不幸な小狐は幸せを探す 作:うしさん
この小説はハッピーエンドを目指しています。
「いやぁ〜上手くいったな!!」
「まさかこんなに上手くいくなんてなー」
「今回の作戦は大成功ということで、流石です!ボス!!」
作戦の成功を喜ぶヘルメット団の戦車内の面々。
口々に歓びの声が上がる中、ただ一人沈黙を貫き怒りを抑えるように拳を握りしめている人物がいた。
その人物とは...
「お前ら⋯よくもやってくれたな...!」
「そうでしょうそうでしょう!特訓の成果が出ましたねー!」
「どれもこれもボスの指導のおかげっすよ〜!」
「ふ、ふ、ふっざけんなァァァァァ!!!!」
突然ボスの怒鳴り声が戦車内部で響く。一体どうしたのだろうかと困惑するヘルメット団員。
勇敢なメンバーがその理由を聞き出す。
「急に怒鳴ってどうしたんすかボス?なにか嫌なことでもありました?」
「嫌もなにもあるかぁ!!お前らは普段からあんなことを私に対して思ってたってことか!?嫌な気持ちになるに決まってんだろ!!私だって悲しいんだよぉ!!」
「いや、でもアレも作戦の内で指示したのはボスですよねぇ?」
「・・・っ、そうだけどっ!そうだけどぉ...!!!あんな酷いこと言う必要無いよね!?もっとマイルドな台本があったよねぇ!?」
ひと息で叫び倒すヘルメット団のボス。こんなに情けない姿を見せているが、一応ボスである。
目尻にはじんわりと涙を浮かべ、声は少し震えている。
どうやら団員が台本を無視し、ボスに対する悪口を散々と言い散らかしたことに関して怒って...いや、悲しんでいるみたいだ
「あ、いやぁ〜アレはなんと言いますか...?気分が盛り上がってしまってつい口からポロッと出てしまったと言いますか...?」
「出てんじゃん!本音出ちゃってるじゃん!一番そうゆうの傷つくんだよ!」
「まぁまぁ、結果的に上手くいったんですからいいじゃないっすか」
「うぐっ、そうだけど...」
団員の一人が、今回の一件を上手く丸め込もうと試む。
若干幼児退行してしまっているが、ボスは自分がここでこれ以上言っても無駄だと気付いたようだ。
「おっ、お前ら...覚えてろよ...!!」
でも、しっかりと根には持ったらしい。悔しそうな顔で歯を食いしばっている。空気を読んだ団員が話を逸らしにかかる。
「し、しっかしあの小狐も運が悪いなー!こんなことに利用されるなんてさ」
今しがた戦車の中から放り投げられて、囮になったモノの話を始める。他の団員も、ボスの話題から全力で逸らしにいく。
「それな...!!聞いた限りだと倒れているところを拾ってきたんだろー?そんなやつを囮として使うなんて考えた人はホントに良い性格してるよな!」
「バッカ、おまえ...」
「あーあーそうですか!どうせ私は性格の悪い鬼畜ですよーだ。煮るなり焼くなり好きにすればいいじゃん...」
話を逸らしたはずなのに、再びボスに被弾してしまったようだ。もうすでに怒りを通り越して拗ねモードに突入している。
それを見た他の団員は、鬱陶しいだけで無害だと分かったため無視することにした。
「それは置いといて、あの小狐もなかなか神経図太いよな。」
「ほんとにね。今朝出発するってなって着換え終わったときなんて、ずっとニマニマした顔で鏡とにらめっこしてたからね。戦場に囮として行くっていうのに。」
「あっ!それ見てたわ。正直可愛いかったよな。」
「あと戦車に乗り込む前は不安そうにしてたのに、戦車を見た瞬間ウキウキした顔で尻尾ぶんぶんだったよね。」
「なんか移動してる時も揺れが心地よかったのかぐっすりだったし。かなりの揺れだったけど」
団員による小狐の暴露エピソードトークが始まってしまった。やはりあの小狐の言動は、すこし他の人よりもずれているようだ。よほど昨日が楽しかったのか、連れて来られた時よりも気がゆるゆるになっていたみたいである。
そんな話をしていると、一人の団員が声のトーンを急に落として、話し始めた。
「・・・あれを見てて思ったんだけど、囮として使うのかわいそうだったな...。ハッチの外に投げ捨てる時まで普通に寝てたし、もう遅いかもだけど罪悪感がすごい...」
「あーわたしもそれ思った。もっと早くに気づけてれば止められてたのにね...」
「まぁ全部やっちゃったことだし、無事を祈るしかないよ。外に放り出した本人が言えた事じゃないけどさ...」
後悔先に立たず、という言葉が今のヘルメット団員の現在の状況である。
彼女らは、今その小狐がどのような状態に陥っているのかは、知る由もない。
***
「ここ...どこぉ...?」
アイツは戦車から転げ落ちて座ったままの体勢できょろきょろと周囲を見回している。するとこちらと顔が合い、ヘルメット越しに目が合う。
その瞬間、怒りに支配された私の身体は動き出していた。戦車を追っていた時よりも強い踏み込みから、思い切り腹部を蹴とばす。
「がはぁぁっ...!!!!」
そう声をあげ、後方に十数メートルほど吹っ飛んでいく。身体が小さくて軽いから思っていた以上に遠くに飛ばしてしまった。
今蹴ったときに足に感じた感触を思い返すと、かなり強く蹴飛ばしたから骨が折れていてもおかしくはないだろう。
───────だけど...
