【オルクセン王国史/二次創作】変わり者亡命白エルフと氏族長代理のその後   作:Telfe262

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1.共存と街づくりと

 どのような社会にも、異端だとか、変わり者という存在はいるものである。

 星歴875年時点のエルフィンドの場合、それはダークエルフに味方した白エルフという存在が該当した。

 

 理由は様々だ。

 

 例えばかねてからの親友だっただとか、軍に所属していた時代の戦友だったたとか、ともかく個人的な信頼関係があった者。

 1年ほど前に失脚し、裁判こそ無事に済んだが結局暗殺されてしまった、女王の側近だったダークエルフの部下だった者のうち、彼女に心酔していた者。

 登山だとか測量だとか、ともかく国境付近の山々に入り、そして遭難して危うく死にかけたところを現地のダークエルフに助けてもらった者。

 もともと思想的なあれこれから秘密警察に睨まれていたこともあり、それに対する反発心もあってダークエルフと対等に付き合うようにしていた者。

 

 中には友情や恩義をあっさり捨て去りダークエルフの民族浄化に加担した者もいたが、そうはしなかった者は少なくない人数がいた。

 

 彼女らは様々な結末を辿った。

 

 政治犯として捕らえられ、死刑台へ登らされたか、法的な死刑にこそされなかったが劣悪な環境に放り込まれた末に獄死した者。

 ダークエルフの氏族と共にいたところを、十把一絡げにダークエルフともども殺害された者。

 友を逃がすため、最期までエルフィンド正規軍と戦った者。

 ダークエルフと共に捕えられ、最期までその信念を曲げず、ダークエルフと共にレーラズの森に埋められた者。

 

 生存者もいた。

 

 政治犯として捕らえられたが、劣悪な獄中生活をやせ衰えながらも生き延び、オルクセン軍により解放される日を迎えることになった者。

 キャメロットにいる知り合いを頼り、観光や商売に行くと称して渡航し、そのまま亡命した者。

 所有する漁船に友人のダークエルフと共に乗り込み、オルクセンやキャメロットまで脱出した者。

 国境近辺に潜伏し続け、侵攻してきたオルクセン軍に「投降」した者。

 

 そして、ダークエルフと共に過酷極まるシルヴァン川越えを成し遂げ、そのままオルクセンへ亡命した者もいた。

 シンウィアル・ブレギリルも、そんな1人だ。

 

 かねてからの親友だったダークエルフのフィンリエル・アダリルの氏族が、自分の属する部隊により襲撃される事を聞いた彼女は、エルフィンド軍を脱走。フィンリエルとその仲間たちと合流し、共にシルヴァン川を越えてオルクセンへの亡命を果たした。

 

 それから2週間後。彼女は、現在オルクセン陸軍首都第三演習地──行政上はヴァルダーベルクという地名となっている──にある、青軍(演習時の仮想敵部隊)側兵舎に滞在していた。

 

◆   ◆   ◆

 

「で、そっちの調子はどうかしら?」

「実は一昨日、また1人増えてね。まあ空き部屋はいくらでもあるからどうにでもなるんだけどね」

 

 オルクセン陸軍首都第三演習地青軍側兵舎、その食堂。

 シンウィアルは、今日も赤軍(青軍の対抗部隊。もちろん共産主義とは何ら関係はない)側兵舎からやってきた親友のフィンリエル──今では彼女の氏族において氏族長代理となっていた。いずれ正式に氏族長となるだろう──と世間話をしていた。

 

「でも…正直ちょっと意外かも。私が知ってるダークエルフにも親しくしてくれる白エルフなんて、シンウィーくらいしかいなかったから」

「実のところあたしもさ。まあ世間は思ってるよりも遥かに広い、って事なんだろうね」

 

 ダークエルフと共にオルクセンへ脱出してきた変わり者の白エルフは、実際のところシンウィアルだけではなかったのだ。

 分隊とすら呼べないくらいの人数しかいなかったものの、青軍側兵舎には先客がいた。いずれも友人を見捨てられなかったり、かつて受けた恩義を忘れなかったりした者だ。シンウィアルがその住民となってからも少しずつ増えている。

 2人とも今はまだ知る由もないが、最終的にその人数は数だけ見れば1個中隊ならどうにか編成できないか?という程度の人数まで増えることになる。

 

