不幸な小狐は幸せを探す   作:うしさん

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※独自設定あり。主人公の秘密が少しだけ明かされます。矛盾等無いように気を付けていますが何かございましたら感想欄までお願い致します。


所謂、神秘

 

 

 

その手術は、これまでに経験したことのないものだった。

 

 

患者の体質なのだろうか。欠損した部分が僅かながらだが、修復されていっているのだ。

 

さらに驚くべき点は他にある。

 

 

頭部に浮かぶヘイローの一部だろうか。意識のない時には現れることがないというのに、一つの金色の勾玉が光を発している。それにじっくりとよく見ていないと気付かない程度だが、全身が()()()()()()()()のだ。普通の人間ではありえない現象が起きている。

 

 

明らかにおかしい。おかしいが、幸いなことに手術の妨げになることはなく、寧ろ助かる結果となった。

 

欠けた臓器がジワジワと原型を取り戻す。それに伴い機能をも取り戻していく。

 

この生命力は異常だ。何らかの力によるものだろう。この世界には予知夢を見ることが出来たり、とんでもない記憶力を持っていたりする生徒が居ると聞いたことがある。

 

他の異能と比べると地味ではあるが、おそらくはこの子もその類のものだろう。

 

 

しかし、その代償なのか知らないが、異様に身体が弱い。

 

キヴォトスに住む人々は、銃弾程度ではそんなに簡単に傷付くことはほとんどない。それにも関わらず、この弱さ。散弾一発一発が身体を貫通している。

 

腹の中から摘出されたいくつかの散弾がその証拠だ。

 

 

この異能は、あくまでも自然治癒力の微量な強化とみるのが妥当なのだろうか。一瞬のうちにして傷がふさがる訳でもなく、怪我が無かったことになんてならない。

 

そのため痛みは当然感じるし、身体が弱いせいで出血もする。

 

寧ろ生命力が高いせいで、余計な苦しみを味わってしまうことになる。

 

 

今回の一件では恐らく、身体が許容できる負傷の限界を超えてしまい、仮死状態となってしまったと診るべきだろう。

 

これほどの負傷を負って生きていることが出来る人間なんて存在しない。負傷した瞬間から、ゆっくりとゆっくりと、それこそ近くでしばらく観察していなければ気づかないレベルで修復が行われていたのだろう。

 

 

 

今はとりあえず山は越えることが出来た。心臓の拍動も最初と比べると少しずつだが安定してきている。

 

この治癒力が無ければ、この車両の設備だけではほぼ確実に助からなかっただろう。

 

 

 

命を繋げたことに安堵するが、そんな暇はないと再び治療を続ける

 

 

それにしても、そもそもの身体の状態がすこぶる悪い。重度の栄養失調で身体は異常に細く痩せている。

 

この子の年齢は分からないが、骨は脆く、筋肉も生きて行ける最低限度ほどしかない。

 

 

一体どんな生活を送っていたらこんなことになるのだろうか...

 

この状態ではまともな生活を送っていたとは思えない。学校に通っていたらこんなことにはならない。どこかに保護させる必要がある。

 

私としてはアビドスが望ましい。

 

まず前提として、私たちは厳しい。普段であれば傷が癒えるまでは何が何でも保護するが、傷が癒えた後、キヴォトスの各地を飛び回る私たちが一から百まで面倒を見る余裕なんてない。

 

ゲヘナ学園に保護させるのも、賛成か反対かで言ったら反対だ。あそこは純粋に危険だ。こんなにか弱い子を預けた暁には、数日もしないうちにこの子は死んでしまうだろう。死ぬまではいかないまでも、事件や事故に巻き込まれることは確実だ。

 

 

トリニティは論外だ。ゲヘナから来たという噂が広まるだけで、居場所はなくなるに違いない。

 

 

他に候補もあるがやはり、アビドス高校に面倒を見てもらった方が良いと思う。

 

どういった経緯でこのような事態に陥ってしまったのか分からないが、怪我を負わせた本人がいるのならどうあれ、彼女らが責任を負わなければならない。

 

この様子なら、自然治癒が進んで私たちが保護しなければならないような状態からは抜け出せるだろう。

 

 

 

無事治療が終わったらこのことをアビドスの方々に伝えよう。

 

 

 

そう決め、私は治療に専念する。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

あいつが運ばれたのを見送った。

 

ゲヘナ学園から来た救急医学部の人は、大怪我をした()()()()()を車両へと慎重に運んでいく。

 

 

なんでこんなことになったのか、ホシノ先輩以外のみんなは分からない。もちろん私も...

 

 

全ての始まりはホシノ先輩が血相を変えて飛び出していったところまで遡る。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「ノノミ...!!だめ...!目を覚まして!!起きて!」

 

 

珍しくシロコ先輩が取り乱している。ノノミ先輩の肩を揺すり大声で呼びかけている。

 

私も人のことを言えないくらいには動揺していた。こういう時に頼りになるのがホシノ先輩だ。緊急事態でも冷静な判断で私たちを導いてくれるはずだ。

 

 

「ホシノ先輩!どうしよう、ノノミ先輩が...!ホシノ先輩...?」

 

 

どうしたのだろうか

 

ホシノ先輩は俯いたまま、なにかぶつぶつと呟いている。

 

・・・と思ったら急に静かになった。ホントにどうしたの...!?