・・・今は動きを制限するには丁度いい...
呻きながら転がっているアイツのもとに歩いて向かう。ヘルメットが外れている。顔面も他と違わず真っ白で、シロコちゃんやセリカちゃんよりも大きな獣耳をしている。
涙で顔をぐしゃぐしゃにし、口からは少し血が零れている。蹴とばしたときに落としたのか、銃はすでに手元には無い。
「うぅ...!げほっ、がぁっ...っあああぁ.....!うわぁぁぁあん、がっはげほっ...」
大泣きだ。ボスともあろうものが情けない。
(泣きたいのはこっちだというのに加害者が被害者面をするな...!)
声をあげ泣いて、時折咳き込み血を吐き出している。そしてその痛みに悶える。これの繰り返しだ。
これで許したなんて言わない。二度と戦いをしようと思わないほどに心を折らなければならない。
「ねぇ、キミ達はさ、どうしてうちを襲うのをやめないのかな。勝ち目が無いってわからない?」
とりあえず対話を試みることにする。相手のことを知らなければ、どうすれば折れてくれるか分からないからね。
さぁなんて答える?
「・・・ちがう!ごほっ、ボクじゃない...ボクじゃないんだよぉ...」
「はぁ?ちゃんと答えてくれないと私もどうすればいいのか分かんないからさー。
次はないよ?ほら、早く答えなよ」
意味が分からない。あんだけ団員にボロボロに言われて現実逃避でもしてるのかな。それとも壊れちゃったのかな。どっちにしろ、次きちんと答えてくれなかったら...分かってるよね?
「・・・だから!ボクはボスじゃな、ぐがぁっ....っぐぅ...!」
「いい加減にしなよ。答えろって言ってるよね?なんでそれがわからないかな?」
しゃがみ込んで首元を片手で絞めるように宙に持ち上げる。脚をばたつかせるが非常に弱弱しい。首を掴む手をひっかいているが痛くも痒くもない。大きな尻尾は股の下に挟み込まれ、大きな耳はぺたんと倒れ込んでいる。
「・・・っく、ぐぐぐ...んぐぅッ、うぅぅ...」
次第に顔が青くなってきた。身体が震えだし、口の端から血の混じった泡を吹き始める。
殺しまでは絶対にするつもりはないので、首から手を放し地面に落とした。
「げっほごっほ...!はぁっ、はぁっ......かひゅっ、がはっげほっ...」
ここでふと、先程言っていた「ボクはボスじゃない」という発言が今になって気になった。さっきは途中で遮っちゃったから、呼吸が落ち着いたころを見計らって聞いてみることにした。
「・・・ねぇ、ボスじゃないってどういうことなのかな」
「こ、言葉通りの意味...です」
「でもキミ、団員からボスって呼ばれてたよね?」
「・・・っだからそれはちがくって...!げほっけほっ、ボクは影武者にされたんだ!」
「・・・はぁ、もういいよ。そんな突拍子も無い訳の分からない言い訳が通じるとでも思ってる?」
だらだらと言い訳を聞いているとイライラが込み上げてきた。もう一度蹴り飛ばしてやろうかという考えが頭を過ぎる
────が、しかし私の後方から一つの足音とともに叫ぶような声が聞こえてきた。
「ハァッハァッ...!だめっ!もうやめてっ!!小狐ちゃん!!大丈夫?!」
「おねえ、さん...?なんで、きちゃったの...?」
一人の背の高いヘルメット団員が走ってやってきた。わざわざここまで何しに来たのだろう。わらわらと鬱陶しい。
ヘルメット団を見るだけで怒りがさらに込み上げる。その団員が「小狐ちゃん」と呼ぶ存在を背に隠し守るように私と向き合う。
「キミは誰なのさ」
「あたしは小狐ちゃんのお世話役。このコを守るために来た。もうこのコをこれ以上傷つけないで...!」
「ふぅん。慕ってくれてる子もいるじゃん。そいつを庇うんならキミにも容赦はしないよ?」
「このコを攻撃するくらいならあたしに攻撃して」
「お、おねぇさん...。だめだよ...!がふっ、ボクのことはもう大丈夫だから逃げて!」
