【オルクセン王国史/二次創作】変わり者亡命白エルフと氏族長代理のその後   作:Telfe262

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18.宴席にて

 フィンリエル・アダリルは、オルクセン王国の社会においていくつかの立場を持っている。

 1つ目はかつてコリドヴィ村という村落を拠点としていた氏族の氏族長代理、という立場だ。本来の氏族長はエルフィンドによる民族浄化の際殺害され、氏族の主だった者も共に殺されてしまった。そのため元々将来は氏族長に、ということで氏族長候補として教育や経験を積んでいた彼女が氏族の幹部としては唯一の生き残りとなってしまったため、そのまま氏族長代理としてその立場についたのである。今では21名の生存者と、シルヴァン川越えの時に合流した他氏族の生き残り12名の面倒も見ている立場だ。今となっては彼女含め計34名の氏族の長と言っても誇張ではないだろう。

 

 2つ目は亡命白エルフの1人であるシンウィアル・ブレギリルの親友という立場。これがあったからこそ、彼女はオルクセン軍、というよりアンファングリア旅団には入らず、後述する民間社会のまとめ役の1名となったのだった。ともかく、そんな立場でもあるため、今ではシンウィアル経由で亡命白エルフの集団ともいくらかやり取りをしていたりもする。

 

 3つ目はアンファングリア旅団に参加せず、オルクセンの民間社会で生きることを選んだダークエルフ族のまとめ役という立場。あくまでも非公式なものであり、法律や条例などで明文化されたものではないものの、主に氏族長やそれに準ずるダークエルフが主となって自治委員会なり管理組合なりとでも言うべきものが民間ダークエルフ社会では形成されており、フィンリエルもその一員となっている。そのため、内部での課題の吸い上げや、外部とのやり取りにも携わっている立場だ。

 

 とまあ、こんな立場であるからには…公的にしろ私的なものにしろ、宴席に参加する事はそれなりに多かったのだ。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 ある時──アンファングリア旅団の編成が終わった頃──には、参謀本部の一部将校たちによる親睦会に招待された。

 当初はできたばかりのアンファングリア旅団の幹部連と参謀本部とで顔繋ぎしておこう、という具合だったのだが、せっかくだから民間の代表者も呼んでダークエルフ社会全体と顔をきちんと合わせよう、という話になったとかでフィンリエルらも招待されたのだ。

 

「それにしても…」

「いやあ、すごい食べっぷりだねえ」

 

 その席で、フィンリエルたち、というか民間も軍所属もダークエルフたちは皆改めてオーク族の食欲に驚かされたのだった。彼女たちやコボルト、ドワーフが1皿食べる間に、オーク族は2、3皿は食べきっているという状態なのだ。

 

「でも、すごいのは食欲だけではないわね…」

「…アダリルさんも気づかれましたわね?」

 

 参謀たちはよく食べよく飲み、程よく酔っており、笑い話やジョークなど──しかも内容から、なかなかに教養深い事も察せられるものも多い──を飛ばしつつも、それでも素人目に漏らしてはならないのではないか、という事──例えば具体的な部隊配置やら兵器の性能やら何やら──には一切触れていないのだ。軍隊絡みのネタであっても細かいところに関するものはない。それにそもそもべろんべろんになるほど酔っぱらっている者は皆無だ。

 きっとその辺りの振る舞いもきっちり指導されているのだろう。かなりの自制っぷりであった。

 

「本当に侮れないよね」

「でも、味方だから心強いわ」

「本当に! こんなのが敵だったらどうなってたことやら!」

 

 と、そんな雑談をしていた彼女らのもとに、オーク族の将校が近づいてきた。肩には大佐の階級章が付いている。

 年齢は年かさとまでは言わないものの、この前見かけた参謀本部次長兼作戦局長グレーベン少将よりは一回り、いや二回りは年上といったところか。

 

「こんばんは…皆様が、民間のまとめ役の方々ですかね?」

「ええ、その通りですわ」

「…いかがでしょうか、ヴァルダーベルクは。不自由などはしておりませんか?」

「いえ、とてもよい場所ですし、近隣の皆様もとてもよくしてくださっています」

「では、民間のまとめ役という立場はいかがですか? 何か、お困りのことなどは?」

「小さい事は多々ありますけれど、自力で解決できるようなことばかりですわ」

 

 フィンリエルらが答えると、大佐は明らかに安堵した様子であった。

 

「そうでしたか、なら良かった。申し遅れました、自分はシュテファン・プレスシュタットという者です。直接お会いするのは今日が初めてですね」

「プレスシュタット大佐…あ、もしかして、リッテンバウム大尉たちの上官の方ですか!?」

「その通りです。そして…皆様に従軍しないようお願いした件の責任者でもあります」

「そうでしたか、あなたが…」

 

