【オルクセン王国史/二次創作】変わり者亡命白エルフと氏族長代理のその後 作:Telfe262
数日後、取材対応がひと段落した日の夜。
ヴァルダーベルク、亡命白エルフの居宅の1つの応接間。
何日間にもわたって取材対応をいくつもこなし、さすがに少々くたびれたフィンリエルは、シンウィアルが話を聞きたがっていたのもあり、彼女のもとを訪れていた。
「フィンリー、取材対応お疲れ様」
「ええ、本当にね…話するだけとはいえ、結構疲れるものね…」
「またまた、話するだけとか言ってるけど、実際何も考えずに話してるわけじゃないだろ?」
「まあ、そうなんだけどね」
はいこれ、安物だけど、と言いつつシンウィアルは2つ置いてあるグラスに白ワインを注ぎ、1つをフィンリエルによこす。
「で、どうだった? やっぱアンファングリア旅団についても聞かれた?」
「そりゃもちろん出てくるわね。さすがに私たちが軍関係者じゃないっての承知で聞きに来てる人だったから、細かいとこは聞かれてないけど」
「ふーん、どんなふうに見られてる感じだった?」
「最初に話した記者さん、旅団の編成が強制されたと思い込んでたみたい。まったく、そんな事ないのに」
「まあどうしてもそういう風に見られちゃうんだろうなあ…着の身着のままで逃げてきて提供できるのは身体だけなわけだし」
「もちろん訂正したわよ、みんな志願兵で自分の意志で加わった、って」
「お疲れ様」
「そうそう、私個人についても聞かれたわ。やっぱり脱出行とかについて話すのはまだ少し気が滅入るわね……」
「そりゃあ、そうだよねえ…ところで一応聞くけどあたしとかについては話してないよね?」
真顔になるシンウィアル。一方フィンリエルはというと、ニンマリとちょっと悪い笑顔を浮かべていた。
「『危ないところを助けてくれた友達』については聞かれたけど、白エルフだったとまでは言ってないわ。ぜひご友人にも話を聞きたいって言われた時はちょっと表情曇らせて曖昧に返事した。うまいこと誤解してくれたわよ、今の質問はなかったことにしてくれって言われた」
「…ふふふ、さすが氏族長代理殿、うまい言い回しを考え付きますな」
「嘘は言ってないわよ? きちんと答えたわけでもないけど。それに他の子たちもなかなかいい仕事してくれたわよ」
「というと?」
「私の答えと同時に悲しそうな顔してみたり俯いたりしたりと演技してたの」
「あはは、あの子らもやるなあ! いや結構気が利くし機転も効く子たちだとは思ってるけどさ!」
「ほんと自慢の子たちよ! うまい事やってくれたのはこれだけじゃないしね」
「というと?」
「家の中見せてくれって言われた時は、残留組がさっと片づけてくれた」
「…記者にはバレなかった?」
「ええ、全部魔術通信で連絡済ませたから」
「あー…そっか、よく考えたら外国から来る記者、みんな人間族だもんなあ。魔術通信じゃ絶対聞かれないもんね」
「そゆこと」
くつくつ笑うシンウィアル。と、急に真顔になる。
「…ギルルースさん、大丈夫だった? あの子全然隠し事できないよね、あたしの事とか話してないよね?」
「あ、それは大丈夫」
「確証あるのかい?」
「ええ、だってあの子隠れてたから。いざって時の伝令のためって事もあるけど、記者が来るって聞いてすぐ外に出てたんだって。万が一変な事とかシンウィーとか亡命白エルフの事とか話したらまずいからって」
「あはは…本人も自覚してるんだね…」
「馬鹿正直で隠し事が苦手な分、自分のそういうところはきっちり自覚してるからね、あの子…」
「ま、それなら良かった」
グラスを傾けつつ、机の上に置かれているメモの束を眺める。フィンリエルがここ数日の取材対応のため作っていたカンペや資料だった。
「しかしなんだね、やっぱあっという間に作られた街ってのも気になるんだねえ」
「よくよく考えると、相当短期間だったものね。だってほら、ディネルース姉さまと仲間たちがこっちに最初にやってきたのが、確か去年の10月頃だったわよね」
「でもって脱出支援作戦が発動したのがそのちょっと後。それと同時にヴァルダーベルク建設が決まったとしても…いややっぱものすごいペースだな?」
