不幸な小狐は幸せを探す 作:うしさん
この話を書きたかったがために、この小説を書き始めました。
需要がございましたら幸いです。よろしくお願い致します。
───────私は、その感覚と光景を生涯忘れることは無いだろう...
腹部に直接撃ち込むショットガンの引金。
目の前に飛び散る彼岸花の如く濃い赤色。
辺り一遍に広がる血の匂い。
鼻を通り越し脳にまで充満するかのような濃い血の香り。
だんだんと失われていく瞳孔の光、心臓の拍動。
───────それを呆然と見つめる私。
忘れたい記憶。忘れることを許されない私の罪。
どうしてこんなことになったんだっけ........
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・なんなんだ、この子は...
あれだけ団員からボスであるかのように振る舞われて、見た目も事前に確認したスナイパーの姿と同じ。
それなのに最初から『ボスじゃない』の一点張り。ボスでは無かったとしてもスナイパーであることには変わりないのに。
そもそもの論点が違うのだ。私は、ノノミちゃんやみんなを傷付けたヤツを許さない。ボスであろうとなかろうと、みんなを傷付けたのはこいつなのに。
戦車から放り出された時に、スナイパーライフルを背負っていたところを私は見逃していない。
これでどう言い逃れられると思っているのだろうか。
ただでさえノノミちゃんが撃たれて気が立っているというのに、ここまで言い訳を重ねられると声を荒らげてしまうのも仕方ないことだ。
らしくもなく怒鳴ってしまった。すると目の前の小狐は、顔を歪め本格的に泣き始めた。その顔面は、涙と鼻水と血液でぐしゃぐしゃだ。
その泣き声が私をさらに苛立たせる。
(撃たれる覚悟の無いやつがなんで戦場に来るかな...)
目の前を見ると、坐り込んでいるそいつは、泣き声を上げながら後ろに少しずつ後退りを始めた。この期に及んで逃げるつもりなのだろうか。
舐められているのかな。私がお前を逃がす訳が無いというのに。
お前には報いを受けてもらうまで解放なんてしてやらない。
そもそもこの何もない土地で逃げられるとでも思っているのか。ただの考え無しの馬鹿なのか、策があるのか。どちらにせよ逃げる素振りを見せた瞬間になんとしてでも捕らえてやる。
ずっと目が合っている。
あちらはこちらを見つめ、私も相手を睨み付ける。
繋がる目線から強い感情が伝わってくる。
伝わってくるのは、困惑と恐怖。涙がぼろぼろと零れ、身体はガタガタと震えている。
何がそんなに恐ろしいのだろうか。このような戦闘はキヴォトスでは日常茶飯事だというのに。
そこまで恐怖する
さっさとこの状況にけりをつけよう。そう思い、一瞬わざと目線を逸らす。
案の定逃げ出した。
手を地につけ起き上がり、泣き声を上げながらふらふらと走り出した。
「うわぁぁぁあん・・・!!」
「逃がすかッ...!!!」
絶対に逃すものか。先ほど使用したショットガンを片手に、おもいきり駆け出し、相手の進行方向に一瞬にして先回りする。
「ひゃあ...!!・・・や、やだっ!!」
そいつは突然目の前に現れた私に気づき悲鳴を上げるものの、急には止まることが出来ずにそのまま私の方に向かって走ってくる。
遂に私と身体がくっつく距離にまで近づく。
銃口を腹部に押し当てる...
私は、そのままそいつの身体の中心を...
────────撃ち抜いた...
「───────え...?」
時が止まる
目の前には目をそむけたくなるほど凄惨な状況
私の顔には生暖かい液体が飛んでくる
咽かえるような血の匂い、硝煙の匂いすら感じない
辺りは静寂に包まれる。まるでこの世界には私しかいなくなったのではないかと錯覚するほどの静寂
先程の鬱陶しいまでの泣き声は...
・・・もう、聞こえない───────
ここは現実なのだろうか。悪い夢でも見ているのではないだろうか...
手に残る感覚。自分の手で引き金を引いた時の衝撃。これがすべてを物語っている。
あの瞬間、何が起きた...?
いつもならさっき撃ったヘルメット団の団員のように気絶するか、撃った部分が痣になるくらいで済むはず。
だけど、この子は
銃弾が皮膚を貫き
お腹の中身が飛び散ってしまっている─────
「・・・はぁ、はぁっ...あ、あぁぁ、ああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
どうしようどうしようどうしようどうしようっっっ!!!
私は人を殺してしまったの...??!!もう取り返しのつかないことをしてしまったのッ?!!
・・・いや、キヴォトスにおいて銃で人が死ぬなんてめったにないことだ...!
生きてるはずだ!しっかりと確認しないと...
そう思い至り、ソレをよく観察する
”頭部を見る”
顔の色は青白い
眼と口は半開きになっている
眼の周辺は先程まで流していた涙で濡れている
瞳の焦点が合っていない
瞳に生気と呼べるものは、すでに宿っていない
「・・・はぁっ...はぁっ...」
”胴体を見る”
一面の赤
制服は見るも無残に破れている
制服の元の色が分からない
制服から覗く肌はまるで...
