SAO:Assaulted Field   作:夢見草

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皆さんゴールデンウィークはいかがお過ごしですか?私はこのゴールデンウィーク期間中は何とか時間を見つけて投稿できてます。

それでは、どうぞ


Ep61: All or Nothing

第一層《始まりの街》。天の頂へと伸びるアインクラッドの最も低き層。全ての始まりであるこの場所には、他の層にはないある“特徴”がある。層の中央部より東南へと下った場所に位置する黒く無機質な鋼の建物。名を“黒鉄宮”と冠するその場所は、百塔に連なるこの天空城に唯一存在する“牢獄”としての機能を有している。

 

多くのプレイヤーにとって目に見える“秩序”と“正義”の象徴ともいえるその建物は、設立から事実上“タークス隊”の本拠点でもある。もちろん、多くの人間はそれを知らない。一般公開されている情報では、この黒鉄宮は三大攻略ギルドから持ち回りで警備、そして維持管理をしているとしている。“タークス隊”設立の流れを考えれば、あながち間違いでもないのだが。

 

ともかくも、“タークス隊”の存在同様、その真相は攻略組の最高機密の一つであるからだ。その真相を知るは、攻略組の中でも限られた人物のみ。――そのセレクションに招待されたレンも、その真相を知る数少ないプレイヤーだった。

 

「……暇だな」

「……ああ」

 

――内部に四……いや、五、か

 

黒鉄宮の頂上、建物の構造上において屋根にあたる部分の際に立ち、レンは研ぎ澄まされた聴覚と索敵を以て静かに俯瞰していた。

 

門番なのであろう二人の男は、ヘビープレートアーマーにその身を包んだままの格好で直立の姿勢を保つまま、愚痴ともつぶやきともつかぬ会話をしていた。出入り口となる場所は他になく、正面突破しか方法はない。内部は強力な結界が敷かれており、どんな隠蔽すらも白日の下に曝す。

 

自身が有するスカウティングスキルによって強化された索敵が、門番以外に五人のアクティブ反応を捉えている。ただし問題なのは、内部の構造までは正確に把握できないこと。あくまで理解できるのは、まるで地表に浮かぶ陽炎のように朧気としたイメージだけ。

 

「――行くか」

 

しかしレンにとっては、少なくとも一階にアルゴの反応が無いと分かっただけでも御の字だった。

 

「ふっ」

 

何のためらいもなくレンは足場を蹴ると、二人いる門番の内の片割れ目掛けて飛び降りる。音一つなく、鮮やかな姿勢のまま自由落下をするレンは、そのまま目標の首元を両手で拘束し、落下する己と共に地面へと叩き落とす。

 

「ッ何だ!!!」

 

反応は、ことレンに対して言えば致命的に遅かった。その剣が抜かれるよりも早く、落下の衝撃を受け身で分散させつつ跳ね起きたレンは、鋼で作られた壁を駆けあがるかのように走り出す。石畳の地面や砂利岩道とは違い、表面が玉のように磨かれたその壁は、伝達した力を思うように受け止めてはくれぬが、それを彼は凄まじいまでの敏捷と機動力補正で駆け上がる。そうして、逆袈裟に振るわれる剣をスレスレで躱し、背後へと滑るように回り込んで渾身の“寸勁”を叩き込み、相手の脳天を揺らして棒立ちにさせたところで鎧通しの要領で堅牢な防具の隙間から“頂肘”を放ちその衝撃で意識を刈り取る。

 

そのまま、その機能に相応しい厳粛な門をこえて黒鉄宮内部へと踏み入れると、レンの視界へと”Caution”と記された文字と共に数字が表示される。カウントは“三百秒”あくまで侵入者であるレンへと課された彼への猶予時刻だった。黒鉄宮はその運営こそ現在はタークス隊がとりしきっているが、あくまでも第一層内部に有するシステム権限の一つ。正規の手順を経ずに踏み入れれば、システム側からの懲罰を受けるは道理。カウントの三百秒がゼロになれば、対象は強制的に圏外へと転移させられ、カーソルもグリーンからオレンジへと変更する。

 

――三百秒。分に直して五分。この、日常なら長いようで短い時間は、しかし侵入者に対しては温い様にも感じる。何故このようなシステムにしたのかは分からないが、キリトの憶測ではこの世界が“デスゲーム”ではなく“ソードアート・オンライン”であったころの名残ではないか、とも。

 

「侵入者だ!!」

「各員第一種戦闘態勢!!」

「生け捕りにしろよ!!」

 

監獄のイメージよろしく黒一色に微かな日の明かりのみが照らす暗い内部を駆け抜ければ、その存在に気付いた隊員たちが武器を片手に集まってくる。その数、足音からしておよそ五人。事前の索敵通りだった。足を止めて、右の腕を前に突き出す。その行動に、警戒の色を強める隊員たちを尻目に、レンは出現させたクロスボウを右手に、空いた左手で矢を取り出して軋む音と共にコッキングレバーを引いてボルトを番える。そもまま、こちらへと肉薄してくる隊員たちに向かって、レンはトリガーにかけていた人差し指をふわりと引いた。軽い作動音と共に飛翔するボルトは向かってくる彼らへとではなく、その足元――地面へと突き刺さり、短い破裂音と共に辺りを濃ゆい白煙がおおった

