【オルクセン王国史/二次創作】変わり者亡命白エルフと氏族長代理のその後   作:Telfe262

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11.取材対応(1)

 編成完結式が終われば行事はおしまい、あとは自宅に帰るだけ…とはならない。特に、フィンリエルたちのような氏族長級として民生方面のまとめ役をしている者にとっては。

 諸外国からの注目を浴びるアンファングリア旅団は、エルフィンドから亡命してきたダークエルフ族で構成されている。とはいえ、ダークエルフ族全員が将兵となったわけではない。少しでも頭の回る者がいくらか調べれば、およそ4千名がオルクセンの民間社会に残っている事がすぐにわかる。

 

 そして、今回の閲兵式にはオルクセンの名士や外国の駐箚公使や駐在武官だけでなく、報道機関の面々も出席している。

 

 すなわち…閲兵式を取材するだけでなく、民間のダークエルフ族について取材をしたがる外国のマスコミ対応が待っているのだった。

 

「それで…今日はどんな方々が私の担当だったかしら?」

「はい姉さま、今日は…14時からティンタジェル・タイムスのアーサー・フォレスト氏、16時からログレス・イラストレイテッド・ニュースのルーカス・ハミルトン氏がいらっしゃる予定です。両方ともキャメロットの方ですね」

 

 今日の取材予定について尋ねるフィンリエル。そしてそれに答えたのはフィンリエルの氏族出身者であり、彼女の秘書役の1名でもあるメレスアンナだ。彼女はかつて氏族の中にある程度いたキャメロット文学好きたちの生き残りの1名であり、ある程度キャメロット語ができた。

 ほか、今日の取材にあたってフィンリエルに付いているのはエレンラエン、亡命時に合流したラルウェン、オルクセンに来てから知り合ったエルミア、カレニアン。フィンリエル含め、今日の陣容はキャメロット文学が好きだったとか、かつてキャメロットの貿易商人と取引をしていたなどの事情で皆ある程度キャメロット語ができる面々だ。またそれだけでなく参謀本部や外務省から派遣されてきた通訳もいる。

 なお、グロワール文学を好んで読んでいたのが高じて少しばかりグロワール語ができるルィンミアはフィンリエルらとは別れ、グロワール人記者を受け持つ予定の他の氏族長級ダークエルフのほうに付いている。

 

「シンウィアルさんもいてくれれば、もう少し楽できるのかもしれないですけどね…」

「仕方ないわよ、彼女たちが決めたことだもの。それに一理あるし」

 

 実はフィンリエルと同じくらいにはキャメロット語ができるシンウィアルは、今日は不在だった。正確には亡命白エルフ全体が今日、というか数日間は表に出てこない事になっている。亡命白エルフ族のまとめ役となっているブレギエル・アルリンドの呼びかけによるものだ。

 

 亡命白エルフたちの大部分はどさくさに紛れて脱走し、友のもとへ馳せ参じて一緒にエルフィンド軍と戦い、シルヴァン川を越えてオルクセンへ亡命した元エルフィンド軍将兵である。当然シルヴァン川越えの際には追跡してくるエルフィンド軍と銃火を交えているし、その際いくらかの人数のエルフィンド軍将兵を殺傷している。シンウィアルからしてフィンリエルを嬲り殺そうとしていた元上官の中尉をナイフでもって葬り去っているし、その後も幾人かのエルフィンド兵の胴体や頭に銃弾を叩き込んでいる。ブレギリルに至っては一緒に行動していた腹心やダークエルフの友人たちと共に攪乱のため前線指揮所を奇襲し、下士官兵だけでなく大尉だの少佐だのの階級章を付けた連中をも仕留めたという。

 

 要するに…エルフィンドからすると、普通に犯罪者なのだ。それも頭に「凶悪」とついてもおかしくないような。

 

 取り寄せたキャメロットの新聞経由で自分たちが指名手配されたと知った亡命白エルフたち──シンウィアルも上官殺しは明るみに出ていなかったから容疑には入っていなかったものの、それでも銃などの横領や脱走犯として指名手配リストの中に入っていた。「わお、あの時言った通りホントに札付きになっちゃったよ」などとフィンリエルたちにおどけてみせたが──は、ダークエルフだけでなく自分たちも受け入れてくれたオルクセンに迷惑をかけるわけにはいかないと考えていた。

 

「現時点でエルフィンドが何も言ってこないのは、ダークエルフについては民族浄化という後ろ暗い、探られたくない事があるからだが、自分たち亡命白エルフたちについては単に裏付けが取れていないだけである。もし外国の新聞などで裏付けが取れてしまったら、その時は外交上オルクセンを危うくしかねないかもしれない」