「アンファングリア旅団の影に隠れてるけど、こっちもこっちでとんでもない即断即決よね!?」
「冷静に考えるとそうだよなあ、そりゃ海外の人も興味持つよなあ。人によってはアンファングリア旅団よりも興味持ちそうなネタだよなあ…そういや記者さんはどうだったって?」
「思ったよりずっときちんとしてたって褒めてたわ。正直雨風防げる程度のその場しのぎの急造品だと思ってた、って」
「わお、そりゃよかった。みんなで頑張った甲斐があるね」
「ほんとにね」
空になったグラスに白ワインを注ぐ。
「…ここ数日は悪かったね」
「どしたの急に」
「いや、手伝えなくってさ。一応あたしもいくらかキャメロット語はできるっちゃできるから、いくらかは手伝えたかもだし」
「気にしないで、ブレギエルさんの言う事はもっともだもの。万が一外交的にオルクセンの弱みになったらそれどころじゃなくなっちゃう」
「まあ、そりゃわかるんだけどね…」
「もし今後『そういう事』になって、またよそからも記者が来るような事になったら、その時はよろしく頼むわよ」
「…もちろん! いや、もし『そういう事』になったら頼まれなくたってこっちから記者たちに押し掛けるさ。あたしだけでなく、亡命白エルフ総出でね。ある事ない事、何から何までぜーんぶぶちまけてくれる」
「ある事はともかくない事はナシの方向でね!?」
フィンリエルもシンウィアルも意図的にぼかした言い方をしているが、もちろん『そういう事』が何なのかはお互い理解している。彼女らは『そういう事』は近い将来起きると確信していたし、事実起きることになる。
その際ヴァルダーベルクには国内外から多数の記者が再び、いや今回以上の人数が押し寄せてくることになるのだが、その際フィンリエルら残留組の氏族長級ダークエルフはもちろん、姿を対外的にもあらわにした亡命白エルフたちもその対応をすることとなる。
この時の、ある記者とシンウィアルとの問答は、オルクセン社会のみならず国外においても少しばかり話題となった。
『もしも、あくまでも仮の話ですが……オルクセンが今後逆転され、ヴァルダーベルクにまでエルフィンド軍が侵攻してくる事態になったら、あなたはどうするおつもりですか?』
『言うまでもなく銃を持って戦う。オルクセンは心からの敬意を捧げられる新たな祖国であり、ヴァルダーベルクは最高の親友と共に作り上げた新たな故郷だ。今更それを捨てるつもりはない。そうするくらいならば、ここで最期まで抵抗し、ヴァルダーベルクを枕に討死にしたい。エルフィンドの白銀樹になど戻るものか、喜んでオルクセンの、ヴァルダーベルクの土になってくれる』
とはいえ、これはまた別の話、まだ先の話だ。
今日は土曜日。明日は休みだ。
そんな状況なのもあり、いつの間にやらテーブルの上に置かれたワインの空き瓶は増えていたし、ワインのみならずウィスキーなども登場していた。つまり、フィンリエルはそれなりに酔っていた。
「はー…ほんと、シンウィーもヴァルダーベルクにいてくれてよかったって思うわよ。心の底から」
「そこまで言ってくれるのかい」
「ええ、対等にものを言える友達って、本当にいいものね。もう今となってはシンウィーくらいしかいないもの」
「ああ…そっか、確かにねえ…」
フィンリエルと共に亡命してきたダークエルフは元々彼女の氏族の出身だった21名と、シルヴァン川越えの際に合流した元他氏族出身者12名、合計33名。
フィンリエルがかつて住んでいた村がエルフィンド政府軍に襲撃された時には、真っ先に標的になったのは氏族長宅だった。このため、氏族の幹部と言える年かさの者は最初のうちに皆殺されてしまっていた。また、中途合流組はいずれも狩猟や採集のため集落の外に出ており難を逃れた者や、年上の者が時間を稼いでいるうちに集落の外へ脱出した者ばかりであった。このため、33名はいずれもフィンリエルより年下の比較的若いダークエルフだった。
つまり、この33名にとってはフィンリエルは『姉さま』だったのだ。
