【オルクセン王国史/二次創作】変わり者亡命白エルフと氏族長代理のその後   作:Telfe262

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12.取材対応(2)

 取材は続く。

 フォレスト氏の取材が終わって、およぞ10分後。2人目がやってきた。こちらもキャメロット人の記者だ。

 

「お初にお目にかかります、ログレス・イラストレイテッド・ニュースのルーカス・ハミルトンと申します、本日はよろしくお願いいたします」

「フィンリエル・アダリルと申します。ヴァルダーベルクの民業のまとめ役のような事をしている1人です。こちらこそ、どうかよろしくお願いいたします」

「本日は、主にヴァルダーベルクの民間社会についてご質問させていただければと思います。いやまあ、多少は軍関係の質問も出るかもしれませんが、基本的にはそういうことにしていただければと」

「軍関係は少な目、ということですか。よろしいのですか?」

「いえね、実を言うと我がログレス・イラストレイテッド・ニュースは今回オルクセンに私ともう1名を送り込みましてね。軍のほうには既に私の先輩が行っているのです」

 

 それではさっそく、とメモとペンを取り出すハミルトン氏。

 

「さて、皆さまはエルフィンド脱出後、ヴァルダーベルクへと来たわけですが…実際のところ、どのようなところなのでしょうか?」

「どのような、とおっしゃいますと?」

「ああいえ、元は演習場と農事試験場だったとは聞いております。ですが、実際に住んでみての環境なんかは存じ上げないもので」

「なるほど、そういうことでしたか。ここに暮らし始めてまだ1年も経っていないのでなんですが、大変暮らしやすいところだと思っています。気温は過ごしやすく、土地も豊かで農業にも向いた土地ですね」

「農作物がたくさん穫れるのは重要ですなあ」

「ええ、本当に。国王陛下が派遣してくださった農学者の方々の助言もありまして、エルフィンドでは見たことがないくらいの収穫となりそうです」

「そこまでですか…そういえば皆さんのほとんどは国境付近の山岳地帯が生まれ故郷でしたか。それもあるのでしょうかね」

「ええ、なので平地で暮らしていると戸惑う事もありますが、それ以上に暮らしやすくなっています。それに実際、もはや以前のような暮らしはできなくなった者もおりますし」

「…と、おっしゃいますと?」

「エルフィンドからの脱出は、過酷なものでした。生き延びはしたものの、その途中で大怪我をした者も少なくはありません。ヴァルダーベルクに残留する中には、手足を失うなどして軍務につくことができなかった者もいます。中には車椅子や松葉杖を今後一生手放せなくなった者もおります。仮に故郷へ帰る事ができるようになったとしても、彼女らはもう故郷…山岳地帯では暮らせないでしょう」

「………」

 

 質問はヴァルダーベルクの環境から周辺との関係に移る。

 

「では、次に。近隣の方々との関係はいかがですかね?」

「大変よくしていただいていますね。エルフィンドにいた頃の、白エルフからのような差別もありませんし」

「ほうほう」

「以前、ここで農地の開墾作業を住民総出で行ったのですが、その時近隣のオーク族の農家の方々も手伝ってくださいまして。おかげで事前に考えていたよりも広い土地を農地にすることができました。しかも私たちは皆へとへとになったのに、皆さんはまだまだ元気でして。驚くとともに頼もしく思ったものです」

「おお、それはすごい。この集会所、いやこの街をつくる時にも、きっと彼らオーク族は大活躍したのでしょうね」

「ええ、確かに私たちも手伝いはしましたが、相当な早さで進めてくださいました。それに、支えてくださったのはドワーフ族やコボルト族、巨狼族や大鷲族も同じです」

「ふむ、例えば」

「ドワーフ族の技師や技術者の方には街の建設時も、今も助けていただいていますし、農機具などのような便利な機械はドワーフ族の技術力あってこそのものです。そして、コボルト族の官吏が農業関係の補助の専門家としてヴァルダーベルクに派遣されているのですが、大変優秀な方で、おかげでいろいろな物事を進められています。それに、エルフィンドからの脱出時にもいろいろ助けていただきましたしね。巨狼族には放牧を手伝っていただくこともありますし、鹿などのような害獣対策でも協力や指導をしていただいています。大鷲族は空を飛び、天候の観測をしていただいています。このおかげで天候悪化前にいろいろ手を打つことができるようになりました…まさしく、皆さま枚挙にいとまがない、といった感じですね」

「いやはや…なんというか…すごいとしか言いようがないですね。ご存じかもしれませんが、キャメロットは基本人間族しか住んでおらず、しかも植民地からやってきた人々を除けば、だいたい肌の色も顔立ちも似たり寄ったりの人種ですからなあ…なかなか、私なんぞには想像できないと言いますか」

「ええ、本当に。私もエルフィンドにいたころは想像すらしなかった、できなかった社会です」

 

 ところで、とハミルトン氏は話題を変えた。

 

「ヴァルダーベルクの街ということで、ひとつお願いをさせていただいても?」

「何でしょう?」

「もしよろしければ、なのですが…ご自宅の方を見せていただくのは可能でしょうか? オルクセンの総力で、短期間のうちに作り上げた街、そしてその建物…できればぜひ、この集会所以外のものも見てみたいのです」

「ええ、よろしいですよ。ご案内しますね」

「なんと! ありがとうございます!」

 

 ハミルトン氏の依頼を快諾すると、フィンリエルはさりげなくエレンラエンに目配せする。そして魔術通信──つまり、人間族であるハミルトン氏には絶対聞き取る事のできない連絡手段──で声をかける。

 

