【オルクセン王国史/二次創作】変わり者亡命白エルフと氏族長代理のその後   作:Telfe262

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3.できる事とできない事、やってほしい事とやってほしくない事

 星歴876年1月下旬。

 ついに、ダークエルフ旅団の編成が軍より正式発表された。これと同時に、人員の募集開始日時も発表された。

 臨時に志願兵事務所とされたヴァルダーベルクの新築の集会所は、今はまだ誰もいないが、募集開始日には旅団への入隊を志願するダークエルフで長蛇の列ができるだろう。その中には、フィンリエルの氏族の者も幾人か並ぶことになる。

 

 そんな募集開始日を数日後に控えた、ある日。

 オルクセン軍の馬車が、参謀本部からヴァルダーベルクにやってきた。降りてきたのは幾人かの将校。全員その軍服の肩には参謀肩章が付いている。つまり参謀科の所属であった。皆が皆、浮かない顔をしていた。

 

「それじゃあ、話をしに行くか」

「楽しい話じゃありませんね」

「ああ…だが二重三重に必要だからな。仕方あるまい」

 

 将校たちは各々目的の人物のもとへと向かっていった。そのうち2人が向かったのは、フィンリエルたちの居宅だった。

 

「私に、来客?」

「ええ、軍の参謀の…リッテンバウム大尉という方と、ブラウンドルフ中尉という方が、フィンリエル姉さまに用件があるとかで」

「どういう事かしら…?」

 

 ギルルースに連れられていった先の応接間では、既に2名のオーク族の将校が待っていた。階級はそれぞれ大尉と中尉。彼らがリッテンバウム大尉とブラウンドルフ中尉で間違いなさそうだ。

 

「参謀本部、オットー・リッテンバウム大尉と申します」

「同じく参謀本部、ヴィルヘルム・ブラウンドルフ中尉であります」

「フィンリエル・アダリルです。何か私にご用件があるとか」

「はい、誠に申し上げにくいのですが、ある事をお願いさせていただきたく…」

 

 言いにくそうな大尉に対し、ギルルースが声を上げた。

 

「…重要な話のようですので、フィンリエル姉さま…いえ、氏族長代理のみではよろしくないのでは? もし問題なければ同席させていただきたいのですが」

「ええ、結構です。特段軍機に属する話でもありませんので」

 

◆   ◆   ◆

 

 一方そのころ、オルクセン国軍参謀本部。

 参謀本部次長兼作戦局長であるエーリッヒ・グレーベン少将は、部下のとある参謀と話していた。

 

「さて、そろそろあいつらはヴァルダーベルクへ着いた頃かな」

「おそらくは。しかし…なかなか厳しい任務ではありますな」

「必要ではある。軍事的にもそれ以外でもな」

「とはいえ…彼女らに、直接的な報復を諦めろ、と言うも同然ですからな」

 

 彼らの派遣した将校たちの目的は、幾人かのダークエルフの説得だった。

 

 ──今後、ディネルース・アンドリエル殿を旅団長に据えたダークエルフ旅団を編成する予定となっているが、どうかその部隊への参加を辞退していただき、オルクセン国内に残留していただきたい。

 

 それがその説得の内容だった。

 

 対象となるのは、幾人かの氏族長級のダークエルフだ。

 無論、無作為に選んだわけではない。彼女らは、いずれも亡命白エルフとある程度以上のかかわりがある面々だ。

 

「彼女らが従軍して、万が一捕えられ、人質にされて強要されたら…一歩間違えれば縁のある亡命白エルフがあちら側に転びかねませんからね」

「それなんだよな。それから、万が一亡命白エルフの中にスパイがいたら、そいつ経由で情報が流れかねん。氏族長級となれば将校としての待遇になるからな、将校級にしか話せない情報があっちに流れたら相当まずい」

 

 彼らが警戒しているのは、亡命白エルフとの関係をエルフィンド軍に利用されることであった。亡命白エルフの中には、シンウィアルのように民族浄化作戦が行われる寸前までエルフィンド軍に籍を置いていた者は少なくない。つまり、彼女らの情報はエルフィンド軍に握られている。