そしてヴァルダーベルクに来てからというと、将来の氏族長候補だったということで氏族長代理──さすがにあんな事のあとでは正式に氏族長と名乗る気にはなれなかったし、氏族の生存者たちもそれを尊重してくれている──となり、他の氏族長級のダークエルフたちと共に民間ダークエルフ社会のまとめ役の1人となり、仕事も他のまとめ役と同じくらいには割り振られる立場にはなったものの、それはそれとして他の面々に比べるとどうしても年下となる。そんなわけでどうしても『妹分』として見られてしまうフシがあるのだ。
「そういうわけだからさ、気楽にくだらない話なんかもできる友達いるの、気が結構楽になるのよ」
「そっか」
「…別に他のみんなが嫌いなわけじゃないのよ。氏族のみんなも合流したみんなも可愛い妹分だし、他のまとめ役やってる氏族長さんたちも頼りになるし優しいし。でも、気楽になんでもかんでも話せるかっていうと、さすがにねー…」
「難しいだろうねえ、なかなか…」
「そーゆーわけ! ほんと一緒に来てくれてありがとう、シンウィー大好き!」
「よしよし、あたしもだよ」
いろいろ思う事があるせいか、明らかにフィンリエルの飲むペースはシンウィアルより早かった。その分早く酔ってしまったらしい。そんなフィンリエルを撫でてやる。
と、上機嫌だったフィンリエルがほつりと漏らす。
「こうして見ると、ほんと大変よね、ディネルース姉さま…」
「どうしたんだい、急に」
「私にはシンウィーがいるけど、姉さまにはいないもの。イアヴァスリル姉さまも対等な友達じゃなくて妹分みたいだし」
「そういえば、そうみたいだよね…」
「友達でも恋人でもなんでもいいけど、姉さまにも対等に、気楽に付き合える相手ができるといいけどね…姉さまにも幸せになってほしい」
「確かになあ。ディネルースの姉御殿は、あたしたちみんなの大恩人だもんな…」
深夜、フィンリエルたちの居宅。
彼女の氏族の一員であるエレンラエンは、まだ起きていた。フィンリエルは先に寝ちゃってていいわよと言い残していたのだが、それでも彼女の帰りを起きて待つ──いやまあ、実はつい最近仕入れたキャメロットの推理小説をじっくり読みたかったというのもあるのだけれど──つもりだったのだ。
推理小説は佳境に入っていた。殺人事件の被害者が過去何をしたのか、いよいよ明かされる部分だ。読み進めていると、誰かが扉をノックする音が聞こえた。
「はーい!」
「やあ、遅くにごめんね。フィンリー返しに来た」
ノックしたのはシンウィアルだった。その背中には、酔った末に眠ってしまったフィンリエルが背負われている。
「ああ、お疲れ様です……」
「このままベッドに寝かしちゃっていいかな、靴だけ脱がせてさ」
「手伝いますね」
「ありがとう、助かるよ」
シンウィアルはフィンリエルをおぶさったまま居宅内に入り、エレンラエンが靴を脱がせる。
そしてそのまま寝室のドアを開け、フィンリエルのベッドに彼女を寝かせる。起きる様子はなく、幸せそうな寝顔をして熟睡したままだ。
「手伝ってくれてありがとうね、じゃ、お疲れ様。あたしはこれで失礼するよ」
「その前に、ちょっとだけお話いいですか?」
「なんだろう?」
「いや、実は私、寝落ちするほど酔った姉さま、初めて見たもので……何かあったんですか?」
「いやあ、単にここ最近の近況とかどうでもいい話とかしながら飲んでただけさ。別にやけ酒に溺れてたってわけじゃないから心配無用だよ」
「そうなんですか…でもそれでいてここまでなるという事は、やっぱり姉さまとシンウィアルさん、とても仲がいいんですね」
「まあね。少なくともあたしにとっては、唯一無二の親友さ。我ながら幸せ者だと思うよ、そこまでの親友を持てたってのは。エレンラエンさんにもいつかそんな友達ができるといいね」
「親友ですか…すべてを捨てて、命をかけてもいいと思えるくらいの?」
「その通り。ま、あたしの場合大切なものなんか何もなかったから全部捨ててこれたんだけどね。大切なものがいくつもあるフィンリーはなかなかそうもいかないと思うよ。みんなの事は大切な、可愛い妹分だと思ってるって言ってたし」
「大切な、可愛い妹分、ですか」
「そう。フィンリーがみんなのことを大事に思ってるのは間違いない。あたしにはそんな存在いなかったからね、そこはちょっと羨ましいかな…やれやれ、こんな事言いだすとか、我ながらそこそこ酔っぱらってるなあ…ボロを出す前に撤収しようかな」
「では、おやすみなさい」