・・・赫く燃える果実のようで...
──────瞬間、目を背けてしまった
「・・・ハァッ、ハァッハァッ....!!
────っぐ、うおぇぇぇ....」
あまりにも凄惨なモノをじっくりと見てしまったせいで、思わず嘔吐き胃の中身を戻してしまう
「あ、ああ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!」
(あぁ、だめだ。もうだめだ...私が殺したんだ...!この子を⋯)
この子をこんな目に遭わせたのは私。この現実を受け止めようとするも、私の頭はそれを拒みたがっている...!
現実から逃避したくてその場に蹲ってしまう
周りの音が聞こえない
これからのことを考えると勝手に身体が震える
なにも、なにもしたくない...
これからどうしよう...
人殺しとして追われてしまうのだろうか
後輩から軽蔑されるのだろうか
「────い」
こわい...
「────せんぱい」
ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい...殺してしまってごめんなさい
「・・・ホシノせんぱい」
心が壊れてしまいそうなくらいに痛い。
いや、この子の方が何倍も痛く苦しかったはずだ....
私がそんなことを思う資格なんてない。
「ホシノ先輩!!!」
「・・・え...?」
「やっと気づいた...!そんなところでなにしてんのよ?」
対策委員のみんなだ。元いた所から私のもとに小走りでやって来ている。ノノミちゃんも目を覚ましていて他のみんなと一緒だ。
だんだんと私がいるところに近づいてくる。
(だめっ...こないで...)
見られてしまう...!私の罪が、後輩に...
「─────っ!」
あぁ、シロコちゃん...
嗅覚が鋭いシロコちゃんはすぐに気付くよね。
「・・・・・え...?なによ.....これ....」
シロコちゃんの様子がおかしいことに気づいたセリカちゃんにも
「ほ、ほしの....せんぱい...?この子は...」
優しいアヤネちゃんにはこんな光景を見せたくなかったな。
「・・・この子は、私を撃った子、です...よね...?」
ノノミちゃん....
───────もう、諦めよう
「うん、そうだよ。この子は私たちが捕まえようとしてたあのヘルメット団のスナイパー。私が殺しちゃった。私は、これからどうすればいいんだろね...?」
もういい。もういいや...
無理やりに作り笑いを浮かべる。きっと今の私の顔は酷いものだろう。涙と血液と吐瀉物で汚れた顔に、引き攣った口元。傍から見たら異常者でしかない。
「────うそ、なのよね...?・・・ウソって言ってよ...!!ホシノ先輩!!」
「見ればわかるでしょ?その子が生きてる可能性があると思う?」
「ん.....なんで、殺しちゃったの⋯?」
やっぱりその質問はされるよね。全部正直に答えよう。
「私も殺すつもりはなかったんだ。ノノミちゃんがやられて頭に血が上っちゃって。逃げようとしたから咄嗟に撃ったら...こんな、ことに...!」
「でも銃で撃ったら死ぬなんて、キヴォトスじゃほとんど聞きませんよね...?」
「それがわかんないんだ。この子は異常に撃たれることを恐れてた。その時点で違和感に気づいていればこんなことにはならなかったんだよ...」
・・・そう。恐れてたんだ。もちろん撃たれるのを好む人なんていないけど、撃たれるからってあんなに怖がる人もいない。もう少し冷静になれてたら、なんて今更考えても時すでに...ってやつだ。
これがこの世の中の絶対的なルールなのだから
私が一番そのことを
「待ってください...!その子が死んでしまったって、ちゃんと確認しましたか!?」
急にどうしたのだろうか。アヤネちゃんには生きてるように見えるのかな...
「ちゃんとは確認してないよ。でも、その状態じゃ...」
「それなら今、私が確認します!」
本気で言ってるのだろうか。目を背けたくなるような状態なのに...
それからアヤネちゃんは、斃れているソレに近づき脈拍や呼吸の確認などを行っていた。
そうして・・・
「・・・生きてる...」
「────え...?」
「生きてます...!脈はとても弱弱しいですが動いてます!!呼吸もギリギリまで近づいてようやく確認できる程度ですが、ちゃんとしています!!」
・・・信じられない。あの状態で生きているなんて...
少しだが希望が見えてきた。目の前に垂らされた絹のように細い糸にしがみつくかのように、すぐ行動に移す。
「ゲヘナの救急医学部かトリニティの救護騎士団を呼ぼう」
「え...?いいの?学園間の問題に発展するかもしれないわよ?!」
「そんなこと気にしてる場合じゃないよ。
もし何かあったとしたら、私が全責任を持って解決する。」
「ん、それじゃあどっちを呼ぶ?」
「あ、それなら救急医学部の方がいいと思いますよ...?救護騎士団の団長はかなりヤバめの人だという噂ですので」
「なら私が呼ぶわ!・・・・お願い!繋がって!!」
「そしたら私は到着するまでに出来る限りの応急処置をします...!どなたか手伝って頂けないでしょうか!」
「私が手伝うよ」
この子を撃ち抜いた責任を取って、私にできる最大限のことをしよう。
それがこの子のためにできる償いになると信じて...
