ヘッドショットすればどんな敵でも一撃で殺せるチート能力&ヘッドショット以外全て無効化される永続デバフ 作:銀髪幼女
「——それで、これからどうするのですか、サナ」
酒場の端の席で、向かい合い座る青髪の少女にそう訊ねられた。質素な木机の上には、同じ材質の木でつくられた古びたジョッキが一つ置かれており、白っぽい飲み物が並々に注がれている。
「逃げてきたのはいいですが、途中で私に会えなかったらどうするつもりだったんですか?」
モンテル郊外の森で兵士たちに囲まれた私は、アレクの献身によって何とか森を抜けだし、イドマートへ侵入することに成功した。
ただ失った物も大きく、必要が無いと捨てて来たライフルや、私を逃がすために死んだアレク。さらには、祖国を喪った。
自我が癒着しかけているとは言え、私の意識は憑依者であることを自覚できている。
それでも私が、これから滅亡するモンテルを――サナの逃亡によって滅亡してしまうモンテルを寂しく思っているのは、私がサナになりかけているからなのだろう。
恐らくは同じ理由で、私はこの青髪の少女を見かけた時、反射的に声を掛けていた。彼女の名前も、これまでどんな関係だったのかも、疑うことなく自然と思い出すことが出来る。
「どうするも何も、一人で生活していくしかないよ。ほら、冒険者なら身分とか出身とか詮索されないし、誰でも登録自体はできるから」
「……そういうことではなく、悪魔借りであるあなたが、悪魔を排斥しようとしているこの国で生活できるわけがない、って言ってるんです。それに、たかが14とかそこらの女の子が一人で冒険者とか、すぐに噂になりますよ」
今は、彼女のローブを貸してもらい、フードで白髪を隠せている。そのため、酒場でも普通に注文自体は出来た。
だが確かに、彼女の言う通りだ。
悪魔を激しく嫌っているこの国では、悪魔借りなどいれば目の敵にされてしまうだろう。
「その時はその時だよ。最悪、別の国に逃げればいいし」
イドマートは、悪魔の根絶を国が掲げる目標に据えている。
原初の七悪魔と呼ばれる大悪魔たちが世界各地を統べていた太古の時代、人類の繁栄を謳い最初に成立した国家がイドマートだ。
「どこに行っても、結局は同じことになりますよ。悪魔借りが好意的にみられる場所などどこにもないことくらい、あなたもわかっているでしょう」
悪魔借り――悪魔がこの世に顕現するための依り代として生まれた人間。
その身に余る膨大な魔力と、人の身では決して得ることのできない権能をもって生まれてくる代わりに、いつかは必ず悪魔に体を乗っ取られ消滅してしまう。
「それで、もう一回聞きますが、これからどうするのですか?」
ため息交じりに、青髪の少女が言った。
「何も決めてないけど、とりあえず冒険者ギルドに行こうと思う。一文無しだから。レイラは? 何か目的でもあるの?」
「私は、特にはないです。どうせみんな死んじゃったし、一人きりですから」
訊ねると、そう悲し気に眼を伏せた。
レイラはモンテルの貴族家の生まれだった。幼い頃から魔法を学び、18になると宮廷魔術師として城に入る。
それが、モンテル貴族の一般的な人生だった。
しかし、モンテルはもうない。レイラは帰る家を失い、父も母も、あるいは兄弟姉妹たちだって、みな行方不明だった。
「家族を探しに行く、とかも無いんだ」
「この広い世界で、どうやって見付けろって言うんですか。なにかすごい力を持ってる人たちだったなら、どこかで噂になってるかもしれないけれど、私含めてみんな凡人だから」
「そっか」
探したい気持ちはあるけれども、諦めている。そんな言い方だった。
「なら、しばらく私と一緒にいてくれない? 君も、貴族って肩書を捨ててしまえばただの女の子なんだし、一人より二人の方が何かと都合いいでしょ」
「それは、そうですね」
「なら決まり。しばらく一緒に行動しよ」
私は、机の上で行き場を失っていたレイラの手に触れた。
*
レイラは、モンテルの貴族階級の生まれだ。モンテルの滅亡から生き残り、隣国のイドマートを放浪していたところを、偶然サナと出会う。
