不幸な小狐は幸せを探す 作:うしさん
小狐の憂鬱
一体いつからこのような生活を続けていたのだろうか。
ふと意識があることを自覚した時、ボクは路地裏でその日繋ぎの生活をしていた。食事はなにか口に入れることが出来たらいい方で、食事らしい食事が出来ない日が続くのが当たり前だった。
幸いなことに、ボクがいま勝手に住処にしているこの場所には定期的に廃棄物がやってくる。
生ゴミやスクラップ、椅子や机などの家具、時には壊れて使い物にならない武器が投げ込まれることもある。
この極限のような生活をしていると生ゴミでさえ、いとおしく感じてしまう。発される悪臭にはもう慣れた。腐り過ぎているものは食べる気にもならないけど、たまに可食部が残っている時はありがたく頂く。
長きに渡る極貧生活によってボクは強靭な胃袋を手に入れていた為、割となんでも消化出来る。進化ってやつだ。それとも突然変異?ボクの身体は生活環境に順応している。
このことをありがたいことだと思えばいいのかさっさと死ぬ事ができないことを恨むべきなのか、考えても無駄なのでもう考えないことにしている。
今はただ惰性で生きているのだ。
毎日毎日、同じことの繰り返し。夜になったら眠る。日が昇ったら目を覚ます。お腹がすいたら食べ物を探す。
生きていく上で目標なんてものは存在しない。強いて言えば死なないこと。生きていればいつか報われる事を信じている。
だってそうじゃなきゃ不公平じゃないか。なんでボクだけこんな惨めな生活を送らないといけないのさ。他の人は友達や家族が居るというのにボクにはそんな人は存在しないし、ましてや昔の記憶が無い。
この世界においてボクという存在はきっと異端と呼ばれるものなのだろう。こんな浮浪児は他に居ないはず。世間に居場所なんか無いクソ雑魚みたいな存在なんだ。自分の身を売ろうにも売れる部分がないと思う。
ボクの身体は他の人と比べるととても小さい。筋肉が無ければ力も弱い。骨と皮と毛で構成されたガリガリモンスターだ。まぁ比べる人は
それはおいといて、よわっちぃのだ。この身体は。
強いのは胃袋だけ。胃袋でどうやって戦えばいいの?胃液でも飛ばす?それはそれで、なんかそういう生態を持った生き物みたいで面白いかもしれない。
そんなんで戦えるか。ばかたれ
ボクの意識が芽生えた当初、複数人が路地裏でドンパチやっているところを遠くから眺めていたことがある。その時みんなが当たり前のように銃火器をぶっ放していた。
まさか人死にが出るのか…とひやひやしながら眺めていたのだけど、銃弾が当たっても、
「いってぇなぁ!!」で済んでいたから
(なぁんだ。派手なエアガン遊びか。)
・・・と、その時はそう思ってた。
自分が銃弾を喰らうまでは...
***
「ぐぅっ...」
(痛い、痛いよ...ボクは今撃たれたの?なんで撃たれたの?あの銃はエアガンじゃなかったの⋯?)