「そんな怪我してて見捨てられないよ!!見捨てられるわけがない!あたしはキミのこと大切に思ってる!絶対に守るからっ」
・・・茶番だ...。見てられないなぁ。
本当なら今すぐにでも二人とも撃ち抜きたい衝動に駆られている。それをギリギリ残っている理性で押しとどめている状態だ。何がきっかけで崩壊するか分からない。
「ねぇ、茶番は終わった?」
「茶番って...そんなものなんかじゃない!!」
「ボスを守る演技はもういいよー。飽きちゃったしさぁ」
「・・・くっ...そ、それで言ったらあなた達だって
「お、おねえさん...!それは言っちゃ⋯」
「はぁ?キミいまなんて言った?」
その言葉を聞いた瞬間、残っていた理性が一瞬にして吹き飛んだ。
ショットガンを取り出し団員の胸ぐらを掴む。そして一気に腹部に直接撃ち込んだ。
「ガハッ...!!!」
「おねえさん!!!!」
「動くな!!!」
「はいぃ...」
誰も動かないように釘をさす。
団員の意識は途切れかかっているが、胸の内に渦巻く激情を吐き出さずにはいられなかった。
「学校ごっこ、だって?巫山戯んな!!私たちはアビドス高校をたったの五人で守ってるんだよ!!私たちがいる限りは誰が何と言おうとそこは
とどめと言わんばかりに叫び、再び引き金を引く。
それでその団員は意識を失った。
***
「あ、あぁ、ああぁぁぁ....!!おねえさん...!!おねえさん!!起きてよ!!起きて....!」
どうしてこんなことになってしまったのだろう...
昨日みたいな一日を過ごせたらいいなと眠りについた。
そして今朝はあったかい布団で、いつもより少しだけ幸せに目を覚ましたはずだった。昨日の思い出に浸りながら制服に着換えさせてもらった。パンを食べさせてもらった。
戦車に乗り込む。アビドスの人たちに対する不安と希望を抱きながら乗り込んだ。戦車の揺れが心地よかった。気が付いた時には意識は夢の中だった。アビドス高校に入学できた自分を夢想する。
目が覚めた瞬間、知らない場所に放り出されていた。目の前にはピンク髪のかわいい女の子。だけどその顔は怒りと絶望で歪んでいるような気がした。
目が合う。
その瞬間ボクは何が起きたのか分からなかった。宙を舞う身体。全身に響き渡る痛み。骨が折れた時の感覚。意識は辛うじて繋がっていた。ここで気を失うことが出来たらどれだけ楽だったのだろうか。
地面に落下し、身体はゴミのように転がる。内臓が熱い。思わず咳き込む。砂には赤い染みが出来ている。どうやら吐血してしまったみたいだ。
ピンク髪の子に質問をされる。本当のことをボクなりに答えた。うまく話せなかったかもしれない、あたまがぐわんぐわんしてうまく考えられなかったかもしれない。だけど全部本当のことだ。
・・・だけどその子は何一つ信じてくれない。
本当のことを話せと怒鳴りつけられる。首を絞められる。そのまま地面に投げ捨てられる。
────ボスにそっくりな囮として使われたんだ。こうなるのも当然か...
アビドスの人が悪いわけではない。悪いのは全部ヘルメット団だ。
ボクは好き勝手に暴力を振るわれることに、半ば諦めかけていた。
その時、慣れ親しんだ声がボクの耳に飛び込んできた。
おねえさんだ...どうして来たのかは分からない。けど、ボクを一生懸命に守ろうとしてくれていることはしっかりと伝わった。
・・・けれど、こんなことになるくらいなら最初っから守らなくてよかったのに。
傷つくのはボク一人だけでよかったのに⋯
目の前に転がっている、見慣れた人物の姿が目に入る。昨日の夜に見た安らかな寝顔とは違う。傷つき、苦痛に歪んだ顔をしている。意識はない。破れた制服から腹部が見える。すごい威力だったけど幸いなことに致命傷ではなさそうだ。
ボクは痛みを忘れて泣き縋る。ボクが傷つく分にはまだいい。だけど、ボクのせいで誰かが傷つくのは嫌だ...
