「お疲れ様です。」
「おう。交代の時間か。少し早いな。」
「思ったよりも早く着いてしまったもので。先輩もお疲れでしょう。代わりますよ。」
「そうか。悪いな。」
目に隈のできた警備員の男性は嬉しそうに引き継ぎの準備をする。中年の男性らしく、帽子からはみ出て見える、刈り上げた頭部側面が妙に目立つ。完全に権限が移され、男性が離れていくと、交代した青年はハンドサインを空中で結んだ。
「上手くいったようね。」
「ふう…緊張した。」
深々と被った帽子を外すと、他でもないツカサの安堵した顔が現れる。それだけでない。きらきらとした鱗粉が風に吹かれて、隠されていた荘吉とベータが姿を表した。
「あいつは…いや、まさかな。」
「どうかしました?」
「───気にするな。それにしても、ケミーってのは便利なものだな。」
「協力してくれる
錆びついた扉の鍵を開けると、ギギギッと音が空間に響き渡った。電球一つのほの暗い通路を、かすかな一筋のペンライト光のみで進んでいく。天井から水滴が落ちると、通路隣の水路で汚水からポチャリと音が鳴った。
「発信器の反応があるのはこの先ね。」
紫のガトリング型のデバイス*1がマップを空中に映し出し、目的地までのルートを赤い線で指し示す。白いブラウスと動きやすいカーゴパンツでシンプルに纏めたその服装を、悠然と突き進むベータは着こなしていた。一方、荘吉はいつも通りの真っ白のスーツ、ツカサはというと、念のため警備服をそのまま着ていた。風都地下水路、現在は使われていない廃工場へ続くその巨大な道を三人は静かに進んでいく。
「嫌なにおいがします…」
「ここには風都中の排水が流れ込んでくる。この街にだって汚いもんは…」
「いや、そうではなくて…」
“嫌な予感がする。”そんな言葉を発する前に、目の前に一発の弾丸が現れる。間一髪のところで首を逸らし、致命的な怪我は避けられた。が、左頬には一文字の赤線が出来上がっていた。
「まさかこの状況で来るとはなァ!失敗作!!」
「…ッ!シグマ!」
闇から現れ、恐ろしい速度で強襲するシグマ。逆手持ちのナイフの一閃。ツカサは反応しきれず、血が流れることを覚悟する。だが、ガキンという鈍い音を鳴らし、鋭い刃は止まった。瞬時に強襲を警戒したベータが割り込み、その刃を膝とひじで固定し、止めていたのだ。
「なっ!?」
動揺する目前の敵。その隙を見逃すことは無く、機械的に完璧なフォームを描き、地面に水平な跳び回し蹴りが顔面にクリーンヒットする。だが、空中で姿勢を整え、見事に男は地面に着地した。
「折角のハンサム顔が台無しじゃねえか。どうしてくれんだ、ベータ?いや、裏切り者。」
左頬をさすりながら、シグマは気だるげに二人へ語りかける。アジトへと続くコンクリートの道を堂々と塞ぐ彼の背筋はピンと伸びており、一切の妥協がないことを感じさせた。
「あなたのそれは悪趣味な顔というのよ。」
「君に構ってる暇はないんだ…そこをどいてくれ。」
三人は戦闘態勢に入る。いつでも変身できるよう、ベルトに手を伸ばし、生身での格闘もできるよう、その構えは万全だ。その緊迫した空気を壊すかのように、シグマは大きな溜息を吐いた。
「覚えてるか、失敗作。」
「僕にはツカサという名前がある。」
「知ったもんか!…気に入らねえ。あの時からお前が憎くてしょうがねえ。」
ニヒルな笑みを崩し、シグマは感情を露わにする。口が歪み開き、歯噛みする歯が垣間見える。腰に添えた手には血管が浮き出、固いつま先が床にぶつかる音が水路に木霊する。
「ハンドレッドの意志こそが俺の意志だ。それを否定し、お前は俺に打ち勝った。」
ぶつかる音の感覚がどんどんと早くなる。彼が感情を爆発させている証拠だ。ここまで感情的な彼は、ベータでさえ見たことが無かった。
