも、各フィールド情報、mobデータ、迷宮区のデータ、これらがボス部屋まで完璧に記録されている。踏破率は数値にして80%。隠し部屋と、イベントマップらしき20%が欠損しているため、厳密にいえば完ぺきとは言えないが、客観的に見ればこのデータは価値あるモノだ。喉から手が出るほどにほしくなるデータだ。だが、今のアルゴには、そんなことはどうでもよかった。

 

「正気なの!?一人で最前層をたった()()で?」

 

そう、重要なのは、そんなデータが今存在しているということなのだ。四日、連続PKに震撼する攻略組へと突如として告げられた、第八十九層の開放。その当事者へと驚きとゆるぎない嫌疑を抱かせたあの出来事から、まだ四日しか経っていない。確かに、四日という数字には何ら問題はないし、攻略組はかつてそれ以上の速さで踏破したことだってある。だが、ソレは人数規模を念頭に置かなかったらの話だ。今現在、六十九層におけるありとあらゆる攻略活動は対策本部より禁止されている。理由は単純、新たなる地では、いつ如何なる時レッドプレイヤーに攻撃されるかわからない。圏内にある対策本部はSAOの定めるクリミナルコードによって守られているが、未踏破である地は、その全てがPKプレイヤー達の狩場であるも同義なのだから。加えて、今のこの状況で無闇矢鱈に攻略を進めるという危険を進めるのは、あまり賢い考えとは言えないからだ。つまり、四日で踏破率80%というこの結果は、たった()()――()()のみで刻まれた数字ということになる。そんなもの、不自然を通り越して最早異常だ。

 

――なんて、デタラメ。一人で96時間、一時も休まなくても、そんなの

 

「死にたいの?」

「誰が?」

「っ、あなたの事よ、レン!!四日で80%。それも一人で?そんなのデタラメだ。96時間、不眠不休で最前線を攻略したとでも言いたいの?そんなのただ、死にに行くようなものじゃない!!」

「…………だったら、何か問題が?」

「えっ………」

「死にに行く?だったらどうした。お前に何の関係がある?不眠不休?そもそも、ただ0と1の集合体でしかない無機物の俺たちにそんなの必要か?忘れたとでも?元々俺たちは、茅場昌彦という人間によって“監獄”に入れられているんだというコトを。頭に、一瞬で殺せる物騒な装置を付けたままな。向こうの世界で、俺たちが確実に死んでいない、なんて確信がどこにある?確かに今俺たちはこうして生きている。このSAOというもう一つのリアル(現実)を。けど、それが単なるデータ体でしかないとどうして言い切れる?」

「何を……言って……」

「アルゴ、お前の言ってることは全て意味がないんだよ。死んでいるのか生きているのかも分からない俺達にとっては」

「そんな............ことは......」

 

押し出した言葉はどうしようもなく震えていた。目の前に居るのは、いったい誰だ。一体何を言っているのだろう。まるで、悪い夢にでも曝されてるよう。聞こえてくる、感情なんて消えた、恐ろしくフラットで、ともすれば機械のような声も、そんなことをいう彼自身も、アルゴはその一切をレンとは認めたくなかった。そして、そのズレが、決定的なモノへと変貌する。

 

「そもそも、俺がどこで何をしようと、お前には関係ないだろ」

「っ!!ふざけないで!!」

 

パァンと、乾いた音が響く。ほぼ反射的に気がつけば、アルゴはかつてのようにレンの頬をはたいていた。彼の顔が僅かにそれて、覆い隠されていたフードが、はらりと落ちる。だが、一度あふれ出してしまった感情は、もう抑えきることなどできはしなかった。

 

「そんなコト、昔のあなたなら絶対に言わなかった!!」

「……」

「関係ないわけないじゃない!!必要ない?勝手だ?そんなことある筈ないじゃない!!あなたは何時もそうだ!!一人で突っ走って、なんでも全部、一人で背負って、なんでもない様におどける!!置いてけぼりにした私たちの気も知らないで!!一体どうしちゃったのよ!!なんでそんな残酷なことを平気で言うの!!」

 

自分の頬へと、冷たいものが伝うのを、アルゴははっきりと感じた。悲しかった、苦しかった。これが悪夢なら、早く冷めてほしいとすら思った。何もかもがぐちゃぐちゃで、どうしてこうも、胸が苦しくなるの分からない。

 

『アルゴが無事でよかった』

 

幾多の記憶の中で、変わらず光り続けるそれが、強くアルゴを締め付ける。何が彼を変えたのか。()()時、何故私は声をかけなかったのだろうと。何をしていいのか分からず、今はただ、あふれ出ようとする涙を堰き止めることができなかった。

