不幸な小狐は幸せを探す 作:うしさん
ボクのなまえは...
シロコ先輩と指名手配犯を捕まえに行った次の日、私はいつも通りに学校に向かっていた。昨日は学校に戻らないでそのまま家に帰ったから、あの後学校で何があったかは分からない。
昨日は衝撃的な話ばっかりで、正直まだ上手く自分の中に飲み込めていない。
あの日から一週間、ずっと寝たきりだったあの子が目を覚ました。やっぱりホシノ先輩に対する恐怖心は残っているみたいで、ホシノ先輩が視界に入るたびに身体をぷるぷると震わせていた。
だけど、あの子の口から直接赦してもらってたし、元から怒ってないって言ってたからこれから少しづつ距離を近づけていければいいと思う。
私はまだ入学したての一年生だけど、早めの後輩が出来ることになるのだ!楽しみじゃないと言ったらすっごくウソになる。正直なことを言うと、アビドス入学の話が出てから私はそわそわが止まらなかった。
シロコ先輩が、いの一番に子分にしようと動くと思うけど、私も負けないくらい信頼を勝ち取れるようにしないと...
先輩らしい振る舞い方ってどんな感じなんだろう?
私の先輩達は先輩らしいと言われればらしいと思うけど、少し私のイメージしてた先輩像とズレる気が...
・・・いやいや...!先輩は先輩だ。私はあの先輩たちについて行きたいと思ってる。
それなら私も私のまんまで行こう。うん。そうしよう。
そうやって気合いを入れて学校までの道のりを歩いた。
今あの子は何をしているのかな?だいぶたっぷりと眠っているから夜のうちに目が覚めちゃってたりしないかな?
でも最近は学校にホシノ先輩が寝泊まりしているから、何かあったとしても多分何とかなるよね?きっと。
・・・ホシノ先輩、怖がられていないといいんだけど...
・・・・・・・・・・・・・・・・・
学校に到着した。そのまま保健室に歩いて向かう。シロコ先輩じゃないけど、一番最初に話すことが出来たら少しは仲良くできるかもしれないと思って、今日は早めに家を出てきたのだ。
(べ、別に子分にしようだなんて思ってもないんだから⋯!)
(・・・でも確かに?あの子はとても可愛らしいと思うけどっ!私に懐いてくれたらな〜くらいにしか思ってないし!?)
(ご飯とかあーんで食べさせてあげたいと思ってるし、私よりもおっきなお耳に顔を埋めたいとも思ってるし、さらに言えばギューってだきしめたい...!!)
・・・って欲望だだ漏れだった!?
───────ふぅ⋯。落ち着け、私...
冷静にならないとあの子に邪な気持ちが勘づかれちゃう。ちっちゃい子はそういうのに敏感って言うしね。
落ち着いて深呼吸、深呼吸っと....
「・・・セリカ、保健室の前で何やってるの?」
「きゃあ!!シロコ先輩!?」
びっくりしたぁ...!落ち着くためにこんなことしてたらシロコ先輩が来ちゃった。せっかく早く来たっていうのに作戦は台無しになってしまったみたい⋯
「お、おはよう...!シロコ先輩!今日はなんかいつもより早いわね?」
「ん!子分にしたいからあの子に一番に会いに行こうと思って早く来た。だけど負けた⋯。セリカこそ今日は早いね。」
「わ、私は昨日忘れ物をしたから、早く行って回収しよっかなーって...」
────やややや、やばいぃ〜〜!シロコ先輩と同じようなこと考えてただなんて言えないよー!あの会議の時シロコ先輩に散々言っちゃった手前、今ここに居るのが恥ずかしいよー!
さすがにさっきの言い訳は苦しかったかなぁ!?シロコ先輩めっちゃこっち見てくるし!なんで何も言わないの!?この沈黙が一番気まずいんだから...!
「・・・保健室に...?」
やっぱり疑われてたぁ!どうしようどうしよう...!素直に言った方がいいかな?それはそれでやっぱ嫌だ!
お願いします...!誰か!たすけて〜〜!!!
「おはようございます♪セリカちゃん、シロコちゃん!」
「おはようございます!皆さん!」
(──────救世主きたぁーー!!!)
(ありがとうありがとう!本っ当にありがとう!)
「ありがとう!!二人とも!!!」
「・・・へ?」
「・・・はい?」
「・・・あれ?」
(え?私、今普通に『ありがとう』って口に出して言っちゃったよね...?