「だから俺は!お前を殺し、組織の正しさを再び証明する。」
「君は…何も変われなかったのか。」
暗いこの水路でも。邪悪な眼光は眩しいほどにはっきり見えた。それは執念。生まれた意味を、生きてきた意味を否定されてたまるかという男のべたついた願いだった。
「…お前は『俺を許す』と。そう言ったな。なら俺がそれを否定してやるよ。お前の『祈り』を!ちっぽけな『優しさ』を!俺が戦いに変えてやる!!」
黒のジャケットを上空へと脱ぎ捨てれば、コンバットスーツにも似た赤いボディアーマーがその姿を表す。空中へと飛んだ黒の外套は、ボロボロとコブラ、蜘蛛、蝙蝠を模したミニカー*2を地面へと落とす。その一つ一つが真っ白なナンバープレートの怪人へと姿を変え、三人を囲むように並び立った。
「…ツカサくん、荘吉さん。走って。」
『ケミーライズ!ホークスター!フレイローズ…』
「ベータさん!?僕も──」
「行くぞ、坊主。…レディの決意を無駄にするな。」
炎をまとった花吹雪が渦を描き、舞う。掴もうとするツカサの手は振り払われる。花吹雪によって塞がれる視界の中、彼女の紫色の目は決意の光を帯びているように見えた。強引に荘吉に連れ去られ、一瞬の隙に残された侵入者はベータしかいなかった。
「…健気だなあ。惚れた男のために単身残るとは。」
「ツカサくんとはそういうのじゃない。」
『ドレッドライバー…!』『Start our mission』
互いにベルトを装着する。戦いの火蓋は今切られようとしている。あとは二人の覚悟の問題だった。
「こうもデジャヴが重なるとはな。お前が逃げようとしたあの時。今と違うのは…お前のその目くらいか。」
ドライバーのイグニッションキーが回され、低いベース音が鳴り響く。青いプラズマと共に走る黒いシフトカーを、シグマはわしづかみにした。他にも同じようなカラーリングのものが一つ、二つ、三つと腰横のホルダーに収まる。よく見れば同じようなミニカーが彼のボディアーマーには幾つか装填されていた。
「もう一つ違うところがあるわ。」
『スチームライナー…』
左太もも横に巻いたカードホルダーから一枚のカードを取り出し、スライドし、クリスタルへと差し込む。不気味な踏切音と心臓の鼓動が彼女の答えを待つ。荒ぶる衝動を抑えつけるかのように、彼女は厚底のブーツのつま先をこんこんと床で鳴らした。
「死んで何かを残すんじゃない。勝って、生きて、明日を掴む。卑怯な手しか使えない、あなたに負けるつもりはない。」
「…今日も明日もねえんだよ。道具の俺たちには今だけありゃあいい。」
「道具じゃない!私の名前はベータ…仮面ライダードレッドだ!!」
足裏が天井に向き合うくらいに高く足が振り上げられる。目の前に立ちはだかる困難、障害、絶望を打ち砕くがごとく、その脚は円弧を描いた。ブーツの厚底が衝撃音を響かせた瞬間にレバーは開かれ、握られたシフトカーがシフトブレスに装填される。
「「変身!!」」
『ドレッド…零式…』
『DRIVE! type NEXT!』
黒い骨が身体を包んでいく。黄色の炎が肌で固まり、漆黒の鎧を形成する。全身に力がみなぎるのは変身したからか、それとも想いの力か。迷いなき黄色の目が鈍く光る。その力の名は仮面ライダードレッド零式。
相対する男は、一文字に横に伸ばした腕を気だるげに下ろす。光に包まれたその体に、分割された装甲が装着されていく。飛んできたタイヤを胸で受け止め、サイバネティックな黒鎧の戦士は完成した。目の前の光を砕こうとする者の名は、仮面ライダーダークドライブ。
「あなたに残された選択肢は一つ。ここで私に負けることよ。」