 

 少なくとも、ブレギリルらはこのように考えている。

 

 当初はむしろ大々的に露出し、エルフィンドを良く思わないのはダークエルフ族だけではない、白エルフにも受け入れがたいものである、と声高に発信してはどうか、という声もあった。だが指名手配犯がオルクセンにいる、という事を自ら暴露してしまうも同義であるのは事実だったし、また外国紙の記者がそのまま自分たちの発言を発信してくれるとも限らない。むしろ、もしその記者や新聞社が親エルフィンド反オルクセンという思想の持主だったら、主張を捻じ曲げられ反オルクセンに利用されてしまうかもしれない、という意見が勝った。

 

「今は雌伏の時だ。オルクセン国内ではダークエルフと共に活動しているし、貿易商と接触したりもしているから今更ではある。とはいえ今回来るのは貿易商人より遥かに効率的かつ大々的に情報を広められる外国紙の記者だ。彼らと今接触するのはリスクが大きすぎる。今後エルフィンドと開戦したら、その時は大々的に、徹底的に奴らの非を鳴らし、何もかもぶちまけてくれよう」

 

 これが今回亡命白エルフたちの出した結論だった。

 

 というわけなので、今回外国紙記者たちの取材に応じるのはダークエルフだけとなる。

 

◆   ◆   ◆

 

 フィンリエルの前に座る人間族の男性。キャメロットから来た新聞記者だ。

 

「こんにちは、キャメロットより参りました、ティンタジェル・タイムスのアーサー・フォレストと申します。本日は取材依頼に応えていただきありがとうございます」

「フィンリエル・アダリルと申します。ヴァルダーベルクの民業のまとめ役のような事をしている1人です。こちらこそ、どうかよろしくお願いいたします」

 

 いつもよりも心持ち気合が入るフィンリエル。彼女、そして他のダークエルフとしても、是非とも国外の世論もオルクセンの味方につけたいところであった。

 

「では、さっそくですが質問のほうを。ミズ・アダリルは氏族長だったと聞いておりますが、やはり氏族の方からアンファングリア旅団に参加された方はいらっしゃるのでしょうか?」

「ええ、イエスです。14名が参加しました。それと正確には私の氏族ではないのですが、昨年合流した皆からは9名が。誇りに思っています」

「なるほど、ところで『昨年合流した』というのは?」

「エルフィンドから脱出する際、その途中で他の氏族のダークエルフとも合流したのです。彼女らの本来の氏族長は、あの時に亡くなっています。中にはたまたま狩猟や収集のため集落の外に出ていたから助かったものの、ほかの氏族の皆は誰も助からなかった、という者もおります。ですので、こちらに来てからもそのまま一緒にやっている格好になっていますね。私は若輩者ですので、彼女らの氏族長代わりになれていれば良いのですが」

「そういう事なのですね…皆さん、並々ならぬご苦労をされてきたようで」

「ええ…実のところ、私からして正式な氏族長ではないのです。確かにゆくゆくは氏族長に、ということで教育はされていましたが、本来の氏族長はあの時、村の多くの同胞たちと一緒にエルフィンド軍の手にかかってしまいました。私自身も、もはやこれまでかという時はありましたし」

「もはやこれまでか…その、差し支えなければ伺っても」

「…わかりました。集落脱出後、私は他の皆とはぐれてしまったのです。何しろ急な襲撃、しかも私たちを撃ってくることはないと信じていたエルフィンド正規軍からの攻撃だったので、あの時は混乱の極致でした。そして気が付けば1人になっており、そんなとき、運悪くエルフィンド軍に見つかりました。その時運よく友達が駆けつけてくれなかったら、きっと…いえ、間違いなくあの時殺されていたでしょう」

「そうだったのですか…もしよろしければ、そのご友人ともお話させていただきたいのですが…」

「それなんですけれど、ね…」

 

 曖昧な表情を浮かべ、みなまでは言わない。

 そしてフィンリエル以外の近くにいたダークエルフたちも、俯いたり、何かを堪えるように目を閉じてみたり口を引き結んだりしてみる。

 そんな彼女らを見たフォレスト氏はというと「…これはどうも失礼を、今の質問はどうか忘れてください」と返してくる。

『フィンリエルの命の恩人でもある友人』はアンファングリア旅団に参加したか、あるいはシルヴァン川越えの際に命を落としたか…そう勝手に思い込むのはフォレスト氏の自由である。

 

「では、別の質問をさせていただきたく。皆さまはオルクセン移住後、このヴァルダーベルクを国王陛下から下賜されて住んでいる、とのことですが、実際その通りなのでしょうか?」

