最強転生者の最強じゃない救世主物語 〜救世主は辛いけど頑張ります〜   作:まんさ

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#9 魔術特訓開始だが…

 *

 

 

 ガイウス王と話した翌日、私はサリアに見てもらいながら魔術の練習をしていた。

 

「うーん…」

 

「できそうっすか?」

 

 サリアが不安げな表情で覗き込んでくる。

 

「前みたいに痛みや不快感は無くなったけど、やっぱり”心力”で文字を描くのが難しい。縦線一本描くのがやっとだよ」

 

「そうっすよね…こればっかりは慣れだから時間が解決するとは思うんすけど、そうも言ってられないんすよね?」

 

「うん……4日後までに魔術を発動しないと駄目なの」

 

「うーん…」

 

 サリアが腕を組んで考え始める。その様子に感謝しつつも、私の中には焦りが沸々と湧いていた。

 

 昨日ガイウス王と話した後、私は直ぐにサリアとアメリアさんに会って内容を伝えた。伝えた直後は「何やってんすかっ!」と結構な勢いでサリアに怒られ、アメリアさんも少し険しい表情をされた。そんな中、アメリアさんからピッタリの魔術があると言われ、今はそれを教えて貰っていた訳なのだが……私は未だに魔術言語すら描くことができなかった。

 

 はぁ……サリアとアメリアさんに申し訳ない。私が安易に引き受けた所為で、彼女達が考えてくれていた授業プランを狂わせてしまった。予定に無い事をさせられて嫌なはずなのに、サリアやアメリアさんは私に付き合ってくれている。出来るだけ迷惑は掛けたくない。早く術式を描ける様になって、魔術を発動できるようにしないと。

 

「何かコツってある?」

 

「コツっすか?うーん…」

 

 サリアは目を瞑って頭を巡らせている中、思い当たることがあったのかパッと目を開く。

 

「強いて言うなら……落ち着きっすかね?」

 

「落ち着き…?アメリアさんも言ってたね」

 

「魔術を発動する時って落ち着きがすごい大事なんすよ。発動に慣れた人は感覚的にできますけど、そんな人でも情緒不安定になったら発動できなかったりします」

 

「へぇ〜、そうなんだ…」

 

 今の所サリアの説明を聞いてもよく分からない。個人的にだけど私は落ち着いてる方だと思うし……でも確かに落ち着きがなくなる感覚はあるような。焦ったいような、針に糸が通らないような。……これが落ち着きないってことなの?うぅ…何で発動ができないんだろう。

 

 焦りの表情を浮かべていると、サリアが何か思い出したような表情になる。

 

「どうしたの?」

 

「この前の質問、答えて無かったすね」

 

「え?」

 

「どうやって魔術が発動できるようになったか、みたいな」

 

「あー…そうだったね」

 

 あの時は大蛇が襲来して答えが聞けなかった。なので改めて同じ質問をすると、前と同じように言い辛そうにする。

 

「こ、答えたくない感じ?」

 

 サリアの嫌そうな表情に不安になっていると、

 

「……”抱いて”貰ったらできるようになったっす」

 

 恥ずかしそうに答えてくれた。

 

「え」

 

「抱いてもらうと落ち着くでしょ?だからーー」

 

 私は慌ててサリアの口を抑える。

 

「ちょ、ちょっとサリア!」

 

 修練場は今日貸切じゃないのだ。あまり”そう言った”事は口にしないほうが良い気がする。周りを見るとチラホラと騎士や魔術師がおり、汗を流しながら鍛錬している。

 

「な、何すか急に!口を抑えないでくださいっす!」

 

「だ、だって、サリアが急に”抱かれた”なんて言うから。そう言った話あまり公で言わない方が……」

 

「べ、別に良いでしょ!」

 

 サリアは悪くないと言った様子で睨みつけてくる中、私はショックで落ち着かなくなってしまう。

 

 うぅ……サリアが”経験済み”だったなんて。活発で元気な女の子が実はサッカー部のエースと付き合ってて、休み時間の時に「昨日ヤったんだ!」って大ぴらに言った時くらいの衝撃だ。まぁサリアって可愛いし、肌も綺麗で愛嬌もあるから恋人の1人や2人いたのだろう。

 

 前の世界での記憶を思い出して悲しくなっていると、サリアが疑問の表情を浮かべて見てくる。

 

「アカリデスさんだってご家族の方に抱いて貰った事無いんすか?」

 

「え」

 

「私の周りにもいたっすよ?友達同士で手を繋いだり、抱き合ったり……だから普通だと思ったんすけど」

 

 これって…。

 

「確認なんだけどさ」

 

「何すか改まって?」

 

「抱いてもらうってセっ…赤ちゃんを作る行為の事だよね?」

 

 私は体が熱くなるのを感じながらそう言った。友達とはいえ、サリアの前だと何だか恥ずかしい。

 

「赤ちゃん…?」

 

