最強転生者の最強じゃない救世主物語 〜救世主は辛いけど頑張ります〜 作:まんさ
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テッペンまで登り切っていない太陽が良く見える青空の下、デイス宮殿の中庭には大勢の人が集まっていた。普段は一般人が立ち入ることができない場所なのだが、今日ばかりは違う。
“大蛇災害追悼復興記念式典”
一週間程前に突如起きた大蛇の襲来。レモラの街の周囲に発動されている強固な防護結界を物ともせず、9本もの首と巨大な体で中央通りを壊滅的状況に追い込んだ未曾有の大災害。発見から僅か十分程にも関わらず、レモラの民は呆気なく死んでいった。
大被害を受けてレモラの民達は途方に暮れたと思われたが、人々は希望を捨てずに今日まで復興に勤しんできた。何故そうなったのか。それは大蛇が何者かによって倒された事を知っているからである。
ある者はイグニア最強騎士アメリア・アンテリアヌスが倒したのだと言い、また別の者は紫の力が大蛇を葬ったのだと言う。はたまたガイウス・トレーサ王が真の力を顕現させて屠った…なんて話も出る始末。噂は所詮噂にしかすぎない。だが真実を知りたい人は大勢いる。だからこそ、普段は集まりの悪い民達がこぞってデイス宮殿に来たのだ。
デイス宮殿の中庭が喧騒に包まれる中、宮殿の張り出し部分にガイウス王が登場した事により静寂が訪れる。
「先ずは祈ろう、亡くなった尊い命に……」
ガイウス王は拡声の魔術を発動した後、亡くなった人を慈しむように目を瞑る。そして祈りを捧げた後、彼は眼前に広がるレモラの民を見渡す。
「今日この場所にいる者いない者問わず、過去から現在に至るまでイグニアに身を捧げた者達がいる」
ガイウス王は堂々とした佇まいで喋り始める。
「二百年前。我らの祖先はイグニアという大地に国を誕生させた。彼らは尊い信条で国の土台を創り、またある者は歴史を創った。そしてこの場にいる者は文化を発展させた。しかし、魔物による被害が増加した事により、築き上げた”イグニア”という国は危機に瀕してしまった」
ガイウス王は寂しげな表情をする。
「そして先日の大蛇襲来。大蛇は先人が作り上げた歴史を破壊するに飽き足らず、イグニアに住む尊き命を奪った」
ガイウス王は一呼吸置き、再び演説を始める。
「だが諦めないで欲しい。其方らはイグニアの希望であり”イグニア”の民なのだ。我らレモラ政執会もお力添えするゆえ、どうかその手でイグニアを復興させて欲しい」
いつもの綺麗事ばかりの演説か……民が失望して帰ろうとした時、ガイウス王の奥から見た事の無い女性が歩いてくる。
その女性は庶民では決して手に入らないような立派な上衣を羽織っており、特徴的な金髪を靡かせる美しい女性だった。イグニア王国の者とは思えない顔つきをしているが、この国で最も美しいとされるアメリアにも引けを取らない顔立ちに全員が目を奪われる。
「皆も知っておるだろう。我が国最大の戦力であるイグニア騎士団を持ってしても倒すことができなかった大蛇に、その身ひとつで倒した”救世主”がいることを」
ガイウス王はニヤッと笑った後、出てきた金髪の女性を目立たせるように横にずれる。
「その救世主の名は……アカリデス・アルカディウス・イグナス」
名を呼ばれた救世主は目を見開く。
「レモラ王宮が壊される中、彼女は突如となく現れた」
ガイウス王は間を置いた後にアカリデスを見て頷くと、彼女も答えるように頷く。
「救世主はイグニアに降りかかる災厄という雨を振り払い、パーメステスのように我らを祝福する力を持つ。その力を……其方らに見届けて欲しい」
ガイウス王が仰々しくそう言うと、横にるアカリデスが天に拳を掲げた。すると彼女の腕から”紫”の現主流が発現する。
その様子に人々は目を疑った。