 そして、脱走した元将兵のリストから遺体が発見された者や捕縛された者を引けば、未だに行方不明な者が浮かび上がる。さらに、逃亡するダークエルフの中に、エルフィンドを裏切った白エルフの姿が目撃された事もおそらくは一度や二度ではないだろう。これらの情報を統合すれば、未発見の脱走兵はダークエルフと共にオルクセンへ逃亡したという結論が出るはずだ。少なくとも、グレーベンなどは既に彼女らの存在と詳細な構成員は全部ではないにしろエルフィンドに露見していると考えている。そしてそのオルクセンへ逃亡したと思われる脱走兵を詳細に調べれば、交友関係のあるダークエルフが誰なのかを割り出すことも不可能ではあるまい。

 

 また、スパイの中には反体制派を装い、相手国へ「逃亡」する、という形で潜入する者も、中にはいる。確かにシルヴァン川越えは大変過酷な、命の危険すらある行動ではある。しかしスパイというものは命の危険くらい張ってのけるものだ。

 

 もしダークエルフのほうがエルフィンド軍に捕らえられ、その命と引き換えに亡命白エルフが何らかの工作員として活動するよう強要されたら? 

 もし亡命白エルフがスパイで、氏族長級のダークエルフ──すなわちオルクセン軍では将校──から情報を引き出し、それを何らかの手段で本国に送られたら? 

 

 どちらも相当まずい。軍事的にも、政治的にも。

 であれば、その可能性は潰しておく必要がある。

 

「ま、余計な反発は食らいたくないし、本人たちにはスパイの可能性って部分は伏せておくつもりだがね。あいつらにもその辺は言ってないし。それに、そういう可能性抜きで本国、ヴァルダーベルクに置いておきたいんだよな」

「ダークエルフと亡命白エルフとの間で、良からぬ事が起きないよう目を光らせておいてもらう、という事ですか」

「一応それもある、まああの調子ならその心配はいらなさそうだけどな。だがこの際亡命白エルフとの関係はさておき、氏族長ってとこも重要なんだ」

「あれですかね、追加で動員しなきゃならん時に将校になってもらうってところですかね?」

「50点だな。まあ確かにそれもあるにはあるが、軍隊以外ってとこで重要になるんだ」

「では…あちらでは氏族長とかの幹部が軍隊の指揮官であり、自治体の首長や幹部でもある、ってあたりですか? こっちでのまとめ役…民生方面をやってもらうという具合で」

「その通り。方針転換してもすぐ気づける部下を持てて俺は嬉しいよ」

「大きなヒントを頂きましたからね。確かに氏族長級を根こそぎ連れ出して、あとに残るは負傷やら本人の気性やら何やらのせいで、軍隊に入って活動するのが厳しい一般ダークエルフって面々だけじゃ、ヴァルダーベルクが荒れかねません。出来上がってだいぶ経ってて安定している所ならともかく、まだ出来上がりとは言い難い、軌道に乗り切れていない所だと、出来る統率役がいないと厳しい」

「そういう事だ。連中が自活していくためには民生部門にもある程度は残さなきゃならん。ただでさえ軍隊に半分以上は持っていかれるわけだからな、本国に残す方の質も考えないといかんわけだ」

「政治や行政も考えなくてはならんわけですな。参謀本部の辛いところです」

 

 ヴァルダーベルクは、言うなればダークエルフ族全員の新しい故郷、帰る場所だ。そのような場所が荒れるがままになってしまうような状況にはしてはならない。

 これは国王グスタフも考えていた事であるし、何よりダークエルフ旅団としてその半分以上を預かることになる軍に課せられた責任でもあった。

 

「まあ軍事に無関係かというとまったくそんなことはないわけなんだがな。まず、俺が思うに、軍隊というのは尾っぽ、それもその先端のようなものだ。兵站という尾っぽを引きずるわけじゃない、逆なんだ」

「確か次長殿、『尾っぽを引きずる』という言葉がお嫌いでしたか」

「ああ、めちゃくちゃ嫌いだ。これに限ってはゼーベックの親父殿やシュヴェーリン上級大将相手でも同意できない。主客転倒って言うのかな、こんな盛大に取り違えた言葉を最初に言い出した奴の頭の中はどうなってたんだか…まあそれはさておきだな、この軍隊って尾っぽの根本は兵站の元締めって名前が付いていて、尾っぽそのものはオルクセンって国家に繋がってる」