 

「くっ!!!」

 

当然、レンを捕まえようと詰め寄っていた彼らは例外なくその煙に巻かれ、一瞬のうちに視界を奪われる。

 

「しっ!」

 

そこへ、レンは活歩による高速移動と共にその中へと斬り込み、展開したスカウティングスキルで位置を正確に測り取り、煙に紛れた闇討ちを行う。一、二、三と視界には捉えていなくとも正確無慈悲な体捌きで次々に隊員たちを無力化させてゆき、煙が晴れたその頃には、レン以外に立っている者はおらず、制圧は完了された。もうだれも、レンの侵入を阻む者はいない。――ただ一つ、“システム”というこの世界絶対の法を除けば。

 

視界のハジに表示された時間は、残り二百二十二――三分と四十秒。腰のベルトに備え付けてある金具へとクロスボウをひっかけて、レンは軽く周りを見渡す。無機質なまでに物寂しい監獄の内部は、牢屋がその定められた機能を果たすことなく鎮座している。この階にアルゴの存在がいないのは確認済み。――若しくは――そこまで考えて、レンは強制的に思考を打ち切った。

 

恐怖心に震える体と、寒気に狂いそうになる思考。

 

――頼む

 

縋るような愚かしい希望を糧に、彼は下層へと続く階段を跳ねるように駆け下りた。

 

***

 

暗く暗く、僅かに窓から差し出す光ですら照らすことは叶わない冷たい牢獄。レンガ造りの内部に、備えつけられた簡素な椅子に座りながら、アルゴは何をするでもなく虚空を見つめていた。

 

――“ごめんな”

 

ずっと、脳裏に焼き付いてチラつくその言葉。その囁くようにつぶやかれた言葉に乗せられた真意を、アルゴはずっと考えていた。ワケもわからず、感じたぬくもりと共に視界を埋め尽くす白煙が漂うその中で、レンは何を思い、その言葉を私に向けたのか。自分への謝罪なんていう、そんなことで片づけていいものなのか。彼はナニカが変わった。なのに、そのナニカが分からない。今の彼は、まるで短い命を消費しながら鳴く真夏のセミのようだ。いったい彼の過去に、私たちが知らない過去に何があって、いったい何が彼を変えたのか。その答えを知る事は、今のアルゴには叶わない。

 

「ん……?」

 

とそこで、アルゴはどことなく上の階が騒がしいなと思った。複数人の足音が床を叩き、それが下の階へと響き渡る。やけに珍しい。そう考えていた矢先、今度は階段を駆け下りてくる音が聞こえる。カンカンカンと、まるではじけ飛ぶような速さと共に迫ってくるその音は、やがてアルゴの居る牢の前で止まった。

 

「アルゴ!!!」

 

そして聞こえたのは、数日ぶりとなる、彼の声。

 

「っ!?」

 

彼女が見上げた先にいたのは、フードで顔を隠した、レンの姿だった。

 

「ど、どうしてここに?」

 

アルゴの問に答えることなく、レンは腰に下げていたクロスボウを向けると、レバーを引き絞り新たに番えた矢を鉄格子のカギ穴部分へ向けて射出する。すると、着弾と共にボルトが等間隔の信管音を発し始め、やがて爆発。突き刺さっていた鍵穴を完全に破壊した。

 

「大丈夫か!?」

「う……うん」

 

最早意味のなさぬ格子を蹴り開け、中へと入ったレンは、状況が呑み込めず戸惑いがちに頷くアルゴに安堵しつつ、その華奢な体を抱きしめた。

 

「~~っ!!」

「良かった……良かった……無事で……」

「レ、レン?」

 

いきなり抱きつかれ、トクンと心臓が跳ね上がり、体温が急激に上昇するもつかの間。そんな感覚は、すぐに塗りつぶされた。

 

――レン………震えてる…………

 

体に、少しきついくらいに回された腕が、力なく震えている。あのレンクス(、、、、)が、だ。《A-ナイファー》という、この世界に二つとないユニークスキルを自在に駆り、攻略組より、いや、アルゴの知るどんなプレイヤーよりも近くで敵と交戦し、この常に死に冒されている世界を渡り歩く。“ノーネーム”、“鬼神”、“ユニークホルダー”、“無法者”、“卑怯者”、“スカベンジャー”、“帝王の金魚フン”、。様々な呼称でおそれ慕われる彼が、その身を震わせているのだ(、、、、、、、、)

 

――よかった、よかった

 

そう何度も、壊れたオルゴールのように繰り返す彼は、まるで何かに怯えている子供の様で――目障りなほどに音を発すハラスメントコードの警告表示を消して、アルゴは両手を彼のひろく、けれど小さい背中に回し、その耳元で、私なら大丈夫だよ、無事だよと宥めるようにつぶやいた。

 