人類最高の大魔術師アーゼスでさえ、濃い赤色の現出流だとされている……にも関わらず、アカリデスと呼ばれた女性はそれすらも凌ぐ紫の現出流を顕現させた。その光景に人々は息を呑み、今から歴史の生き証人になる事を直感する。誰もが思ったそう直後、アカリデスの拳の先に円形の術式が形成されていく。
“迸る炎の魔術”
発動する事が丸わかりな上に、どんなに強力な魔術師でも然程威力が出ず、火起こし以外に使われることがない魔術。そんな魔術を発動してどうする気だ。
しかし人々は度肝を抜かす。集まった者達だけでなく、アカリデスの隣にいたガイウス王に加え、後ろに控えるイグニア騎士団も目を丸くさせて驚いた。
大きな音ともに放たれた炎の範囲は大蛇よりも大きく、迸る姿は竜が天に昇るような勢い。デイス宮殿からは炎の先が見えず、見えるとしたら遠くに住む人達だけだろう。そして人々は死を察する。これだけの巨大な炎、並の魔術では到底防げない。我らは熱風に晒されて死んでしまうだろう。
しかしレモラの民達はアメリアの発動した”盾の魔術”により、なんとか防がれるのだった。しかし発動した盾の魔術にはヒビが入っており、もう少し"迸る炎の魔術"の発動時間が長ければ民達は死んでいた。それ程までに強力な魔術だったのだ。
人々は絶句する。こんな魔術、人間が発動できる筈がない。あまりにも規格外だ。もし発動できる者がいるとすれば、それは大蛇のような化物だけだ。民達は恐怖を感じるも、その目にふと映った。右腕を天に掲げ、金色の神々しい髪を靡かせる美しい女神が。
集まった民達は大歓声を上げる。救世主様と呼ぶ声や女神と呼ぶ声に加え「アカリデスさまぁ!」と言った黄色い声援までも聞こえてくる。その中に「流石アメリアさまだわぁ!」と呼ぶ声もあったが、今は気にしている時ではない。
そんな民達に対し、救世主アカリデスは笑みを向ける。その笑みは聖母と錯覚する程に優しく、民達を暖かく照らす焚火のような笑みだった。
「私はアカリデス。アカリデス・アルカディウス・イグナス。イグニア王国と、貴女達の救世主として馳せ参じました」
拡声の魔術を使用して喋り始めるアカリデスを、民達は食い入るように見つめる。
「レモラの皆さん、どうか諦めないで?どんな災厄が降り掛かっても、イグニアの民には強い炎が宿っています。だから恐れず、希望を持って前進してください。私は”イグナス”として、皆様の進む道を照らす”灯り”になりますから!」
アカリデスはそう言った後、この場に集まった全員を見るように手を振った。すると人々は再び歓声を上げ、心に熱い炎が芽生えるのを感じるのだった。
その後、救世主アカリデスは”王直属特別魔物対策部隊イグナス”の隊長へと任命され、式典は無事終わりを迎えるのだった。
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「いや……アカリデス・アルカディウス・イグナスって誰よっ!!」
私は自室にあるソファーでうつ伏せになり、顔面をクッションに埋めて叫んでいた。
「は、初めて聞いたんだけど…」
少し前はアカリデス。今はアカリデス・アルカディウス・イグナス。この調子だと魔物問題を解決したら有名な画家くらい長い名前になってそうだ。私は得意げな表情で名前を高らかに紹介するガイウスを思い出し、腹にいる虫が泣き叫ぶ。
「あのイケオジ王めっ…」
呼ばれたら突然知らない名前で紹介されたのだ。思わず驚いた顔を晒してしまったけど、噛まずに言えた私を褒めて欲しい。
「てか人多すぎでしょ…」
ドーム公演くらい人がいた気がするけど…。
「…ふふっ」
王様に腹を立てる中、来てくれた人達の顔が思い浮かんできて自然と笑みが溢れる。
「なんだかアイドルになった気分」
手を振ったらあんなに嬉しそうにしてくれるなんて思わなかった。あの人達全員に希望を与えてると思うと全く悪い気がしない。まぁ、何はともあれ式典は無事に終わった。あれだけの歓声なら王様の目的も果たせた事だろう。
「ふわぁ…」
落ち着いたら何だか眠くなってきた。この一週間頑張ったと思うし、少しは寝ても平気だよね?
