前略、神を殺した世界最強の魔術師が営む冒険者パーティはいかがですか   作:ネコわさびRPG

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15【戦争開始】

 

 

 

 私は、最強を求めています。

 退屈を忘れられるほどの、世界最強を求めています。

 

 

 私は、冒険を求めています。

 退屈を忘れられるほどの、前人未踏の冒険を求めています。

 

 

 この世界で、息を潜める最強達へ。

 この世界に、溜息をついている冒険者達へ。

 

 

 私の敵として、私の仲間として、私を楽しませてくれませんか。

 

 

 私と楽しく戦いましょう。

 私と楽しく冒険しましょう。

 決してあなたを退屈させない事を、私はここに誓いましょう。

 私が退屈した暁には、週に一度、付近の国を滅ぼしましょう。

 

 

 これよりゲームを開催いたします。

 

 

 私を楽しませてくれる事を願います。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまンねー!」

 

「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!! もももも申し訳ございませええええええええええええええええええええん!!」

 

 出来上がった招待状の内容を見たアーサーの第一声に、新聞屋の男は平伏するしかなかった。

 

 建て直した新聞屋の本部。その一室に、どこぞの富豪から盗んできた高級なベッドがドン! と鎮座していた。その上に寝っ転がったアーサーは、右手に持った酒瓶をグイっと煽り、左手で招待状をクシャクシャに丸めて適当にぶん投げる。

 

 投げた瞬間、丸めた紙が光速一歩手前の速度を叩き出した。

 

 凄まじい圧力に負けた紙屑は一瞬で蒸発したが、衝撃波は生きていた。爆音が炸裂し、建物の半分が木端微塵に吹き飛ぶ。そう思った次の瞬間には、遥か遠くに見える山の上半分が粉々になって消滅した。

 アーサーは、右手に持った酒をもう一度口に含みながら、

 

「ま、俺が考えた内容(モン)よりゃマシか。にしたって面白くねえよなー!」

 

 特段責めているわけではないのだが、新聞屋の男はほとんど地面に寝るようにひれ伏しながら「ひいいいいいいいいい!?」しか言えなくなっていた。

 

 ちなみに、ベッドに寝そべる少年の両脇には、全裸の女性が八人ほどハァハァピクピクしていた。

 

「はふ、あふぅ……アーサーさまぁ、もっと、もっとぉ……」

 

「んっ……あ」

 

「しゅごい……こんなのはじめてぇ……」

 

 何が『もっと』で何が『初めて』なのかは分からないが、とにかく『もっと』で、とにかく『初めて』なのだった。

 しかし、もっと初めてなのはアーサーの方だ。

 なにぶん招待状なんて書いた事がない。それで変に格好のつかない不出来な招待状でもばら撒いてみろ。恥ずかしいにも程がある。

 

 何事も初めが肝心なのだ。

 しょっぱなか躓いて、舐められてしまっては意味がない。

 

「パッとしねえよなあ。もっとこう、ばーん! ってな感じでよお……」

 

 アーサーは、先程の衝撃波で吹き飛んだ天井を仰ぎ、一面に広がる青空を呆けた顔でボーっと眺めて。

 無意識にすぐ横で寝ている元聖女の体をいじくり、「あんっ」なんて喘がせて。

 

「おっ」

 

 がばっ! とベッドから起き上がる。

 名案が浮かんだ。

 

「おい」

 

「は、はい!」

 

「その『招待状』、最初に一文だけ付け足せ」

 

 

 

 これで全ての準備が整った。

 整ったのなら、後は、行動するだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 貫くように一直線。

 とにかく真っすぐ、遥か上へ。

 

 光を放つ両眼を見開き、その『巨体』は全身をくねらせながら翼を振り下ろす。

 空気を叩く爆音が轟いた。

 自分の吐いた息すら追い越すように、宙を真上に駆け抜ける速度はますます上がっていく。

 

「よし」

 

 踊り上がったその巨躯が、雲の波へと真下から突き刺さった。

 真っ白に濁る空気をかき分け、体に付く水滴も振り落とし、世界を真っ二つに引き裂かんばかりに突き進む。

 

 限界を作るな。自分で自分の全力を決めるな。

 まだいける。まだまだ突き進める。こんな所で満足なんかできるはずがない。

 見たいものは、この上にあるのだ。

 

 大きいと思っていた青空よりも、さらに大きな青空が。

 この雲さえ突き抜けた先の、遥か彼方の天高くに。

 

「よし!」

 

 空気を叩け。風を生め。重力を振り切れ。自由を謳え。

 その翼で、その爪で、その体で、その想いで。

 天空を支配するドラゴン。その名に恥じぬ雄々しさと猛々しさでもって、稲妻すらも追い付けない速度と勢いで。

 

