仮面ライダーダークディケイド:フェイク   作:五妻翔兎

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お久しぶりです。次回のキーワードがほぼ意味なくなっていると思う今日この頃です。今回から定期更新のために、小出しで話数を稼いでいこうかなと思ってます。一気読みがお好きな人には申し訳ないですが、彼らの物語を少しづつ見て頂ければ幸いです。


第四話 始まりはΣ/今、暗闇の中で

「スパイダードーパントに変身していたのは間違いなく翔子の本当の父親、松井一彦よ。」

 

雷雨が轟く事務所のエントランスで包帯まみれの女性、文音及びシュラウドは語り出した。翔子が連れ去られた後、意気消沈の二人を置いて、荘吉はどこかへ姿を消してしまった。程なくしてシュラウドと名乗る彼女が迎えに来て、濡れた身体をタオルで乾かしているのが現在の状況だった。

 

「───なぜそれを翔子さんに隠してたの。」

 

ずぶ濡れの髪に隠れ、ベータの眼は見えない。だが、その声はかつてないほどに冷たく、攻撃的だった。白熱電球の明かりはそこだけを照らさず、影がベータを覆っていた。

 

「あの子は全てを忘れていたわ。そんな子に残酷な現実を突きつければどうなるか分かるでしょう。」

 

黙り込む。必ずしも真実を明かすことが正解でないことを理解しているつもりだった。しかし、その結果こんなことが起きてしまえば悔しさを感じずにはいられなかった。

 

「詳しく話してくれませんか。その事件のこと。」

 

「───何故知る必要がある。あなたには関係のないことよ。」

 

「それでも僕は知りたいんです。翔子さんと荘吉さん、そして仮面ライダースカルのことを。」

 

タオルから顔を出す。まっすぐな瞳で彼女を見つめた。サングラスと包帯に阻まれ、反応してるかどうかもわからない。だが、文音は語り出した。

 

 

 


 

 

 

事件の発端は翔子が生まれる前から始まっていた。街の新人歌手、メリッサは荘吉に恋をし、ある日その思いを明かした。風都ホールで行われた大盛況のコンサートの後、探偵は舞台裏に呼び出された。

 

『荘吉…私、貴方のことが───』

 

歌姫の唇を荘吉の無骨な指が塞いだ。彼は首を左右に振り、冷えた鉄のような声で答えた。

 

『それ以上は言うな、メリッサ。その思いに俺は答えられない。』

 

当時荘吉は裏社会で噂になっていたガイアメモリの調査に取り掛かっていた。組織から抜け出してきた文音と共に危険な潜入捜査を何度も行った。そんな中、身内が出来れば彼女の身に危険が降りかかってもおかしくない。大切な仲間を守るため、探偵は非情な判断を下した。

 

『大丈夫だよ。メリッサ。俺が付いてるから…』

 

『マツ…』

 

失恋に苦しむメリッサを、荘吉の相棒、マツは支えた。この頃事務所はガイアメモリ業務に集中しており、実動しない彼はメンタル面から彼女を支えた。時は経ち、彼女は街で一番の歌姫になったのち、プロポーズを受け入れる形で結婚。二人の間には娘である翔子が生まれ、事務所の仲間から愛情深く育てられた。

 

「荘吉さんも罪な男ね。彼女のメンタルを支える人物がいたのが幸いだったけど。」

 

「話を聞く限り、これが悲劇に繋がるなんて思えませんが──」

 

「当時は誰もがそう思っていたわ。だけど、そんな幸せの中でも、マツは一抹の不安を拭えなかった。」

 

窓から見下ろすと、事務所の仲間と翔子が戯れている。そんな平和とは裏腹に、マツは苦しんでいた。荘吉には隠していたが、育休中のメリッサをつけ狙うマスコミから守るのに必死だった。その心はもはや瓦解する寸前だった。

 

『メリッサは本当に俺を愛してくれてるんだよな、荘吉。』

 

『藪から棒に。何を今更。』

 

『愛する二人の顔を見るだけで幸せだ。それなのにふと不安になるんだよ。もしかしたらメリッサは別の人と───』

 

『お前の愛する女はそんなやつなのか。』

 

『いいや違うさ!!だけど…俺はお前のように振り切れない。メリッサに相応しい男はやっぱりお前だったんじゃないかって何回も思ってしまうんだ…結婚した今でも…』

 

『───休め、マツ。考えすぎだ。』

 

