仮面ライダーダークディケイド:フェイク   作:五妻翔兎

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お久しぶりです。最近は非常に暑く、もうこの作品が1周年になるんだなあと実感させられます。まだ最初の世界も抜け出せてない状況ですが、長い目で楽しんでいただけると嬉しいです。


第五話 始まりのΣ/やがて仲間という名の晴

「俺が殺した…その責任を…」

 

自らに言い聞かせるように、ぼそぼそと呟く。もう身体に力は残っていなかった。ただ一つの後悔。それが無理やり手足を動かしていた。もはや視界はかすみ、耳には雨音しか聞こえなかった。降りしきる豪雨に、スーツは白から黒へと変わっていた。

 

「マツ…メリッサ…それに…」

 

ぬかるんだ土につま先を引っ掛け、前へと倒れる。このまま何も罪を清算できぬまま死んでいくのは御免だった。その背中に背負う数えきれない罪の上に、「翔子を守れなかった」という罪が乗れば、潰されてしまうのは明白だった。もはや、このまま立ち上がるには誰かの手が必要だった。

 

「荘吉さん!大丈夫ですか!荘吉さん!!」

 

声が響く。雨が突然遮られ、誰かの手によって立ち上がらされる。抵抗する間もなく、近くの公園の東屋のベンチへと荘吉は座らされた。顔を上げれば、心配そうに見つめるツカサがいた。

 

「……何故。俺の場所が分かった。」

 

「そりゃあ、雨の中傘も差さずに歩いてたら目立ちますよ。ウォッチャマンさんに、クイーンさん、エリザベスさん。みんなが心配して知らせてくれたんです。」

 

「…迷惑をかけたな。」

 

帽子に目元を隠したまま、荘吉は力なく答える。ツカサの顔を直視することはできなかった。

 

「これ以上お前に手伝ってもらうことはない。これは俺の問題だ。」

 

「…死ぬつもりですか。」

 

重い沈黙が流れる。重い雨音だけが鼓膜を振るわせる。

 

「俺はあの時、マツを殺したときに死んだ。今の俺は亡霊みたいなものだ。」

 

「…あなたが一人で行くのは勝手です。でも、それを決める前にこれを聞いてもらえませんか。」

 

『Frog』

 

拒絶されるのを予期していたかのように、ツカサはポケットから緑色の円盤を取り出す。緑のメモリを突き出すと、蛙の形へと変形し、音声を再生し始めた。

 

『おやっさん。』

 

「翔子!?何故お前が翔子のフロッグポッドを!?」

 

『落ち着いて聞いてくれ。多分これ聞いてるとき、あんたはボロボロだろうから。』

 

録音された翔子の声が立ち上がる荘吉の気を静めさせる。カシャンカシャンと飛び跳ねながら機械仕掛けの蛙は言葉を繋げる。

 

『まず…ごめん。おやっさんの忠告も聞かずに前に出まくった結果がこれだ。合わせる顔がねえ。』

 

荘吉は黙ったまま俯き続ける。

 

『今、アジトにはあのウェザーの他にツカサたちと戦っていた三人の仮面ライダーがいる。しまいにゃここはガイアメモリの博物館みてえな所だ。仮面ライダー擬きの姿は見えないけど、あの機械人形はうじゃうじゃ飾られてる。正直ツカサとベータとおやっさんで立ち向かっても…』

 

考えうる最悪な状況が言い放たれる。荘吉の口元が帽子のふちからこぼれて見えた。これでもかと食いしばるその口にツカサは胸が締め付けられた。

 

『だから俺が突破口を開く。あいつの隙を突いてメモリを奪う。その後、俺の持てる限りの力を使って…自爆する。実はもうコネクタは刻まれててさ。ほら、胸の真ん中辺りに…って見えてねえのか。』

 

「…何故これを俺に聞かせた。」

 

「最後まで聞いて下さい。翔子さんの言葉を。」

 

『俺が自爆するのを見計らって、おやっさんは逃げてくれ。弱ったところを三人で倒せば事件は解決。メモリも撲滅出来て一石二鳥…なわけはねえか。ここの場所はスパイダーガジェットを逆探知すれば分かるはずだ。バットショットの写真も参考にしてくれ。』

 

あまりにも大量の雨を屋根は防ぎきれず、荘吉の目の下に水滴が付く。いつまでも拭かれることのないその水滴はまるで涙のようにも見えた。

 

『最期に!ここまで俺を育ててくれてありがとう!まるで本当の親みたいに俺を育ててくれて、この街を守り続けてくれて…感謝してもしきれないことばっかりだ。その恩を仇で返すことを許してくれ。俺だってこの街を守りたいし、おやっさんだって守りたいんだ。』

 

決して雨の届くはずのない、俯いた荘吉の顔の下を水滴が湿らせていく。

 

『ウォッチャマン達には家出だって伝えておいてくれ。これでお別れだ。それじゃあ…バイバイ!』

 