 

「………知る必要なんてないだろ」

「っ」

 

底冷えのする、レンに似たダレカの無機質な声。

 

「何処まで行っても俺とお前は赤の他人だ。笑わせるなよ、アルゴ。初めから、俺はお前たちと仲間になった覚えはない(、、、、、、、、、、、)

「あっ…………」

 

カチリ、掴んでいた手、ダレカの服に掴みかかっていた両手が払われ、呆然とするアルゴの首筋を、冷たい冷たい、刃の感触が撫でた。

 

「友情ごっこがやりたいなら他所でやれ。悪いが俺は、お前たちを仲間だと思たことは一度もない。お前も、キリトも、レナも、クラインも皆、俺にとってはただ利用価値のあるプレイヤーに過ぎない。お前を助けたのも、その方が都合がよかったからだ。初めから、お前たちを信用してなんかいないんだよ」

 

――ズレたソレが、やがて大きな歪となり、その内側から、彼女の心を食い破った。

 

紺碧の双眸が向けられ、紡がれるその言葉は、向けられているナイフと同じように冷たかった。そこには明らかな拒絶があり、嘲りと怒りがあった。心はぐちゃぐちゃで、悲鳴を上げるまま、そこで、アルゴは気づいてしまった。

 

――瞳が、どこまでも透き通った、深い海を思わせる紺碧の瞳。その奥に濁る、暗い暗い澱みを。 

 

――レン......貴方は……

 

ずっとずっと変わらぬ、彼がひたむきに隠し、その飄々とした態度の内に隠し続けていたモノ。あの時から何一つ変わっていない、その瞳の色を。どうして未だ、彼は抱き続けているのかを。それは……

 

「……時間か」

「え?」

「腕が落ちたな、アルゴ」

「なんの……」

 

諭すようなダレカの声。その時だった。

 

ドガッ!!

 

という重い音と、

 

シュン!!

 

という微かな軽い音。

 

その、全く正反対の音を耳にしたアルゴの体を、不意に何とも言えない人肌のぬくもりが包み込み、その視界がぐらりと反転した。

 

「ごめん」

 

彼女の耳元へ、優しさと暖かさに満ちたささやきが届く。益々ぐちゃぐちゃに混乱するだけの思考、反転した彼女の視界がとらえたのは、無残にも砕け散りゆく部屋のドアと、視界の横から伸びるダレカの腕、その先に握られた、見慣れないナニカ。

 

「タークス隊です!!おとなしく投降してください!!」

「断る」

 

そんな会話と、パシュンッ!!と何かの作動する音。それを最後に、アルゴの視界は、真っ白な白煙に包み込まれた――

 

***

 

Interlude: Renegade《Renxs》Dearly beloved

 

その時は一瞬、刹那ですら短き時間を三つ重ねる。工程自体は単純そのもの。イメージを強く、固めたソレ(クロスボウ)をのばす左腕の先――その掌へと。狙う先は、震えるドアの隣にある壁 。

 

三、左手に、新たな重みが生まれ、開いた右腕で、後ろからそっと、立ち替わった彼女を包む。表示される警告音。だが、今はどうでもいい。小さい小さい彼女の体を、そっと自分の方へと持ってゆき、その耳元へ。

 

「ごめん」

 

今の自分にできる、せめてもの謝罪を。許されぬことであることは、十二分に理解できている。大切な記憶(思い出)を否定し、彼女を傷つけたこの身で、触れるはいかなる愚行か。恐らく、彼女には何一つ理解できていないだろう。だが、それでいい。罪と共に地獄へと落ちるのは、一人で十分なのだから。

 

二、震えていた扉が、ついにその均衡をくずし、強大な力の前に、なすすべなく吹き飛び、砕けてゆく。ちらりと、ベノナと目がかち合った。トリガーへとその指をかける。つがえられたその矢が、今か今かと開放を待ちわびている。

 

一、破られた扉の向こう側から、彼を捉えるために放たれた猟犬がその姿を現す。

 

「タークス隊です!!おとなしく投降してください!!」

「断る」

 

確固たる意志を、その口に。掛けていた指を、軽やかに引き込めば、パシュンッ!!と軽いその音が、大気を震わす。放たれた矢は、一直線に定められし場所へと。

 

着弾。仕込まれた機構が作動し、白煙をまき散らす。

 

そして、彼ーーレンは、窓枠を躊躇いなく蹴り破りながら、最後に一度、未だ立ち尽くすままの彼女を見やった。

 

 

 

ーーさようなら。どうかその行く道が、多くの幸で彩られていますように

 

***

 

「なっ!!煙!?」

 

