最強転生者の最強じゃない救世主物語 〜救世主は辛いけど頑張ります〜 作:まんさ
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救世主と宣言された後、"結びの儀式"があるからと王様に着替えるように言われた。聞き馴染みのない単語に疑問を思いつつも、私は言われるがままに更衣室へと案内されるのだが……その案内をしてくれたが何とアメリアさんだ。王様曰く「気が利くから」という理由なのだが、何せ超美人のアメリアさん。その美しさに一目惚れをした私としては非常に嬉しい。
ゆらゆらと揺れる綺麗な髪と形の良いお尻を眺めながら更衣室に案内された私は、アメリアさんの用意してくれた王宮御用達の仕事着に着替えていた。
バギーパンツのようなゆとりのある黒のパンツに茶色のブーツ。アイボリーの長袖ブラウスをパンツに入れ込む自分の姿が鏡に写っている。そして胸の辺りまで伸びる金髪。
案の定、首元のゴワゴワを鬱陶しく感じていると、アメリアさんが声を掛けてきた。
「アカリデス様、こちらをどうぞ」
“アカリデス”と言う名前に違和感を覚えながらも振り返ると、手にバナナクリップのような髪留めを持つアメリアさんがいた。
「髪留めです。お使い下さい」
「えーと…良いんですか?」
「私には予備がありますし、貴女に必要だと思いまして」
「あ、ありがとうございます…」
髪留めを受け取り感謝を伝えると、アメリアさんは優しい笑みを浮かべてくれた。
…えへへ、美人に髪留めを貰っちゃった。内心喜びながら髪を後ろに纏め、髪留めで挟むとゴワゴワが殆ど無くなった。
「大分スッキリしました。ありがとうございます」
「そのお姿もお綺麗ですね」
「!?」
き、急になに!?アメリアさんって平気でそう事言う人だったの!?もっとクールな人だと思ってた。いや、これはこれでクールか?
突然褒められて胸が高鳴ってしまうが、悟れないように心を落ち着かせる。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、それでは向かいましょう」
アメリアさんは凛とした動作で振り返ると、綺麗で艶のある黒髪が翻った。
あ、きびきびしてて格好良い…ビジネスウーマンって感じだ。綺麗と言われたこともあいまり、私は我慢できずに口元がにやけてしまうのだった。
*
更衣室を後にした私はアメリアさんに連れられて大きな扉の前に来ていた。その扉は頑丈な作りをしており、私なんぞでは到底開ける事ができなさそうだ。
「あ、あの…ここは?」
「結晶石の間です。アカリデス様にはここで”結びの儀式”を行っていただきます」
「結びの儀式?」
「内に秘める”心力(しんりき)”との繋がりを自覚させる為の儀式ですね」
「はぁ」
心力?繋がり?何が何だか分からないよ。
「それでは入りましょう」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「え?」
呼び止められると思ってなかったのか、アメリアさんは少し驚いた表情で私を見た。
「その…訳が分からない事を何も知らされずにやるのは少し怖いと言いますか」
不安な気持ちを抱きながらそう言うと、アメリアさんが頭を下げる。
「…失礼いたしました。貴女に恐怖を抱かせるのは我らの本意ではありませんので、軽く説明致しますね」
「い、いえ…。ありがとうございます」
何だか申し訳なくなってきた。
アメリアさんはクールで真面目な表情で話し始める。
「部屋にある”心力結晶石”に触れることで、アカリデス様は心力との繋がりを自覚するようになります」
「はぁ」
「心力とは物質に宿る力の事で、私含め全ての人間に宿っております。繋がりを自覚すれば、心力を用いた”魔術”が行使できるようになりますね」
「魔術…?」
何ともファンタジーらしい単語だけど、一体どんな事ができるようになるのだろうか。
「詳しくは後程説明致しますが…”魔術”とは内に宿る心力を用いて自身の身体能力を高めたり、炎や水といった自然現象を人為的に起こす術になります」
おぉ…何だかゲームみたいだ。本当にできるようになるの?