「お前の意志が”偽物”だってこと…俺が証明してやるよ。」
地下水路を走り抜け、マンホールを蹴破る。身体を乗り出れば、見計らったかのように何体もの雑兵がこちらを取り囲んでいた。脱出の際の障害となった金色の槍兵、カッシーン*3の他にも記憶に新しいロイミュード*4やインベス*5までもが混じっている。敵の戦力が戻っていることに疑いはなかった。
「侵入者を排除しろ!」
「ドーパントじゃない…!?金色のはなんだ!」
「カッシーンです!ハンドレッドの兵士で───大きな槍に気を付け…!」
ツカサに再び襲い掛かる三又の槍。ブンッと勢いよく振り下ろされるその一撃。刹那、左半身に全体重を任せ、身を後ろに翻して躱す。が、視界全てを覆うほどに近い距離で、刃先が過ぎ去る。顔面をかすめる風圧が、全身の毛を逆立て、頭から離れた警備員の帽子が串刺しにされた。
そんな間一髪も束の間、脚を狙う横の薙ぎ払いが続けて彼に牙を剥く。本能のままに跳びあがるさなかに、ベータの繰り出す蹴りが脳裏によぎった。脳裏に焼きついた写真を何枚も重ねる。コマ送りのようなイメージが組み立てられ、全身の筋肉へその動きが入力された。
無意識のままに左回転。カッシーンの頭部へと勢いよく、裏まわし蹴りを食らわせる。かかとに一瞬の痛みを感じながらも、彼は両足で着地する。その一方、敵は衝撃を受け止めきれず、ゴンという鈍い音と共に地面へ叩きつけられ、立ち上がろうとしたかと思えば、数秒後にその動きを止めた。当たったのが安全靴なのもあるが、その奥の素体が十分すぎるくらいに戦闘に特化していた。
「ベータさんの真似、上手くいった!」
「…時間がない。急ぐぞ。」
荘吉が携帯を操作すると、壁を突き破り、黒いマシンバイク、スカルボイルダー*6が現れる。怪物たちを蹴散らし、けたたましくエンジンをうならせながら、こちらに向かってくる。二人はそれに飛び乗り、一目散に発信機の反応の元へと突き進んだ。
「…ここです!」
廊下の突き当りにぽつんと一つの扉が見えた。荘吉はバイクレバーを力強くひねり、そのスピードをさらに上げた。ウィリー状態となったバイクは二人と一台分の荷重を猛スピードでドアにぶつける。当然ドアははじけ飛び、スカルボイルダーはそこでスピードを失った。
「翔子!」「翔子さん!」
殺風景な床に転がっている薄藤色の髪の人物は、まぎれもなく翔子だった。服のあちこちが引き裂かれ、その奥に赤い血が流れているのが分かった。バイクを停めた荘吉を横目に、ツカサは警戒することなく、彼女の元へと駆け寄る。身体を起こさせ、見えなかった顔を覗き込めば、虚ろな表情で何かを小さく呟いている。
「大丈夫ですか!?ここで何が…」
「…ぉやっ…さん…」
「無理をするな。さあここから──」
娘と再会し、安心しかけたその一瞬、荘吉は気づく。彼女の右手に握られている黒いメモリ*7に。枯れて言葉の出ない彼女の口の動きが『逃げろ』であったことに。
「メモリを奪いとれツカサ!」
ようやく気付いたツカサがその手に握られたメモリを力づくで奪い取る。骨のディティールは今まで見たガイアメモリと同じだが、唯一違うのはそのイニシャルが銀色の金属板でに覆われていることだった。廊下に思いっきり投げつけ、遠くの方から甲高い音が響く。
「間に合った…これで一先ずは───」
「無駄ですよ。ジョーカーは彼女の運命のメモリ。ましてや私がリミッターを外したものです。一度繋がれば…もう離れられない。」
背後であの男の声がした。だが、振り向く間もなく、目の前で異様な状況を目の当たりにする。一度吹っ飛ばしたはずの黒いメモリが、二人の眼前を高速で通過していく。閉じたシャツを突き破り、胸のコネクターに突き刺さった。苦しみの声をあげる彼女が、あの時と同じようなオーラを纏っていく。衝撃波を部屋一体にまでまき散らし、二人は壁へと叩きつけられた。