 サリアは私が何を言ってるのか理解できていない様子だったので、直接的な表現で言うことにする。

 

「せ、性交渉的な?」

 

「…っ!?」

 

 気がついたのか、サリアは耳まで真っ赤になっていく。そして顔が桃のような色合いになり、手を上下に振りながら狼狽する。

 

「そそそ、そう意味じゃ無いっすっ!抱きしめ貰うって意味っす!!」

 

 あ、ハグって事ね。サリアから「アカリデスさんもヤるっす!」て言われなくて良かった。

 

「あはは…勘違いしちゃった」

 

「勘違いって…体を重ねても魔術を発動できるようにならないっすよ」

 

 サリアは私を見て呆れたように溜息吐いた後、自分が術式を描けるようになった経緯を説明してくれた。

 

「お母さんに言われたんす。抱きしめてもらいながら術式を描く練習すると上手くできるようになるって。それで試したら案外上手く行っちゃって……」

 

 え……?それで魔術が発動できるようになるの?理由が見当もつかない。

 

「……本当に?」

 

 私が疑いの眼差しを向けると、サリアはムスッとした顔で答える。

 

「何すか、お母さんに抱かれながら魔術ができるようになったら悪いっすかっ。言っときますけど、まだ10歳の時っすよっ!」

 

 あまり言いたくないエピソードだったのか、サリアは不機嫌な様子になっている。

 

「そ、そんな事思ってないって……と言うか何で抱かれると術式が描けるようになるの?」

 

「論理的な理由は何も無いっすけど、抱きしめてもらうと落ち着くでしょ?包まれてるような、温かいような」

 

 確かにハグされると落ち着くのは分かる。前の世界でも光里とハグしていた時はとても安らかな気持ちになっていた。どこかで聞いた話だけど、ハグすることでストレス軽減やリラックス効果も得られるらしい。

 

 どうで良い事を考えていると、ふとある事を思い出す。

 

 結びの儀式の最中、アメリアさんに抱きしめてもらったら荒ぶっていた心力が和らいだ気がする。その事をサリアに話すと、

 

「本当っすか!?」

 

 サリアが目を丸くして驚く。

 

「試してみる価値あるっすよ!」

 

 サリアはテンションが上がったのか、グッと体を寄せてくる。

 

 た、試すって……誰かに抱きしめ貰う事だよね?

 

「アメリアさんはまだ療養中だよね?流石にここまで来てもらうのは申し訳ないと言うか…」

 

「安心感を覚えるなら誰でも良いんすよ」

 

 サリアはそう言うと、私の手に優しく触れる。

 

「私で試してみるっす」

 

「ぁ……」

 

 なんか……ドキドキする。サリアは友達な筈なのに、そんな真面目に言われると意識しちゃうって言うか……。

 

「さ、サリアと抱き合うってこと?」

 

「はい…私じゃ駄目っすか?」

 

 やっぱり違う!お母さんとのハグってもっとフランクな奴でしょ!?こんなねっとりとした感じじゃないと思うんだけどっ!!

 

「だ、駄目じゃないけど…ちょっと恥ずかしいって言うか」

 

 するとサリアは慌てて手を離す。

 

「そ、そう言われるとこっちも恥ずかしくなるっす!」

 

「ご、ごめん…」

 

 サリは「全く…」と呟きながら腕を組む。

 

「それで、試すっすか?」

 

 ハグで魔術の発動ができるようになるとは思えないし、サリアと体を寄せ合うのは恥ずかしいけど……私には悩んでいる時間がない。何が何でも魔術を発動できるようにならないといけない。

 

「う、うん。お願いします」

 

「うっす…」

 

 

 *

 

 

 流石に人前でやるのは恥ずかしいので、サリアに人気のない場所に連れてきて貰った。

 

「それじゃ、するっすよ?」

 

「う、うん」

 

 1メートル程離れていたサリアが体を寄せて来たので、私は恥ずかしさから緊張してしまう。

 

「あ…」

 

 フワッと体が触れ、サリアは私の腰にそっと手を回す。

 

 すると女の子特有の優しい香りが鼻腔をくすぐり、否応にも意識してしまう。引き締まったスポーツ選手のような体に、所々女の子らしい柔い肌の感触。

 

「ぅ……」

 

 これ…やばいかも。ドキドキで心臓の拍動が早くなっているのが分かる。

 

 緊張していると、サリアがムスッとした表情で見上げてくる。

 

「あの…」

 

「な、なに?」

 

「そんな風にされると、こっちまで意識するっすよ」

 

「ご、ごめん…」

 

「力入りすぎっすよ、もっと軽い気持ちで臨むっす」

 

「うぅ……」

 

 無理です。私の心臓は和太鼓のように五月蝿くなっている。でもこのままだと体を張ってくれたサリアに申し訳ない。時間は限られているんだから、私も意識してる場合じゃない。

 

「ふぅ…」

 