自然に眠りに落ちるのが一番心地よい。私は目を瞑り、ソファーの感触を体で味わいながら至高の時間に入ろうとすると、
『アカリデス様!』
扉の奥から私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「………」
落ち着いた一時と言うものは突然終わりを迎える事がある。いついかなる時であっても、それは前触れもなく訪れるものだ。私はソファーから体を起こし、吹っ切れた軽い足取りで扉を開け行く。
「どうしたのクロエ…?」
「あ、お疲れでした…?」
「…そんな事無いよ。それで?」
クロエは私の草臥れた顔を見て心配げな表情を浮かべるも、心を鬼にしたのかいつもの真面目な様子で話し掛けてくる。
「あの…ガイウス王がお呼びです」
「………」
眠りはまだまだ先になりそうだ。私は部屋に放っていた救世主用レザーコートを羽織り、クロエの可愛い背中を追うのだった。
*
厳しい顔をする木像のような雰囲気の騎士に案内されて王室に入ると、満足げな表情を浮かべるガイウス・イザリウス・レマノス・トレーサ王が執務席に座って待っていた。
「アカリデス・アルカディウス・イグナス殿よ。式典ご苦労だった」
「い、いえ…」
フルネームとなってしまった長い名前を確認するように言ったガイウス王に対し、私は短く返事をする。
「式典は無事成功だ。其方のお陰で民も活気付いた事だろう」
「…私はガイウス王が決めてくださった段取りに沿ったまで。貴方様がいてこその成功です」
するとガイウス王は「ふっ」と鼻で笑う。
「思っても無いことを口にするのが上手くなったのだな。これで其方も王宮の一員となった訳だ」
「……御用件とは?」
ガイウス王は少しの間を置いた後、真剣な雰囲気で肘をつく。
「其方を呼んだのは”王直属特別魔物対策部隊イグナス”についてだ」
「イグナスについて?」
「晴れて正式な部隊として発足したイグナスだが、其方一人だけだと何かと不便であろう」
「はぁ」
「そこで聞きたいのだが……誰か欲しい人材はいるか?」
「私が欲しい人材?」
何となくだけど、部署とかの人材は自分で選ぶ権利は無いと思ってた。学校の先生とかも急に転勤が決まる、みたいな事があったからイグナスも例に漏れずそうなのかと。
「其方には苦労を強いていることは重々承知だ。だからこそ、仕事の進め方は其方の考えを尊重すべきだと私は考えておる」
前に話してた時に嫌な態度でも出ていたのだろうか?ガイウス王はいつもの疲れた顔をしているが、どことなく顔色を伺うような雰囲気を漂わせる。
まぁどっちでも良いけど…。正直何をされてもこれといって感情が動く事は無くなった。私は救世主であり、どんなことがあってもイグニアを救うことは変わらないのだ。
そんな事を思いつつも、私は改めてイグナスとしての仕事を想像してみる。
正式な部隊となったと言う事は報告書を提出する事も増えるだろう。修練場の壁を壊した時なんかは、文字を書けない私の代わりにサリアが報告書を書いてくれた。今後も紙でのやり取りは増えてくるだろうから文字を覚えるのは必須として、それまでの代わりに事務仕事をしてくれる人が必要だ。
誰か良い知り合いはいないかと思い浮かべるが、圧倒的に知り合いが少ない事を自覚させされる。しかし数少ない知り合いの中でも、ピッタリの人物がいることに気がつく。
「……クロエ・シエス・シヨニケス」
未だに私のお世話をしてくれる使用人の名前を出すと、ガイウス王は感心した様子になる。
「其方の世話をしている使用人だな?執事長から彼女の評判を聞いた事がある」
「評判ですか?」
「うむ。大層真面目に仕事をする女性であると」
「…仰る通りです。部屋に戻れば埃ひとつなく、作る食事は舌が唸る程に美味しい。そして何よりも真面目な女性です。愚直に仕事を熟す彼女の姿はとても格好良く、憧れすら抱きます。正直な所、私には過ぎた女性だと思わされますが……嫌な顔ひとつせずにお世話をしてくれるクロエには感謝が絶えません」