『ジョーカー!』
「うがぁぅ…があああああああああ!!!!!」
彼女の顔にタトゥーラインが浮き上がり、溢れる涙がそれにそって流れ落ちていく。黒いトランプカードが身体を覆っていき、その姿は魔女のようで、かつ道化師にも似た黒い怪人、ジョーカー・ドーパントとして完成する。あふれ出るオーラは常軌を逸しており、そのプレッシャーに立っているのが精一杯だ。
「素晴らしい祝福だ…長らく夢見た、切り札の巫女は遂に完成した!」
「長…らく?」
「おや。何も知らない実験体くんに分かるように簡潔に説明しましょう。彼女の父親にメモリを渡したのは…私です。」
荘吉の眼の色が変わった。冷たい怒りの目線が紳士を突き刺す。しかし、気にも留めないように、紳士は黒の怪人に歩み寄り、語り出す。
「我々が開発したガイアメモリの最初のお披露目としては素晴らしい出来でした。反対勢力の相棒を始末した上に、その力の強大さを多くの人にアピールできた。惜しむらくは貴重な祝福の持ち主が死んでしまったかもしれなかったという点ですが…」
舐めまわすように艶々としたその黒い太ももを、二の腕を、細い顎のラインを指でなぞる。そんな変態的な行為にも怪人は反応を示さない。まるで物言わぬ魔女の人形だった。
「だが、そんな中で翔子くんを見つけられたのは幸運だった。歳を経る度に彼女の適合率はみるみる上がっていった。…心が躍りました!この祝福をいつか私に宿し、メモリの神に至る…そんな私の夢が今日叶う!…貴方達を倒した後にね。」
「お前は…命をなんだと思っているんだ!!」
なんとか立ち上がるツカサに何者かがタックルしてくる。体を倒し、覆いかぶさるその正体にツカサは見覚えがあった。
「お前の相手は僕”たち”だよ!!」
「君は昨日の…!」
目の前で腹を貫かれ、殺されたはずの少年が眼前に存在していた。動揺する彼をよそに、少年はその怪力で十字固めして遊びだす。技術もない見よう見まねのそれからは容易に抜け出せるが、再び立ち上がった彼にもう一人の同じ顔をした少年が両足のドロップキックを仕掛けてくる。胸部に食らったそれを必死の思いで受け止め、ガッシリと両足首を掴んだ。
ゴルフの要領で二人の少年をぶつける。ゼーハーと息を漏らした彼に、コツコツと足音が近づいてくる。黒と白のドレス風のシスター服に身を包む、ハンドレッド第二の刺客。ニューだった。身体をぶつけ合い、ぶつかった箇所を抑えていた少年二人が、彼女を見るや否や、犬のように駆け寄っていった。
「現在研究開発中のクローン人間。個体名はビターガヴ。昨日あなたが戦ったのはその一人です。」
「「お姉ちゃん!」」
「ちょっ…抱きついてくるのはやめなさい二人とも!」
「「ご、ごめんなさい…」」
身長が自分より高い少年二人から抱きつかれ、振り払う。ニューは、落ち着くためにずれた眼鏡を中指で掛けなおした。二人が両脇にすすすと離れたあと、彼女は腰の左から闇黒剣月闇を抜く。紳士が荘吉の元へと歩み寄っていく。
「5対2です。鳴海荘吉、貴方に勝てる保障はない。」
「…翔子がメモリの力に巻き込まれるとは思えんがな。」
「ええ。彼女は耐えましたよ。だから今、操っているんです。」
よく見ると紳士の指からは細いピアノ線*8が伸びていた。それは翔子に繋がっており、文字通り操り人形にされているのだろうと察せられた。
「メモリを刺さずに能力を!?それにあなたのメモリはウェザーのはず!」
「…ハイドープか。だが、メモリを刺さなくても能力が使えるようになるのは過剰適合者か長年使った奴だけだ。何故ウェザーのお前が…」