撃たれた箇所に目を向ける。肩から血が出ている。それを認識した瞬間全身の血液が凍り付くような恐怖を感じた。
無意識のうちに呼吸が早くなる。
「ハァっ、ハァッハァッ・・・くそぅ…血が、止まれよぉ…!」
「ハハッ、お前なんでそんなに身体が弱いんだ?頭のソレは飾りかぁ?銃弾一発でそんなんじゃこの世界では生きてけないぞ!ほらほらっ、遊んでやるから生き延びてみなよッ!」
加虐趣味でもあるのか黒いセーラーの女はそう声をあげ、足でボクを転がしながら再び銃口を向けてくる。
「なんで急に撃ってくるんですかっ...?!ひっ、や、やめてっ撃たないでッ⋯!」
「なんでって、そりゃこの場所はアタシらが先に溜まり場にしてたからに決まってんだろ!勝手に住み着きやがってこの薄汚い野良狐がっ!」
どうやらボクは踏み込んでは行けない場所に、知らず知らずのうちに入り込んでしまったみたいだ。いい場所だと思って住み着いてしまったことが運の尽きだった。
住み着き始めて二日ほど経っても誰も来ないから油断していた。
決死の命乞いもむなしく三発の銃声が路地裏で鳴り響く。この世界では日常茶飯事なのか大通りの人々は見向きもしない。
「ぎゃっ.....ぐぅ........ッッッッかはっっゲホッゴホッ…うっ…おぇぇぇェ.......」
(痛い痛い痛い痛い…いたいッ⋯苦しい。気持ち悪い...!やめてよ⋯なんでそれだけでこんな酷い目にあわないといけないの?)
右脚に一発と脇腹に二発喰らってしまったみたいだ。新たに撃たれた部分からも血が流れ出てくる。あまりの痛みによるショックで、ただでさえ少ない胃の中身を全てもどしてしまった。
「うわっ...汚ったねぇ」
「も、もうやめてぐだざい!!いたいのはいやっでずっっ!ご、ごめっ、ごめんなざいッ……うぅ、ヒック⋯う、うたないでぇ…」
この時にはすでにどうやってこの場を生き延びることができるかという思考で脳ミソが埋め尽くされていた。普段から働かせてない頭をフル回転で動かす。
その結果の見苦しい命乞いである。というかそれしかできないのだ。戦う手段のない自分には。銃は持っていないし力も弱い。反抗しても無意味だと悟っている。
「姉御…。そいつこれ以上やったらほんとに死んじまうんじゃないっすか?」
そういえば女には連れがいた。今の今まで近くで傍観してたけどようやく口を挟んでくれた。
(お願いだからそのまま説得して連れて帰って下さいお願いしますお願いします⋯)
あたまの中で祈りを捧げながら土下座の姿勢に移る。撃たれた痛みなんて今は知らない...!誠心誠意、謝罪の気持ちを示すんだ…
「せっかく楽しくなってきたとこだけど、人殺しにはまだなりたくねェな」
「まだって…、冗談だとしてもやめてくださいよー?ほんとに。見てる分には面白いけど私まで人殺しとみなされたらたまったもんじゃないんすから。それにキヴォトスでは殺人は一発アウトなんで」
・・・ほっ、助かった...かろうじて死なずに済んだみたいだ。ボクは未だに土下座の体勢のまま傷口から血を垂れ流している。
意識も朦朧としてきて目の前が霞んできた。血を失くしすぎたのかな。なんて考えが頭を過ぎる。
だけどこの場で殺されることは無くなった。
希望はもうすぐそこに見えている。
「おい」
なんだろう?急に呼ばれたみたいだ。
曖昧だった意識に活を入れ最後の力を振り絞る。
頭をあげ女に顔を合わせる。
「は、はいっ」
そう返事をした瞬間腹部に鈍い痛みが走る。
「・・・ぐふっっ……かはッ…!」
そして一瞬感じる浮遊感。壁に全身を強打し、四肢がバラバラになるような感覚と共にボクの意識は途絶えた。
「あらーかわいそうに。ケモ耳ちゃんあんなに健気に許しを乞うてたのに、ほんとその趣味理解できないっすよ」
「お前も人のこと言えないだろ」
「くふっ、なんのことっすか?」
強烈な蹴りを放った女とその連れはそう言い残し大通りへと歩いて行く。今しがた蹴飛ばした小狐に目をくれる事も無いまま…