 どうもプレスシュタット大佐は今の今まで気に病むとまでは言わないにしろ、気にしてはいたらしい。

 

「どうか、お気になさらず。実を言うと、私はリッテンバウム大尉たちがやってくるまで迷っていたんです。銃を取るか、そうでない道を選ぶか。むしろ背中を押してもらえたと思っているくらいです」

「僕も似たり寄ったり。僕のところには脱出行の時に大怪我して、今も障害がある子もいて…その子を放って軍に入ってもよいものか、と悩んでいたんです」

「私もあの時は食い下がりましたけれども、今ではこの役目も大事でやりがいがある、と思っていますわ」

「そう言っていただけると救われますね。どうか、今後ともよろしくお願いいたします」

 

 

◆   ◆   ◆

 

 さて、亡命白エルフにも、一応社会とまではいわないにしろちょっとした集団は存在する。オルクセン王国の誇る戸籍簿においては、ブレギエル・アルリンドという白エルフ──彼女は亡命白エルフたちのうち、最初期に亡命してきた面々の中では唯一かつて氏族内で役についていた──を氏族長とする一氏族、という扱いになっている。

 まあ、実際のところは確かに種族的には皆同じ白エルフではあるし、思想信条にも似通ったところはあるものの、オルクセンへ脱出してくるまではお互いの存在すら知らなかったくらいの仲であるし、何より大半の亡命白エルフはそれこそシンウィアルのように一緒に脱出してきたダークエルフたちのところに入り浸っているのもあり、フィンリエルなどからすれば「確かにそういう事にしとくのが扱いやすいかもしれないけど、氏族って言うにはだいぶ緩過ぎないかしら…?」というような集団であった。

 とはいえ、亡命白エルフたちが皆それに属しているのも事実だったし、時折親睦会のようなものを開くことがあったのも事実だ。そしてそこにフィンリエルのような彼女らと親しい面々が呼ばれるのも自然な流れだった。

 

「私さ、ディアネンで働いていた頃、懇親会に行った事あったの」

「フィンリー、アレに出たんだ? あたしは面倒だから毎回欠席してたけど」

「最初の1回だけよ。なかなかいやーな空気だったわね。みーんな『確かに建前もあるから招待状は渡したけど、本当に来る奴があるかよ』って顔してたわ」

「連中らしい…」

「それと出席者の見た目だけは似てるけど、あれとは全然違うわね。その嫌な空気が全然ない。ていうかむしろ楽しい。なんだか不思議な感覚ね」

 

「そう言ってもらえると、私としても招待した甲斐があったというものだね」

 

 雑談するフィンリエルとシンウィアルのもとへやってきたのはブレギエルその人だった。彼女が今日の懇親会の主催でもある。

 

「こんばんはアルリンドさん、おかげで楽しませてもらってます」

「なら良かった。我々としても同じオルクセンに、ヴァルダーベルクに住まう者として皆さんとは仲良くさせてもらいたいからね」

「ええ、私としても同感です。あの時シルヴァン川を越えた以上、私たちは運命共同体だと思ってます」

「そう思ってもらえるとありがたいね…招待状は出させてもらったが、来てもらえない相手もそれなりにはいるものだからね」

 

 この時期、アンファングリア旅団は正式に発足し編成完結式も既に終わっていたが、それでもディネルース・アンダリエルらは多忙な日々を送っている。

 実のところ彼女らが欠席しているパーティーや親睦会の類は多い。

 だが、その気になれば今日の懇親会に来ることができるが敢えて欠席している、というダークエルフもある程度いるのもまた事実なのだ。

 

「…難しい話ですね」

「ああ、無理に説得しろ、と言っているわけではないとも。どうしても合う合わないはあるし、我々の見た目の問題もあるからね…」

「それは…」

「仕方ないさ、事実だからね。だから我々は行動で示していくつもりだ。川の向こうにいる奴らとは違う、とね。そして少しずつでも理解者を増やしていく…ことができればと思っている」

 

 後日のことになるが、ブレギエルをはじめとする亡命白エルフたちの行動は、半ば報われ半ば報われなかった、という形になる。

 ベレリアント戦争中や戦後には彼女らの行動を見て信頼することにし、ある程度の付き合いを持つようになるダークエルフは確かに増えた。その中にはアンファングリア旅団に属する者もいた。

 だが、それでも付き合いをやんわりとではあるものの拒絶し続ける者はいた。理屈ではわかっていても、どうしても感情というものでは納得できないのだった。

 

 とはいえ、そのような面々であっても亡命白エルフたちをあからさまに拒絶したりだとか、あるいはエルフィンドの白エルフと同列に扱おうという者はほぼ出なかったのもまた事実であった。

 亡命白エルフたちもまた、オルクセン、ヴァルダーベルクでささやかながら席は確保していたのだ。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 ある程度皆が新しい日常に馴れた時期になると、街へ繰り出すダークエルフたちも増えた。アンファングリア旅団に属する者も例外ではない。