「其方がそこまで言うか…立派な使用人なのだな」
「彼女さえ良ければですが、クロエはイグナスに必要な人材だと考えます」
「ふむ…」
ガイウスは少し考えた後、何故か席を立って王室から出ていった。そして直ぐに戻ってきたと思ったら着席する。そんな王様の行動に疑問を浮かべていると、後ろから扉を開ける音が聞こえてきた。
「し、失礼致します!」
聞こえたのはクロエの声だった。ここ1週間ずっとお世話をしてくれた可愛い女の子。
「え、えとっ!」
隣にやってきたクロエはガイウスと対面して緊張しているのか、声を上擦らせながら棒のように固くなっている。
「どどどどういった御用向きでしょうか!?」
「そ、そんなに緊張する事もなかろうが…まぁ良い。其方に聞いてもらいたいことがあってな」
「はいっ!!如何されましたか!?」
いつもより大きな声で返事をするクロエに対し、ガイウス王は真剣な声色で告げる。
「単刀直入に申すが、クロエ・シエス・シヨニケスを王直属特別魔物対策部隊イグナスに転属させたいと考えている」
「………へ?」
クロエは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした後、先程の緊張した様子と打って変わって疑問の色を顔に浮かべてガイウス王を見る。
「その…お言葉ですが王直属特別魔物対策部隊イグナスはその名の通り魔物の対抗手段を模索する部隊だと伺っております。栄誉あるお誘いをしていただき大変光栄な事ではございますが、私は魔物と対峙する力も知恵も持ち合わせておりません。何故私をイグナスに?」
不安そうに言うクロエに対し、ガイウス王は真剣な表情で答える。
「執事長から聞いたのだが、其方の仕事ぶりは目を見張るものがあると聞く。愚直に取り組む姿勢を評価し、その才能を見出して出世させる…と言えば分かるか?」
「で、でしたら何故私が?真面目な方は他にもいらっしゃいます」
「名前に上がるのは其方くらいだ」
「え…?」
「それに…」
ガイウス王は私を見て悪戯っぽく笑う。
「他でもないアカリデス殿が其方を欲したのだ」
「アカリデス様が……?」
「真面目に仕事を取り組む姿は憧れつつも、世話をしてくれるクロエに感謝が絶えないと口にしていたな」
「あ、アカリデス様がそのような事を…?」
するとクロエは驚いたように見つめてきたので、私は恥ずかしくなり目を逸らす。
「イグナスになるのが嫌なら使用人を続けても構わないのだが…あまりおすすめはしない」
「え…?」
「もしイグナスに転属になった暁には、使用人が月毎に貰っている給料の2倍近く渡すつもりだ」
「2倍も!?」
クロエは先程よりも大きな声を出して驚いた。……意外と現金なんだね。
「どうするクロエ・シエス・シヨニケス。イグナスに入るか?」
彼女は迷っているのか俯いて悩み始めるも、直ぐに顔を上げて私を見る。
「…………」
クロエが見つめてきたので自身の思いを伝えるように私は見つめ返す。
クロエ、私の傍にいて欲しい。何故なら貴女のお陰で今日までやってこれたから。貴女の愛らしい姿と美味しい料理が無ければ嫌になって蒸発していたかもしれない。正直未来永劫一緒に暮らしたいと思うけど、それは我儘と言うもの。だからせめて、私が救世主としての役目を果たせるまでは傍にいて欲しい。
そんな思いを込めて見つめていると、クロエの目に涙が滲んでくるのが分かった。そしてどこか嬉しそうな表情を浮かべた後、彼女は王様に向き直る。
「このクロエ・シエス・シヨニケス。イグナスとしてのお役目を精一杯務めさせて頂きます!」
クロエは気持ちの良い返事をした後、嬉しそうな笑みを浮かべて私を見るのだった。