『残ってるみんなに伝えて、今から記者が訪問するから、いろいろ片づけてって』

『了解です!』

 

 エレンラエンは不自然に見えないように、それでいて素早くハミルトン氏とフィンリエルより先に集会所の裏口から外へ出る。そして裏口のドアを閉めるや否や猛ダッシュで居宅へ向かう。

 もちろんそれと同時に、魔術通信で居宅に待機している面々に連絡を入れる。

 

『みんな、これから姉さまと一緒に記者が家を見学に来るわ! ごみとかいろいろ片づけて!』

 

◆   ◆   ◆

 

 一方、家の中。

 何かあったときのため待機していたマルウィングたちは、迅速に行動を開始した。ヤヴァサノアは寝室へ駆け込み、ベッドを整え始める。ギルルースは窓枠を飛び越え外に出る。マルウィングはテーブルの上に置かれていた本や飲み物の空き瓶などを引っ掴む。駆け込んできたエレンラエンも布巾を手に取り、空き瓶などがいなくなったテーブルを拭き始める。

 

『空き瓶3本! 行くわよ!』

『了解!』

 

 外に出たギルルースにマルウィングが伝え、1本ずつ空き瓶を放り投げる。ギルルースはそれをキャッチし、居宅の裏手にあるごみ入れへ入れる。

 

『最後の1本! それ片づけたらそのまま待機、なんかあったら伝令よろしく!』

 

 3本の空き瓶がごみ入れに消えたのち、ギルルースはそのまま窓枠の下に伏せて隠れる。何しろ彼女は隠し事が果てしなく苦手であり、本人もそれを自覚している。ギルルースに新聞記者などという生き物と対面させる勇気はマルウィングたちにはなかったし、当のギルルースも対面する度胸はなかった。それに実際問題、何かあった時こっそり動ける連絡要員は用意しておきたかったのだ。

 

『ベッドルームは片づけた! 見られても恥ずかしくないわ!』

『テーブルも完璧!』

 

 締めにテーブルの上に置かれていた本を適当な引出しに放り込み、閉める。

 

『それじゃ、ギルルース以外居間に集合!』

 

 かくして、居宅は──まあ、もともとある程度整理整頓はされていたのだけれど──来客を受け入れても恥ずかしくない程度に片づけられたのだった。一瞬の早業である。

 ちなみに片づけの際の意思疎通はすべて魔術通信で行われたため、音声的にはすべて無言のうちに行われている。観客はいなかったが、もしいたら人間族だけでなくオークやドワーフも驚いただろう。

 そしてその1分後、フィンリエルに連れられてハミルトン氏がやってきた。今の今まで片づけしていたとはおくびにも出さず、フィンリエルが案内をする。

 

「こちらが私たちダークエルフが暮らしている居宅です…みんな、紹介するわ。キャメロットから取材にいらしたハミルトンさんという記者さんよ。みんなも挨拶して」

「こんにちは!」「今日はよろしくお願いします!」

「どうもご丁寧に。申し遅れました、私ログレス・イラストレイテッド・ニュースのルーカス・ハミルトンと申します。申し訳ないですね、いきなり押し掛けてしまって。では、お邪魔します」

 

 物珍しそうな顔をしつつ室内を眺めるハミルトン氏。と、視線がテーブルへ向かう。

 

「おや、このテーブルクロスは見たことがない柄をしていますね。もしや皆様の伝統的なものですかね?」

「ええ、その通りです。ダークエルフの伝統的なデザインですね。ちなみに、これを作ったのはこちらのマルウィングです」

 

 ぺこりと頭を下げるマルウィング。そんな彼女の内心はというと。

 

(きちんと空き瓶とか片づけておいてよかった…!)

 

 そんなマルウィングの内心に気づく事もなく、ハミルトン氏は家のあちこちを眺め、いくつか質問などもする。

 そしていろいろと見た彼の感想はというと。

 

「それにしても、思った以上にしっかりした造りですね。このまま何十年も住み続けても問題なさそうに私などには見えます」

「ええ、短期間での建設ではありましたけれども、設計はしっかりしていましたし工事もしっかり行いましたからね。私たちダークエルフ族も総出でお手伝いをしました」

「ははあ…それにしても本当にきちんとした建物だ。正直ここまでとは思っていませんでした。もっとこう、言ってはなんですが雨風さえ凌げれば、というような急造品を考えてたものですから」

「確かに無理もない話ですね」

「ええ。グスタフ王は随分いろいろ考えていらっしゃるようだ…実のところ、ログレスだとこれ以下の環境で暮らしている者は少なからずおりますからな」

「そうなのですか?」

「人口も多いですし、植民地や郊外から出てきて一旗揚げようとするもそれを果たせなかった者も少なくありません。こんな商売やってると、そういう現場もちょくちょく見たりするものでして」

「ありがたいと思いますよ、本当に」

 

◆   ◆   ◆

 

 そうこうしているうちに時間は過ぎていき、取材終了の時間となる。

 

「本日は本当にありがとうございました。おかげさまでよい記事を書けそうです」

「私たちは新しい祖国で受け入れられ、暮らしています。その事をキャメロットの皆様にもお伝えしていただければ」

 

 丁寧に挨拶し、ハミルトン氏は居宅を後にした。

 

「…ふう、みんなお疲れ様!」

「姉さまもお疲れ様でした!」

「今日は本当によくやってくれたわ、おかげで変なの見られずに済んだし」

「私たちのイメージ、変に悪くしたくはないですもんね…」

「何にせよ、今日はさっきのハミルトンさんでおしまい。あとは集会所に戻って軽く後片付けをしたら今日の分は終わりね」

 

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