「よし!!」

 

 

 

 直後だった。

 突き抜けた。

 

 

 

「……よし。目、開けろ」

 

 自分の背中に乗る少年の言葉に、幼いドラゴンは恐る恐る、静かに目を開く。

 瞼の隙間から入り込む光を、眼球全体を受け止める。

 そして、見渡す。

 

『……うわぁ』

 

 素直に出た言葉がそれだった。

 それでいいとアーサーは思った。

 取り繕った感想なんて何も面白くない。自分が感じた心の形を、感じたままに吐き出すその言葉にこそ、意味があり、風情があり、色が宿るのだ。

 

「どうだ」

 

 雲海を突き抜けた先。

 そこに待ち構えていた光景。

 

「何が見える」

 

『……そらだ』

 

 青があった。

 見上げて初めて見える青じゃない。

 前を見ても、後ろを見ても、右を見ても左を見ても、どこを見渡しても見渡し切れない、全方位に広がる青があった。

 その青の中に、自分がいた。

 

『あれ? くもは?』

 

「雲ぉ? ンなモンとっくに突っ切っただろうが」

 

 アーサーが首をトントンと叩く合図で、幼いドラゴンは初めて下を見た。

 眼下一面に、雲の平原が広がっていた。

 白い波が、その流動が、自分の体の下にある。今まで頭上にしかなかったはずのものが、今、自分の下を、優雅に漂っている。

 自分が、その上にいる。

 

『……すごい……』

 

 ゆっくりと顔を上げた。

 太陽の光を、たった一人で浴びる。

 遮るものはない。縛るものもない。ここは薄暗い洞窟なんかじゃない。

 ここには、この場所には、いつか心行くまで飛んでみたいと願って願って願い続けた青空があった。

 

 その中に、自分が一匹。

 

 見渡す限りの青空を、飛んでも飛んでも終わる事のない永遠の青空を、自分だけが全身で感じ取っていた。

 自分だけが。

 自分だけの。

 

『……すごい』

 

 

 

 この青空全てが。

 今は、自分だけのもの。

 

 

 

『すごい……すごいすごいすごいすごい! すごいよ!!』

 

 興奮が爆発していた。

 何もかもが初めてで、この感情を吐き出すには知ってる言葉が足らなかった。

 

『みて! すっごくあおいよ! おそら!』

 

「あぁ、そうだ。いつ見ても惚れ惚れするぜ」

 

『すごいよ! これ! こんなに! みて! うわあ……なにこれー! あはははははははははははははははははははは!』

 

「どうだ、面白過ぎて笑えるだろ」

 

『あははははははははははははははははは! すっごーい! え、えっ、え!? なにこれ! すごいんだよ! ねっ、あおいの! あっちまで! ずっと!』

 

「見た事ねえか?」

 

『ない! ぜんぜん! あははははははは!』

 

 青い空の真ん中で───いいや、もはや真ん中も端もない。永遠だ。無限なのだ。どこまで行っても尽きる事のない自由の空で、幼いグレイブルドラゴンは体をくねらせて宙を泳ぐ。

 その背中に座るのは、世界最強の魔術師。

 彼は幼いドラゴンとは全く違う、別の感動を覚えていた。

 

「……いいな。いつになっても、ここはいい」

 

 思い切り息を吸う。

 ひんやり冷たい空気が、体の奥深くまで染み込んで行く。

 誰もいない世界。何もない世界。自分だけの空間。一人だけの頂点。

 吸い慣れた空気だった。

 だけど。

 

「ここもいいが……まだ足りねえ」

 

 そうだ、足りない。

 何もかもの上に立ったこの充足感だけじゃあ、到底満足なんかできそうもない。

 

 進まなければ。

 

 前に進み、歩み続け、見た事ないものを見続けなければ気が済まないのだ。

 でも、気付けばこの手にあった世界最強の座。

 目の前に現れるものは、いつしか退屈なだけの石ころに変わっていた。

 だからって、歩みを止められるほど自分は高尚ではなかった。

 

 進みたくて進みたくてたまらないのだ。

 歩きたくて歩きたくてたまらないのだ。

 昇りたくて昇りたくてたまらないのだ。

 永遠に進み続け、歩み続け、昇り続けなければ、気が済まないのだ。

 

『すごいや……すごくて、すごくてね! おっきくて! あおくて! ひろくて! でね、あとね! えっと、えっとね……!』

 

 どうやら、すでに知ってる言葉は使い尽くしてしまったらしい。

 この感情をどう表せばいいか分からず、幼いドラゴンは言葉に詰まると、

 

「楽しいか?」

 

『たのしい?』

 

 己の背中に乗るアーサーの言葉を、幼いドラゴンは自分の口で繰り返す。

 その言葉を、胸の中で、何度も何度も反芻させて───

 

