幸運にもギターを手に入れ、これでスターになるぞと一念発起の最中である。
中学生になった彼女に転機が訪れる。
クラスメイトの名前に星野アイの名前が…?
いやここ推しの子の世界だったんかい!
中学校の文化祭。
ガンダム、大地に立つ。それが伝説のはじまり。
そして、ボクは今、ステージの上に立っている。つまりこれがボクの伝説のはじまりなのです!
なんてつまらない冗談しか思い浮かばないくらいに追い詰められています。うわーん! 誰か助けてくださいぃ。
えうっ、やばい、緊張で吐きそう。
で、でも、だけどッ。その時のアムロと同じくらいの覚悟でここにいるつもりです。つまり、ボクなりに命を懸けてる。ついでにこれからの学校生活も。
そうだよ! これぞ背水の陣!
失敗するとね、地獄ですよ。その後の学校生活終了なのです。へ、へへ、し、失敗しにゃったらね、黒歴史確定にゃんですよぅ。ひぃぃぃ! なんでボク、晒し者になるようなことをしちゃったのかなぁぁぁぁ! こわい! こわいよ! こわいぃぃぃ!
い、いや、大丈夫、大丈夫、だ、大丈夫。どうどうどう。ひっひっふー。ひっひっふー。
深呼吸、深呼吸。
やるのはロックバンド。
その名も『でぃざ☆すたー』。ボク考案!
はい、そこ! うわぁクソダッサとかお笑い芸人の芸名にありそう(笑)とか女児アニメのアイテムじゃない? とかそういうの考えましたね! もうそういうのは良いんです。メンバー内外からさんざん言われましたけども! 変える気はございませんからね!
そんなことは今はいいのです。
ボクはギターでボーカル。つまり主人公です(偏見)。どうも宜しくお願いします。えっへん。
これからみんなが知ってるであろうノリの良いアニソンのメドレーを披露するのだ。ホントはオリジナルの曲とか歌いたいけど、ビビっちゃったというのは内緒の話。
後ろに目を向けるとこの日のために集まってくれたこのバンドを手伝ってくれてるおじさんとお兄さんとお姉さんがニカッと笑って何時でもイケるぜと親指を立ててグッジョブと返してくる。
「へへっ。ありがとう」
暴れる心臓を深呼吸でなだめて、ボクを励ましてくれるメンバーに甘えていると、ついにボク達が呼ばれる。
機材を設置して配置につく。
文化祭は普段と違う空気で、誰もがその味に酔わされる。いつも注意されるような喧騒もこの日だけは許されて、みんなでワイワイガヤガヤと大騒ぎ。成功しても失敗しても大切な、宝物のように輝く青春の欠片になるのだろう。
今までボクはみんなの中の一人で、その他大勢の一人で、この暗幕の向こう側の人間だった。そしてその中でもワイワイガヤガヤから外れた人間だった。
最終的なチューニングを終わらせる。
文化祭担当の先生に一年生で個人でステージを使用する申し込みをしたのはボク一人だけらしい。その先生は心配して、優しい声音で辞めるかどうか聞いてきた。まだ間に合うよ、って。
それでもボクは覚悟を決めて、この選択をした。
もう逃げるのも隠れるのも諦めるのも、やめた。
さあ、いよいよだ。
準備が出来たよと合図を出すと、進行役の子がボク達のバンド名を読み上げる。
幕が上がり、目の前が明るくなる。
勇気を出して踏み出した新しいその世界は、恐ろしいほど静かだった。
歓声はない。拍手もない。きっとボクを知ってる人なんていない。みんな誰だろうと思いながら、ボク達に感情のない無機質な目線を向けるだけ。
そりゃそーだよ。
クラスメイトでさえ、きっとボクのことを分かる人は少ないはずだ。
だってボク、普段はすみっコに居るような大人しいタイプだし、引っ込み思案だし、影薄いし、陰キャだし、コミュ障だし、目立つの嫌いだし。
でもね。
空気は読めるし、何でもは言い過ぎだけどある程度のことはそこそこ上手くやれるし、いざとなれば周りにだって合わせられる。
意外と一人でも何とかなるって思ってるタイプの人間で。
今までそれで良かった。
それで良いと思ってたんだ。
だって前世がそうだったから。
このまま青春をうまくやり過ごして、見逃して、大人になって、何も無いまま死んだように生きて、そんなくだらない日常を何度も何度も繰り返して。
ぼーっとアニメ見て、人生をやり直せたら、転生とか出来たらなんて考えて、今の人生なんてって捨てた気になって、今更もうどうしようもないとか言い訳して。
それで死ぬ直前になってやっとその間違いに気づいた。そして死ぬほど後悔した。
もう遅いのに。
二度とそんなのは嫌だ。もう、そんな自分にはうんざりなんだ。
だから、そんなボクを本気で変える。
転生した時、そう誓った。
自分自身はもとより、チャンスをくれた神様にも親不孝した前世の両親にも、ちゃんと今の両親にも。
今、その最中だ。
まさか女の子になるとは思わなかったけど、そんなのどうでも良い。なんの障害にもならない。
これはボクに与えられた最後のチャンスなんだ。
今、一歩踏み出すんだ!