意識を失ったその身体は広がり続ける血だまりに沈んでいった
***
嫌な記憶を思い出してしまった⋯
確かあの後普通に乾いた血溜まりの上で目を覚ましたんだっけ。
目を覚ましたはいいものの、しばらくの間は痛みと貧血でまともに動くことが出来なかった。
それからというもの、銃を見る度に身体が震えて力が抜けてしまうようになってしまった。トラウマと言うやつだ。脳の奥底から沸きあがる根源的恐怖心。暗闇とか蛇が何故か怖いのと同じ。
そしてようやく出会えたのがこの場所なのだ。
この場所に住み着く前にはいろいろなところを転々としていた。そんなことを繰り返していたら、やっぱりあいつらの同類は居るもので、さっきの記憶の出来事みたいに一方的に襲い掛かられることもよくあった。
住むのに丁度いい場所は既に誰かが占拠しており、住み始めて誰も来ないと安心していても絶対に誰かがやってくる。
時にはヘルメットをかぶった集団や、セーラー服を着たお姉さん達にもかち合った。多対一なんて当たり前、やられる前にやり返せ精神を体現するかのように荒波のような暴力に襲われた。
まるで野良犬に対するような扱いだ。人の居場所に勝手に住み着いたボクが悪いのは分かっているけど、流石に心が折れてしまいそうになる。
もちろんボクは武器も戦う術も何もかもを持っていなかったからやり返すなんてことは出来なかった。
胸ぐらを掴まれサンドバッグにされる。鉄パイプで殴られる。拘束されて的当てゲームの的にされる。腕を折られる。脚を折られる。えとせとらえとせとら...
ボク以外の人がそれらの攻撃を食らっても、大して酷いダメージは受けないだろう。だって銃で撃たれても「痛い」で済むような人達ばかりなのだから。
身体が抵抗してしまい、偶然顔を殴ってしまった時なんか特に酷かった。何が酷いかって、コッチの攻撃は顔面に手が「ぺち」だぞ。「ぺち」
自分で言ってて悲しくなるけどダメージなんてないでしょ!ボクなんかに叩かれたところで、金魚の尾びれではたかれた程度のダメージしかないよ!ばか!
その貧弱な攻撃に対する報復なのか、そいつは急にナイフを持ち出してきたと思ったら、ボクのあたまに生えているおっきなふさふさのお耳を切りつけてきたのだ。
身体を拘束されて動けない中、ボクはその場で泣き叫ぶことしか出来なかった。泣き叫ぶと、うるさいと言われ暴力で黙らされる。
自分の身体の中でも特に敏感な部分を切られるなんて、正に生き地獄という表現がぴったりだった。
その後は確か、痛みで我慢出来ず泣き叫んでいるボクの自慢のふさふさしっぽをわしづかみにし、そのまま振り回されて投げ捨てられた気がする。
身体が軽いから尻尾を掴まれると、宙ぶらりんになって身動きが取れないのだ。
血が止まらなかったし、その日は痛みとショックで一晩中泣いていたと思う。
過剰だろ!やりすぎだ!なんて当時は思ってたけど、今こうして住処を確保すると自分のテリトリーに他人が入ってくることの不快さが理解できた。
まぁ今でもみんなやりすぎだとは思うけどね。
なんだかんだあって思ったことがある。
死にたいと思ったことなんか何回もある。ここで死ぬんだと頭をよぎったことも数えきれないほどある。
空腹で倒れた時、暴力に晒された時、血を流しすぎて意識を失った時、ストレスで発狂しそうになった時、孤独でちょっとセンチメンタルになってしまった時...は別として。
あれだけなんだかんだあって、死ぬほど苦しい思いをしたのに今こんな感じで生きてる。
理由は分からない。
そもそもこの世界の常識が分からない。
なんでみんなあたまに天使のわっかがついてるの?なんで羽が生えてるの?なんでツノが生えてるの?なんでボクにはケモノみたいなおっきなミミとしっぽが生えてるの?
なんでなんでなんで?
おんなのこしかいないの?犬や猫やロボットがなんで当たり前のように服着て歩いてるの?銃で撃たれたら死ぬんじゃないの?