「例えば…」
アメリアさんの両腕の周りが突然”赤く”光り始め、何本もの光の筋が腕の周りを漂う。
「え…!?」
すると光の筋が直ぐに消えた。
「消えた…!」
目を丸くしてアメリアさんを見ると、私の反応が新鮮だったか少し微笑んでいる。その後アメリアさんは背を向け、奥にある扉の取手を持つ。どうやら扉を開けようとしているみたいだ。
流石にアメリアさんでもこんな大きな扉を開けるのは……。そう疑った瞬間、アメリアさんは軽々と扉を開けた。
「え…!?」
アメリアさんは途中まで扉を開けると、手を離して振り返る。
「このように、普段の身体能力で出来ないことが魔術によって可能になります」
私はあまりの非現実的な出来事に立ち尽くしてしまう。
「救世主として魔術を行使できるようにする為、アカリデス様には”結びの儀式”を行っていただきます。ご理解いただけましたか?」
「は、はい」
あまり分かってないけど、衝撃で思わず返事をしてしまう。
「ご理解いただけたようで何よりです。それでは、ガイウス王や政執会の方々をお待たせする訳にはまいりませんので、どうぞお入りください」
「あ、はい…」
私は再び生返事をした後、部屋の中に入るのだった。
*
部屋の中に入ると、一際目立つ物体が部屋の中央に鎮座していた。お土産屋さんに売ってるような水晶にも似た物体は私よりも一回り大きく、見え方によって様々な色の光りを反射している。
その”心力結晶石”の側には先程のイケオジサラリーマン風のガイウス王が堂々と座っており、少し離れた場所には部下と思われる人達が並んでいた。顔ぶれを見るに玉座の間にいた人達だ。並んでいる人達は静かに待っており、どことなく厳かな雰囲気を感じる。
大人数を相手に面接を受けるような気分になってきた。緊張感を覚えていると、アメリアさんが小声で話しかけてくる。
「間も無く神官エウセビオス殿からお呼びがかかりますので、暫しあちらでお待ちください」
アメリアさんは結晶石の前を指差す。
「儀式が始まったらエウセビオス殿の言葉に従うだけで構いません。簡単な内容で直ぐに終わりますので、気軽なお気持ちでお臨みください」
病院の受付のような雰囲気で話すアメリアさんは軽く頭を下げ、そのまま歩いて行ってしまった。
「………」
気軽にって…そんな事を言われても困る。何せ全てが初めてなのだ。魔術とか儀式とか…。しかし魔術って聞くとワクワクする。ファンタジー的なアニメや漫画も読んで、こんな事ができたら楽しいだろうなと思った事がある。
私は魔術が使えるようになるかもしれない事実に心臓をドキドキさせて結晶石の前に行くと、ほぼ同時に神官風の男が横から出てきた。そして出てくるや否や、少し奥にいるガイウス王に目配せする。
「それでは…結びの儀式を始めたいと思います。宜しいですか?」
「ああ、初めてくれ」
神官さんは確認をとると結晶石の横に立ち、真剣な表情で私を見る。
「アカリデス殿、こちらへどうぞ」
「え?あ、はい」
言われるがままに結晶石の前に立つと、神官さんは自身の胸に拳を当て、もう片方の手でそれを包み、目を瞑って語り始めた。
「心力はパーメステスの祝福でもあり呪いでもある。純粋な力の源よ、この者が歩む道と同道し、共にあらんことを」
お決まりの言葉だろうか?いかにもな雰囲気で語っている。私は姿勢を正して待っていると、神官さんが目を開いた。
「アカリデス殿、一歩前に」
指示に従い一歩前に出ると、大きな結晶石が目の前に立ちはだかる。
「それでは結晶石に触れて下さい」
触れるだけで良いのだろうか?初めての経験故に、こんな簡単な事にも不安に思ってしまう。しかし思ってもしょうがない。私は言われた通りに結晶石に触れた。
「…え?」
結晶石に触れた瞬間、胸の奥に感じたことのない感覚が芽生える。触覚や聴覚といった五感とは違う……強いて言うなら尿意や空腹感だ。最初からあったような何とも言えない不思議な感覚。
その感覚は次第に脳天から足先まで覚え、体の中を循環しているような感覚になった。
「凄い…」
思わず呟いていると、その感覚は次第に別の元へと変化していった。
不安や恐怖、底のない穴に吸い込まれるような不快な感覚。動悸が激しくなるのを感じる。
「うっ…」
な、何これ、息が苦しい。怖い。嫌だ。
「うぐッ…!?」
身体中に激痛が走る。皮膚がヒビ割れるようだ。経験した事のない痛みに我慢できず、私は膝をついてしまう。
身体中が痛いっ…何かが這い回っているよう。しかし痛みは治るどころか一層増し、私は叫び声を上げてしまうのだった。
*
痛みで悶える中、誰かの声が聞こえた。
「お姉ちゃん!」
これは…光里の声?
「今度一緒に出かけようよ!新しい服が欲しいんだ!」
「服?この前お母さんに買ってもらったでしょ?」
え…私の声?