 土曜の午後などは仲の良い者同士で連れだってクライストを筆頭とした居酒屋へ行く者も多かった。そしてそんなところにフィンリエルたちが遭遇することもあったのだ。

 

 ある土曜日の昼のこと。フィンリエルはシンウィアルと一緒に昼食を…とクライストへ行ったのだが、さすがに満席だったのだった。

 

「済まないね、見ての通り満席でね…」

「まあ時間帯も時間帯だものね…」

「他当たろっか?」

 

 クライストから出ようとするフィンリエルたち。と、そこに声をかける者がいた。

 

「フィンリエル姉さま! それにシンウィアルさんも!」

 

 見ると、とあるテーブルにいるダークエルフたちの一団のうち1名がこちらに手を振っている。フィンリエルの氏族の一員であり、今では猟兵としてアンファングリア旅団に属しているベルリエンだ。

 よく見るとベルリエンのほかにも同じくフィンリエルの氏族の出身者であるホルスエレンや、シルヴァン川越えの際に合流したロスリエルもいる。いずれも猟兵のとある部隊に所属していたはずだ。

 どうやら部隊の仲の良い者で食事に来ていたらしい。

 

「あら…ベルリエンにホルスエレン、ロスリエルも! みんなで来てたんだ?」

「はい! 良ければ姉さまとシンウィアルさんも一緒にどうですか?」

「いいの?」

「ええ! みんなもいいでしょ?」

 

 ベルリエンの申し出に対し、他のダークエルフたちも頷く。皆興味深そうな顔や面白そうな顔をしているあたり、不満もなさそうだ。

 

「それじゃ、お言葉に甘えて…」

 

 話は弾んだ。

 軍隊生活のこと、同僚のこと、訓練のこと。農業のこと、役所のこと、農作物の売買のこと。

 ほかにも、お互いの私生活やこれまでのことも。

 

「ところで…シンウィアルさん、でしたっけ? もしかして、ロスリエルが逃避行の時狙撃して外したっていうのって…」

「ああ、それあたし」

「やっぱり!」

「あの時ばかりはお互い運が良かったよ、あの時のフィンリーは正直おっかなかったし」

「あのくらい怒ってた姉さまは私も初めて見たよお」

「もう、みんな毎回ネタにするんだから…あの時はほんとごめんなさい…」

「何度も言ってるけど状況が状況だったし、何よりあたしはこの通りピンピンしてるから謝る必要なんてないって」

「あの時は私も怒り過ぎたわね…悪かったと思ってるわ…」

「ま、今はこうして笑い話に出来てるからいいって事なんだろう、たぶん」

 

 そういえば、と続ける。

 

「猟兵って、騎兵なんかに比べると狙撃する機会も多いと思うけど…腕前はどんなものなのかしら?」

「実はですね姉さま、ロスリエルはあの出来事をかなり気にしてたのか努力を重ねまして…今では我が小隊最強の狙撃手なのです…!」

「あら、それはすごいわ!」

「あの時は失敗して良かったけど、次は絶対仕損じるわけにはいかないな、と!」

「心強いね」

「ただ、ちょっと心配な事がありまして」

「というと?」

 

 ロスリエルは続ける。

 

「いざ『そういう事』になって、私が戦場に行ったら…ちゃんと、撃てるのかなと。どうしてもシンウィアルさんとか、他の皆さんが浮かんじゃうんじゃないかと…」

「………」

「じゃあ、張本人のあたしから言わせてもらっていいかな?」

 

 黙り込んでしまうフィンリエルに代わり、シンウィアルが引き取る。

 

「『そういう事』になったら、あたしの事、いや、亡命白エルフの事は忘れるんだ」

「忘れる…」

「そう。あたしとしては君らに何か良くない事が起きるくらいなら、忘れてもらって無事に帰ってきてくれるほうが嬉しいからね」

「でも…」

「それができないでも、あっちにはあたしらみたいなのはいないと考えてくれ。なんせあっちにいられなくなった、あるいはいる価値なしと見なしたからこそ、あたしらはオルクセンにいるんだからね」

「でも、同じ氏族出身者とか、いるのでは…」

「考える必要なし。あたしらは氏族も白銀樹も立場もその他諸々何もかも、全部自分の意志で捨ててきたわけだから。それに少なくともあたしに限って言えば未練もないね」

「それは事実よ、シンウィーは故郷の事随分嫌ってるし」

「嫌いとまでは言わないさ、焼けようが残ろうがどうでもいいってだけで。まあ、何にせよ、だ。あたしとしてはみんなには無事に帰ってきてほしいからね、変に躊躇とかしないでくれって話なのさ」

「…わかりました!」

 

 …そんなこんなで、フィンリエル、また場合によってはシンウィアルも日々を過ごしていたのだった。

 

 

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