事務所での一会話にすぎないこれを文音はよく覚えていた。肩を叩き、去っていく荘吉をよそにマツは思い詰めた顔を崩すことは無かった。その後、悲劇が起こる。

 

「ある日、蜘蛛男*1を名乗る殺人事件が多発した。被害者は全てメリッサをつけ狙っていたマスコミだった。当然その関係者の一人から護衛の依頼が来たわ。」

 

「荘吉さんは…その依頼を受けたんですか。」

 

「ええ。どんなクズでもこの街の住人なら救う…彼はそんな男よ。」

 

最終的には当然マツと荘吉は対峙した。愛する人々を爆発させるその蜘蛛がばらまかれ、探偵は覚悟を決める。

 

『マツ…お前…!!』

 

『どうだ荘吉!愛する街の住人が死んでいくのは!』

 

『───醜い蜘蛛になり果ててメリッサと翔子はどうするつもりだ。』

 

ビルの屋上。煙が風に乗り、二人の元まで運ばれる。人が死ぬ嫌な臭いを載せて。その時の荘吉の声には、人生で最大の感情がこもっていた。中折れ帽で必死に表情を隠し、ハードボイルドを装う。

 

『メリッサはきっとまだ俺よりお前のことが好きなんだ。』

 

『質問に答えろ、マツ。これ以上───』

 

『俺はお前に勝ちたい。お前よりメリッサに愛されてるんだって確かめたいんだ。だから荘吉…死んでくれ。』

 

メモリ毒素の侵蝕はもう進み切っていた。言葉は通じない。凶行は止まらない。もはや倒すことでしかその罪は裁けなかった。

 

『───変身。』

 

「避けることのできない事件だったわ。彼の荘吉への劣等感は誰にも拭えないほど深かった。」

 

「でも、マツさんがドーパントになったのは荘吉さんのせいじゃな──」

 

「人の話は最後まで聞くことよ、坊や。まだ翔子が記憶を失った原因を知らないでしょう。」

 

スカルは勝った。激しい死闘の末、メモリブレイクを果たし、命の灯が消えるまでの短い対話の時間が出来たはずだった。

 

『あれは──マツ!』

 

『メリッサ!よせ!マツに触れるな!!』

 

二人を心配したメリッサは翔子と共にその屋上に駆けつけた。そして、スカルの向こうで倒れ、蜘蛛男から戻った主人に近寄った。荘吉の言葉が耳に届く頃にはメリッサはマツに触れていた。

 

『きゃあ!なにこれ…!?』

 

『お父さんが…糸に…』

 

『危ない、翔子!!』

 

既にメリッサの身体に蜘蛛は埋め込まれていた。”愛する者の身体に蜘蛛は入り込み、そして爆発する”。その能力をメリッサは知らなかった。繭がマツを包み込む直前の最期の言葉。それは安堵でも恨みでもなく、たった一言の後悔だった。

 

『ごめ…ん。』

 

翔子を抱きしめるスカルの背後で爆発音が轟いた。忘れることのできない異臭、何かが焦げる匂い。今起こってしまった悲劇を前にスカルはその腕の力を抜いてしまった。

 

『お母さん…?お父…さん?』

 

変身が解ける。我に返った時にはもう遅かった。彼も見ることを拒んだその惨劇の様を幼い翔子は目撃してしまった。母親の来ていた赤いレースのドレスが宙を舞う。引火したそれは、焦げ付いた匂いを出しながら、灰となっていく。その幼い口から言葉には言い表せぬ絶叫が放たれる。涙と共に気絶した後、彼女は自ら記憶に蓋をしたのであった。

 

「───これが事件の顛末よ。」

 

言葉は出なかった。心臓が締め付けられるような感覚に陥る。自分のせいで、大切な人を失う感覚をベータはよく知っていた。

 

「一時は事務所を閉めようとまでしたわ。でも、それは許されなかった。」

 

「この街に…仮面ライダーが1人しかいなかったからですか。」

 

文音は静かに頷いた。蜘蛛男の事件により、ガイアメモリの強力さは街中に知れ渡ってしまった。警察も敵わないその脅威に対抗できるのは相棒を殺した骸骨男しかいなかった。雷雨轟く事務所の中で、二人の肩に”仮面ライダー”という名前の意味がのしかかる。

 

「今の彼に言葉は届かない。彼はたとえ身を犠牲にしても彼女を見つけ出し、ウェザーを倒すわ。」

 

実感のこもった言葉が包帯越しに伝わる。そんな中、扉からノック音、というよりも金属の物体がぶつかる音がした。ガンガンと何回も。敵襲にしては弱すぎるその音に警戒しつつも、ツカサは恐る恐るドアを開けた。

