【オルクセン王国史/二次創作】変わり者亡命白エルフと氏族長代理のその後 作:Telfe262
星歴876年7月。ついに、アンファングリア旅団の編成が完了。名実ともにオルクセン軍にダークエルフ族部隊が誕生した。
当事者たちからすれば組織は作られたが中身はまだまだ、という話ではあるものの、それはそれとしてアンファングリア旅団が生まれたことを内外に示すため、編成完結式が行われることになった。
そんな編成完結式を間近に控えたある日。フィンリエルの居宅に来客があった。
「姉さま、参謀本部からお客様です」
「わかった、今行くわ!」
参謀本部からやってきたのは、以前フィンリエルに従軍しないよう説得しに来たリッテンバウム大尉だった。
「お久しぶりです、フロイライン・アダリル」
「リッテンバウム大尉、お久しぶりですね。今日のご用件は?」
「上からこちらをお渡しするよう言付かっております」
リッテンバウム大尉が渡してきたのは書類だった。ただの文書ではなく、綺麗で上等な封筒に入っている。
「これは?」
「今度行われる、アンファングリア旅団編成完結式の招待状となります。氏族長級、またそれに準じる皆様につきましてはご招待させていただくことになりまして、本日はその招待状をお届けしに参りました」
「なるほど…」
「お忙しいとは存じますが、ご出席願えればと」
「アンファングリア旅団には、私の氏族からは14名、シルヴァン川越えの時に合流した者からは9名が入りました。彼女らの晴れ姿、是非とも見届けたいところですからね。もちろん、万難を排して出席します!」
結論から言うと、招待されたダークエルフたちは全員が編成完結式に出席した。彼女らとしてはフィンリエルの言うように自らの種族、自分の氏族の出身者、あるいは面倒を見ていた者たちの晴れ姿なのだ。また、編成完結式の日程は公表されていたため、わざわざそんな日にダークエルフ族相手に別にその日でなくても問題ない打ち合わせや商談などを持ち込もうなどという無粋な連中もいなかったのだった。
「それじゃ、行ってくるわね」
「いってらっしゃい姉さま!」「私たちの分も見届けてきてください!」
リッテンバウム大尉から招待状を渡された、いくらか後日。
氏族の皆に見送られ、ダークエルフ族の伝統衣装で着飾ったフィンリエルは待ち合わせ場所へ向かう。
編成完結式が行われるのはヴァルダーベルクにあるアンファングリア旅団衛戍地なので徒歩数分なのだが、それはそれとして1人で行くのも…という話になり、結局招待された面々はまとまって向かう事になったのだった。
集結した面々は、式典開催の2時間前に到着した。既に衛戍地正門前には多数の馬車──もちろん軍の輜重馬車や民間の貨物用馬車や乗合馬車なんぞではない、上等な馬車や軍のものでも要人用のものだ──が停まっており、礼服を来た従者や礼装を着込んだ軍人たちが恭しく扉を開け、中からは着飾った者たちが出てくる。皆政府・軍の高官や、各国の駐箚公使に駐在武官、国内有力者など錚々たる面々だ。
またそれだけでなく、招待客に比べれば見劣りするものの一応きちんとした格好をした面々もいる。国内外の記者たちだ。
皆ダークエルフ族も招待されやってきた事に気づいたようで、周囲の注目が集まる。
単純に彼女らの美しさに感嘆したのか、どこかの国の駐在武官らしい若い人間族は陶然とした表情をしている。
ダークエルフ族に何が起きたかを知っていたらしい、どこかの国の駐箚公使らしい年かさの人間族は美しさへの感嘆半分憐憫半分という表情。
彼女らの境遇に心底同情しているらしい表情を浮かべていたオーク族の紳士は軽く会釈をしてくる。
ひそひそと彼女らを見ながら話をしているオーク族とコボルト族の将校──階級は両方とも大佐だった──の表情も同情しているように見える。
彼女らを一瞬見たが、無表情のまま受付へ向かっていくドワーフ族の紳士は、さて礼儀正しいのか、それとも思う所があってダークエルフ族の顔は見たくない気分だったのか。