「で、ダークエルフ旅団という尾っぽの場合は、究極的にはヴァルダーベルクに繋がってるって事になるわけですか」

「まさしく俺が言いたかったのはその事さ。いやまあ補給物資とかをヴァルダーベルクから持ってきてるってわけじゃないからアレだが、概念的にはそうなる。でだ、尾っぽが付いてる身体がガリガリに痩せてたり、あるいは病気にかかってたりしたらそりゃ尾っぽだってろくな事にならないわな」

「ええ、後方がガタガタじゃ戦えるものも戦えません。動物で例えるなら、細くて弱々しい尾っぽになるでしょう。最悪の場合腐り落ちるかも」

「道理だな。身体がボロボロなのに尾っぽだけやたら太くて毛づやも良くて立派、なんて事はあり得ん。少なくとも俺はそんな怪生物見たことがない」

「自分もないですね…」

「仮にいたとしてもいずれボロが出てくたばるのがオチだろうさ。ま、ともかく、尾っぽが太くて毛づやも良くて立派でいてもらうには、国家や故郷も豊かであってもらわなきゃならんというわけだな」

「彼女らが、その辺理解してくれるといいのですが」

「まあエルフの氏族長に求められるのは当然と言えば当然だが魔術力と指導力だそうだからな。その辺理解する理性くらいは期待したっていいだろ。一応さっきの話は派遣した連中にも話してあるしな」

「ダメだったら…どうしましょう」

「その時はディネルース殿に直談判だ。何なら最悪殴り合いでも…いや待てよ、あの御仁、ロザリンドでは親父殿も義父殿も陛下もまとめて全員えらい目に遭わせた張本人の1人だし、それに今までエルフィンド軍の奴らと盛大にやり合ってたし…そんな実力があるからには、殴り合ったらコテンパンにされるのは俺のほうか? …まあ、口喧嘩なら負けはせんよ」

 

◆   ◆   ◆

 

 ヴァルダーベルク、ダークエルフ族居住区、フィンリエルらの居宅。

 今しがた、リッテンバウム大尉とブラウンドルフ中尉の話が終わったところだった。

 

「つまり、軍には入らず、民生のためここに残留してほしい、という理解でよろしいですか?」

「おっしゃる通りです…無論フロイライン・アダリルとて仇討ちをしたいかとは存じますが、どうかそこを曲げていただきたく…」

 

 フィンリエルの顔に、笑顔が浮かんだ。

 本心からのものだ。

 

 これまでずっと悩んでいたのだ。武器を手に取り、氏族長と殺された皆の仇を討ちに行くか、それともここに留まり友や同胞と過ごしつつ、街を作り農作物を育て軍を支えるか。

 エルフィンドの連中の事は、当然憎い。もしあの時の実行犯どもが目の前にいたら、一切躊躇することなく手にかけるだろうし、その後良心の呵責だの罪の意識だのといったものに悩まされることもないだろう。だが現実にはそんなことはない。つまり仇を直接この手で討つにはエルフィンドへ攻め込む部隊に従軍せねばならないわけであるが、もともと狩猟は他の面々に比べればそこまで上手でなかったうえ、あの逃避行でもいくつかヘマを仕出かした自分にそんな事ができるかどうか。フィンリエルとしては我がことながら疑問であった。

 

 そんなところに、今回の話が舞い込んできたのだ。向こうがそう求めるのであれば、こちらとしてはそれに応えるべきだろう。であれば、ここに残り、街を作って行こう。そしてエルフィンドを叩き潰して凱旋する同胞を、これまで以上に発展し住みやすくなったヴァルターベルクで出迎えるのだ。

 

「では、私はここに残りましょう。フィンリエル・アダリルは、ダークエルフ旅団及びその他オルクセン軍部隊には入らないことを宣言します」

「…そうしていただけますか」

「ええ、新しいものを作っていくのも、それはそれで魅力的ですから」

 

 いくつかの書面に署名し、それを持ってリッテンバウム大尉とブラウンドルフ中尉は帰って行った。

 …もっとも、彼らはどうもフィンリエルの笑顔を「従軍し仇を討ちたいという本心をねじ伏せ、それでも気丈に明るく振る舞っている」と誤解したらしく、「所詮一大尉と一中尉でしかありませんが、自分にできることならお力になりましょう」という言葉と、それは綺麗な敬礼を残していったものだが。