 

 

 

 

────次の瞬間、目の前からホシノ先輩がいなくなった。

 

 

それと同時に響き渡る悲鳴の数々。次々と薙ぎ倒され、吹き飛ばされるヘルメット団の姿。

 

 

 

「・・・え?ホシノ先輩...?」

 

 

衝撃で思考が停止してしまう。あんなに目にもとまらぬほど素早く動くホシノ先輩なんて見たことが無かった。

 

普段はうへうへ言って昼寝ばっかりしているだけだけれど、肝心なところで頼りになる先輩くらいの認識だったから驚いた。

 

 

気が付いた時には、その場にいたヘルメット団はすべて斃れていた。そこにただ一人立っていたのはホシノ先輩だけだ。

 

ホシノ先輩は戦車が走っていった方向を一心に見つめ、そしてミサイルのように飛び出していった。

 

 

「・・・ん。ホシノ先輩、行っちゃった...」

 

 

シロコ先輩がつぶやく。ポカンとした顔だ。

 

 

「・・・って今はヘルメット団よりもノノミ先輩よ!!アヤネちゃん!!ノノミ先輩は大丈夫なの!?」

 

 

完全にホシノ先輩に気を取られていた。ノノミ先輩が危険な状況になっているというのに何をやってるんだ私は!

 

 

「血は出ていますが、命にかかわるような怪我ではありません...!応急処置をしたので、もうしばらくしたら目は覚めると思います!」

 

 

「はぁ・・・よかった...」

 

 

一気に安心した。身体から力が抜けてその場にへたり込んでしまう。

 

 

「・・・ご迷惑おかけしました~」

 

 

「ホントよ!!血も出るし意識失うしで死んじゃったかと思っt...てえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!???」

 

 

「いいリアクション、ありがとうございます♪」

 

 

「なんでもう起きてるのよ!!無事で良かったけども!!」

 

 

何という先輩なのだろうか...さっきの今で、もう目を覚ましている...

 

本当にうちの先輩には驚かされてばっかりだ。

 

 

「ノノミ先輩...?もう起きて平気なんですか?」

 

 

「多分だいじょうぶですよー。応急処置もしてもらってますし!普段とは違う衝撃で意識が飛んじゃっただけですから~」

 

 

あんまり信用できないけど本人がそういうなら大丈夫なのかな...?

 

 

そういえばさっきからシロコ先輩の反応が無い。どうしたのだろうか?

 

きょろきょろと辺りを見回すと、ホシノ先輩が見逃した残党をシロコ先輩が狩っていた。

 

今はヘルメット団の首根っこを掴んでぶんぶんと振り回している。振り回されている当の本人は、叫びながら許しを乞うている

 

 

「コラー!シロコ先輩!!それはオモチャじゃありません!!さっさとポイしちゃいなさい!」

 

 

「ん、わかった。」

 

 

そう言って首根っこから手を放す。遠心力でその団員はどこかに吹っ飛んでいった。

 

シロコ先輩が私たちのいる方へ歩いてやってくる。みんな揃ったところで次どうするかの話し合いが始まった。

 

 

「ノノミ先輩も目を覚ましたことですし、ホシノ先輩のもとに向かいますか?」

 

 

「そうですねー。残党もシロコちゃんが退治してくれましたし、合流しましょっか☆」

 

 

「異議なし。」

 

 

「私も賛成だわ。ホシノ先輩が向かったのはあの方向よね?」

 

 

「私はノノミ先輩の処置をしていて、どっちに向かったか分からないのでセリカちゃんに道案内をお願いしてもいいですか?」

 

 

「あっ、そうよね。なら私についてきて!こっちよ!」

 

 

私はみんなの先頭に立って先導する。まだそんなに遠くには行っていないはずだ。

 

さっきの記憶を思い出し、ホシノ先輩が走り去っていった方角に小走りで向かう。

 

 

 

それにしてもとんでもない速さだった。あんなに怒ったホシノ先輩が相手なら、戦車で逃げたやつらはすでに壊滅しているのかも。

 

 

 

・・・そんな希望は、その現場を見た瞬間に崩れ去ってしまった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

走ること数分、ようやくホシノ先輩の姿が見えてきた。

 

辺りに戦車の影は見えない。

 

逃げられたのかな?それとも破片すら残さず木端微塵にしたとか?!

 

・・・ってさすがのホシノ先輩でもそれはないか。

 

 

 

ホシノ先輩はその場に蹲っているようだ。なにがあったのだろう?

 

 

「おーーい!!ホシノせんぱーい!!」

 

 

離れた場所から呼びかけてみる。

 

しかし何も反応が無い。もう一度

 

 

「ホ―シーノ―せーんーぱーいー!!」

 

 

あれー?おかしいな...さっきよりも近づいているはずなのに聞こえなかったのかな?