 気持ちなんて二の次だ。サリアもこんな事したくないだろうし、早く術式を描けるようになって、迷惑を掛けないようにしよう。

 

 私は思い切って背中に手を回すと、サリアの体がビクッと動いた。

 

「大丈夫?嫌じゃない?」

 

「だ、大丈夫っすから、続けてください」

 

 あまり落ち着いた感じはしないけど、ものは試しだ。

 

 私は心力場に意識を向けて魔術言語を描こうとするが、段々と落ち着きがなくなってくる。

 

「………」

 

 焦ったく思っちゃ駄目だ。もっと落ち着かないと……って、やっぱりサリアと抱き合ってると思ったら緊張してしまう。

 

「アカリデスさん」

 

「な、なに?」

 

「大事なのは落ち着いた状態を作る事っす」

 

「で、でも、サリアと抱き合ってると思うと、やっぱり意識しちゃうと言うか…」

 

「私の体をぬいぐるみか何かだと思ってください」

 

「え…?」

 

「私は何をされても構いませんので、アカリデスさんが落ち着く事をするっす」

 

 そっか……私はサリアの事を意識しすぎるあまりに落ち着けなくなっている。だったら抱きしめる相手をサリアだと意識せず、私は私の思うようにすることが大事って事だよね。

 

「………」

 

 サリアの体を物のように扱うのは気が引けるけど、私の為にここまでしてくれるのだ。彼女の為にも責任を果たさないと。

 

「嫌だったら言ってね……?」

 

「…別に嫌じゃないっすけど」

 

「ありがとう」

 

 私は思い切ってサリアの胸に自身の胸を密着させる。そして首に手を回し、腰同士をくっつけようとすると、彼女は驚いたのか腰が引けてしまった。

 

「…嫌だったらちゃんと言ってね」

 

 私は心を鬼にしてサリアの腰を持ち、そのまま引き寄せる。

 

「……!」

 

 ごめんねサリア……私が落ち着ける態勢って考えたら、これしか思いつかなかった。

 

「平気…?」

 

「へっ、平気っすから、続けるっす」

 

 サリアは我慢してくれているのか、腰を密着させてくれる。

 

「ぁ……」

 

 サリアの暖かな吐息が私の首元にあたる。かなり緊張しているようで体も固くなっているが、私の心は大分落ち着いていた。

 

 あぁ……私ってかなりの変態だ。サリアの体の感触をもっと味わいたいし、このままキスだってしたい。でもそれは絶対にしてはいけない。サリアの善意を裏切ることになるし、単純にキモがられてしまいそうだから。

 

 私は本来の目的を思い出し、心力場に意識を向けるのだった。

 

 

 *

 

 

 恋人同士の愛を確かめるような抱擁をしてから10分程経った頃、サリアは緊張が解れたのか大分リラックスした様子になっていた。私の背中をギュッと抱きしめてくれており、気持ち良さそうに吐息を立てている。

 

 そして私はというと、心力場で文字を描くのが大分楽になっていた。先程まで縦線一本描くのが大変だったのに、今や10文字以上の魔術言語が描けている。

 

 凄い凄すぎる。サリアのお陰でこんなにできるようになるなんて。リラックス状態で描くのって大事なんだね。体を張ってくれたサリアに感謝しないと。

 

「サリア……」

 

 魔術言語を描くのを一旦中断して声を掛けると、サリアは「ん…」と吐息を吐き、胸元で顔をスリスリしてくる。

 

「うっ…」

 

 か、可愛い…ずっと抱きしめていたい。でもお礼を言わないと。

 

 私はサリアの肩にそっと手を置き、ゆっくりと引き離す。

 

「ぁ……」

 

 しかし名残惜しいのか、サリアは私の腰に手を巻き付かせて離そうとしない。その様子に私は邪な考えが湧いてしまい、まるでクリスマスのカップルがキスをする寸前のような距離感のまま彼女の目を見つめる。

 

「ありがとうサリア……貴女のお陰で術式が描けそう」

 

「よ、良かったっす…」

 

「だからさ、もう大丈夫だよ?」

 

「え…」

 

「サリアに無理はさせられないし、少しだけど感覚も掴めたから後は私だけで…」

 

 そう言うと、サリアは切なそうな表情を向けてくる。

 

「そ、そんな直ぐにできるようにならないっす。だから…」

 

 サリアは恥ずかしいのか、それ以上何も言わなかった。しかし私も女だ、言わなくても分かっている。

 

「もっと続けて良いの…?」

 

「はい…できるようになるまで付き合うっす」

 

「ありがと」

 

 私は再び抱き寄せると、今度はサリアが私の首に手を回してきた。すると彼女の綺麗な顔が目前まで迫り、太陽のような香りが鼻腔を撫でる。

 

「顔、真っ赤っすよ?」

 

「サリアっ、そんな事言わないで…」

 

「ふふっ、可愛いっす」

 

 その後、私は魔術言語を描く練習を続けるのだった。

 

 

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