「まあ、話してて気持ちのいい連中だよ。あたし含めてみんな馬鹿だけどね。愛すべき、って付けばいいけど」

「エルフィンドから見れば馬鹿なのかもしれないけど、私たちにとっては大切な友達で、見失っちゃいけないものを見失わなかった賢者よ」

「何もそこまで褒めんでも、何も出せないよ。そうそう、中にはあたしより肝据わってる奴もいるよ」

「どんな?」

「氏族長の友達だったんだけど、軍の奴らより先回りすることに成功して、みんな叩き起こして逃がしたうえで、自分はその村に居座って最期まで抵抗するつもりだった、っての」

「そんな覚悟決めてたの…どうしてここに来れたの?」

「捨て石にするのをよしとしなかった氏族長が思いっきりぶん殴って気絶させて、抱えて逃げたんだってさ。氏族のみんなも説得したうえで」

「氏族長の子もやるわね…会ってみたいわね」

「ほれ、そこに」

 

 シンウィアルが指し示す先では、2人のダークエルフと1人の白エルフが談笑している。

 切れ長の目をしたダークエルフはまだ傷が癒えていないのか、脚には包帯が巻かれ椅子の横には松葉杖が置かれている。彼女はニコニコ微笑んで会話する2人を眺めている。友達の友達という距離感。となると、彼女がその氏族長というわけではなさそうだ。

 ということは楽し気に会話する細身のダークエルフと白エルフがその氏族長と友達ということらしい。後で話してみよう。気が合うかもしれない。

 

「彼女らはここにちょくちょくやってくるよ、半分は氏族長の幼馴染のリハビリがてらだって言ってたけどね」

「確かに、私たちのいる赤軍側兵舎からいくらか距離あるものね」

「オルクセン軍としてはそれが重要なんだろうねえ。赤軍側兵舎にいるダークエルフは、フィンリーやあの子らみたいにあたしら白エルフに親しい連中ばっかじゃないし。ていうかむしろ9割はそうなんじゃないの?」

「実際のところ、その通りなのよね…」

 

◆   ◆   ◆

 

 エルフィンドから脱出したエルフたちは、基本的には赤軍側兵舎に滞在している。

 不足はなかった。首都大演習場のそれに比べれば小規模ではあるとはいえ、演習時には1万名を超す将兵が滞在することもあるのだ。ダークエルフたちがいくらエルフィンドから脱出してきても赤軍側兵舎だけで事足りそうな勢いであった。

 しかし現実にはダークエルフは赤軍側兵舎に、ごく少数の白エルフはある程度離れた青軍側兵舎に滞在している。

 

 もちろんこれには理由がある。はっきり言ってしまうと、隔離だった。

 このときオルクセン軍および政府が恐れていた事のひとつは、ダークエルフ族が国内で何かしらやらかしてしまう、という可能性だった。いくらオルクセンという国家が国王集権のトップダウン国家であるとはいえ、彼女らに対する国民感情が不必要に悪化してしまえばできることもできなくなりかねない。

 そして彼らの目には、ダークエルフ族にとって直近の不俱戴天の仇である白エルフ族を同じ宿舎に入れてしまうのは、まさしく火薬庫に火種を放り込むような真似としか見えなかったのだ。物品の支給や職業訓練などのような管理の手間を考えるとあまり遠くにやるのも考え物であるが、同居させるのは危険すぎる。

 というわけなので、亡命白エルフたちは青軍用兵舎に入れられ、彼女らに用がある者──ほぼ全員が元々彼女らと親交のあった、それこそ一緒にシルヴァン川を越えてきた面々だ──は、しばらく歩いてここまで来る必要があるのだった。

 

「ま、仕方ないさ。みんな文字通り死ぬような思いをしてこっちにやってきたうえ、その原因は白エルフどもなんだからさ。それと同じ姿をしたあたしらと同居したらそりゃいい気分はしないだろうし」

「でも、シンウィ―たちの人柄を知ってる身としては、ねえ…」

「いいさいいさ、フィンリーと仲間たちはあたしらの事をちゃんと知ってる。それで十分だよ。そもそもこの世の全てに好かれようってほうが無理なわけだしね。友達ろくにいなかったあたしが言うんだから間違いない」

「そこでそう来るかあ…」

 

 シンウィアルを含めた亡命白エルフたちは、もともとダークエルフと親しかった面子揃いである。そのため、多かれ少なかれ偏見や差別を受けてきた身だった。そのこともあり、現状を受容することに長けていたと言えるだろう。

 

