最強転生者の最強じゃない救世主物語 〜救世主は辛いけど頑張ります〜   作:まんさ

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#11 式典準備

 *

 

 

 とうとう式典の日がやってきた。

 

「………」

 

 自室にある姿見を見ると、いつもの王宮御用達の格好をした自分ではなく、それなりに威厳のある格好をする自分が写っていた。

 

 白のブラウスに、チノパンのようにぴっちりとした黒パンツ。そして茶色のブーツはいつもと同じ。これらに加え、黒のレザーコートを羽織っている。

 

 光を反射する程の綺麗な黒色に加え、胸元にはイグニア王国のシンボルである狼を模ったワッペンと、救世主にのみ付けることを許された燃え上がる炎を模ったワッペンが縫い付けられている。

 

 試しに腰を回して着心地を確かめると、思ったよりも引っかかりを感じず、比較的動きやすい印象を受けた。

 

「うわぁ…」

 

 改めて全身像を見ると、何とも言えない気持ちになる。

 

 勝手にお姫様みたいな衣装を想像していたけど、これじゃ海外映画に出てくるようなヒットマンみたい。黒のコートに金髪ってのがいけないんだなこれ。

 

「綺麗で格好良い……」

 

 しかし私の微妙な気持ちとは裏腹に、クロエはうっとりとした表情で私を見ていた。

 

 

 髪を纏めてアメリアさんから頂いた髪留めをつけた後、私は気合を入れるために頬を叩く。

 

「うん!」

 

 一人で魔術を発動できるようになったし、スピーチの原稿も覚えた。拡声の魔術が組み込まれてある結晶石の使い方も教えてもらったし、あとは式に臨むだけだ。まだ時間はあるけど、早めに行くに越した事はない。

 

 私はクロエと一緒に式典会場に向かおうとすると、部屋の扉がノックされる音が聞こえた。

 

「…どなたですかね?」

 

 疑問の表情を浮かべるクロエと顔を見合わた後、扉を開けると見知った2人が立っていた。

 

「サリアに…アメリアさん!」

 

「アカリデス様のご様子を伺いに来ました」

 

「アメリアさん…お怪我の具合は?」

 

 久しぶりに立って歩くアメリアさんにそう尋ねると、アメリアさんは笑みを浮かべて答えてくれる。

 

「万全ではありませんが、式典に出席できる程度には回復しました」

 

「そうなんですね!こうしてお会いできて嬉しいです!」

 

 あれから毎日お見舞いに行ったけど、アメリアさんは行く度にベッドで横になっていた。だからこうして会えるとすごく嬉しい。

 

「くぅー!本当に格好良いっす!」

 

 横からはしゃいだ声が聞こえたので顔を向けると、サリアはロボットアニメを見る子供のような様子になりながら目を輝かせていた。

 

「まさに”救世主”って感じっす!」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 するとアメリアさんが関心した様子で口を開く。

 

「炎狼を彷彿とさせるお姿ですね。漆黒の毛に頭部の白い毛並みを靡かせて歩く姿はまさに”大地の覇王”。今のアカリデス様からは炎狼のような圧倒的な雰囲気を感じます」

 

「そ、そうですか?」

 

 何を言ってるのか分からないけど、アメリアさんが私を褒めてくれる事だけは分かる。

 

「しかし…」

 

「アメリアさん?」

 

 アメリアさんは近づいてくるや否や、私の前髪を上げて目元を覗いてくる。

 

「少し前から気になっていましたが、ひどい隈ですね」

 

「………」

 

「昨日は何時に就寝されましたか?」

 

 アメリアさんの手から逃れるように顔を背ける。

 

「…深夜の4時頃ですかね」

 

「我らの為にそこまでしていただけるのは喜ばしい事ですが、ご自身の体調を顧みないのは感心しませんね」

 

「………」

 

 アメリアさんは少し怒った様子で見てくる。

 

「貴女は救世主なのです。その様子では民だけでは無く、我らも不安に思ってしまいます」

 

 “頑張っててえらいね”。

 

 そんな言葉を望んでいたけれど、アメリアさんは私ではなく”救世主”を心配している。

 

「……そうですか」

 

 気分が下がった後、自分の顔を確認する為に姿見を見ると、青白い肌で目の下に隈をつける自分の顔が写る。

 

 確かに…こんな顔じゃ人に見せられないか。

 

「クロエ?」

 

「へ!?あ、はい!」

 