 

もう一度。

 

 

「ホシノせんぱーい!!」

 

 

先輩との距離は十メートルもない。

 

それでも何も反応はない。ん?よく見たら先輩、震えてる?

 

それに、ホシノ先輩の奥に倒れてるのはヒト?

 

そんなことより今はホシノ先輩に集中だ!ここまで近づいたらさすがに気付くはずだ。

 

 

「ホシノ先輩ッ!!!」

 

 

「・・・え...?」

 

 

・・・え...?はこっちのセリフよ!!どうしたのよ、その酷い顔...

 

 

「やっと気づいた...!そんなところでなにしてんのよ?」

 

 

あくまで冷静に対応する。

 

 

 

 

 

 

すると、隣にいたシロコ先輩の様子がおかしい...

 

急に顔を顰め、雰囲気がピリピリし始めた。

 

どうしたのだろうとホシノ先輩から目線を外す。

 

 

 

 

 

 

 

 

一体何が────────、ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・え...?なによ.....これ....」

 

 

 

 

 

 

私の目の前に広がっている光景は夢なのだろうか。

 

その光景を一言で表すと『悍ましい』。それに尽きる。

 

一目見て生きてるとは思えないほどだ...

 

 

っ!まさか、これをホシノ先輩が...?!

 

いや、決めつけるのはまだ早い

 

 

 

「ほ、ほしのせんぱい...?この子は...」

 

 

 

アヤネちゃんも気が付いたみたい

 

 

 

「・・・この子は、私を撃った子、です...よね...?」

 

 

 

・・・言われてみれば確かにそうだ

 

そういえば以前にみんなでスナイパーの外見情報の認識をすり合わせたことがあった。

 

 

白く大きな尻尾、同じく白く長い髪、小さな背丈...

 

今はかなり赤く染まってしまっているが、特徴に合致している....!

 

 

 

────間違いなくあのヘルメット団のスナイパーだ!

 

 

これを、本当にホシノ先輩が...?

 

 

 

 

「うん、そうだよ。このコは私たちが捕まえようとしてたあのヘルメット団のスナイパー。私が殺しちゃった。私は、これからどうすればいいんだろね...?」

 

 

 

 

─────っっ!すべてを諦めたような笑顔はやめてよ!!本当はやってないんでしょ!?

 

 

 

「────うそ、なのよね...?・・・ウソって言ってよ...!!ホシノ先輩!!」

 

 

 

信じない信じない信じない!!!ぜったいに信じないわ!!

 

ホシノ先輩が人を殺すなんてありえない!!

 

 

 

「見ればわかるでしょ?その子が生きてる可能性があると思う?」

 

 

 

だけど返ってきたのは、現状に絶望しきった乾いた返事だった。

 

 

シロコ先輩が殺してしまった理由を尋ねている

 

どうやら本当に、怒りのままに撃ち抜いてしまったみたいだった。

 

 

私はどうすればいいんだろう...?人を殺すのはキヴォトスでは特に重い犯罪行為だ。

 

しかし、キヴォトスでは人殺しなんてめったに発生しない。そういう時はどうするのが正しいのだろうか。

 

さらに撃った相手はヘルメット団。犯罪行為を繰り返す悪党だ。悪党相手とはいえ殺しはもちろんだめ。

 

 

何もわからない...頼みのホシノ先輩は壊れかけてしまっている。

 

どうすればいいのっ...!

 

 

 

 

「・・・待ってください...!その子が死んでしまったって、ちゃんと確認しましたか!?」

 

 

アヤネちゃんが急になにか言い始めた。

 

私の目から見ても、どうみても死んでしまっているようにしか見えない。

 

 

呼吸と脈拍を確認し始める。口元に手を当て耳を当て確かめる。また、手首を触り首元を触っていく。

 

「生きてます...!脈はとても弱弱しいですが動いてます!!呼吸もギリギリまで近づいてようやく確認できる程度ですが、ちゃんとしています!!」

 

すると、どうやら生きていることが判明した。ホシノ先輩の瞳に希望の光が差し込み始める。

 

 

 

それから救急医学部を呼び出すこととなった。

 

救急医学部の人は到着するや否や、死体だなんてとんでもないことを言いだした。

 

現状を理解して謝罪の言葉を口にしたが、それは私たちに言う言葉じゃない。

 

意識のないソイツに言うべきものだ。

 

 

救急医学部はテキパキと手術に移る準備を始めた。

 

力なく横たわる小狐は担架へ載せられ、車両内へと運ばれていった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

私たちは静かに手術が成功することを祈っている。

 

だれも声を発そうとしなかった。話をする雰囲気ではなかった。

 

ホシノ先輩はずっと下を向き、砂に染みた大量の血痕を眺めている。

 

ホシノ先輩以外のみんなも俯いてしまっている。

 

 

いくら私たちの敵であるヘルメット団のスナイパーでも、あんな姿を見てしまったら憐憫の情がわいてしまう。

 

 

生きていて欲しい...どうか、おねがいします...!

 

 

 

 

 

 

待っていた時間は数分だろうか、それとも数時間だろうか

 

 

それすらも分からないまま、

ついに車両の扉が開く────

 

 

 

 

 

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