「それは、こういうことですよ。」
ネクタイを外し、くっとシャツの首元を伸ばして、見えたその肌は真っ黒であり、よく見ると同じタトゥーの集合体であることがわかる。
「…複数刺し。それに過剰適合者の行方不明。大方過剰適合者に使わせた改造メモリを回収し、自分に刺していたという所か。」
「ご名答。ハイドープ、過剰適合者、私の改造メモリ。この三つが合わさったメモリを私に刺すことで、祝福はより完璧なものとなる!」
紳士はゆっくりとネクタイをなおす。その手がシャツから離れ、荘吉に目標を定めた後、翻された。まるで兵士に命令するかのように。
「行きなさい切り札の巫女。その手で仮面ライダーを殺し、絶望させろ!」
弟子であり娘である彼女が師匠へと死の牙を振るう。向かってくるその拳が死そのものだと本能で分かった。荘吉は転がり避け、寸分の先で拳が床にめり込み、床一体がめり込む。まともに食らっていればミンチではすまなかっただろう。
「素晴らしい…感情の変化が乏しい操り人形ですらこの火力!!」
「あれが一人の男の手に落ちたら───なるほど。世界が滅ぶと考えてもおかしくはないですね。」
「ツカサ!俺のことは構うな!」
「でも!」
「俺に…任せてくれ。」
操り人形の強大な一撃は全く当たらない。一撃でも当たってしまえば死ぬと分かるその攻撃に恐怖の感情を抱かずにはいられないはずだ。だが、探偵は違う。避けながらもただ一点。目の前の我が娘を捉えていた。
「…分かりました!」
ベルトを丹田にかざし、装着する。父娘を四人から守るようにツカサは立ちふさがった。四人も各々自らのデバイスを取り出し、戦う準備は十分とわかる。
「一人で四人と相対するとは…現実を見ないにも程があります…ダークディケイド、なんであなたは絶望しないのですか…?」
「託されたからさ!大切な人達から願いを二つも!変身!」
『KAMENRIDE!DECADE!』
真っすぐなその目が黄色いアイカメラと黒い仮面に覆われる。すかさずIllusionのカード*9を差し込み、その人数を五人に増やした。
『ATTACKRIDE!ILLUSION』
「ねーねーお姉ちゃん。何言ってんのあいつー?」
「馬鹿の戯言ですよ。強大な力の前には…無駄なのに…」
「俺戦いたいよお姉ちゃん!」
「分かっています。いきますよ、二人とも。”井坂先生”はどうでしょうか。」
「ええもちろん。切り札の巫女はいずれ鳴海荘吉を殺すでしょう。それまでの興です。」
『Weather!』『ジャアクドラゴン…』『グミ…』『クッキー…』
「変身。」「「変身!」」
『闇黒剣月闇!Get go under conquer than get keen!ジャアクドラゴン…!!』
『スパーキングミ…!ヤミー…』
『ブレイクッキー…!ヤミー…』
四人の身体が変化する。暴風に身を纏わせ、紳士の身体は白い風神、ウェザー・ドーパント*10へと生まれ変わる。ニューは紫の竜騎士、カリバー*11へ、少年達は黒と赤の刺々しい姿と、黄土色のひび割れた模様の姿の二種類のビターガヴ、スパーキングミフォーム*12とブレイクッキーフォーム*13へと変身した。
挨拶代わりに紅の銃、ベイクマグナム*14を乱射する黄土色のビターガヴ。制度は低く、誰にも当たらない。だが、その一発一発が壁に当たる度に、建物を揺らした。直撃すれば荘吉も翔子も身が持つわけがない。ツカサは避けずに全てを受け止めるしかなかった。
「愉快な子でしたよ!意気消沈していると思わせて、私の油断を誘おうとしていた。が、私がメモリを渡した本人だと明かすやいなや…無策にも襲い掛かった!馬鹿で愚かで…道化師になるにはふさわしい。」