疑問は尽きない。
この
今ではこれが当たり前のことだと思えるようになってはいるが、意識が芽生えた当初は自分がおんなの子であることに対してすら違和感を感じていた。
まぁ直ぐに違和感は消えたけど。
前世なんてものは考えたことは無いけれど、もしかしたらもっと平和な世界でおとこの子として生きていたのかもしれない。
どうせ考えても意味の無いことだ。今を生きてるのはこのボクなんだから。
「真実が分かること」と「おいしいごはん」を天秤にかけたら、ごはん側に180°傾いて真実なんてカタパルトの弾みたいにどっかに吹っ飛んでしまうだろう。
今日もボクはそんなくだらないことをだらだらと空を眺めながら考えている。
この生活から抜け出したいと常に思ってる。おなかいっぱいのごはんが毎日食べられたらいいなとゴミを漁りながらずっと考えている。
ボクの理想の暮らしは小さな幸せの積み重ねだ。
ケガなく平和に暮らしたい。美味しいご飯を食べたい。友達と一緒に遊びたい。楽しくおしゃべりがしてみたい。学校にも通ってみたいな。
あっ!学校に通えれば半分以上も叶うじゃん!
すごいことに気づいてしまった…
ボクってば天才なのかもしれない。
もしかしたら通えるようになる方法まで思いつけば、天才を超える何かにでもなれるのかもしれない。
さすがの天才なボクもそこまでは思いつかないから今は天才止まりかな...
もし学校に通えた時は、「ボクは天才よりも天才だ!」と胸を張って言えるだろう!!
・・・張れるような胸はないけど。
コホン...!現実的に考えてみよう。
通うのならどこがいいだろうか?
ボクのこの世界に関する情報は、ほとんどが盗み聞きから成り立っている。街を歩く女の子たちの話は聞いていて飽きない。ボクの暇つぶしの一つだ。
はなしを(盗み)聴いている限り、この世界にはたくさんの学校があるらしい。
よく名前が出てくるのは「げへな」だとか「とりにてぃ」だとかかな?
会話の流れ的にたぶん学校の名前だと思う。
どんなところなのか、何処にあるのかはわからない。
誰かに聞けば分かる事なんだろうけど、話しかけるのが怖い。
学校に行きたいと思ってるのにそれはどうなんだと言われるかもしれないけど、怖いものは怖いのだ。
できれば人が少なめで、みんなが優しいような学校に行きたいな。
贅沢なことを言ってる自覚はちゃんとある。
でもいじめられるのはもうイヤだ。
この生活に慣れたとは言っても、他人から受ける肉体的な痛みや精神的な痛みには慣れそうにない。この世界のどこかには苦痛に慣れることが出来る人もいるだろう。
でもボクはそんなに強くはなれない。心もすぐ折れるし、すぐに泣いちゃう。
唯一誇れるところと言えばゴ○ブリ並の生命力かな?
いや、こうして見るとやっぱあんまり誇れないかも⋯
話が逸れちゃったけど、ボクは学校に通ってみたい。今の暮らしから抜け出したい。幸せになりたい。
だけどそんなきっかけは無いし、今の安定?した生活を捨てて外に出る勇気もない。動かないと何も始まらない、なんてことは当然分かってる。
そんな1人で考えても永遠に結論が出ないことを考えているうちに、月や星たちが主役の時間になっていたみたいだ。
大丈夫。生きていればいずれいい事があるよ。だから頑張れ。
ありふれたエールを自分に送る。星に願いを込める。
(おやすみ。
満天の星空を見上げながらそっと目を閉じた。
次の日、外に出るきっかけとなる最悪な出来事が起こるとは知らずに
容姿は真っ白。デカ耳。デカ尻尾
ヘイローはきつね色の勾玉が9つ輪になってるみたいな感じです。
基本的にはアホの子です。
痛い目にあうちまっこい狐っ娘がすきです