【オルクセン王国史/二次創作】変わり者亡命白エルフと氏族長代理のその後   作:Telfe262

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19.動員

 星歴876年10月14日。

「国境有事に備えた大規模演習」が行われることとなり、動員が開始された。

 ダークエルフたちにとっても無関係な話ではなく、ヴァルダーベルクに衛戍地を構えるアンファングリア旅団もその対象となった。

 

「ね、ねえ…これって、もしかして、『そういう事』だったり…!」

 

 さすがに平静ではいられないフィンリエルは、農務省官吏・アルレスハイムに聞き込みをしていた。

 本来なら軍の事ならヴァルダーベルクに置かれているオルクセン国軍参謀本部の分室の者にでも聞けばよいのだろうが、彼らは皆アンファングリア旅団に先立って出発してしまい、もはや誰も残っていなかったのだ。

 

「うーん、私は軍の事はちっとも詳しくないのでアレですけれども…半々、ってところなんじゃないですかね…?」

 

 1分ほど考え込んでいたアルレスハイムの答えは、なんとも煮え切らないものだった。

 

「そういうものなの?」

「いえね、エルフィンドやよその国ではどうだか知りませんけど、我が国では演習は年に1回か2回はやるんですよね。その時は予備役も招集されてますし」

「そうなんだ…」

「なのでヴァルダーベルクの皆さんは復仇の時来たれり! と盛り上がっちゃってますけども、今回は肩透かし食らう可能性も十分あるかと」

「でもさっきは半々、って言ってたわよね? ということは、やっぱり『そういう事』という可能性も…!?」

「そういう可能性もあるかと。ここのところだいぶ情勢きな臭いですからねえ…とはいえ、情勢がアレだからといって、きっかけがない事にはいきなり開戦って事にはならないとも思いますけど」

「私たちダークエルフの件は…あくまでもエルフィンドの国内問題って扱いになるから無理ね」

「まあ、あれですね。『そういう事』ではなく、単なる普通の演習をやるだけやって、がっかりして帰ってくる皆さん方にかける言葉も、今のうちに考えておいたほうがいいのかもしれないですね…」

 

 その後も、フィンリエルは聞き込みを続けた。

 付き合いのある農薬や肥料などの業者に、近隣の農家、作物を売却している農業組合関係者などなど。

 温度差こそあるものの、皆「例年の演習だと思う」か、「わからないが『そういう事』ではない可能性も考えておいた方がいい」という答えであった。

 

「…まあ、そんな感じだったから結局どうなんだかわからないのよね」

 

 あちこちに聞いてみて、結局わからずじまいだったフィンリエル。いつもの通りシンウィアルと話もするのだった。

 

「この国だと、演習ってそんな珍しいものでもないんだねえ」

「他にも報道管制とか、あと軍隊が鉄道使うあれこれとか、いろいろ出てるみたいだけど、それも普通に演習の時に出されてるものなんだって」

「その辺やっぱお国柄、ってことなのかね」

「…ねえ、シンウィーとしてはどう思う?」

「あたし?」

「ほら、シンウィー一応エルフィンド軍にいたわけだし」

「いやまあ確かに所属はしてたけど、ほんのちょっとの間下っ端やってただけだよ。あたしの考えなんて参考にならないと思うんだけどなあ」

「いいから」

「うーん、そうだなあ…」

 

 どうかなあ、などと呟きつつたっぷり3分ほど考え込んだ末に、シンウィアルが出した結論は。

 

「あたしもアルレスハイムさんと同じく、半々じゃないかなーと思う」

「理由は?」

「演習って、軍隊動かす理由付けにはなるわけじゃん? 世間にも動く兵隊とかにもほんとの目的をぎりぎりまで知らせたくない、って時には表向き演習って事にするのは、まああるよね…フィンリーが聞いて楽しい話じゃないと思うけど、続けていいかな?」

「ええ、続けて」

「…あの時、あたしが動員されたときも最初は『国境有事に備えた演習』って名目だったんだよ」

「…なるほど」

「でも、それ聞かされた時の直接の上官だった伍長は『ま、たまにはそんな事もあるか。結構久しぶりだけど』って反応だったんだよね。つまり演習のために動くって事になって、実際普通に演習だった、って事もあるわけだ。というか普通はそうだしね。でも情勢きな臭いってのもあるから…結論、わかりません! あたしにはお手上げ!」

「そっかあ…」

 