ライドブッカー*16の刃とウェザーの手刀がかち合う。ギリギリと力比べになるかと思われたが、左手に隠し持ったウェザーの武器が伸び、ツカサを背後から叩き、手刀が押し切る。それでもひるまない。目の前にいる男が、狂気に満ちた純粋な悪だと分かっているからだ。
「それが翔子さんのいいところだ!卑怯なだけのお前に何が分かる!!」
「卑怯?お望みとあらば正面から潰してあげますよ!!」
赤い稲妻がダークディケイドを襲う。ライドブッカーで薙ぎ払い、ウェザーへと感情のままに走り近づく。眼前へと至り、その刃が振り降ろされるが、いとも簡単にそれははじき返される。しかし、攻撃の手をダークディケイドは緩めていなかった。
「うおおおおおお!!!!」
「まさか!」
ウェザーの指から伸びているピアノ線を握りしめる。装甲が削られ、生身に達し、血が滲む。それでも。笑顔を取り戻したあの人の友達を、彼はどうしても救いたかった。言葉にならない叫び声と共に、糸は引きちぎられる。黒い道化師がプツリと糸が切れたように動きを止めた。
「これで───がはっ!」
「大した献身ですねぇ!ですが!ジョーカーの力に飲まれた彼女はもう戻らない!暴れるか、また私の操り人形になるかです…よ!」
決死のダークディケイドをウェザーが蹴り飛ばす。腹部にもろに食らったダメージに耐え切れず変身解除する。続く攻撃を分身の一人が割り込み、なんとか受け止めた。
「荘吉さん!」
膝立ちで止まったジョーカー・ドーパントに、荘吉はゆっくり歩み寄っていく。目の前をすり抜けるビターガヴの凶弾を意に介さず、ただ一人の娘に向かって、一歩づつ足を踏みしめた。
『ベイキングフルブラスト!』
放たれた巨大な光弾を受け、分身が一人、灰色の影となって消滅した。続けざまに一匹の眷属を犠牲にした斬撃でまた一人が消滅した。
「無駄だと分かっているのに…何故あなたは進むの…?」
「…覚えとくんだな、シスターレディ。男の仕事の8割は決断だ。そっから先はおまけみたいなもんだ。」
闇黒剣月闇の刃が相対する分身を斜めに引き裂こうとする。だが、力が入らない。自らが正義なのか、どうしても確信できなかった。無言の分身はカウンターの銃撃を連射する。もろに食らったカリバーはその場に膝をついた。
「「お姉ちゃん!!」」
「気にするな…!戦い続けろ!」
ニューの荒げた声に、恐れをなした2体のビターガヴはより一層ダークディケイドへの攻撃を強める。その一方で、ほうりっぱなしの道化師の人形まで荘吉は辿り着く。
「…覚悟は決めてある。」
その白い袖口が怪人の背中に辿り着いた。眼前と背後、いつ当たってもおかしくない距離で弾が爆発する中、荘吉は変わり果てた自分の娘を抱きしめた。
「お前が大きくなるごとに…益々メリッサに似た美人になって…目を背けたくなった。」
零れ落ちる本心からの言葉。その表情は柔らかく、一人の父親として翔子を抱きしめていた。ウェザーの電撃によって無残にも目の前の分身は倒される。そんな光景を見てもなお、生身のツカサは立ち上がり、ウェザーへと立ち向かう。歯が立たないのは分かっている、ただそれでも最後の希望を絶やすわけにはいかなかった。
「一度もお前を娘と呼んでやれなかった。あいつらから命だけでなく、家族まで奪う気がしたんだ。」
ジョーカー・ドーパントは動かない。彼の言葉が届いてるのかは誰にも分からなかった。だがそれでも荘吉は信じていた。翔子の強さを。最後の分身は本体に呼応するかのように、全力を振り絞り、剣を振るう。しかし、三人の攻撃を一斉に受け、呆気なく倒された。
「俺は生きる。仲間と共に。託されたお前とこの街を守るために。だから戻ってこい。最初で最後の父の言葉を…聞いてくれるか。」
