前略、神を殺した世界最強の魔術師が営む冒険者パーティはいかがですか   作:ネコわさびRPG

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01【追放された世界最強】

 

 

 その日、一つの『招待状』が世界中にばら撒かれた。

 

 

 全ての大陸、全ての国、全ての街、全ての村、全ての地上に。

 全人類に向けた『招待状』が。

 羊皮紙という形で、全人類の頭上から降り注いだ。

 

 

 誰もがその『招待状』を手に取って、誰もがその『招待状』に目を通した。

 反応は千差万別だった。

 

 

 恐怖する者。

 絶望する者。

 歓喜する者。

 憤慨する者。

 

 

 悲壮に暮れる者。

 不安に駆られる者。

 溢れる興奮に身を任せる者。

 熱い闘争心を燃やす者。

 

 

 その『招待状』を握り潰す者。

 その『招待状』を胸に抱く者。

 その『招待状』を、恐ろしさのあまり破り捨ててしまう者。

 その『招待状』にさしたる興味も示さず、すぐに放り投げてしまう者。

 

 

 人々がそれぞれの反応を示した『招待状』。

 しかしその羊皮紙に書かれていたのは、全て同じ内容だったという。

 

 

 その『招待状』は、こんな書き出しで始まっていた。

 

 

 

 

「前略、神を殺した世界最強の魔術師が営む冒険者パーティはいかがですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ! クソォ!! つ、追放だ!! さっさと俺のパーティから出ていけ!! 誰か!! 誰かコイツを殺せえええええええええええええ!!」

 

 

 ───俺の名前はアーサー。

 ───俺自身、その名前をとても気に入ってる。

 

 

「誰か助けて!! ば、化物っ! 化物よぉお!! 来ないで!! 殺さないでえ!!」

 

 

 ───どこで産まれてどこで育ったのかは塵ほども覚えちゃいねえが、そこそこ幸せに暮らしてた事だけは記憶してる。

 

 

「あなたの魔術は邪悪で強大だ、村や町がいくつも滅ぼされた。その狂暴性はもはや悪魔と同義。汚らわしい、今すぐ浄化しなければ……!!」

 

 

 ───ある日、魔術の才能を見出されて、そのまま魔術の修行を積む羽目になって。

 

 

「暴れ回るのもここまでだ!! 貴様のもたらす破壊が無辜の民を苦しめている!! 怪物め!! 我ら白魔導士が、今ここで滅してくれる!!」

 

 

 ───必死こいて修行して、気付きゃあ本当に魔術師になってて。

 

 

「アナタはここで追放です! この魔獣がひしめくダンジョンで野垂れ死に、無様に食い尽くされてしまいなさい!! アタクシの仲間を殺した罰ですわ!!」

 

 

 ───せっかくだから魔術を極めて、強い奴らを薙ぎ倒して。

 

 

「お前のせいでいくつ国が滅ぼされ、海に沈みっ、火に飲み込まれたと思ってる!! お前はなんとしてでもここで殺す!! 民の平和を取り戻すために!!」

 

 

 ───神様も殺して、『世界最強』の座も手に入れて。

 

 

「見よ!! あれがこの世界に災いをもたらす怪物だ!! 皆の大事なものを奪った化物だ!!」

 

 

 ───念願だった冒険者になったはずなのだが。

 

 

「奴を殺し、勝ち取るのだ!! 再び!! 平和な世界を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───こうして見る限り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今すぐ殺せ!!」「私が奴を八つ裂きにして御覧にいれましょう」「パパとママを返してよ!!」「あんな奴がいるから全部上手くいかないんだ!」「俺の町もアイツに壊された! 皆死んじまった!」「奴のせいで村が……娘も孫も、皆、火の海に……」「あいつの魔術で津波が起きて! 街が消えたんだ!!」「貴様の力は、無垢なる民の邪魔になる。残念だが、ご逝去いただこう」「私の恋人もあの化物に奪われたんです!」「殺せ!!」「安心してくれ皆! 我々が奴を打ち取ってみせる!」「だからさっさと殺しておけばよかったんだ!!」「私の娘も目の前で……あの男に!」「絶対に許さない……!」「我が呪術で腐り落ちるがいい!」「殺される! 助けて! 助けてえ!!」「殺せ!!」「俺様の使役する魔獣の餌にしてやろう」「あの者の壊したダンジョンから魔獣がなだれ込み、我が都市が跡形もなく消えたのだ!!」「親父の仇ィ!!」「全部あいつのせいで」「殺せ!!」「あんなのを追放した奴らも晒し首にしろ! 責任とれよ!」「どいつもこいつも弱過ぎる。こんな男、僕だけで殺せるさ」「私の召喚獣が生きたまま貪り食ってさしあげますわ!」「殺せ!!」「死ぬがいい! 正義の名のもとに!」「殺せ!!」「これ以上罪を重ねる前に、我々が彼を止めなければ!」「殺せ!!」「殺せ!!」「お前のせいで俺の仲間もパーティもメチャクチャだ!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「奴を殺して世界を救うんだ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」「殺せ!!」