おはように対してありがとうって冷静に考えてアタマおかしい発言よね!?訂正しないと...!!)
「あ、あー・・・。今のは二人に今日も会えたから感謝したくってつい、ね...?」
(言い訳下手か!!なにが『二人に会えたから感謝』よ!?さらに意味不明じゃない!!何て返されるか逆に気になるわ...!!)
「あ〜なるほど?私もセリカちゃんに会えて嬉しいです、よ...?」
「わ、私もです!ありがとうござい、ます...?」
「ん。二人とも。セリカは私との沈黙が気まずかったから慌ててるだけ。今のやり取りに特に意味なんてない。」
(・・・ちょっとシロコ先輩何言っちゃってくれてるのよ。分かってたならもっと早く口出しなさいよ...!私だけ恥かいてバカみたいじゃない!)
「・・・おはよう。アヤネちゃん...ノノミ先輩...」
本当に何の時間だったんだろう...
朝から疲れた。なんで私早めに学校に行こうなんて思ってたんだっけ?なんでこんなに顔が熱いんだっけ?
今あったことは全て忘れよう⋯。気持ちを切り替えていかないとあの子に合わせる顔がない...
「そ、それより皆さん今日はお早いですね!私はあの子の様子が気になったので早く来たのですが、皆さんも同じ理由だったりしますか?」
「・・・そうよ...」
「私も同じです♪」
「ん。私も。子分にするから。」
空気を読んで話を逸らしてくれたアヤネちゃんには感謝しかない。だから私も諦めて素直に答えた。
なんだ。結局皆同じ理由で早く来てるんだ。それなら最初から隠す必要なんて無かったのに...!!くだらない意地なんて張るんじゃ無かった…
「シロコちゃん、それ本気なんですか?あの子まだ警戒心たっぷりだと思いますよ?」
「確かにそうですね。昨日の今日で打ち解けるのは難しいと思います。なんで昨日ノノミ先輩と話せたのかすら分かりませんし...」
「・・・そっか。残念...。せっかくお菓子とかも持ってきたのに⋯」
「シロコ先輩...。刷り込みがダメなら餌付けしようとしてない?なんでそんなにペットみたいな扱いになっちゃうの?!」
どうしてシロコ先輩はいつもこうなってしまうのだろうか。だけどこれ以上はあんまり言わないようにしておこう。私が餌付けしづらくなるような、さっきみたいな状況が生まれてしまう前に...
「そんなことよりホシノ先輩よ!まだやっぱり怖がられてるみたいだからそれをどう解決していくか考えないと!」
話題を変えて、私がずっと思ってた事をみんなにも相談してみた。あの状況から仲良くなるためにはいったいどうすればいいんだろう?
「・・・う〜ん⋯。やっぱりあの子にとっても、かなりのトラウマみたいな感じになってしまってると思うんです。それを一朝一夕でどうにかするっていうのは難しいのではないでしょうか⋯?」
「そうですね〜。まずはゆっくりとホシノ先輩に慣れてもらうところから始めてみませんか?」
「私もそれがいいと思う。寧ろそれ以外無い気がする。」
・・・やっぱりそうだよね...。そんな簡単にいくわけがないよね。
ホシノ先輩自身も分かってるとは思うけど、とりあえずそんな感じの方針で伝えてみよう。
(────いつかみんなで仲良く遊べる日が来るといいな)
「それじゃあ、そろそろ保健室の中に入るわよ...」
そう言って、保健室の扉に手をかける。中にいるホシノ先輩とあの子を起こさないようにそっと開いていく。
そして、段々と二人の様子が見えてくる。
二人はとっても仲良しそうに抱きしめ合いながら、幸せそうな顔をしてベッドに寝ていた。すごく微笑ましい光景だ。
小狐の方が少し小さいからホシノ先輩の胸元あたりに顔がきて、胸元に顔を埋めてるみたいになってる。時折動く大きな耳がホシノ先輩の顔にぶつかってるけど、ホシノ先輩は何故か幸せそうだ。
「うへへ」なんて口元を緩めながら笑い声もこぼしている。
・・・・・・・???
「───────って、いやいやいやいや!!なんでそんなことになってるのよ!?」
私の目はおかしくなってしまったのだろうか...?!
いや、朝から特に違和感とかは無かったはず!
それなら今、私の目の前に広がる景色はいったいなんだというの!?
私たちのさっきまでの心配はなんだったの!?