サナは、レイラと会話する中で、立ち話だと目立つから、とレイラに提案され、近くにあった寂れた酒場へと向かう。元々それなりに親しかったサナとレイラは、この事をきっかけに行動を共にし始め、イドマート辺境の冒険者たちの間で、名の売れた存在となっていく。
これはサナのキャラクターストーリーの序章だ。
つまり、私は今、私の自我に関係なく、サナのストーリーのレールの上に立ち、それと何一つ変わらない道を辿っている。
しかし、レイラはゲーム本編には出てこない。サナのキャラクターストーリーの全半生部分に、名前だけが残る存在となっている。
理由はいたってシンプルで、サナが実装された時期のゲーム世界の歴史の中で、レイラは既に死んでいるからだ。
魔法使いであったレイラは、弱小国と化していた晩年のモンテルにおいては、かなり高位の魔術師だった。
末っ子であったことから、幼い頃から交友のあった悪魔借りのサナを妹のように思っていて、モンテルがサナの悪魔としての権能を利用し軍に引き入れた時、レイラだけは最後まで、サナはまだ子供だ、と反対していた。
サナが軍の狙撃手として偵察隊に組み込まれると、定期的に前哨基地まで赴き、自炊した差し入れを持ってくる。サナは彼女の作るお菓子の類が好きで、レイラによく懐いていた。
モンテルが滅亡し、イドマートに逃亡すると、二人は冒険者になる。
サナはその権能をもって千里眼の狙撃手として、レイラは魔法使いの才を活かして水龍の魔術師として、名を上げた。
だが、それから数年が経ったころ、イドマートに災厄が降りかかる。
精霊の谷に封印されていた、かつての悪魔であるヴェルヅェルが復活したのだ。
イドマートは、国中の実力者を集めてヴェルヅェルの討伐を開始する。サナとレイラにも討伐隊に加わるようにギルドから依頼が降り、二人は復活した悪魔の掃討戦に参加した。
そして、悪魔自体は簡単に殺すことが出来た。サナの身に宿る悪魔の方が、ヴェルヅェルより高位の存在だったのだ。サナは、悪魔としての権能――枯死の呪いで、銃弾を頭部に受けた者を、誰であろうと即死させる。
ヴェルヅェルは彼女の凶弾に為す統べなく倒れ、悪魔であるがゆえに死に絶えはしなかったものの、再び長い休眠に着いた。ように思われた。
実際は、彼の封印を解き、ヴェルヅェルにイドマートを襲わせた、事態の元凶が別に存在していた。
女は、ヴェルヅェルを屠って見せたサナに注目し、サナを手駒にしようと画策する。
しかしサナは、彼女の甘言に飲まれることなく、意思を貫いた。
その結果、女は強硬手段に出る。
イドマートの冒険者たちに、サナが悪魔借りであること、それから、レイラが悪魔と通じている事を吹聴したのだ。
既に名が売れていたことが仇となり、すぐに二人は夜道を襲われるようになる。
その中で、権能によりライフルが無いと何もできないサナを庇うようにして、レイラは死んだ。
確か最後の言葉は、「必ず、私を見つけて」だった。それが意味する事は分からないが、きっとゲームにおける重大な伏線だったのだろう。
そして、このレイラの死こそが、今の私が変えなければならない未来だ。
アレクは死んだ。彼が死ぬとわかっていながら、私は彼を生かすことが出来なかった。
これがストーリー上の歴史をなぞっているのだとしたら、次に死ぬのはレイラだ。
そしてレイラの死を皮切りに、世界は大きく変わっていく。
サナはイドマートを追われ、さらに隣国のアイスウェルでは、女が無数の悪魔を率いて侵攻を開始する。その頃、精霊果と人間果の境界面に亀裂が走り、アビスと呼ばれる瘴気が広がり始め、近い将来、世界はやがてそれに覆われてしまう。
つまり、レイラを生かすことが出来なければ、私はイドマートを追われてしまい、私がイドマートを追われアイスウェルに向かう事で、女がサナを捕縛しようとアイスウェルに攻め入ってくるのだ。
この全てを阻止しなければならない。もう二度と、アレクの時のような悲劇を味わってはならない。味わいたくない。