もうおねえさんを傷つけさせたくない⋯!
そう思いすぐに行動に移す。両膝をつき、おでこを地面に擦り付け、精一杯に姿勢を低くする。
「お、おねがいです...!なんでもしますからもうこれ以上、おねえさんを傷つけないでくださいっ!おねがいします...!おねがいします!おねがいしま、ぐはっ...!」
「聞こえてるようるさいなぁー。元々本命はキミなんだし、そっちの子には最初から興味はないよ」
・・・ぐぅ⋯いたいっ...
さっき蹴られたところを再び蹴られて骨も内臓もたぶんぼろぼろだ。口から血が溢れてくる
ボクは蹴られた衝撃で仰向けになって寝転がっている。視界が滲む。空が回る。ここからどうすればいいのだろうか...
何を言っても信じてもらえない。昨日一生懸命考えた説得のセリフも言ったところで聞いてもらえないだろう。
アビドス高校入学どころの話ではない。命があれば儲けもの。今すぐに逃げなければ死んじゃう...!
「・・・で、何でも言うこと聞いてくれるんだっけ?とりあえずもうウチに手を出してこないでよ。」
「は、はい...。ごめん、なさい...」
「はぁ⋯。謝るくらいなら最初からこないでよ。それと、もうひとつ」
ボクはもう謝ることしか助かる術はない。ここで抵抗でもしてみろ。あっという間に肉片に早変わりだ。
本当ならヘルメット団のボスに言うはずのお願いを、なんでボクが聞いているんだろう。もうひとつのお願いとはなんなんだろう...
「ノノミちゃん、キミがさっき撃ち抜いたコの仇を取りたいんだよね。これでも私、かなーり怒ってるんだ。一発撃たせてもらえれば、許しまではしないけど解放してあげるよ。別にいいよね?さっきの人みたいに気絶するだけで済むんだしさ」
「────は、あははっ......はぁっ...はぁっ、ハァッ、ハァッ!ハァっ.....!」
その言葉を聞いた瞬間、口角が引き攣り乾いた笑いが口から漏れる。そして次第にコトの重大さに気づき、息が荒くなってしまう。
(だめだ。ダメだダメだダメだ...それだけはだめだ...!!!しぬ!!死んでしまう!ただでさえ身体の弱いボクがあんな威力の銃を喰らってしまったら本当に死んじゃうよ...!)
「や、や...です...」
「ん?なんだって?」
「いや、です...!やめて、それだけはやめて...くださいっ!」
「なんでさ。そっちが撃って来たのに自分だけ撃たれたくないなんて不公平だよね」
その通りなんだけどボクはあのヘルメット団のボスなんかじゃない!!撃たれてたまるか!!
思っていることを、今ここで思いっきり叫んでやる
「だから...!だからボクはヘルメット団のボスなんかじゃないんだ!!ボクにそっくりなボスが別にいるんだ!!」
「またそれ?もういいよ。信用が無ければ根拠もない。そんなものどう信じろっていうのさ!私は悪い大人たちを見て散々学んできたんだよ!!」
「ほんとうのほんとだ!!本物はあの戦車で逃げたんだ!!ボクはニセモノだ!!」
「黙れ!!!だまれだまれだまれ!!!最初から言い訳ばっかり!!そんなんだから他の団員から見捨てられるんだよ!!いいから黙って大人しくしてなよ!!」
「・・・う、うぅ...だからぁ、ひっく....
ちがうっでぇ.....ぁぁ...うわぁぁぁあん...!
やだよぉ!!もう、うたれるのはいやっ⋯!いたいのはいやなの...!」
(・・・こわい、こわいよ...こんなのはじめてだよ...)
身体がガタガタと震えている。そして無意識のうちに身体が逃げる準備を始めていた。
・・・始めてしまっていた。
痛む身体に鞭を入れ、脚に力を込める。
ざりざりと後ろに後退りをしながら逃げるタイミングを見計らう。
・・・いまだっ!!
その瞬間、逃げ出したことを後悔をする暇もなく、間違いなく今までで一番の痛みと共に目の前がまっくらになった。
土曜日なので出血大サービスです。19時頃にまた投稿します。