 呼ばれると思ってなかったのか、クロエは慌てた様子で側に寄ってくる。

 

「化粧道具ってある?」

 

「え?確か衣装部屋にあったと思いますが…」

 

「そっか、教えてくれてありがとうクロエ」

 

 クロエにお礼を言った後、私は部屋から出ようとすると、

 

「どこに行くんすか…?」

 

 サリアが不安げな表情で声を掛けてくる。

 

「化粧してくるよ、この顔じゃ見せられないしね」

 

「そ、そうっすか…」

 

 サリアはそれ以上何も言わなかった。

 

「あっ!私もお供させていただきます!」

 

「ありがとうクロエ」

 

「いえ!」

 

 私はそのまま部屋から出ようとするが、少し考えた後に振り返る。そして部屋にいる二人に体を向けた後、45度に体を折り曲げた。

 

「…来てくれてありがとうございました」

 

「い、いえ…」

 

 アメリアさんは何故か暗い表情になっている。

 

「時間も迫ってますし、また」

 

 そう言って部屋から出ようとした時、私はあることを思い出してアメリアさんに向き直る。

 

「アメリアさん」

 

 名前を呼ぶと、彼女は表情をパッと明るくさせる。

 

「は、はい!何でしょう?」

 

「式典時にお願いしたいことがありまして」

 

「え?あ、はい…何でしょう?」

 

 私はアメリアさんと軽く打ち合わせした後、足早に部屋から立ち去るのだった。

 

 

 *

 

 

 化粧が終わって衣装部屋から出ると、扉の前にモジモジした様子のサリアが立っていた。

 

「サリア?」

 

「あ、アカリデスさん!」

 

 サリアは私を見るや否や飛びついてくる。

 

「うわっ!ど、どうしたの…?」

 

「だ、大丈夫っすか?体調は平気っすか?」

 

「え…」

 

「緊張してないっすか…?」

 

「あ…」

 

 どうやら気を遣わせてしまったらしい。サリアは不安げな表情で私を見上げている。

 

「…正直、めっちゃ緊張してるよ」

 

「や、やっぱり……。何か私にできることないっすか?」

 

 私は少し考えた後、パッと思いついた事を口にする。

 

「抱きしめて良い?」

 

「え…!?」

 

 私は了承の返事も聞かず、サリアの背中に手を回す。

 

「うっ、あっ……」

 

 サリアは最初こそ体が固くなっていたが、次第に力が抜けていく。

 

「………」

 

 二日ぶりに感じるサリアの体だ。術式を描く練習をしていた時も思ったけど、やっぱりサリアと抱き合うと落ち着く。

 

「サリア…」

 

 私はもっと彼女の体を感じたくて腰を密着させると、サリアも同じように密着させてきた。

 

「アカリデスさん…」

 

 サリアの温かな体が伝わってくる。太陽のような暖かい香りに、引き締まった体から所々感じる柔らかな感触。

 

「あぁ…」

 

 やばい……興奮してきちゃった。

 

「…何をされているのですか?」

 

 すると突然、背後から冷たい声が聞こえてくる。

 

「「え!?」」

 

 直ぐに抱擁を辞めて振り返ると、怪訝な表情を浮かべるクロエが立っていた。

 

「…お二人って、そういうご関係だったのですか?」

 

「ち、違うの!サリアには緊張を解してもらってだけで、特に何か関係がある訳ではなく!」

 

「そ、そうっす!アカリデスさんとは良き友人の間柄で!」

 

 私はサリアの腰に手を回して誤魔化すように笑う。

 

「ふーん…」

 

 クロエは疑いの眼差しをこちらに向けた後、呆れたように溜息を吐く。

 

「だとしても、人前でそのような事はしない方が良いかと」

 

「そ、そうだよね!」

 

 私はサリアの体から離れようとするが、気持ちの良い感触に中々手が離せない。

 

「あは、あはは……」

 

 クロエに怒られてしまった。今後はちゃんと周りの目に気をつけよう…って、何を考えているんだ私は。またサリアと抱き合うみたいじゃないか。

 

「「………」」

 

 私とサリアはお互いに見合った後、そっと離れる。

 

 名残惜しいけどサリアと抱き合う理由はもう無い。クロエに怒られちゃったし、もう頼まない方が良いだろう。…でも抱き合ったお陰で緊張が解れた。ちゃんと感謝を伝えないと。

 

「ありがとうサリア…」

 

 クロエにバレないように耳元で囁くと、サリアの体がピクっと反応するのだった。

 

 

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