外国紙の記者らしい人間族の男性が彼女らに見とれたままぼんやりと歩き、そしてそのまま壁にぶつかって尻餅をついたのは見なかった事にしておく。
数々の注目というプレッシャーを少しばかり感じつつも、ダークエルフたちは受付へ向かい、芳名帳へ署名する。
受付にいたアンファングリア旅団の兵士たちはいずれもフィンリエルの知り合いではなかったが、あなたたちなら大丈夫、という意思を込め頷いて見せると少しは緊張がほぐれたのか、かすかな微笑みを返してきた。
式典会場、つまりヴァルダーベルク衛戍地内に入る。
営庭には巨大な閲兵台が作られている。式典が始まったら、ここにグスタフ王やその側近たちが座ることになるのだろう。その横には軍楽隊がいる。さすがにアンファングリア旅団には正式な軍楽隊はいないため、もともと存在している部隊から派遣されてきた面々だ。確か第一擲弾兵師団の所属だったか。
招待状の封筒に同封されていた地図を見る。ダークエルフ族の席は国内の有力者らが座る席の近くにまとまって配置されていた。フィンリエルとしては分散されて見ず知らずの有力者や外国人と隣同士になるのも気まずいものがあるため、正直ありがたい。皆で席へ向かい、座る。
「では、あとは待つだけ、ですね」
「私たちは皆さんの前で行進するわけではないですけど…正直緊張しますわね」
「ええ、本当に…」
この日、軍関係者でない面々で最も緊張していたのは、やはり彼女らヴァルダーベルク残留組のダークエルフたちだろう。
確かに我が子のように慈しんだ氏族の面々や、こちらに来てから面倒を見ていた面々の晴れ姿ではある。そして旅団長であるディネルースの指導力を疑う者は皆無である。
だがそれはそれとして、さすがに我らがアンファングリア旅団に欠点なし、今日も完璧にやってのけるに違いないとまで断言し切れる者はおらず、重大な式典、何か失敗したらどうしようという心配も抜けきらなかったのだ。
そうこうしているうちに午前10時、すなわち式典開始時刻となった。
『皆さま、本日はご出席賜りありがとうございます。これよりオルクセン陸軍アンファングリア旅団の編成完結式を開催いたします。皆さま、ご起立願います』
軍楽隊が演奏する
そして白地黒猪旗に続き、
騎乗しサーベルを掲げ行進する騎兵たち。フィンリエルは、確かにその中に自分の氏族5名と、シルヴァン川越え時に合流した4名の顔を見つけた。
次に来たのは猟兵。皆小銃を持ち、騎兵とはまた違った軍服を身に纏っている。その中には自分の氏族の4名とシルヴァン川越え時に合流した5名、そしてその時自分たちを導いてくれた、今や中隊長となったドルアノアを見ることができた。
砲兵の番が来る。
砲車や前車に乗るか、あるいは騎乗して砲と共に行進する砲兵たち。フィンリエルの氏族から出た2名の砲兵は、1名は75ミリ野山砲の砲車に乗り、もう1名は騎乗して行進していた。2名とも山砲大隊の所属だ。
次に続くは工兵中隊と架橋中隊。
フィンリエルの氏族から唯一工兵となった1名は軍用馬車には乗っておらず徒歩で閲兵を受ける組だ。
そして輜重馬車隊と衛生隊。
全力は閲兵式には参加しておらず、フィンリエルとしては残念なことに、輜重兵として馬車隊に配属された彼女の氏族の2名は両方とも今回は参加していない。あの2名もとても残念がっていた。
だが、重要な役割を果たすことにおいては他の皆には負けていない。残念がりつつも、その2名はそう確信していたし、他の皆もそう考えている。
皆が皆、凛々しい表情を浮かべ、一糸乱れぬ行進をしている。
そんな光景を見ているうちに、当初フィンリエルたちが抱いていた心配は雲散霧消していた。そしてフィンリエルは確信した。
自分らが余計な心配なぞするまでもなく、彼女らは大丈夫だ、と。
きっといつの日か、大願を果たしてくれる、と。
行進が終わり、アンファングリア旅団は営庭中央部で整列をする。
そして、グスタフ王による訓示が始まる。
『ゆえなくして故郷を追われた君たちを、我がオルクセンは心より受け入れる』