蛙が飛び跳ねるのをやめた。もはやそこには激しい雨音しか残っていなかった。

 

「───以上です。」

 

「…何がしたい…!!」

 

胸ぐらをつかみ、顔を引き寄せる。その手の震えは怒りかそれとも寒さからの震えか。いずれにせよ、帽子によってその表情は遮られ、その真意は図りとれなかった。

 

「…俺は何も守れなかった…あの日からずっと…お前は…!そう言いたいのか。」

 

「違う!!」

 

女性の荒げた声。その主はベータであった。その白い肌のあちらこちらに泥が付着している。一つも拭わず、深い息を繰り返すその様は、初めて会った機械のような彼女とは違い、人としての美しさがあった。

 

「確かに守れなかった、自ら壊したものもあるかもしれない。でも、あなたは!それ以上にこの街を!人々を守ってきた!仮面ライダーという名がその証拠です!」

 

「…ただの罪滅ぼしだ。それ以上に俺の罪は重い。」

 

必死に訴えかけるベータの声は絶望した荘吉の耳に届かない。口を開こうとも、その後の言葉は繋がらない。罪を感じ、これまで戦ってきたのは彼女も同じであり、荘吉の歩みを止められない。悩み下を向く彼女に一つの傘が手渡される。見上げればツカサだった。

 

「だったら僕もその罪を背負います。」

 

「…だから言ってるだろう。お前には関係のないことだ。」

 

「これは僕がこの世界に来たから起きた事態です。僕にも罪の一端はあります。」

 

飄々と動じずに言い返す。ふと視界の端に映ったその目には、静かに燃える青い炎を宿していたように錯覚した。

 

「あなたの周りにはいつだって仲間がいたはずだ。背負いきれなくなったその罪を受け止める準備だってみんなできてる。仮面ライダーはずっと一人で戦ってきたわけではないでしょう。」

 

荘吉は思い出す。あの日のことを。唯一無二の相棒と仲間を失ったとき、翔子が言った一言を。涙と絶叫を出し切った少女がか細く呟いた、あの約束を。

 

『おやっさん…もう誰もいなくならないよね…?』

 

『…ああ…必ず…』

 

「そうだ…俺は…誰も失わないように…翔子と約束したんだ…」

 

あの日以来探偵はできるだけ独りで全てを救おうとした。だが、それはこれ以上自分のせいで人が死んでしまう恐怖の裏返しであった。

 

「頼ってください僕たちのことを。まだ間に合います。」

 

雨が止んでいく。それと同時に風が吹く。奮い立てと言わんばかりの風が水滴まみれの風車を回転させた。

 

「…本当にあいつらは俺の罪を背負ってくれるのか。」

 

「ええ。あの人たち、実は結構強いんですよ。私が保証します。」

 

二人の肩を借りながら荘吉は再び立ち上がる。背負ったこの街の重さを二人は直に感じた。その時、ツカサの脳裏によぎる一つの記憶、ダークディケイドに変身したあの時と同じ、見知らぬ記憶であった。

 

「…命ある限り戦え。たとえ孤独でも。」

 

「…激励のつもりか?今、お前が仲間がいると言ったばかりだぞ。」

 

「いいえ。ふと…顔も知らない誰かが言われたことを…思い出しただけです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が止んだ深夜の風都はやけに静かだった。珍しい快風が窓から入り込み、短パンとシャツからはみ出た肌を冷やしてくれる。

 

「ガレージ奥にシャワーがあるとはね…まるで誰かを住まわせようとしたみたい。」

 

遅いテンポで暗いガレージに小さな金属音が響く。ゆっくりと階段を上がり、扉を開けた。すると、芳しいコーヒーの匂いが鼻腔を突き抜ける。その発生源が部屋奥の簡易キッチンであることは容易に想像できた。

 

「荘吉さん──あなたは早く寝て身体の回復を──」

 

「ベータさん!丁度良かった!」

 

想像と違い、エプロンに身を包んで立っていたのはツカサだった。机の上の白いペアマグカップには彼が淹れたのであろう珈琲が注がれている。自信満々に見せびらかすその手には茶色の汚れと一冊のノートが握られていた。

 

「荘吉さんがこの本を僕にって!相棒さんが書いた『最高の珈琲の淹れ方』っていうノートなんだけど──」

 

「…ツカサくん、今は夜よ。寝る前には不向きだとは思わなかったの?」

 

はっと気づいたような顔をしたツカサは目の前のカップを睨み始める。純粋無垢なところがあるとは思っていたが、ここまでとは。見た目は20代前半の青年だというのに、熱心に語り始めようとしたあの目と笑顔はまるで少年のようだった。

 

「でも…悪くないと思うわ。一杯もらってもいい?」

 

「〜ッ!いいよっ!一緒に飲もう、ベータさん!!」

 