 結局、フィンリエルとしてはどちらなのか判断できないまま、時間は過ぎて行った。

 

◆   ◆   ◆

 

 数日後。アンファングリア旅団がヴァルダーベルクを出立するときが来た。

 旅団長であるディネルースを先頭に隊列を組み、衛戍地を出て、最寄り駅であるアルブレヒト駅へと向かっていく。

 この後彼女らは列車に乗り、オルクセン北部、エルフィンドとの国境付近へ行くことになる。

 

 もちろんフィンリエルほかヴァルダーベルクに残る氏族長級のダークエルフたちも、彼女らを見送る。

 

 ──隊列の先頭を行くディネルースと、目が合った。彼女は軽く頷いた。

 

 この時。

 フィンリエルは、いや、彼女のみならず、見送っていた皆はこう言われた気がした。

 

「行ってくる」

「あとは頼んだ」

 

 と。

 

 直接声をかけられたわけではないし、魔術通信を入れてきたわけでもない。ただ目を合わせ、目礼した。それだけだ。

 

 だが、フィンリエルたちにはそれで十分であったし、その目は、今回の「国境有事に備えた大規模演習」は、「そういう事」…すなわち対エルフィンド戦争の開戦に他ならないと彼女らに確信させるにも十分だった。

 

 もちろん見送るのはディネルースだけではない。

 フィンリエルは氏族長代理だ。そして彼女の氏族からアンファングリア旅団に入った者はいる。

 また、元々は彼女の氏族の生まれではないものの、シルヴァン川越えの時に合流して以降面倒を見ている者もおり、その中にも同じくアンファングリア旅団に入った者はいる。

 

 彼女らのことも見送った。

 

 騎兵、9名。

 猟兵、9名。

 砲兵、2名。

 工兵、1名。

 輜重兵、2名。

 

 ある者は「必ず返すから」と、残る者から本を1冊借りて行っている。背負う行李の中にその本は入っているはずだ。

 ある者は元々の氏族長の形見をフィンリエルに預けていった。理由は言わず、ただ帰るまで預かってほしいとしか言わなかったが…万が一のことを考えているのだろう。

 ある者は帰ったら一緒にイーディケにシャーベットを食べに行こう、と残る者と約束していた。

 ある者はかつて暮らしていた集落と住民たちのことについて、覚えている事を夜通し書き残せるだけ書き残し、その紙の束をフィンリエルに託して行った。

 ある者は同じ小隊に属している絵の上手い者に自分の似顔絵を描いてもらい、それを置いて行った。

 ある者は残る者にいくらか金を貸した。「帰ったら返してもらうからね」「絶対返すから、絶対帰ってきて」という会話をフィンリエルは聞いていた。

 

 それらの約束が果たされてほしいし、何かを覚悟しているような行動は将来笑い話になっていてほしい。そう考えるフィンリエルだった。

 

◆   ◆   ◆

 

 その日の夜。

 ヴァルダーベルクを出立したアンファングリア旅団は、既に列車に乗ってヴァルダーベルクを、いやヴィルトシュヴァインを去っている。

 今や衛戍地に残っているのは留守を任されているごく一部のみであり、兵舎などの大半は消灯され真っ暗になっていた。

 明かりがついていないだけでなく、普段なら衛戍地内から聞こえてくる喧騒はまったく聞こえず、静まり返っている。

 

「なんだか、がらんとしちゃったなあ」

 

 今のヴァルダーベルクに残っているのは、ごく少数の留守部隊を除けば約四千名の民間のダークエルフと、百数十名の亡命白エルフだけである。

 普段のヴァルダーベルクにいる過半数がいなくなった事もあり、どことなく空虚な空気がヴァルダーベルクには漂っていた。

 

「ほんとになあ、昨日までは賑わっていて、兵舎とかにも明かりがついてたのに」

 

 衛戍地の近くに来ているのは、フィンリエルだけではない。

 彼女同様どんな様子になっているのか気になって見に来たらしい者はちらほらいた。今フィンリエルの横にいるシンウィアルもそんなクチだった。

 

「今日はまだ平日だからあれだけど、土日になったらもっと思い知るんでしょうね…」

「土日遊びに出てたみんながいないわけだものなあ…」

 

 どうか、あの喧騒が帰ってきますように。

 フィンリエルもシンウィアルも、そんな事を思いつつ衛戍地の門を見つめていたのだった。

 

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