「ま、手伝えること手伝って、あたしらはあの連中とは違う!って事を地道に示していくしかないね」

「それを言うならある意味私たちもそうかも。この国じゃダークエルフは新顔だしね。受け入れてくれたなら、それ相応のことはしないと。今もエルフィンドで頑張っているディネルースさんやドルアノアさんに顔向けできなくなっちゃう」

「だねえ…2人ともうまく切り抜けてるといいんだけど。いやまあディネルースさんとはまだあたしら会ってないけどさ」

「これからシルヴァン川の水かさも増えていくし、それに私たちが渡った時よりも冷える時期になってくるしね…うまく脱出できるといいのだけれど…」

「あたしらが渡ったところって、まだ使えるのかね?」

「これからは厳しくなってくると思う。実際、一昨日200人くらいやってきたんだけど、その中には泳いで渡ってきたって子もいた。エルフィンドの奴らが見張りを置いていて、あの場所は渡れなかったんだって」

「そりゃ厳しいな…しかし陰湿な奴らだ」

「本当にね。でも手助けはできないしね…」

「だねえ…できることといえば、ここの整備を進めるってくらいか」

 

 正式な勅令はこれからではあるものの、既に彼女らがいるヴァルダーベルクの陸軍首都第三演習地と、それに隣接する王立農事試験場はダークエルフ族に下賜され、新たな街区となることが内定している。そのため、現在急ピッチで様々な建材がこの地へ持ち込まれ、これまた急ピッチで町が建設されつつあった。

 建設作業に従事するのはほとんどがオーク族やコボルト族、ドワーフ族の鳶職や技術者たちだが、既にここへやってきたダークエルフ族のうち動ける者も、そして亡命白エルフたちもそれに協力している。フィンリエルもシンウィアルもそのクチであった。

 

「そうね。整備進めて、これからエルフィンドを脱出してくる子たちをすぐにでも迎え入れられるくらいにしなきゃ」

「だね。明日からまた頑張らないと。ところでさ…」

「なに?」

「あの話、フィンリーはどうするつもりだい?」

「あの話って?」

「ほら、ダークエルフ族だけの軍部隊を作る、って話…まあ誰が行くにしろ、あたしらは応援することしかできないんだけどさ」

 

 内定しているのはヴァルダーベルクの下賜だけではない。詳しい話はまだ決まっていないらしいが、既にダークエルフ族のみで構成される部隊が編成されるという話が出てきている。

 まだ志願者の募集は始まっていないが、始まり次第即志願する、と公言しているダークエルフは多い。フィンリエルの氏族でも既に9名は名乗りを上げているそうだ。

 なお、軍としては亡命白エルフをその中に入れたり、あるいはそれ以外にしろ軍に入隊させるつもりはなかった。何しろ今後の敵となるエルフィンド軍は白エルフの軍なのだ。誤射やスパイの潜入などのような可能性は潰しておきたかったのである。そのためシンウィアルらは本国での留守番が確定している…少なくとも現時点では。

 

「私かあ…正直、決めかねてる」

「………」

「私も、そりゃ氏族長や、あの時殺された仲間たちの仇をこの手で取ってやりたいとは思ってる。でも、あの逃避行の時、いくつもヘマやらかしちゃったあたり、私は軍人には向いてないんじゃないかとも思ってる。それに、シンウィーたちの事も心配だし」

「そうなんだ」

「シンウィー的にはどう思う?」

「あたしもなかなかなんとも言えないなあ。もしフィンリーが入隊するなら応援したいとは思うけど、それはそれとして戦傷や戦死してほしくないからオルクセン本国に留まってほしいとも思っちゃってる。心がふたつある…」

「まあ、今日明日で決めなきゃならない事じゃないし、じっくり考えるつもり。まずは足元を整理しないとだから」

「…そうだね」

 

◆   ◆   ◆

 

 ヴァルダーベルク市街地は、着々と建設されていった。

 次々と上下水道が整備され、その次に住宅や集会所、農業用倉庫などが建設され、残るは住民の入居だけという状態になっていき、早いうちに建設が完了した地域では既にダークエルフたちが入居していっている。

 

 予定よりも案外早いペースであった。

 