「・・・んぅ...あさぁ...?」
「・・・ふぁぁ〜〜どしたの〜?」
起こしちゃった...!ごめん!二人とも...!
いくら衝撃的な光景だったからって大きい声で叫ぶのはよくなかったかも!
他のみんなもまさかの光景に声も出ないみたい。ポカンとした顔で二人の様子を眺めている。そんな私たちを横目に、ベッドの上の二人は目を見合せておはようを言い合っている...。しかも満面の笑みで抱き締めあったまま!
その現状を受け入れられずに、みんなが疑問に思ってることを口々に話し始めた。
「ほ、ほしの先輩?その子と昨日、なにがあったんですか...?」
「なんか昨日の様子からは想像がつかない程、異様にほのぼのオーラが溢れているのですが...」
「ん!ホシノ先輩!ズルい!」
・・・私もズルいと思ってしまったことは絶対に内緒にしておこう...
「あの、起こしちゃってごめんなさい...。それよりもどうしたのよ?たったの一晩でそんなに仲良くなっちゃって。
────っまさかそういうコト!!?」
「いやぁ、ナイナイ。落ち着いてセリカちゃん。そんな訳ないでしょ?」
「あっ、そうよね....少し混乱してたみたい...」
あまりにも衝撃的すぎて思考がおかしくなってた。
冷静になればそんな訳が無いとすぐに分かるのに。
それにしても本当にどうしたのだろう?昨日まではあんなにも怖がっていたというのに...もしかしてこの子、かなりちょろい子だったりするの?
すると、みんなが疑問に思っているだろうことをアヤネちゃんが聞いてくれた。
「・・・ホシノ先輩、昨日あの後にいったい何があったんですか?私たちが帰る頃はホシノ先輩はおやすみのようだったので⋯」
「ん〜何があったか、ね...。出来ればあんまり言いたくはないかな。」
「・・・言わないの?あんなにカッコよかったのに?」
「言わないよ。これはおじさんたちだけの秘密。いい?」
「ひみつ!分かった!おじさんとの秘密の関係ってやつだね!」
「うへっ...!?」
「言い方!!その言い方だと誤解しか生まないわ!」
(秘密ってなによ!?気になるじゃない!ホントに何があったの!?ものすごくホシノ先輩に懐いちゃってるし...
というよりいつまで抱き合ってるのよ⋯!)
「そういえばアヤネちゃんにお願いしたいことがあったんだよね」
「はい、なんでしょうか?」
「このコの怪我の処置をして欲しいんだ」
ホシノ先輩はそう言って、身体に引っ付いている小狐の脇を抱えて離した。小狐は小さな口と大きな耳をへの字に曲げ、とても悲しそうな顔をしてる...
なんだかその顔...庇護欲が、すごく刺激される...
って今はそんなことはどうでもいい。
怪我?怪我をする程のことがあったの...?!
「ん...怪我、したの?」
「・・・ちょっとね」
そう言って、小狐の病衣の肩部分をずらした。そしてそこに巻かれていた包帯を解き始める。だけど、その肩には怪我らしい怪我は見当たらない。
「どの箇所ですか...?もしかして肩を脱臼してしまったとか?」
アヤネちゃんが聞いているが、どうやらホシノ先輩も何故か動揺してるみたい。目を見開いて、肩をじっくりと観察している。
「・・・治ってる...。」
「─────え?!」
「・・・そういうことね。ごめんアヤネちゃん。やっぱり今の話は無かったということで頼むよ。相変わらず神秘ってよくわかんないや...」
ホシノ先輩は自己解決してしまったようだ。私には何も分からないけど今は深堀しない方がいいかな...
「おねえちゃん、この人たちは昨日の?」
「うん、そうだよ〜。おじさんの後輩でアビドス高校の生徒。みんな自己紹介してあげてよ」
どうやら悩んでいる内に自己紹介をする流れになったみたい。ここで第一印象が決まる...
そう思うと自然と肩に力が入ってくる。
「それじゃあ私からいきます!♪
私の名前は十六夜ノノミと言います!二年生です!よろしくお願いしますね?」
「・・・ノノミママ?」
「・・・ママ...?」
まさかの言葉が飛び出してきた。確かにノノミ先輩は包容力あるし優しい雰囲気もあるけど、まさかのママ?!