 

「こ、これは…」

 

「翔子さんの…バットショット*2?!」

 

緑のメモリ*3とスピーカーを持ち、レンズを腹部に持った機械蝙蝠が浮遊している。あっけに取られているとそれは机に飛び降り、器用に身体を動かし、そのガジェットを起動させた。

 

『これが再生されてるってことは、事務所に着いたんだな。多分そこにいるのは…ツカサとベータと…もしかしたら文音さんか。おやっさんはいないだろうなあ。』

 

「「翔子さん!?!?」」

 

蛙型に変形したそれ*4が翔子の声を発する。文音がさほど驚く様子はない。これから起こることを予期していたかのように。

 

『俺が死ぬ前に。ここに全てを遺すよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「痛みは一瞬だ。」

 

『ヒッサーツ!フルスロットル!マッドドクター*5!』

 

宙に浮かぶ注射器等の医療器具が赤いプラズマと共に手術を行い始める。想像を絶する痛みが、手術台に横たわる傷ついたニューを襲う。言葉に表せぬ絶叫が室内に響き渡る。だが、周りは誰一人として哀れみや慰めの念を持つことはなかった。

 

「おや、治療が荒くはありませんか、シグマくん。」

 

「俺は先生のような医者ではないのでね。このような荒っぽいやり方しか知らんのですよ。」

 

モニターから目線を外すことなく、紳士はしわ一つないスーツ姿の青年へと話しかける。銀色のウェーブがかった髪。タブレット端末を片手に、ガラス越しの手術を観察するその目は灰色にもやがかり、感情の一切を見せない。首から垂れる真っ赤なネクタイは、彼がハンドレッドの一員であることを示していた。

 

「ひっどーい、シグマ。私達頑張ったのにこの仕打ちー?」

 

「頑張ったのにも関わらず、だ。シータ。一矢報いる事なく、怪我まで負い、あの研究所を世界ごと破壊させるまでに追い込まれた。お陰で目標は食い止められてるが。お前らの仕事は及第点以下だ。」

 

シグマと紳士の間に存在するテーブルとソファ。そこで一段と目立つのは、白い皿に盛られた紫色の果実の山*6。ソファの上でくつろぐゴスロリの少女は会話の合間にそれを口に放り込み、パクパクと食べ進めている。

 

「私のせいじゃないもーん。シグマが弱いロックシードばっか渡すのと、ニューが弱いのがいけないもん。」

 

「前者は謝罪する。そこに追加があるから使え。そして後者は賛成だ。未来視の1回でもしてくれれば組織に利益が出るんだがなァ。」

 

痛み苦しみ暴れる台の上の患者。その様子を見る彼の笑顔は仲間に向けるとは思えない嘲笑の表情であった。言葉を聞くなり、少女は机の下のスーツケースを見つけ出し、躊躇なく開けた。子供のようにあどけない笑顔と共に、取り出した赤いロックシード*7をくるくると回す。新たな玩具を一通り見回すと、ガラスの奥の仲間へと視線を移した。

 

「ニュー、ヤバい顔してるー。」

 

「このくらいの痛み、組織に忠誠を誓うなら耐えてほしいものだがな。」

 

既に手術は終わっていた。気絶する事も許されない地獄の苦痛の末に、全身の傷が治ったとは思えない屍のような姿でニューは放置された。目に生気はなく、遠い彼方を見つめていた。

 

「ニューもシグマも私と同じような身体になっちゃえばいいのに。」

 

「あいにくこの身体は気に入っててね。乗り換えるのは死んだ後だ。」

 

どたどたと足音が近づいてくる。同じ顔の、腹に黒い大口を備えた二人の少年がニューの様子を見に来たのだ。二人とも片手にお菓子袋を持っている。時折、腹の口から小さな生き物*8,9が飛び出し、彼らの後ろに一列に並んだ。

 

「おや、君たちですか。」

 

「お父さん、こんばんは!」

 

紳士は上っ面だけの柔らかい挨拶だけを返し、少年を見ようともしない。利用されるだけの命に心の中でほくそ笑んでいると、今度は当の彼も話しかけられた。

 

「ねーねーお兄ちゃん…お姉ちゃん、死んじゃったの…?」

 

「ん?違うぞ。今生き返ってるんだ。いっぱい怪我したのを直すためにはこれが必要なんだよ。」

 