「お姉ちゃんに選んで欲しいの!駄目…?」
「仕方ないなぁ、お母さんには内緒だよ?」
「やったぁ!お姉ちゃん大好き!」
「ふふっ、光里は可愛いなぁ…。抱きしめてあげるから、こっちにおいで?」
「…えへへ」
これは…記憶だろうか?小学生高学年の時、母に内緒で服を買いに行った事を覚えている。でも、何で今になってこの記憶を…。
不思議と痛みは無くなっていた。時間が止まっているようだ。
「お姉ちゃん、今度県大会に出るんだ」
「本当に!?光里ってば凄いね!」
「応援に来て欲しいなって…」
「勿論行くよ!」
「本当に?ありがとうお姉ちゃん!」
「それにしても…光里ってば凄いなぁ。私より後に部活を始めたのに、もう追い越されちゃったよ」
「お姉ちゃんは真面目だから、直ぐに追いつかれちゃうよ」
「そうかな?」
「うん。お姉ちゃんと一緒に大会に出たいな」
「うふふっ。でも今回は出れないから、お弁当作って応援に行くよ!」
「えへへ…ありがとうお姉ちゃん!」
「あっ、そんな強く抱きしめないでよ光里…でも嬉しい」
これは中学生の時の記憶。私の作ったお弁当で…凄い喜んでくれてたなぁ。
「お姉ちゃん、今度地方大会に出るんだ」
「そうなんだ」
「いつもみたいにお弁当作ってくれる?」
「うん…」
「大丈夫…?疲れてるみたいだけど」
「…最近アルバイト始めたんだ」
「え…お金はお母さんに貰ってるでしょ?何で…」
「結果が出ないなら、お金は出さないって」
「そ、そうなんだ…」
「うん。でも光里の為にお弁当作るよ」
「ありがとう…」
「うん」
「あ、あの」
「どうしたの?」
「その…ハグして良い?」
「…うん」
これは……高校の時の。
「お姉ちゃん、あの…」
「支度してるから後にして」
「そ、その、全国大会に…」
「へー、凄いね」
「でしょ!だからお弁当を…!」
「バイトで忙しいから無理。行ってきまーす」」
…嫌な記憶だから思い出したくないけど、忘れちゃいけない。
「ギャハハ!本当にムカつく!あいつの所為でバイト始める羽目になってんのに、弁当作れだって!キモすぎんだけど!」
違う、結果が出せない私の所為。光里の所為じゃない。
「階段から突き落としったマジ!?超ウケるんですけど!今度私も混ぜてよ!」
ただの悪ふざけだった…それがあんな事になるなんて思わなかった。その所為で光里は大怪我して、それから…。
「明里お姉ちゃん…、大好きだよ」
*
苦しい。痛い。身体中に猛スピードで"何か"が這い回っている。肉体が分裂してしまいそう。まるで私を苦しめているみたいだ。
このまま死ぬの…?
いや……私は死ねない。折角自分を変える機会に恵まれたんだ。妹を不幸にして気持ち良くなっていた、どうしようもない自分を変える機会に。この国の救世主となってまだ見ぬ誰かを救う。それが私のやる事。だから生きなければならない。でもどうやって?何か、何か方法は無いの?
何とか目を見開き周囲を見渡すと、みんな私を見て混乱しており、何人かが王様に向かって声を荒げていた。
そんな中、一人の女性が目に映った。
女騎士のアメリアさん。ローブを渡してくれた優しい女性。彼女もまた他の人と同じように困惑の表情を浮かべている。
「あ、あめ、アメリア、さん」
彼女なら助けてくれそう。何となくそう思った。私は痛みを我慢しながら名前を呼ぶと、アメリアさんは気がついたのか目を丸くさせる。そして私の元に駆け寄って来てくれた。
「あ、アカリデス様!」
アメリアさんはかなり困惑した様子で私を見ている。
「た、たすけ…て」
身体中が痛すぎてこれしか言う事ができない。そんな私に一層困惑した様子になるアメリアさんだが、何を思ったのか突然私を抱きしめた。
「アカリデス様……!」
あ、嬉しい。こんな超美人が必死な表情で抱きしめてくれるなんて……。
腕やふかふかな胸の感触が伝わってくるのと同時に、私はどことなく安心感を覚える。光里と抱き合ってるような…そんな感覚だ。
そう思った時、体に這い回る不快感が少し穏やかになった。私は乗じて不快感を抑えようとするが、再び荒々しくなる。
駄目だ、苦しい。
「あっ…!」
そんな私を見て、アメリアさんは何かに気がついたような表情になる。
「し、心力はっ、心力は共にあるものです!抑え付けず、受け入れて下さいっ!」
共にある…?訳が分からないけど、美人がこんな必死な表情を浮かべて私を見ているのだ。聞かない訳にはいかない。
私は体から力を抜いて痛みを受け入れてみると、先程まで感じていた荒々しい感覚が嘘のように治まっていった。そして最初に感じた時の不思議な感覚に戻っていく。体に備わる五感とは別の感覚。第六感というべきか……。
「あ…」
気が付くとアメリアさんの安心したような表情が見えた。体が落ち着いたからか、さっきよりもハッキリと彼女の体温が伝わってくる。アメリアさんの腕に一層安心感を覚えていると、彼女はどう言うわけか背中を摩ってくれた。
えぇ!?そんな事までしてくれるなんて、私は何て幸せ者なんだろう。アメリアさんの大きな手、気持ち良いよ……。
太陽の光のような、極寒の中で焚き火の炎に当てられているような心地よい温もりを感じる。すると眠りに落ちる前のような感覚を覚え、私は意識を失った。