「夢の中でおやっさんに入っただあ?」
夢の中で体験した全てを僕は覚えていた。明晰夢というやつだ。激戦繰り広げられる中、終ぞ彼らにそれを明かすことは無かったが。丁度今日は事務所に依頼人は来ていない。夢物語を語るには適した日だった。
「はっ。それぐらいなら俺も既に同じようなの見てるさ。」
タイプライターを打つ手を止めて、ハーフボイルドな相棒はキザに前髪を揺らす。きっと帽子をかぶってないが故の代替え案なのだろう。
「どーっせ、お父さんに『事務所はちゃんとやれているのか』だの『娘に迷惑はかけてないか』だの言われる夢でしょ~」
「そんなんじゃねえ!つーか、おやっさんはそんなうちの叔母さんみたいなこと言わねえよ!」
我が鳴海探偵事務所おなじみの光景だ。我らが所長の鳴海亜樹子と相棒の左翔太郎。やいのやいの言い争う姿に何故か安心感を覚える。
「それがただの夢じゃないんだよ、翔太郎。エクストリームを使って、昨夜の僕の情報を解析したところ、実際に僕の精神はここではないどこかへと転送されていた。」
その言葉に一同は一斉に黙りこくる。これがただの僕の脳が生み出した妄想の夢物語ではなく、どこかの世界で起こった現実だったのだ。
「なんだ…ということはつまり…」
「おはよう…」
「おはよう、左。それにフィリップ。」
「性格は翔太郎くん、見た目はときめちゃんみたいな女の子、そして立場は私な女の子がどこかにいるってこと!?」
「…えっ?何の話?」
丁度やってきた、淡藤色の髪の美女はときめ。裏風都事件を皮切りに僕らの仲間となった翔太郎の助手だ。そして、隣に立つ不愛想な男は照井竜。妻も子供も出来、より一層男らしくなった風都を守る刑事だ。
「実はね~!かくかくしかじか…」
「まるで無茶苦茶な話だな。言葉通りに、夢のようだ。」
頬をぽりぽりと掻いて困惑するときめに、亜樹ちゃんはより一層ぐいぐいと絡みに行く。それは「やっぱり翔太郎くんみたいにハーフボイルドなのかな?」とか「惚れっぽいのは女の人になのかな?それとも男の人?」みたいな他愛もない内容だったが、意外とときめは食いついているようだ。一方で照井竜は微笑みながらそれを見守っている。おそらく家庭でも同じなのだろう。二人の夫婦円満度が垣間見える。
「それにしても中身が翔太郎で、見た目が私の所長さんか…想像できないや。」
「ああ全くだ。でも、俺も会ってみたかったなぁ。違う世界のおやっさん。」
くるくると座る椅子を回す翔太郎。彼はまだ何故僕がこの話をしたか、分かっていないようだった。
「いや、君も会ったことがあるはずだ。僕たちを知らない
数秒の沈黙と共に、翔太郎は「あーっ!!」と叫び、立ち上がる。どうやら彼も思いだしたようだ。
「そうかディケイドのあの事件か?!」
「そう。このめぐり逢いはきっと偶然じゃない。彼が紡いだ旅が起こした奇跡の一つなんだと思うよ。」
きょとんとしたときめが、翔太郎のデスクまで歩いてくる。当然だ。僕らが初めてWとなってから会った、最初の鳴海荘吉の事件は詐欺師の起こした単純な事件だ。しかし、報告書に記せない奇妙な出来事が中にはあった。
「ねえ。そのディケイド…ってなんなの?」
「ああ。俺も詳しくは聞いていなかったな。」
「そうだな。照井とときめにも話しておくか。あのクリスマスの事件をな。」
「ああ。僕たちが遭遇した奇妙な事件の数々。その先にいた仮面ライダー。ディケイドの話をするとしようか。」
翔太郎が捜査資料に挟まれた一つのカードを取り出す。事件の最後に聞いた彼の言葉は、きっと今でも忘れられない。記録ではなく大切な記憶として彼の胸に残っている。そんな事件の話を始めようじゃないか。
気付けばバイクを走らせていた。乗っているのは風都を去ったはずの相棒であり愛車、スカルボイルダーだ。周りは灰色で何も見えないが、不思議と悪くない。ハンドルをひねれば、心地よい風に吹かれて、エンジン音が耳に入り込む。
「これは、夢か。」
どうにも非現実的すぎる。いわゆる明晰夢というやつだろう。だが、まあいい。ようやく重荷を他人にも預けられるようになった。夢であっても、もう少し愛車との最後のツーリングを楽しみたかった。
しばらくした後、壁に突き当たった。バイクを停め、壁へと歩み出す。そうすると、壁はひとりでに動き出し、バイクと俺を包んだ。その先は崖の一角。下に広がる殺風景な場所に三人の男女が佇むのが見える。どうにも気になったのと、快風に身を任せたかったからか、俺は帽子を外し、顔の髑髏を外した。
「おやっさん…」「お父さん!」
「別の世界の、鳴海荘吉?」
目の前の見知らぬ奴らは俺のことを知っているようだ。どれも見覚えのない奴らではあったが、ただ一つ。今にも何か言いたげな一人の帽子を被った青年。そいつがどうにも一人立ちした娘に似ていたのもそうだが、試練を乗り越えた一人前の顔に感心を覚えた。
「誰だか知らんがいい顔をしてるな、坊主。帽子が似合うのは一人前の証拠だ。」
よほどその言葉が嬉しかったのか、帽子の男は今にも泣きだしそうになる。終わりの時間が近づいていると風が知らせてくれた。目のまえにいる三人とも、長い別れになるのだろう。一つだけ自己紹介をしておいてやった。ようやく胸を張れる、街がくれたこの名を名乗ろう。
「俺の名は仮面ライダースカル。またどこかの世界で会おう。」
お読みいただきありがとうございました。何が何だか分からなかった方は「MOVIE大戦2010」をご覧ください。この世界の根幹となる、仮面ライダースカルについても触れておりますので。
これにて本当に「スカルの世界編」終了となります。どうかこの物語が、あなたの地球の本棚の片隅にでも残っていれば幸いです。
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