じゃないと、ここで、この人生で、何もしなかったら!
ボクは死んだままなんだよ!
だから……!
だから今日、ボクは、本当の意味で生まれ変わる。
それを証明する為にここに立つんだ。
この日の一番の盛り上がりを掻っ攫ってやるんだ。
ボク以外の全てをボクの音でかき消して!
ボク以外の総てをボクの色で塗り潰して!
ボク以外の凡てをボクの声で染め上げる!
忘れさせない一日にするんだ。心に刻む一日にするんだ。確かに昨日より一歩進んだ今日にするんだ!
本気で全力で全霊をもって生きるんだ!
その生き様を魅せつけてやる!
「…………」
緊張がその息遣いから、手の震えから伝わってくる。それでも覚悟を決めたのか、静寂を支配していた少女が動く。
挨拶もせず、紹介もせず、発する言葉は何も無い。
ただ仲間に始めを告げる合図であるイントロを掻き鳴らす。
雰囲気が打って変わる様だった。最初のたった一音で格の違いを魅せつける。完璧に、いやそれ以上を。ギターの弦を弾いた瞬間に、これまで見せていた震えも迷いも不安もその全部を振り切った。
心を費やし、命を込め、人生を賭けたその音の波は確かな技術とセンスで弾けて跳んで広がっていく。
心と身体と脳みそに余すことなく染み込ませるほど重ねた練習はどんなに気持ちが早ったとしても先走ることなく、正確無比に旋律を奏でる。
そこにいるのはプロに劣らない一人の表現者。
ボクを見ろ!
その魂の輝きに言葉を失ったのは『みんな』だった。
ボクを見ろ!
バンドメンバーもその熱と気迫に応えて続く。完璧にこなすのは託された想いと熱と信頼に応える献身があるからこそ。
ボクを見ろ!
目の前のマイクに声が通る。
「〜〜〜〜」
その歌声は天上の楽器ですら見劣りするだろう。
この声さえあれば地獄だって天国に変えてしまう。そう思う程に上手く、心に火を灯すような熱があり、聴き惚れるほど美しく、他を圧倒しては心を離さない。
変えてやる! 変えてやる! 変えてやる!
これまでの後悔も迷いも言い訳も!
前世のボクも弱い自分自身も!
ボク以外のすべてを!
全部! 残らず! 全員!
ぶっ殺してやる!!!!
ギター片手に歌い上げるその少女の名は天川ツバサ。
その両目には光輝く眩い星を宿していた。
突然ですけど、この世界はあの大人気マンガ『推しの子』の世界らしいです。
何かに挑戦したいとギラギラしていた幼い頃。
本当に偶然で最早運命で人生最大の幸運なのですが、伯父さんがライブハウスを経営していた。
そこにあったのは主を失ったギター。
ボクの見事なオタク脳がギュルギュルと回転して答えを導き出す。キュピーンと頭の中に再生されるのはぼっち・ざ・ろっく!
これだぁぁぁぁぁ! ってなるのは至極当然な流れだった。
家の近くにあったし、物心つく頃から入り浸ってはお願い♡お願い♡と愛想を振りまいてはお下がりのギターを見事にゲッツ。上手な人に色々教えてもらいながら、ついでに歌上手おねえさんズのレッスンに明け暮れる日々のはじまりはじまり。
勝ったなガハハ。お風呂入ってきます!
よく食べて、夢中で歌ってはギターの練習してぐっすり寝る。充実した日々は瞬く間に過ぎすぎて、困る。相対性理論は術式反転できるようにする必要があると思うのですよ。真面目に。楽しい時間が長く感じた方がいいのに!