無言の時間が流れる。誰もが荘吉の言葉に耳を傾けていた。ただ一人を除いて。
「ハッ!!これは愉快ですねえ。そんな言葉でメモリの祝福が解けるとでも?」
「…あれが本当に正義と言えるのか。人の思いを踏みにじるあれが…」
「なんでこいつ殺さないんだよ、お姉ちゃん。」
「お姉ちゃん、早くあいつを倒せって言ってよ…!お父さん、なんか怖いよ…」
紳士を除く三人は戸惑っていた。紫の騎士は、仮面越しに眼鏡を整えようとする。自らの正義と行いをもう一度見つめようと。足首が誰かに掴まれている気がした。
道化師はまだ動かない。抱きしめる荘吉になんの反応も示さない。
「翔子さん!目を覚ましてくれ!みんな!君を待って──ぐっ!」
「威勢のいい口ですねえ。いい加減閉じまし──何ッ!?」
一粒。小さな水滴が白いジャケットに円状のしみを作った。顔面部にできたひびから水滴が零れ落ち、ぽたぽたと探偵の背中を濡らしていく。そこを境目に装甲が剥がれ落ち、白いジョーカーのトランプカードとなって消えていく。だんだん見えてくる仮面の奥の彼女は少女のように泣きじゃくっていた。道化師がただの見習い探偵に戻ると、胸元からメモリが抜けた。カランと軽い音を響かせて、床に転がった。すかさずそれをツカサは震える手で銃を撃ち、見事に壊した。
「おやっさん…おれぇ…」
「泣くな。母さん譲りの綺麗な顔が台無しだ。」
溢れて止まらない彼女の涙が荘吉の左肩を湿り濡らした。ウェザーは頭を抱え、普段とは似ても似つかない怒号を上げ、怒り狂う。その姿は紳士とは言えず、ただの狂信者だった。
「何故だ!なぜ改造したジョーカーのメモリが抜けたんだ!」
「当然だ!!」
軋む身体を奮い立たせ、全力を振り絞り、ツカサは立ち上がった。目の前の巨悪と戦うために。切り裂くように。あの時垣間見た、憧れたあの人のように。言葉を持って、一丁前の正義を掲げた悪意を打ち倒さんとする。
「ちっぽけなお前の願いより、二人の心の方が何倍も強い!!ジョーカーが思いに答えるメモリなら、こんな現象なんて当たり前だ!」
「そんな現象、認めはしない!…私はこの街の人々を救済しようと…!!」
「救済なんてお前の独りよがりだ!たとえ孤独だろうと。誰かを守るためだったら人はどこまでも強くなれる!…それでも立ち上がれなくなった時のために、僕はいる。」
二人の方に視線を向ける。ツカサによってもう一度燃やされた瞳の炎が燦然と輝く。この世界における自分の意味。そして自分が何者であるかをもう一度彼に実感させた。
「悪魔の小箱なんて必要ない!もう一度言うぞ!お前の言う救済は!ただの都合のいい独りよがりだ!」
「言わせておけば…あなたは一体何様のつもりで…!!」
白い怪人の顔は変わりもしない。それでも分かった。彼の微笑みの仮面は徐々に崩れ去り、憤怒の表情を覗き見せている。そして、その問いかけにツカサは一種のデジャヴを感じていた。そうだ。記憶の中のあの人はいつもこんなことを言っていた。もう一度ベルトを装着し、カードを取り出す。この世界を守る覚悟はもうとっくにできていた。
「通りすがりの仮面ライダーだ!覚えておけ!」
最後までお読みいただきありがとうございました。ここからいよいよクライマックスです。続きをお待ちください。感想、評価、ファンアート等々お待ちしてます。いただけると作者は大変うれしいです。
以下脚注(作成中)
1.ケミーライザー(黒鋼スパナVer.)
2.バイラルコア(リンク先はコウモリ)
3.カッシーン
4.プレーンロイミュード
5.インベス
6.スカルボイルダー
7.ジョーカーメモリ
8.パペティアー・ドーパント(ハイドープにより使える能力)
9.アタックライド イリュージョン