外面のいい声と、わざとらしい笑顔。頭を撫でてやるだけで、目の前のモルモットは必ず喜ぶので、無能な同僚よりも扱いは非情に楽だ。無機質に睨む灰色の瞳と、張り付いた仮面に気づくことなく、少年二人は心配から安堵へと表情を変える。二人が手をつなぎ、喜んでいるのをよそに、ゴミを見るような目でタブレットを操作し、ダークドライブ*10の自動運転を止めた。

 

「お兄ちゃん!これあげる!」

 

「おお。ありがとうな。」

 

「お姉ちゃんにも!シータにも!」

 

「はあ!なんであたしは呼び捨てなわけ!?」

 

シグマとシータにはコーラグミ一粒ずつを渡し、二人の少年は目覚めつつある手術台の上のニューへと向かった。張り付いた仮面をすっと取り外し、紳士に話しかけようと、隣のデスクチェアへと座った。

 

「家族の真似なんかしちゃってさ。あいつらも可哀そうだよねー」

 

「…お前が言うかそれ。」

 

「あ?なんか文句ある?」

 

「いィや。なんでも。」

 

シグマはつまんだグミをじーっと見つめた。角度を変えたり、潰してみたり。何かを探ろうとしていた。

 

「食べるのそれ?」

 

「まさか。実験動物からもらった飯なんて食えるか。」

 

ガラス越しにくぐもった会話が聞こえる。だが、この場にいる誰一人として興味はなかった。グミがデコピンの要領でゴミ箱へとホールインする。無駄にした食物を気にすることなく、シグマはスーツの内ポケットに入っていたゼリー飲料を口へ機械的に流し込んだ。

 

「あ、言い忘れてた。その果実だけの食生活はお断りだ。」

 

「美味しいのにー」

 

そう言いながら、片手間に皿に盛り付けられた紫色のフルーツの中身だけを器用に取り出し、シータは食べる。その美味しさに悶え、足をバタつかせる。グミは既に床に転がっていた。見せつけるようなその動きを無視し、彼は反対側でモニターを睨み続ける白衣の紳士の方へと椅子を転がした。

 

「どうですか。ジョーカーの方は。」

 

「…いえ。私としたことが興が乗り過ぎましてね。彼女は今放心状態だ。いや、もしかしたら虎視眈々と反撃の機会を狙っているかもしれません。」

 

「鳴海翔子がそこまで利口なやつとは思えませんがね。」

 

「まあ、いずれにせよ今の状況では最大限に引き出したジョーカーメモリ*11の祝福は手に入らない。」

 

モニターの片隅でうずくまる人影。虚ろな目に何かをぶつぶつと呟く女の姿は常人なら見るのを避けたくなるほどにいたたまれなかった。あれが演技なのであれば彼女は舞台でも生きられるだろう。

 

「ジョーカーは感情によって力を増幅させる──でしたね。ハンドレッドのデータベースに別世界の記録がありました。彼女がその過剰適合者であるなら、あの現象も不思議ではありませんね。」

 

「そう!ガイアメモリの限界を超えたあの力を見れたことは僥倖でしたが…ええ。やはり私はあの祝福を自分のものにしたい…!!」

 

シグマは初めてこの紳士の感情を見た。引き裂ける程に開き、横に広がるその口。その純粋な狂気に、一瞬つばを飲み込んだ。そんな時、紳士の首元の素肌が覗き見えた。そこにはびっしりとメモリのコネクタが存在し、コネクタの模様も、元来の肌色も分からないほどに墨黒く染まり切っていた。

 

「…おや、見えてしまいましたか。いいですよ。隠すものでもありません。」

 

紳士はどこか誇らしげだった。それは彼が積み重ねた屍の象徴であり、彼が取り込んだメモリの力の証でもあった。その笑顔が多くの人々を騙し、怪人へと変貌させた挙句、力をかすめ取ったのだと思うと、その顔までも、首元と同じ深淵のような黒色に見えた。

 

「明日、鳴海荘吉はここへ来るでしょう。思い込みの激しかったあの男の一人娘です。大切な人間を失えば必ず感情は大きく動くでしょう。」

 

「他の戦力についてはお考えにならないので?」

 

その答えは分かっていた。だからこそシグマは聞いた。この絶対的有利な状況が揺るがないものだと確信するために。

 

「それはもちろんあなた達にお任せしましょう。それに加え、私にはこれまで集めてきた素晴らしい小箱の数々がある。あのからくり人形と合わせれば…」

 

「結構。それには及びませんよ。戦力は十分です。あの二人は我々────いや、俺が倒します。」

 

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