「小狐ちゃん...?どうしてママなの?」
「んーなんとなく...?雰囲気みたいな?」
「わ、私のことはノノミ、でもノノミちゃんでも好きなように呼んでください!ママはさすがに恥ずかしいです〜...!」
「分かった!ノノミちゃん!」
無事?一人目の紹介が済んだみたい。次は誰が行くんだろう?私はもう少し様子を見てから行ってみようかな...
「なら次は私が。私は奥空アヤネと申します。一年生です!分からないことがあったらなんでも聞いてください!」
「アヤネちゃん!よろしくね!でもボク多分賢いから分からないことすぐ無くなっちゃうよ?」
・・・そういう事を言う子は大抵がアホの子なのだ。フラグ立てるの早過ぎないかな...?
「あ、あはは...。それでは私は
アヤネちゃん...!!さすがの大人の対応だよ!きっと頭の中では私と似たようなことを考えてるはずなのに!
「・・・ん?ボクはもう一人で立てるよ?見てて」
そう言ってその場で立ち上がる小狐。
アホだ。アホがいる。ここにアホがいます。
少し自慢げにしてる所が愛らしくアホらしい。
その場の空気は絶妙だ。この小狐の奇行にどうするべきかの空気読みが始まった...。視線で互いに背中の押し合いみたいなことをし合っている。
私たちがそんな事をしている間にも、小狐は腰に手を当てて、ドヤっと言わんばかりに胸を張って立っている。
この奇行を始めさせた責任を取ろうと思ったのか、今諦めてアヤネちゃんが口を開いた。
「す、すごいです...!これなら私が教えることなんて無いですね!立派にひとりで生きていけますよ!」
この言い方だとさらに調子乗りそう。目をキラキラさせて「もっと褒めて!」とでも言いそう...
と思ってたけどどうやら小狐の様子がおかしい。
ベッドの上に立ってる小狐の方に視線を向けてみると、ぽふんとベッドに座り込みホシノ先輩の手をちょこんと掴んだ。
「・・・もう、ひとりはイヤ...ずっとみんなと一緒にいたいよ...」
───────ぐはっ.....!!
(ちょっとダメ、これ...!心にくるわ....
そんなに悲しそうな顔しないで...)
直撃をくらったホシノ先輩は小狐を一瞬で抱き締め、私たちはあわあわとし始めた。この場合の正解はなに!?ホシノ先輩!お願い!
「大丈夫だよ。私たちがずっと一緒に居るからね...。安心してよ」
「・・・ほんと...?」
「ほんとほんと」
「ほんとのほんとに?」
「ほんとのほんとのほんとに!」
「・・・よし、よっしゃ、よっしゃ〜!!ずっといっしょだぁ!」
急にご機嫌になった...やっぱちょろいわこの子。機嫌が良いうちにさっさと私の自己紹介終わらせよう...
「次わたし!私は黒見セリカよ。アヤネちゃんと同じく一年生。バイトに興味があったらいくらでも紹介出来るわ。よろしくね!」
「バイト出来るの?!」
・・・喰いつかれちゃった!?いや、これは信頼を得られるチャンス...
私がデキる人だってことを今教え込めば...!
「そうよ!バイト経験だけは他のみんなに負けないわ!プロアルバイターと言っても過言では無いわね!」
「おー!ボクもプロロジウラー*1だから同じプロ同士だね!」
「────はい?」
今この子なんて言った...?ぷろろじうらー?
どういう意味なの!?同じプロ同士って言われても、なんのプロか分からないから怖いし...!話を合わせてやり過ごすしかない...!
「す、凄いわね!ぷろろじうらー?なんて常人になれるようなモノじゃないわ!!さすがよ!」
「へへん!ボクがどれだけ路地裏で生活してたか知らないでしょ!だってボクも分からないんだから!」
・・・ぷろろじうらーってプロの路地裏生活者ってこと...?
───────重いわ!!
(いきなり重い話やめてよ!変に褒めちゃったじゃない!なんか申し訳ないし...)
(謎に誇ってるところも訳わかんないし、言ってること全てがバカっぽい!)
ほら!みんなもまたゼツミョーな顔してる!あの表情が滅多に出ないシロコ先輩でさえ困ったような顔してるし!!恐るべし...!この小狐!
こんなことになったのは私の責任だ。早くこの話を終わらせないと...
「お、同じプロ同士仲良くしよっか?バイトやりたくなったら私に言ってね?」
「ありがとー!セリカちゃん!!」
・・・こうやって素直に話してる時は可愛らしいんだけどね...。別にアホっぽいところが可愛くない訳じゃない。むしろ可愛いと思う。ご愛嬌と言うやつだ。
だけど相手するのがちょっと大変かも。今みたいに急に訳の分からないこと言われたら反応に困るし。まぁなんとかなるか...