 ちなみに、2人の言葉に嘘はなかったと言えよう。後日、フィンリエルはオルクセン赤星十字主導のダークエルフ族救恤基金の事務に従事する事にもなるのだが、その際寄付者一覧にオットー・リッテンバウムとヴィルヘルム・ブラウンドルフの名を見つけることになる…

 

「姉さま、本当に良かったんですか…?」

「ええ、私としてはむしろ背中を押してもらえた気分よ」

「でも…」

「仇討ちだけがやるべき事じゃないもの。その辺はみんなに任せる。私は私なりのやり方で頑張っていくわ」

 

 参謀本部による説得は完了した。対象となっていた氏族長級のダークエルフたちは、結局全員がヴァルダーベルクに残留することとなった。

 この案件の責任者となっていたのは参謀本部のシュテファン・プレスシュタットという大佐だったのだが、彼は日記にこのことについて書き残している。

 

「我々はどうにかこうにか対象となっていた氏族長級の面々を説得することができた。中には食い下がってきた者もいた。当然であろう。事情も必要もあるとはいえ、彼女らがおそらくは最も望んでいたことを諦めろと言うのだから」

「だが、彼女らは最終的には折れてくれた。銃後も重要であるという説得に同意してくれたからというのもあるのだろうが、その決断にあらん限りの敬意と感謝を」

「そして驚嘆すべきこともあった。彼女らに従軍を諦めさせた理由の1つは親しい亡命白エルフの存在だったわけだが、誰一人として彼女らについて不平を…具体的には一緒に来なければ良かったとか、あるいは見捨てればよかったとか、そういった類のことは一切言わなかったのだ。このような状況に追い込まれても友のことはとても大事らしい。なんと気高い方々であろうか」

「多くの国民たちは、きっと勇猛果敢で美しいダークエルフ旅団に目を奪われるだろう。中には彼女らに目を奪われるあまりヴァルダーベルクのことを忘れてしまう者もいるだろう。だが、私は決して忘れないつもりだ。ヴァルダーベルクにいる、銃後を支えるために敢えて残るという気高き選択を成した方々を」

 

◆   ◆   ◆

 

 フィンリエルにとっての問題は、その数日後に起きた。

 いつものようにシンウィアルに会いに行ったのだが…彼女の様子がおかしかったのだ。普段の飄々とした彼女はどこへ行ってしまったのか、目は泳ぎ、声は震え、妙な汗もかいており、とにかく落ち着かない様子をしている。

 

「…ねえシンウィー、いったいどうしたの? 様子おかしいわよ?」

「え、あう、その、うん…」

 

 覚悟を決めたのか、シンウィアルはフィンリエルのほうに向きなおり…思い切り、頭を下げた。

 

「ごめん、本当にごめんよ…! 何もかも全部、あたしのせいだ…!」

 

 面食らったのはフィンリエルのほうだ。彼女に謝られるようなことなど記憶にない。

 

「え、ちょ…どうしたの突然!?」

「あの子から聞いた、亡命白エルフと関係があるせいで、ダークエルフ部隊に入るなとオルクセン軍に言われたって…!」

「…ギルルース、話したんだ」

「昨日、伝言を持ってきてくれた時、様子がおかしかったから聞いてみたら話してくれた」

 

 確かに彼女ならあり得る、とフィンリエルは思う。ギルルースはフィンリエルの氏族の生存者の中では比較的若く、非常に素直で正直な性格をしている。それはいいのだが、嘘をついたり隠し事をしたりというのがいっそ壊滅的と言っていいくらいに苦手なのだ。

 態度でバレバレなどというものではなく、そうしていることに耐え切れず自分から話してしまうことも多いし、自分から話し出さなくとも少しつつかれたら瞬く間に陥落してしまう。今回もそんな調子だったのだろう。

 

「彼女の事は責めないでやってくれ、あの子も夜寝られないほど悩みに悩んでたって話だったから…」

「大丈夫よ、責めやしないわ」

「なら良かった…いや良くない、あたしのせいでフィンリーが氏族長たちの仇を取れないだなんて、そんな、そんなことって…本当に、ごめん…!」

 

 ギルルースから例の件を聞き、友の選択肢を自分のせいで潰してしまった、と相当気に病んでしまったらしい。フィンリエルも初めて見るほど、シンウィアルは憔悴していた。このまま放っておけば泣き出すのではないかという有様だ。