『この新たな地を以て、平穏安寧に暮らしていく選択肢も君たちにはあった』
『我が国はそれでも君たちを受け入れただろう』
フィンリエルとしては、ちょっとだけ異議申し立てをしたい気分だった。『受け入れただろう』ではない。
グスタフ王は、オルクセンは、自分たち残留組も既に仮定ではなく実際に受け入れてくれているのだ。今回はアンファングリア旅団への言葉であり、従軍という選択をした面々への言葉だから理解はできるのだが、仮定形を使うのは少しばかり水臭いような気もするのだった。
『だが自ら銃をとり、轡をとり、砲を供え、我が国に仕えてくれる選択を君たちは為した』
『私はその選択を決して忘れない』
『決して!』
そう、彼女たちはその選択を為した。フィンリエルもその重みは理解しているつもりだ。だからこそ、ヴァルダーベルクで全力で支え、彼女らの帰る場所をよりよくする使命がある。
『だからもう、ここは君たちにとっても祖国だ』
『新たな祖国だ!』
『ここは君たちの母なる国だ!』
『君たちはそれを忘れないでほしい』
『我らと糧をともにしていこう』
今回のグスタフ王の言葉は、あくまでもアンファングリア旅団へ向けたものだ。だが、フィンリエルたち残留組も感じ入るものが大いにあった。
新たな祖国オルクセンを支え、よりよい国にしていきたい。そう再び決意させるには十分な演説だった。
◆ ◆ ◆
さて、編成完結式から少しばかり時間を遡り、場所も変わる。
「それじゃ、行ってくるわね」
「いってらっしゃい姉さま!」「私たちの分も見届けてきてください!」
着飾ったフィンリエルは、編成完結式へ出席するため出かけて行った。
残るは彼女の氏族の面々やシルヴァン川越え時に合流した面々だ。
「あーあ、私もみんなの晴れ姿、見てみたかったなあ…」
「しょうがないわよ、あの衛戍地そこまで広くないし。あんなとこに4千人も増えたら身動き取れなくなっちゃうもの」
「わかってはいるけど、さあ…」
「残念がっていても仕方ないさ、何にせよ準備しとかないと」
「そうね、さっそく集会所へ向かいましょ」
「We've got a Job to do、なんてね」
「どういう意味?」
「キャメロット語で『私たちには使命がある』って感じよ」
「へえ…まったくその通りね」
仲間の晴れ姿を見られない事を残念がったり、他愛もない雑談をしつつヴァルダーベルク内のとある集会所──この集会所はヴァルダーベルク最寄り駅のアルブレヒト駅に最も近い集会所であると同時に、衛戍地からもさほど離れていない場所にあった──へ向かう。
扉を開けると、既に少なくはない人数のダークエルフが活動していた。机や椅子の位置を調節する者、間仕切りを動かす者、あらかじめ印刷しておいた資料を整理する者、各国語の辞書を並べる者…
「あら、思ったより早く着いたのね、もうちょいかかるかと思ってた」
「フィンリエル姉さまが思ったより早く出たから。というわけでエレンラエン・グロールリル、ルィンミア・ヒルリエン、ラルウェン・ファニエル、ヤヴァサノア・エゼルリンド、ギルルース・マルメネル、マルウィング・ガラディアン、メレスアンナ・アインベス、到着しました。ただしヤヴァサノアとギルルース、それからマルウィングは作業の手伝いだけだけど」
「了解、それじゃああっちのほう手伝ってくれるかしら?」
さて、彼女らが集会所で何をしているのかというと。
現在ヴァルダーベルクには、多数の国内外の記者が来ている。
メインの目標はもちろんアンファングリア旅団編成完結式だが、どうせ来たのであればということでダークエルフの民間社会についても取材したいという依頼も少なからず来ている。
そのため、この集会所を臨時の取材場所にすることとなり、その最終準備をしているのであった。
「ところで、取材依頼って増えてるの?」
「みたいよ。一昨日とか昨日とかになっても何件か新しく来たんだって」
「あれまあ…フィンリエル姉さまたちも大変だ」
「ま、みんなで協力していくしかないわね…」