その煙をもろに浴びたベノナが、驚きの声を上げる。立ち込める濃煙が彼の視界を瞬く間に奪い去った。

 

――マズイ

 

すぐさまその行動の真意を悟ったベノナが、咄嗟にスカウティングスキルの範囲索敵を立ち上げた。主な反応は三つ、一つは発動者たる彼自身、もう一つはパッケージであるアルゴ。そして――

 

「レンクスッ――!!」

 

彼の叫び声が木霊するのと同時、立て付けの悪く、ガタガタだった窓を、レンは蹴り破った。

 

索敵の反応を頼りにその窓へベノナが詰め寄ったときにはもう、残る反応の主であったレンは、外へと脱出してのけていた。

 

「ぐっ!!」

 

高さ大凡十二メートルの落下により発生する衝撃を、受け身一つだけで分散させて着地したレンは、そのままわき目もふらず、自身のステータスに刻まれた敏捷値の全てを以て駆けだす。

 

「ブラボー、デルタ、フォックストロイト!彼をっ!!」

 

そんなベノナの声を耳にしたのと同時、立ち上げておいた彼のスカウティングスキルが鋭く警告音を発した。

 

――囲まれた

 

彼の知覚出来うるだけで、少なくとも十人。通りを一直線に駆けるレンを囲うようにして、タークス隊のプレイヤーが彼を補足していた。

 

――くそっ!!やはりそうだよな

 

思わず、悪態をつく。彼らとレンとの距離はキッチリ十メートル。前方にこそ人はいないが、後ろと左右を固められたこの状況で転移結晶による逃亡は不可能に近い。こちらが少しでも転移するそぶりを見せれば、周りの隊員がすぐさま詰めてくるだろう。つまり、プランA

による逃亡は不可。残るプランBにかけるしかない。

 

そう割り切ったレンは、頭の中に叩き込んだ構造を頼りに網目のごとく複雑なサブストリートを抜けてゆく。だが、追跡を撒くように移動しているにもかかわらず、レンを追う彼らはキッチリ十メートルの囲いを保ったまま。逆に、レンにはそれが不気味だった。まず、前方を囲まない理由が分らない。四方を固めれば、拘束などたやすいだろうに、なぜ態々逃げ道を作るのか。

 

――何か企んでるのか

 

彼の直感が警鐘を鳴らす。サブストリートが終わり、メインストリートへと切り替わる最後の角へとレンが飛び込む、その時

 

「っ!!」

 

視界のハジ、その角の向こう側から、伏兵が飛び出してくるのを、補足した。完全に不意を突かれた形、しかしレンは地面を蹴ると、そのまま体操選手のようにクルリとジャンプして相手の頭上を跳び越す。

 

「なっ!!」

 

果して、突破されるとは思ってもいなかったのか、相手はそんな声を上げながら呆然と立ち尽くしていた。

 

「デルタ隊!!バリケード!!」

「今度は何だ?」

 

メインへと入り、人だかりの多いその道を駆け抜けるレンは、その前方で信じられない光景を目にした。彼の場所から、大凡五十メートル先。その道に、大型の盾を構えた重装兵が、道幅いっぱいにさもバリケードのように横に陣形を組んでいた。ヘビープレートに身を包み、どっしりと盾を構えるその姿は、どこかレンの好きなFPS(CoD)に出てくる、ジャガーノート(みんなのトラウマ)のような印象を与える。

 

――やられた

 

その光景を見、漸くレンは彼らの意図と、自分が彼らの手の内に掛かっていたことを悟る。撒くようにして逃げていたと思っていたレンだったが、実際には彼らに気づかぬうちに誘導されていたのだ。前方をあえて塞がなかったわけ、彼らは初めから、ここで捉えるつもりで行動していたのだ。そして、レンではあの人間バリケードを突破することはできない。もし仮に、あのバリケードが単純に盾ではなく人間だったのなら、当身で吹き飛ばすか先ほどのように飛び越えてしまえばいい。が、重厚な盾にて固められたあの陣形に、軽量にして紙装甲なレンでは逆に吹っ飛ばされてしまう。かといって、引き返すこともできない。四方を完全に囲まれたレンは、檻に入れられた鼠も同然。ギリギリと、まるで真綿で首を絞められるかのような焦燥感が襲う。絶望的にも近いその状況下、稲妻のように目まぐるしく流れゆく景色の中で、レンは活路を見出した。

 

――やるしかないか

 

彼が意識を向けたのは、メインストリートの道端に構えられた何かしらの店。そして、その店の横に、まるで階段のようにして段々に積み上げられた木箱。それにレンは全てをかけた。

 

「ふっ!!」

 