 

 

 

「奴を殺せ!!!!!!」

 

 

 

 ───この世界は、俺が期待したものとは、どうやら少し違ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失敗だ」

 

 荒れ果てた大地に、声が響く。

 破壊の限りを尽くされ、更地同然となってしまった元大都市。そんな跡地の中央に、巨大な階段と玉座があった。

 

 瓦礫の玉座だ。

 粉々に砕いた建築物や石畳の残骸を、五十個でも百個でも積み重ねた瓦礫の山。

 声の主は、その頂点に腰を下ろしていた。

 

「……下ンねえ」

 

 後ろに(なび)く刺々しい頭髪。見る者全てを燃やし尽くすような赤い瞳。何より特徴的なのは、その凶悪なまでに禍々しい存在感。

 そんな『少年』が一人、玉座の上で、己の(てのひら)をため息まじりに眺めていた。

 

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 自分の血ではない。

 顔も名前も知らない誰かの血だ。

 

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ……失敗した」

 

 というわけで、どうやら失敗してしまったらしい。

 アーサーはぼんやりとそう察して、適当に辺りを見渡した。

 もはや失敗なんていつもの事と言えばいつもの事だったが、しかし今回に関しては、いつもより派手に失敗したようだった。

 

 

 

 なぜなら。

 彼の視界に映るのは、無数の『死体』だったからだ。

 

 

 

 潰れた頭部が。

 こじ開けられた胴体が。

 雑巾みたいに搾られた腹が。

 皮膚も肉も爆ぜた手足が。

 氷漬けにされた肉体が。原型も留めないほどバラバラの肉片が。焼かれて黒い炭になった肉の山が。元の形が分からないほど小さく圧縮された肉塊が。グチャグチャに混ざり合った死肉が。水に溺れたようにブヨブヨにふやけた全裸体が。一人で勝手に腐った血肉が。極度に肥大化した骨が肉を突き破って外に飛び出たオブジェが。地面から生えた鋭い木の根に股から脳天を貫かれた老若男女が。顔だけが溶解して地面に張り付く奇妙な死体が。魚のように綺麗に捌かれて地面に並ぶ肉の群れが。腹から何らかの生物が無理やり這い出てきたように真っ二つに裂けた母体が。切断された上半身だけの列が。何十人分もの体を強引に押し固めて作られた肉団子が。開いて丸められた身体が。明らかに不自然に老化した体が。それを遥かに超える経年劣化でミイラ化した死体が。平らになった体が。皮だけになった体が。肉だけになった体が。石化してバラバラになった誰かが。中身を筒状にくり抜かれた脂肪と皮膚だけの何かが。綺麗に引き裂かれて断面が輝いて見える遺骸が。なぜか爆発的に体積が膨らんで岩石のように歪な形になって息の根を止めている死骸が。

 

 何十、何百……千にも及ぶ数の死体が、大地を埋め尽くさんばかりに転がっていた。

 

 全て、アーサーが作った死体だ。

 彼が殺した人達だ。

 

「うわああああああああああああああああああああ!! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

「あ?」

 

 その時、壮絶な絶叫が響いた。

 瓦礫の山に腰を下ろすアーサーの目の前に、尻餅をついて喚き散らす男がいた。

 ……確か、『勇者』と名乗る雑魚共の一人だったはずだ。

 それ以外にもなんだか崇高で長ったらしい肩書をペラペラ名乗っていたような気もするが、そんなもの、アーサーはとっくに忘れている。

 

「はンっ」

 

 アーサーは、その男を見て。

 気紛れでなんとなく生かしておいた、有象無象の男の絶叫を聞いて。

 

「最高だ」

 