――どれほど、そうしていただろうか。静かに、されど無情に流れゆく時間の中で、恐らくはたぶん、さほど多くはなかった。震えが止まり、すっかり落ち着いたレンは、アルゴの肩に両手を置いて、その紺碧色の鮮やかな瞳でアルゴを見つめる。

 

「頼みがある」

 

もう、時間が少ない

 

「今から街中、知ってる限りでいい。攻略組の皆に伝えてくれ。“できる限りの援軍を、二十五層に”と」

「レンは?」

「俺は行かなくちゃ。全てが手遅れになる前に」

「だめ、行かせない」

 

立ち去ろうとするレンの服を掴み、アルゴは彼が被っているフードを取り払った。自分の、彼に比べると随分小さな両手をそのままレンの頬へと添え。

 

「一人でなんて行かせない。レン、私と一緒に着なさい」

 

彼女でも驚くほどに紡ぐその言葉は強く、彼に選択肢など与えはしない。両手に伝うぬくもりから、自分を見つめる紺碧色の瞳から、彼女の意志を伝える。

 

この手を離せば、また彼は一人、何もかもを一人のまま進もうとする。

 

“大丈夫”

 

そんな筈はない

 

“何でもないよ”

 

もうたくさんだ。

 

彼が命ない、ただ命令されるがままに動くだけのロボットならばそれでもいい。しかしレンは違う。彼は一人の人間だ。こうやって伝わってくるぬくもりは、心優しいレンだからこそ伝える事のできるものだ。そして、人間だからこそ、鋼と油とで出来た機械とは違う、繊細さ、壊れやすさがある。致命的な、後戻りができなくなるまでの“ナニカ”が砕けてしまう前に、誰かが引き留めるしかない。

 

「ありがとう」

 

優しい声と、穏やかな笑顔。それが、強く見つめるアルゴへと映る。

 

「………けど、無理なんだ。俺はもう、破りたくない。誰も、死なせたくない。助けなきゃいけない。“彼女(、、)”を守らなきゃいけないんだ」

 

そして、レンはパシンとアルゴが掴んでいた手を払うと、変わらぬ笑顔のまま――しかし致命的に、なにかが抜け落ちた―その表情で、なにかに怯えるような瞳を向けて拒絶した。

 

—―あっ

 

そこで、アルゴはようやく気付いた。引き込まれるように鮮やかで、さも深い海を想起させるような澄んだ紺碧色の双眸。その奥、蒼さの更に奥深くある、暗闇。瞳はアルゴへと向けられていながら、何も映していない(、、、、、、、、)。揺蕩っているのは、全てを飲み込まんとするほどの漆黒。

 

その目を、アルゴは知っている。ようやく、漸く気づいた。

 

――その瞳は、

 

――嘗て、レンが大切な、親友であり戦友だったカズを無くした時と、全く同じではないか。

 

――そして、残されていた時間がゼロになる。法を犯した犯罪者は、その罪によって慈悲無く裁かれるのみ。払われたアルゴの手は再びレンを掴むことはなく、牢破りという重罪を犯したレンは、カーディナルという完全なる調律者の調停の下、厳粛な審判が下され、その槌が落ちる。卑劣な犯罪者としてのレッテルを張られ、強制的に圏外へと飛ばされた。

 

 

***

 

クリスタルでも、回廊決勝でも、ましてや転移門による転移とは比べるべくもない、まるでジェットコースターからでも振り落とされたかのように痛烈な感覚と共に強制転移によって飛ばされたレンは、そのまま投げ出されるような形で地面へと叩きつけられた。

 

「がぁ!!……づぅ…………」

 

受け身すら取る暇なく、たたきつけられた衝撃に視界がブレ、いやな感触と共に意識が遠のきかける。その、途絶えかけのボロボロな意識を、レンは己の体にクロスボウの、“爆裂ボルト”を突き刺して自爆させた。先ほどとはまた違う種の衝撃が、しかし今度は途絶えかけていたその意識を急激に励起させた。

 

「あ、くっ……が……ああっ!!」

 

体が思うように動かぬ中、レンはその体に鞭を入れながら紡いだ気力のみで立ち上がった。

 

「……転移、第二十五層《断界の熱砂漠》」

 

鈍った思考で編み上げたイメージを左手に出現させ、起動文句と共に体をまばゆい光で包み込む。

 

第二部隊の突入を、許すわけにはいかない

 

すべては、何の根拠なく楽観的に構えていた自分のせいだ

 

自分がちゃんと動いていれば、回避できた

 

そうしてレンは、三度の転移と共に既にキリングフィールド(死地)と化した戦場へと踏み込んだ。

 




ここ数話は比較的にレン側とアスナ、キリト達攻略組側と一緒の時間内で別々に行動してましたがこっからはまた普段通りです。存外、ものすごい話数がかかっちゃいましたけどね。

後重要な連絡として、この小説を再編しました。具体的には原作で言うところの”圏内事件”編にあたる部分を削除、それに伴い各タイトルのEp話数を調整しました。理由は活動報告の所で述べさせていただきますが、常々言ってたように思いのほかこの章が長引いてるのも理由の一つです。
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