***
その日は朝から異常に平和だった。
まるで嵐の前の静けさだと言わんばかりの落ち着きようだ。
私の所属しているゲヘナ学園は、学園内やその他周辺の地域で爆発や喧嘩といった騒動が絶えない。
そんなことになっている原因として、ゲヘナの校風が挙げられる。ゲヘナ学園に所属している生徒は基本的に好戦的で、頭の治療が必要な馬鹿が多い。
そんな学園の医療部門を一身に担っている私たち救急医学部は、毎日が慌ただしい。
毎日のように怪我人が運び込まれ、時には要請に応じて現場へと向かい治療や搬送をしている。
今日もまた、沢山の怪我人や病人であふれるのだろう。
そう思い登校してきた。
だが、どうしたことだろう。おかしなほどに何もない。正確に言えば何もないわけではない。
ちょっとした怪我人が時々来る程度で、普段のような慌ただしい状況になる様子が見られない。
風紀委員長が手加減というものをようやく覚えたのだろうか。それとも皆さんがいつもよりも大人しくなったのだろうか。若しくはこれから、普段見ないような重体の患者でもやってくるのだろうか。
そんなことを考えても仕方がない。私は大人しくいつものように、死た...コホン、負傷者を待つだけだ。
・・・Prrrrrrrr,Prrrrrrrr,Prrrrrrrr
どうやら電話がかかって来たみたいだ。丁度いいタイミングである。
私はすぐに電話に出る。
「はい、こちら救急医学部」
『もしもし!!私はアビドス高校の黒見っていう者なんですが!!』
声を聴く限りとても慌てた様子だ。それにしてもアビドスからとはなんとも珍しい。どうしたのだろうか
「落ち着いてください。どういたしましたか。救急ですか。」
『そうです!!今アビドス自治区で大怪我を負った子がいて...!血が凄くって、今にも死にそうなんです!!今すぐに来れますか??!』
思っていたよりも重体のようだ。先ほどの予想が悪い方向に当たってしまった。
「承知致しました。詳細な場所を教えてください。すぐに向かいますので。」
『アビドス自治区の×××△△△○○○です!!アビドス高校が近くにあると思うのでそれを目印にしてください!』
それで通話は終了した。
すぐに支度を整える。必要なものは救急医学部の車両に積んであるのでほぼ時間はかからない。救急医学部の部員に声を掛け、数人を同乗させる。
どうやらかなり危篤状態にあるらしい。ここから目的地まで距離はあるため、飛ばしていこう。一刻も早く辿り着かねばならない。
・・・急がねば...
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
車両を飛ばすこと数十分、給食部部長には敵わないが、かなりの速さで来れたのではないだろうか。
まもなく目的地に到着する。やはりアビドス自治区は砂埃が多い。慣れない砂の道でも一直線に向かう。
どうやら遠くに人影が見えてきたようだ。斃れているのが患者だろうか。その周りに二人がしゃがみ込み手当をしている。それを見守るように三人が立っている。
目的地まで二十メートル...十メートル...五メートル...
到着だ。車両から降り
ソレの様子は、応急処置をしている二人の姿で確認できない。
電話をかけてきた人物を探す。
「・・・お待たせしました。救急医学部、部長の氷室セナです。黒見様はいらっしゃいますでしょうか。」
「はい...!私です...」
目的地はここで間違いないみたいだ。目的を果たそう
「・・・それで、
いつも通りのセリフ。だが、今日は依頼人達の様子がおかしかった。その言葉を吐いた瞬間『怒り』が漂ってきた。
「─────っ!!死体って...!まだ死んでなんていないわ!!あんたおかしいんじゃないの!?」
「この子の姿を見てもなんとも思わないのですか...!?」
処置をしていた二人のうちの眼鏡をかけた方が、場所を移動し怒鳴りつけてきた。患者の容体が段々と目に入る。
「────ッ!?」
慌てて駆け寄る。生体反応を確認する。なぜこんな状態で生きているのだろうか...。
命の灯は消えかかっている。
身体の周辺には血液が広範囲の扇状に飛び散っている。腹の中身は見るも無残なことになっている。
本当に死体と間違われてもおかしくないが、この状況を間近で見続けた皆さんの心労に対する配慮が欠けていたようだ。
・・・本当に申し訳ないことを言ってしまった
「大変申し訳ございません。許しがたいことを言ってしまいました。先ほどの発言は撤回させていただきたく思います...」
「今はそんなこと気にしてる場合じゃないわ!!おねがい!こいつを助けてっ...!」
「はい。必ず。」
そう返事を返し、部員と協力し車両内へと慎重に運ぶ。
その際、応急処置をしていたピンク髪の生徒が視界に映ったが、瞳に色はなく罪悪感に苛まれたような表情をしていた。
(・・・あの方が危害を加えてしまったのでしょうか...)
一瞬そんなことを考えるが、すぐに切り替える。
小さく軽い身体を手術台へと乗せる。
・・・ここからは時間との勝負だ。何としてでも生かしてみせる...
「────それでは、緊急手術を開始します」
なんで主人公が今生きているのか、なんで今まで死なずに生きてこられたのかは今後明らかにしていきます。