 思わず笑っていた。

 絶叫……いいじゃないか。自分の心を偽らず、素直に恐怖を吐き出そうとするその姿勢は、何にも増して美しいとアーサーは思う。

 やっぱり我慢というのはダメだ。体に悪いし、心の健康にも悪い。

 何より我慢は、つまらない。

 

「おーおーおーおー、どぉーしたお前、盛り上がってンじゃねえか。いいぜ。やっぱ盛り上がンなら一人よりも、二人の方が面白ぇ」

 

 アーサーの赤い瞳が、凶悪に光る。

 その両眼に見据えられ、『勇者』の男は「ひっ!」と短く悲鳴を上げる。

 

「で、何座ってンだ。立てコラ。地べたから空ぁ見上げンのもいいが、高いとっから全部見下ろした方が何倍も楽しいぞ」

 

「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!? な、なんっ、どうしてえええええええええええええええええええ!?」

 

「どうして? ……何が」

 

「どうし……なん、でっ、生きてぇ……!?」

 

「俺が生きてンのがそンなに不思議か? たかだか『勇者』だの『賢者』だの『剣聖』だの『大祭司』だの『聖者』だの『戦闘王』だの『錬金術師』だの『魔導士』だの『呪術師』だの『半神』だの『英雄』だのが百人ぐらい喧嘩売って来ただけだろ」

 

 楽勝だ、と簡単に吐き捨てるアーサーに、男はなおも恐怖の声を上げた。

 

「こ、ここ……ころっ、殺してええええぇぇ!?」

 

「なンで全部殺したのかって? ……あー……それは言い訳できねえ。いや、マジで失敗したと思ってる。こンな簡単に死ぬとは思ってなくてよ。悪いな」

 

 不気味なほど素直な謝罪の言葉があった。

 しかし、その直後。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 その。

 あまりに呆気のない、切り捨てるような発言に。

 

「は……はぁあ!?」

 

『勇者』の男は思わず呻いていた。

 しかし、そんな呻きもアーサーの耳には入らない。

 少年は一人で勝手に頷きながら、

 

「反省ってのぁ大事だな。うン、俺も反省した。真面目に殺し合うのも楽しいかと思ったが、やっぱダメだわ。弱い者いじめみてぇで最悪な気分になる。よし、これからは二度と人は殺さねえ。『約束』だ。神に誓ってもいいぜ? 神も殺したが」

 

 大事なおもちゃを壊してしまってごめんなさい。

 もはや、その程度の感覚で。

 

「つーか、まさかだったわ。俺の知ンねえ所で、まさか俺が『世界を破滅に導く大厄災』って事ンなってるとはなあ。……二つ名にしちゃ長ぇしダセぇ。はあ、失敗だ」

 

 一体いつからそんなダサい異名を授かっていたのだろう?

 とびっきり熱い朝風呂に入りたくて、無理やり火山を噴火させて街一つを蒸発させてしまったのがマズかったのだろうか。

 もしくはあれか? 地盤ごと叩き割って巨大地震を止めた時? 森から攻めて来た五千体の魔獣を蹴散らした時? 海の幸を食べたくて海を丸ごと干上がらせた時?

 

 あるいは。

 それらの過程で、周辺の国々を跡形もなく消し飛ばした時?

 

「ま、どうでもいい」

 

 何であろうともう過ぎた事だ。今さら過去は変えられない。

 それに、どうであったところで、結局のところ、自分には何も不都合はない。

 自分に不都合がないのなら、何もかも、どうでもいい。

 

「で」

 

「ひっ!?」

 

「強くなり過ぎた俺を、危険だっつって殺しに来たわけだ。世界中から『最強』を集めて、軍隊作って、寄ってたかって俺一人を殺しに来たわけだ」

 

 目の前で尻餅をついたまま、呻くばかりの自称『勇者』を見て。

 アーサーは、

 

「いいぜ。最高だ」

 

 自分の心を、馬鹿正直に言葉にする。

 

「世辞じゃねえ。マジで感激した。確実な方法、確実な力で、確実に相手を討ち取ろうっつぅその気概。いいねぇ、盛り上げてくれンじゃねえの」

 

 そう言いながらアーサーは、瓦礫の玉座から立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。

 あちこちに転がる死体の上を、堂々と歩く。

 血肉を避けるような真似はしない。しっかりと、敬意をこめて踏みつける。

 避けて歩くだなんて、そんな汚いゴミを扱うような振る舞いは、殺した相手に失礼というものだろう。

 