 彼女には責任はない。少なくとも自分の場合はただ単に迷っていたところを背中を押してもらえただけだというのに。だが自分がいくらそう言って聞いてくれるような状態には見えない。

 

 フィンリエルは、ショック療法というやつをすることにした。

 

「ねえシンウィー、ちょっといい?」

「…?」

「ていっ」

「いたっ」

 

 こちらを向いたシンウィアルの額を小突く。

 

「らーしーくーなーいーぞー!」

「いてっ、あたっ、ちょ、やめっ」

 

 そのまま小突き続ける。

 

「何すんのさあ…」

「ねえシンウィーよく聞いて。本当に、何が何でも、命に替えてでも仇討ちに行きたいと思ってたらあの参謀に思いっきり嚙みついてるわよ。そんなの絶対納得できない、誰が何と言おうが従軍するって言い張るわよ。でも実際はそうしてないの。わかる?」

「………」

「前も言ったけど、私は軍人としてやってく自信、正直そんなになかったの。だから参謀本部から説得に来るまで本気で迷ってた。従軍するかここに残るかって。正直あの話聞いた時すっきりしたわよ。ようやく行くべき道を決められたって。その点リッテンバウム大尉とブラウンドルフ中尉には感謝してるわ」

「……でも、そんな話が来たのは…」

「ギルルースはあの話全部は伝えてなかったみたいね。確かに私が人質にされて、シンウィーが工作員に仕立てられる危険性があるかもってのも言われたのは事実よ。でも、ダークエルフ旅団がいない間、このヴァルダーベルクの留守を守るほうも必要だからって理由もあったの。つまり亡命白エルフがいようがいまいが残留組は出てたってわけ」

「……でも、そうだったらフィンリーが留守になってなんか…」

「ねえ、まさか自分さえいなければ私は従軍できてたとか言うつもり? もしそうなら本気で怒るわよ」

「………」

「シンウィーがいなかったらどうなってたかって? あの時あのロクデナシの白エルフ将校にあっけなく殺されて、オルクセンの地を見ることすらなく死んでたでしょうね。今頃は…そうね、エルフィンドのどこかに適当に埋められてるか、そのまま放置されて野生動物の餌にでもなってるか、腐るがままにされてるかのどれかってとこね」

「………」

「だからオルクセンに逃げ込んで生き延びた以上、ヴァルダーベルクを守ることになるのは私の運命だったの。こうなったらやる事はひとつよ。ダークエルフ旅団がエルフィンドから凱旋するとき、これまで以上に発展させたヴァルダーベルクでその帰りを迎えるのよ」

「…すごいなあ、フィンリーは」

「いや、それだけじゃないわね、目標が小さすぎる。凱旋したみんなを迎えたら、もっと発展させていく。オルクセンで、いや星欧で一番栄える都市、ヴィルトシュヴァイン、その中でも一番栄える地区、ヴァルダーベルク。そう言われるまでにしてやらないと!」

「ほんと、かなわないよ、フィンリーには…」

「もちろんシンウィーにも手伝ってもらうわよ。覚悟しといて」

 

「…ははは、フィンリー、君やっぱ最高の友達だよ」

 

 シンウィアルの気分は晴れたようだった。いつものような笑みを浮かべ、いつものような調子で話し始める。

 目じりには光るものがあったし、少し涙声ではあったが。

 

「もちろんさ、ヴァルダーベルクを住むにも農業するにも最高の場所にしよう。あたしも全力で手伝うよ」

「ええ、頼むわよ」

「まあ軍とかに何かしら手伝ってくれって言われたら中断する事にはなるかもだけど、そうでない時はヴァルダーベルク発展のために頑張るさ。星欧一の都市の、そのまた一番の場所、かあ…」

「いいでしょ」

「いや、せっかくだしもっとでっかく出ちゃおうぜ。世界に冠たるヴィルトシュヴァイン、ヴィルトシュヴァインに冠たるヴァルダーベルクって!」

「つまり世界一! …ほんとそういうとこさすがだと思うわ」

「いいじゃんか夢を見るくらい。夢で終わらせたくはないけどね」

「それよね…夢で終わらせないために、今後ともよろしくね、シンウィー」

「こちらこそ、フィンリー」

 

 

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