 これには建設作業を手伝っていたダークエルフたちの影響は大きいだろう。

 「自分たちの命の恩人たるディネルース様とその仲間たちがやってくる前にこの街を作り上げ、万全の状態でお迎えしたい」という並々ならぬ熱意を持った彼女らは、そのままその熱意を建設作業にぶつけたのである。また、ダークエルフたちの多くはシルヴァン川北岸の山岳地帯という、言っては何だがエルフィンドからすると僻地に住んでおり、そのため住宅などの建設も自分たちでやっていた者も多く、そのような技術を持つ者も結構な人数がいたというのも大きい。しかもそんなダークエルフたちは日に日にエルフィンドから脱出し、特別編成の鉄道に乗ってやってくるのだ。

 

 亡命白エルフたちも、人数こそ少ないがそれに全力で協力した。彼女らにとっても、ディネルースは命の恩人なのだ。自分たちにもどうか手伝わせてほしいと頭を下げ、作業の補助にあたった。

 

 そして…本職の作業員たちとしても、そんな健気な姿を見せられると、自分たちも単純な給料分の仕事だけでなく、できる限りの事をやってやりたいと思うのが人情──彼らは人間ではなくドワーフやオーク、コボルトたちだが──というものである。

 

 熱意と人情、その他諸々を燃料に、ヴァルダーベルクは日々成長していた。

 

 とはいえ、さすがに夜中も作業を続けるような突貫工事を行っているというわけでもない。ある程度の時間になれば作業は終わる。

 

 ──ふいー、今日もくたびれた!でもいい仕事できた!

 ──あの嬢ちゃんたち、なかなかやるもんだな。おかげで捗った!今度誘ってみるか?

 ──馬鹿おめえ、街作ってるのをいい事に夜のお誘いとか殺されるぞ?

 ──違えよ!この宴会にだよ!何にだと思ったんだお前は!

 

 そして作業が終われば息抜きの時間だ。作業員たちは作業終了後、ヴァルダーベルク近くの居酒屋へ吸い込まれていく。

 

 ──ほんとに、一緒に行っていいの?

 ──もちろんだ!いやほんと助かったぜ、あんたがいち早く気づいたおかげで、けが人が出ずに済んだんだ!一杯奢らせてくれ!

 ──俺からも奢らせてくれよ、あそこで働いてた中に俺の甥っ子がいたんだ、あんた恩人だよ!

 ──それじゃあ、お言葉に甘えて!

 

 そんな日々が続くと、作業員たちと共におっかなびっくり居酒屋へ行くダークエルフ──余談ながら、彼女らが一番最初に連れられて行った居酒屋の名前は『クライスト』と言った。以降長きにわたりダークエルフたちに愛されることになる──も出てくる。

 

 ──ねえ、私も行っていいの?本当に?

 ──そりゃそうよ、でなきゃこんなとこまで連れてきてないって!

 ──彼女の友達なら、すなわち俺らの友達さ、遠慮するなって!

 ──…ありがとうね。嬉しいなあ…

 

 さらにはそんなダークエルフたちに連れられて居酒屋へ入っていく亡命白エルフも現れた。

 

 最初はなかなか話が弾むことはなかったものの、日に日にお互いの事を少しずつ理解するようになり、それなりの頻度でピルスナーやケルシュ、白ビールといったアルコールやチーズやヴルスト、クライスト名物『ありとあらゆる肉の盛り合わせ』などを一緒に囲んでいるうちに、お互い話をすることも少しずつ増えていった。

 

 どこぞの世界では悪しき文化として糾弾され、この世界でも同じく後世には冷たい目で見られることになる概念…所謂『飲みニケーション』であるが、少なくともこの時は元々オルクセンにいたオークやコボルト、ドワーフたちと、つい最近やってきたダークエルフ、そしてそんな彼女らからも隔意を持たれていた亡命白エルフとの間にあった溝を埋めることはできないにしろ、いくらか浅くするのに寄与していたのだった。




実のところ、件の作品は単独の短編であり、続編の構想はありませんでした。
しかし、大変ありがたい感想をハーメルンやTwitterで頂いたうえ、無い知恵を絞ってみたところ例の2人やその周辺の物語が続いていったため、このように投稿させていただくことになりました。

この2人がどこまで行くかはわかりませんが、今しばらくお付き合いのほどを…

なお、作中に登場した「2人のダークエルフと1人の白エルフ」はTwitterに投稿されていた、ダークエルフと共にオルクセンへ亡命した白エルフを描いた二次創作短編(もちろん、拙著よりも前にTwitterに投稿されたものです)へのリスペクトとなります。あの短編こそが前作と本作が出来上がるきっかけとなりましたので、もし見かけたら読んでいただければ。
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