「ひひっ、俺がもうちっと弱けりゃ死ンでたなー。あっぶねー! ワクワクすンなぁオイ!」

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!? く、来るなっ、来るなああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 全てが決壊していた。

 泣き喚き、丸めた紙屑みたいに顔を歪め、『勇者』の男は装備していた鎧も、持っていた剣も全て投げ捨て、ついには額を地面に擦り付け始めた。

 

「ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごべんなざいごべんなざいいいいいいいいいいい!! ゆ、許しっ! 許してっ、くだざあ……っ!!」

 

「あ? ……ンだよ、褒めてンだろ」

 

「なんでも! 何でもしまず!! なんでも! あっ、あげます! お金! と、土地もっ、あげるから!! だから許してください! お願いします! お願いします! お願いします!!」

 

 目も当てられないほどに無様。

 誉ある『勇者』として、祭り上げられていたはずの男がだ。敵に立ち向かう事も、奮起する事もせず、突如叩き付けられた圧倒的な力の差を前にして、心が砕け、許しを乞うだなんて。

 自分の心を素直に曝け出す、その潔さは美しくはある。

 しかし、ここまで酷い有様では、むしろ『憐れ』という感情が勝ってしまう。

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 アーサーは、少し考えるみたいに首をひねり、

 

「……お前、今なンでもするっつった?」

 

「はいっ、はい!! 何でもします!!」

 

「へえー。じゃあなに。俺のお願い聞いてくれたりするわけ?」

 

「します! じまず!! しますしますしますします!!」

 

「お、太っ腹ぁ。なら丁度いい、一つお前に頼みがあンだわ。それ聞いてくれたら許してやる」

 

 アーサーがそう言った途端、『勇者』の男は心から安心したような顔をした。

 涙を拭いながら「ありがとう、ありがとう」と何度も感謝を口にする。

 ……で、その直後だった。

 

 

 

 

「じゃあさっそくだ。俺ともう一戦付き合え」

 

 

 

 

 アーサーの言葉を。

 聞いた瞬間。

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 

 男の顔から。

 さあ、と色が消える。

 

「さっきの戦いがビッッッミョーに消化不良でよぉ。今すっげー気分悪ぃンだわ」

 

「……あ……」

 

「収まり悪ぃからスッキリさせてえ。お前『勇者』っつったな? ンじゃ後一時間ぐらいは楽しめるよな!」

 

「あ……あぁ……」

 

「あ! ……っちゃー、そーいやさっき『約束』したばっかじゃねえか。どぉーすっかなぁ。……まあいいか、お前殺しても破った事にゃあなンねえだろ」

 

「ああああああああああ……っ!」

 

「お前が言ったンだもンな。()()()()()()()()()()()()

 

「うわぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 涙どころか、顔という顔から、体の穴という穴から色んな物を溢れ出しながら、『男』は絶望の声を炸裂させていた。

 目の焦点が定まらない。逃げる力も出せない。

 呆気なく理性を放棄して、『勇者』であるはずの男は心の底から後悔した。その後悔のままに、叫ぶ。嘆く。喚く。狂う。

 

 しかし、アーサーはそんな事情をくみ取らない。

 

「立て」

 

 ただ自分が楽しむためだけに。

 彼は、大きく笑いながら一歩を踏み出した。

 

 

 

「さあ、戦争開始(ゲームスタート)だ」

 

 

 

 勘違いでつけ上がっただけの『力持つ者』達に。

 真の世界最強が、無邪気な鉄槌を振りかざす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

伝達

 

 

『救世主連合軍』の全滅を確認。

 

 討伐対象:アーサー、未だ生存。

 

 もって本作戦を失敗とする。

 

 勇者、賢者、剣聖、他『救世主』に該当する約三十種の役職(ジョブ)が事実上の完全敗北。

 これにより、各国の軍事力に著しい損失が発生。それに伴う国民の混乱は予想がつかない。

 各国『救世主協会』は、アーサー討伐に向けた国民の扇動、プロパガンダ等の一切を停止。および『救世主連合軍』の全滅を徹底的に秘匿せよ。

 

 なお、作戦失敗の責任として、本作戦の指揮官三名を、『世界救世主連合』から永久除名・追放処分とする。

 

 

 

 

 アーサー討伐に向けた、新たな戦力の補給を急げ。

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

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