限界まで引き上げたギアを、更に一段引き上げる。敏捷値が悲鳴を上げ、光すら置き去りにせんと爆発的なまでに加速していく。

 

体当たりで、強行突破するつもりか

 

そう考えたデルタ隊に、一層の力が籠り、編み上げられたその陣形がより堅牢さを増す。いまの彼らなら、たとえどんな障害が来ようとも、完全に跳ね返してしまうだろう。万事休す、飛んで火にいる夏の虫、。だが、そんなレンが見せたのは、一つの不敵な笑みだった。最高点すらとうに突破して、放たれた弾丸もかくやというスピードで駆け抜けるレン。だが、その進行方向は堅牢なその人間バリケードではなく――その手前にある、店だった。

 

「お、おいアンタ!!そこで――」

「悪いね」

 

それに気づいた店主らしき人物の声を無視して、その横に積まれた木箱を駆けあがると、そのままレンは屋根を蹴って街の壁へと飛び移った。だが、土を塗り固めて作られたその壁に、足場となるでっぱりなどない。そのまま、重力に負けてむなしく落下するだけ、誰もがそう思った、その最中

 

「行けッ!!」

 

落ちると思われたレンが、まるで張り付くようにして壁を駆け抜けていた。壁走り(ウォールラン)。パルクール、あるいはフリーランと呼ばれるエクストリームスポーツの技。しかし、その走行距離は現実のソレを優に凌駕していた。桁外れの敏捷値と、強力な機動力補正をもつ彼にしか成しえない離れ業だ。そうして、彼は悠々とバリケードを突破した。

 

「冗談だろ」

 

それは、レンを追っていたブラボー隊の分隊長であったシンドにとって、信じられない光景だった。

 

「シンドさんッ!!このままじゃ振り切られます!!」

「俺の後に続け!!絶対に逃がすな!!!」

 

だが、未だシンドのスカウティングはレンを捉え続けている。そうして、デルタ隊の隊員を押しのけると、逃亡を続けるパッケージの後を追う。

 

――どこに向かっている?

 

レンの逃亡ルートは、転移門のある中央部ではなく、教会のある行き止まりの北部区画。最初でこそ、そのルートはタークス隊が誘導してきたものだ。全ては、バリケードへと誘導するため。しかし、こうやってとても人間技とは思えない方法で突破された今、彼に北部へと逃げる理由などないはずなのだ。だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

 

そうして――様々な障壁を、機転のみで突破したレンの逃亡は行き止まりたる教会の正門へとたどり着いたことで止まり――その後を追っていた、シンド率いるブラボー隊がついにレンを補足した。

 

「終わりだな……」

「…………」

 

ゆっくりと、背を向けていたレンが、シンドへと振り返る。

 

「大人しく投降しろ」

「……」

「フンッ、漸くあきらめたか」

「……甘いな」

「何?」

 

フードの奥から覗くレンの口元が、不敵に吊り上がる。追い詰められたのは彼のはずなのに、その笑みはまるで、そんなシンドをあざ笑うかのようだった。

 

ゴーンゴーン

 

殉教者の巡礼を告げる、三時の鐘が、この街全体を包み込んだ。

 

その時だった。

 

何の前触れもなしに、突如としてレンの体が光に包まれ、次の瞬間には、マットブラックに染まる工作員じみた彼の風貌を、十字架と聖者をあしらった装飾品のある白いローブが包み込んだ。

 

「っ!!お前ッ!!」

 

感じられる時の流れが、ゆっくりと、停滞しながら停止してゆき、“時”という概念が喪失していく。そのなかで、アレンは地面を抉らんとするまでに蹴りだし、一直線に駆けだした。それを、レンはただ静かに、不敵な態度のまま、静かに見つめていた。

 

ギギギ……ガコン

 

重い重厚な音を響かせながら、大聖堂の扉が開く。そこから現れたのは、レンと同じ白いローブに身を包んだ、聖地巡礼へと向かう殉教者達だった。

 

「くそぉぉぉぉ!!」

 

届かない。どんなに足を動かそうが、彼に届くには致命的に、そして絶望的に遠すぎたのだ。現れた殉教者たちが、飲み込むようにしてレンとすれ違う。

 

そこへ

 

レンはただ静かに、スカウティングスキルにある隠蔽能力を発動させ、

 

Возьмите братан по уходу(じゃあな)

 

 

追いかけるシンドへとそれだけ吐き捨てて、

 

 

 

 

 

その存在を、彼らの中へと埋没させた。

 

 




今回でレンが新たに手に入れたスキルの一端が垣間見えたかなと。やっぱりベースはCoDから持ってきてるんで判る人にはピンと来るような来ないような?

完全お披露目はまだ先になりそうですが笑

そして評価ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。