「ええ、イエスです。エルフィンドから逃れたあと、私たちダークエルフはここにあった演習場の兵舎に仮住まいさせていただいていたのですが、そのまま演習場、それから隣にあった農事試験場の用地を下賜していただいた格好です。この街も作っていただいたものです」

「その…対価などは、要求はされたのでしょうか?」

「答えは明確な『ノー』ですね。何かを徴収されたりすることはありませんでした。もっとも、我々ダークエルフは着の身着のまま逃げてきたので、何か差し出したくとも差し出せるものはありませんでしたけれどもね」

「…ダークエルフ族部隊…アンファングリア旅団は?」

 

 フォレスト氏の目を見てみると、何やら気づかわし気な目をしている。どうやらこの御仁、ダークエルフ族の定住と引き換えに軍部隊を組織『させられた』と思っているフシがあるようだ。

 

「確かに提案は国王陛下のほうからあったと聞き及んでおります。ですが、どうか勘違いしないでいただきたいのですが、彼女たちは進んで、自らの意思でオルクセン軍に入り、白地黒猪旗と咆哮巨狼旗のもと、事あらば戦う事を選んだのです…幾人かのダークエルフのお話をさせていただきたいのですが、よろしいですか?」

「ええ、はい?」

「私の旧知の氏族長のところのダークエルフなのですが、彼女はどうにかこうにかオルクセンへ逃げ込むことができました。ですが、彼女は逃避行の中で左手をひどく負傷しており、結局手首から先を切断することを余儀なくされました。高熱も出て、お医者様が言うには命が助かったのは運が良かった、と」

「………」

「彼女は幼馴染をあの時失っておりまして、エルフィンドへの敵愾心は凄まじいものがありました。もちろんアンファングリア旅団への参加を希望…いえ、熱望していました。ですが、その負傷のため入る事はできなかったのです。氏族長は言っていましたよ、彼女はこれまで見たことがないくらい泣いて悔しがっていた、と」

 

 フィンリエルが話したダークエルフたちの物語は、それだけではなかった。

 

 元々身体が弱く、軍務に耐えることができないと検査で判定され入隊を許されなかった者。

 白エルフへの敵愾心は他の面々に負けず劣らずあるものの、逃避行で負った深刻なトラウマのせいで、自分の意志に関わらず文字通り銃を握れなくなった者。

 氏族長ほか姉と慕っていた者のほとんどを殺され、復讐を誓ったがあまりに若過ぎ、年齢制限に引っ掛かった者。

 ある伝統技術を習得しており、今となっては習得している者が彼女だけになってしまったため、それを絶やさぬよう市井にいるよう説得された者。

 軍務に耐えることができないとまでは判定されなかったものの、彼女より上の判定の者たちまでで旅団の定数が埋まってしまった者。

 

 いずれもアンファングリア旅団への参加を希望したが、各々の事情により大粒の涙を流しながらもヴァルダーベルクに残留することになった者たちだ。

 

「確かに元々軍隊に気質が向いていないとか、銃ではなく農機具や工具を持って暮らしたいということで残留する者も多数います。ですが、ヴァルダーベルクに残る者の中にはこのように不本意ながら残る者も少なからずいるのです。つまり、これほどまでに自らの意思で軍に加わる事を望んだ者は多かった、ということです」

「…一瞬とはいえ、対価の為に部隊を作ったのか、と思っていた事をどうかお許しいただきたい。本当に、そこまで壮絶だったとは…」

「いえ、そんな…ですが、これが我々の決意であり意思なのです。どうか、キャメロットの方々にもお伝えしていただければ」

 

 フォレスト氏はすっかりこの壮絶極まる話に吞まれてしまったようで、フィンリエルの話、そして時折補足する他のダークエルフの話に真剣な顔をして聞き入っていた。

 そしていくつか質問をしているうちに刻限となったのだった。

 

「では、そろそろお時間ですね。本日は本当にありがとうございました」

「こちらこそ。どうか、キャメロットの方々に広くお伝えしていただければと思います。我々は、誰にも強制されることなく、我々の意思で行動している、と」

「ええ、必ずや」

 

◆   ◆   ◆

 

「姉さま、あのフォレストさんという記者、結構いい方でしたね」

「ええ、でもやっぱり強制されて軍部隊を作らされてるのではって思われちゃってたりもするのねえ…」

「私たちそんな事ないのに…」

「そうよね、だからこそ誤解は解かないと。じゃあみんな、次の人の時もよろしくね」

「ええ!」

 

 

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