『……うん、たのしい』

 

 自分の言葉にする。

 自分の感情にする。

 

『たのしい! たのしいよ!』

 

「そうだ、それでいい。それがいい!」

 

 幼いドラゴンと、背中に乗るアーサーが、同じ方角を向く。

 向く方向なんて最初から決まっている。

 前だ。

 

「でもこンなもンじゃ満足できねえだろ!」

 

 いつだって、どこでだって。

 前へ前へと進まなければ、つまらない。

 

「突っ走れ! どこまでも! お前の気の済むまで!! 永遠に!!」

 

『うん!!』

 

 ドッ!!!!!! という爆音が天空を席巻した。

 巨大な翼を思い切り叩いた幼いグレイブルドラゴンは、もはやソニックブームすら叩き出すような速度で宙を突き抜ける。

 その勢いで、風を割り、雲を割り、大気を割り、世界を割る。

 それほどのトップスピードで、青い世界を堪能する。

 

「……それでいい。こンな所で終われねえだろ」

 

 その超スピードの巨体の上に、アーサーは二本の足だけで立ち上がる。

 視線の下……雲の下の世界を睥睨する。

 

 こいつ以外のグレイブルドラゴン達と、奴隷にした元聖女共には、世界中にあの招待状をばら撒くように言っておいた。

 今頃あいつらは雲の下で、せっせと世界中を飛び回り、あの紙っぺらを有象無象に届けているのだろう。

 

 それを想像しながらも、アーサーはやはり、目の前の景色に釘付けだ。

 誰もいない空。邪魔するものがいない世界。

 そして、そんな景色を邪魔してくれるような、そんな景色など見劣りさせてくれるような、こんな景色を誇らしげに楽しんでいた事が馬鹿らしく感じてしまうほどの最強達が、この世界のどこかにいる。

 

 それが、楽しみで、楽しくて。

 ドキドキで、ワクワクで。

 面白くって仕方がない。

 

「行くぜ、最強共」

 

 誰もいない青空で、ただ一人。

 前にも横にも後ろにも誰もいない、圧倒的な頂点で、ただ一人。

 

「思う存分喰らい尽くしてやンよ」

 

 世界最強の少年は。

 誰にも聞かれない声を紡いだ。

 

 

 

「俺の名前はアーサー・ペンドラゴン!! 神を殺した魔術師だ!!」

 

 

 

 叫びは、空気を揺さ振る。

 雲を引き裂き、山を震わせ、視界にも入らない地上を縦に横に揺り動かす。

 

 

 

「まだまだ楽しンでねえ!! まだまだ諦めてねえ!! もっと笑わせろ!! 喜ばせろ!! もっともっともっと!! 俺を楽しませろ!!」

 

 

 

 満ち足りない。飽き足らない。食い足りない。飢えて飢えて仕方がない。

 進もう。

 まだまだ先がある。

 

 神を殺した世界最強の魔術師、アーサー・ペンドラゴン。

 そんな少年が、叫ぶ。

 

 

 

「さあて!! 戦争開始(ゲームスタート)だ最強共!!!!!!」

 

 

 

 これは、一人の世界最強の物語。

 たった一人の世界最強が、世界を喰らい尽くす物語。

 

 そして。

 

 そんなどうしようもない頂点のもとに集まった、さらなる最強達の物語。

 孤独だった世界最強が、世界最強の仲間と、世界最強の宿敵を得る物語。

 

 

 そんな凶悪な産声が、今。

 盛大に、この世界を揺さ振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、一つの『招待状』が世界中にばら撒かれた。

 

 

 全ての大陸、全ての国、全ての街、全ての村、全ての地上に。

 全人類に向けた『招待状』が。

 羊皮紙という形で、全人類の頭上から降り注いだ。

 

 

 誰もがその『招待状』を手に取って、誰もがその『招待状』に目を通した。

 反応は千差万別だった。

 

 

 恐怖する者。

 絶望する者。

 歓喜する者。

 憤慨する者。

 

 

 悲壮に暮れる者。

 不安に駆られる者。

 溢れる興奮に身を任せる者。

 熱い闘争心を燃やす者。

 

 

 その『招待状』を握り潰す者。

 その『招待状』を胸に抱く者。

 その『招待状』を、恐ろしさのあまり破り捨ててしまう者。

 その『招待状』にさしたる興味も示さず、すぐに放り投げてしまう者。

 

 

 人々がそれぞれの反応を示した『招待状』。

 しかしその羊皮紙に書かれていたのは、全て同じ内容だったという。

 

 

 その『招待状』は、こんな書き出しで始まっていた。

 

 

 

 

「前略、神を殺した世界最強の魔術師が営む冒険者パーティはいかがですか」

 

 

 

 

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