ただ一つだけ、唯一不満をあげるとしたらこんなに健康的な生活してるのにあんまり背が伸びないことです。あと胸ももう要らないかな。
おにまいってこんな感じだったんだな〜って、ボクはもう男に戻れないけどねって一人コントしてたら小学校を卒業して春になった。
推しの子の世界だと知るキッカケは両親の事情で地元から離れた中学校に通うことになったことだった。
桜舞う通学路を歩いて、初登校だからと自分の席を確認するために貼り付けてある席分けの紙を見た。そこに星野アイの名前があったのです。
いやいやいや。これまで前世と何も変わらなかったですやん。
そんな感じで同姓同名の別人かと思ったら、マンガで見るよりも影があって不良味が強いけども最強で究極のアイドルになる前の星野アイが、現実離れした絶世の美少女がそこに実在していた。いや、ここ推しの子の世界なんかーい!
まぢかよぉぉぉ! と心の中で叫んで思わずじっと見つめていたら。
「なに?」
「へ? …………な、なんでもないですぅ…………」
これがファーストコンタクトでラストコンタクトである。
ふっ。所詮ボクは基本雑魚メンタルですのよ? 転生したところで何もできやしないのですよ。女の子になったら女の子とお喋りできるとでも?
フフフ。通報されなくなっただけですとも。いや、前世でされたことないですけども。
だがしかし、今の僕には他の誰かの心配できるほどの余裕はないのだ。別に熱中しているものがある。やるべき目標がある。そう! 生まれ変わるという目標が! とか言いつつ全然お披露目のことを考えてなかったんですけどね。
そこでいつまで練習してるんだい! とライブハウスのお姉様方につつかれて、新天地で新しい友達をつくるのにちょうど良いじゃんと中学校の文化祭で歌うことになった、というのがこれまでの経緯なのでした。
文化祭が終わって休みを挟んで登校日。学校は未だ謎の美少女歌姫の話題で持ち切りである。
あのロックな彼女は誰だっのか! 何処へ消えてしまったのか! なーんて校内新聞で取り上げるほど盛り上がりを見せている。
…………。
えと、あの、それ、ボク……なん、ですけど。
フフフ、そんなこと堂々と言えるわけ……言えるわけないじゃん。グスン。
確かに初めてのステージだからオシャレしたんです。
初めてお化粧したし、いつも掛けてるモブモブ眼鏡をコンタクトにして、三つ編みの髪を解いてアクセントに白髪のウィッグとかしたけど…………誰もわからないってないじゃん!!!!
と、悶えている内に放課後である。
まいっか。穏やかな日々もべつに悪くないし。
と、帰ろうとしたその時である。
「確か、天川さん、だよね」
「ひゃぴ! ……は、ふぁい! な、なな、なんでしょう、か。星野さん……」
今世紀の大事件が起きた。
あの星野アイが話しかけてきた。……えへへ、名前覚えてくれてたんだ。もうそれだけで嬉しい♡
するとボクの耳元に口を寄せてくる。うわぁ! うわぁ! うわぁ! 美しいご尊顔が近づいてくるぅ!
「でぃざすたーのボーカルって天川さん、だよね?」
「へあ!? どどどど、どうしてバレっ、じゃなくて、え、えとえと、そ、そんなことも、あ、あるような? ないような?」
その反応を見て確信を得た彼女は花が開くように笑顔になって手を合わせる。うわまぶしっ! 8K超えてるぅ!
「やっぱり、天川さんだったんだね!」
さっと逃げようとしたのを察したのか、手を掴まれる。な、なんだとぅ! 見聞色を会得してるだとぅ!
「私、天川さんとお友達になりたいな? 良いよね! 宜しくね!」
「は、はいぃぃ」
と、溶けるぅぅぅ。
その後、彼女と色々お話して家に帰るのでした。うわぁ、夢かな。良き夢やでぇ。ふわふわするぅ。
こうして、ボクこと天川ツバサは計らずして星野アイとお友達になったのでした。
TSろりきょぬー三つ編みメガネボクっ子の天川ツバサちゃんです。対戦よろしくお願いします。
夜のノリとテンションと思いつきと勢いで書いたので続きは(考えて)ないです。単発かも。
よく出来てしまったので投稿します(賢者タイム)。
もしも、万が一、まあ、ないと思うんですけど反響が大きかったら続きを捻り出すんだ…。