片方のカップを一つ取り、近くのベッドへと腰掛ける。そして、そのまま香りを確かめ、一口飲む。片目に見える、丸テーブル近くでちらちらと様子をうかがうツカサは、まるで小動物のようでかわいらしく思えた。

 

「…美味しい。」

 

「ほんと!?やったあ!流石荘吉さんの相棒さんだね!こんな美味しい珈琲が僕でも作れるなんて…!」

 

「ううん。多分君の腕。」

 

「えっ…」

 

「君が淹れてくれたから美味しいんだと思う。」

 

決してお世辞ではなく、本心からの言葉が口から出ていく。余りにも科学的でなく、感情的な見解だったが、この珈琲には彼の優しさが詰まっているような気がした。

 

「少し深煎り過ぎなこの香りも苦みも。君のだと思うと私は好き。」

 

「そ、そうなんだ……笑顔になってくれてよかった。」

 

顔を赤く染め、恥ずかしそうにその茶髪をくるくるといじる目の前の彼。もう一口、彼の淹れた珈琲を飲む。正直なところ、特段香り高いわけでも、コクが深いわけでもない。ただ、信頼する彼が、自分のためにこれを作ってくれたということが、何よりも嬉しくて安心できるのだった。

 

「ツカサくん、折角二人だけなんだし、色々話さない?」

 

二人は語り合った。短いが濃密だったこの街の時間を。時には謝罪し、時には笑った。荘吉についていった先で彼もこの街の暖かな人々に触れたようだった。珈琲は二人の間にあった壁を取り払い、暗い夜の灯となった。

 

「翔子さんが私を友達として認めてくれた。人との繋がりがこんなに暖かいなんて…もっと早く知れば良かった。」

 

カップの底が見え始める。ベータは何か決意したかのようにおもむろに自らの瞳に手を伸ばす。瞬間、一度だけ手を止めた。この黒い瞳越しなら、今まで通りの自分のままだ。感情も見せず、傷つかずに済む。だが、今この場所なら。彼の前でなら──きっと、大丈夫だと思えた。

 

「ベータさん!?」

 

「大丈夫。…これを取っただけ。」

 

指先に乗せられていたのは一組のコンタクトレンズ。それはかつて見えた漆黒の色そのものであった。驚いて顔を上げれば、深い紫の眼がこちらに向いていた。タンザナイトのような神秘的で透き通るようなその色に、ツカサは息を飲む以外の選択肢がなかった。

 

「…綺麗だ…」

 

「ありがとう。でも、目立つし、表情が読み取られやすいから。普段はそれをつけてたの。」

 

「取って良かったの?」

 

「ええ。もういらない。これが本当の私だから。」

 

立ち上がり、カップ底の残りをグイっと飲み干す。その輝くような紫の視線を彼に向け、彼女は強く言い切る。

 

「私は絶対友達を、翔子さんを助ける。この街を守る。だから──」

 

「ああ、守ろう。一緒に。翔子さんも荘吉さんもこの街のみんなも丸ごとひっくるめて全部。」

 

同じく立ち上がり、カップの中身を飲み干した。お互いの瞳を強く見つめ合い、誓う。三日前、負けたあの時。強くなれたかは分からない。だが少なくとも、あの頃よりも二人の決意は固く、覚悟に満ち溢れていた。そんな中、視界の端でカードのような何かが覗き込んでいたように思えたのは、きっと気のせいだろう。

 




お読みいただきありがとうございました。感想、評価、ファンアート、その他諸々お待ちしております。今回はさほど固有名称が無かったので、ダブルおよびスカルの世界における基本設定を紹介しようと思います。

風都:風がよく吹く風車がトレードマークの街。正式名称は風都市。海や山に恵まれ、自然豊かなだけでなく、観光施設や研究施設にも恵まれ、住みやすい都市になっている。ただ夜の危険な噂を除けば。

鳴海探偵事務所:「困ったことがあれば鳴海探偵事務所に行け」と言われるほどに名の知れた探偵事務所。ガイアメモリ駆け込み寺と化している。鳴海荘吉が所長を担当しており、翔子が管理及び居住している。

ガイアメモリ:地球の記憶より作られたUSBメモリ型の装置。人を怪物へと変貌させ、精神までも侵食していく危険な代物。含まれた毒素には依存性があり、中には刺した時点で適合しなければ死亡してしまうものも。(この毒素を良い物だとあがめるものもいるらしいが…)蜘蛛男の事件以来、風都の裏で大量に流通している。仮面ライダーが使用するメモリは毒素を無くした純正品であり、身体への被害はない。

過剰適合者:人には各メモリに適合率があり、それが人に比べ異常に高い者を過剰適合者と言う。適合率が高いほど、メモリの力を引き出すことができる故に、一般的に強いメモリよりも適合率の高いメモリを使用することが推奨される。

追記:ガヴ&ゴジュウジャー見てきました。個人的に仮面ライダーと戦隊複合評価なら最高傑作だと感じたので、ぜひぜひ見に行ってください。絶対いつか映画の設定は使います。
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