次はシロコ先輩の番だ。今度はどうなる事やら。
「ん。次は私。名前は砂狼シロコ。ノノミと同じで二年生。私もホシノ先輩に拾われてここに居る。だから私のことは先輩と呼ぶべき。」
「・・・シロコ...」
「・・・シロコ先輩...」
「・・・シロコ...!」
「・・・シロコ先輩...!」
「シロコ!!」
「シロコ先輩!!」
私たちは何を見せられてるのだろうか...
狼と小狐がキャンキャンコンコン言い争ってる。
それよりも初めてあの子が反抗した。シロコ先輩に何かを感じ取ったとでも言うのだろうか。
確かにシロコ先輩は最初から一貫して子分にするとか言ってたからなー。もしかしてそのせいなの!?それを感じ取ったあの子が拒否しようとしているってコト!?
・・・これも野生の勘ってやつなのだろうか。同じ野生児同士で仲良くなれるんじゃないの?変なプロ同士よりも。
気が付いたら二人はベッドの上で取っ組みあってじゃれていた。なんでそうなった...。シロコ先輩はマウンティングをしてこちょこちょしてるし、小狐は身を捩らせてけらけらとすごく楽しそうにしてる。
・・・もう二人で仲良くしてなよ...。
でもシロコ先輩は子分にするって聞かないからなぁ。コレがこれからの日常風景に加わるんだろうなぁ。
まぁ、楽しそうでなにより...
「────っていつまでやってんのよ!!」
「あ、セリカが怒った。逃げよう。」
「セリカちゃんが怒った!ボクも逃げよっ!待って!シロコ!」
結局子分みたいになってるし...
いや、舐められてるのかな?
どっちでもいいや...
「・・・おじさんの自己紹介、終わってないんだけどなぁ...」
「えぇ...あれだけ仲良さげにしてたのにまだしてなかったんですか...?」
「あの後すぐ寝ちゃったからね〜」
・・・仕方ない。呼び戻そう。
「おーい!シロコせんぱーい!ちびっこ小狐ー!ホシノ先輩が怒ってるわよー!!」
「ん、ごめん。」「ごめんね。」
「・・・えっ...はやっ!」
一瞬にして帰ってきた。どんだけホシノ先輩を怒らせたくないのよ。
小狐に関してはシロコ先輩の背中にしがみついて肩からひょっこり顔を出してるし、シロコ先輩もそれが当然かのように澄ました顔してる...
完全にハッピーセットだ⋯。混ぜるな危険を体現したような組み合わせになってしまった気がする。
「ほらお二人とも〜、元いた位置に戻ってくださいね?」
「ん、わかった。」
「ん!ん!」
妙に素直だから怒るにも怒れない...。まぁ、とりあえずホシノ先輩の自己紹介に移ろう。
「それじゃあおじさんの自己紹介するねぇ」
「おー!わくわくだ!」
「うへぇ、そんな期待されるようなものじゃないよー。
おじさんの名前は小鳥遊ホシノ。三年生だよ。好きなことはお昼寝とかかなぁ。ヨロシクね?小狐ちゃん」
「・・・ホシノおねえちゃん...。ホシノおねえちゃん。ホシノおねえちゃん!!」
「うへ!?急にどうしたのー?」
なんか壊れたロボットみたいにホシノ先輩の名前を呟き始めた⋯。今までに見たことない反応だ。どうなったらこんな反応をするのだろうか。小狐は今の時点でホシノ先輩を一番慕っていて懐いている。その人の名前を聞けたことがこの反応のトリガーになったと考えるべきか...
(・・・ねぇちょっと私、気付かぬうちに小狐の生態考察みたいな事してるんだけど...。この子が関わってくると私までおかしくなってくる...。大変だ...!)
「ホシノおねえちゃんだーい好き!」
いきなりそう言ってホシノ先輩に抱き着いた。ホシノ先輩は「うへぇ」と言いながら、されるがままにベッドの上に押し倒されるが、とてもゆるゆるで幸せそうな表情をしてる。
そうしてる間にも小狐は尻尾ふりふり、ほっぺすりすりとご機嫌だ。ホントにどうしてここまで懐いたのやら...
「おじさんも
そこで私はふと気付いた。なんで今までこのことに気付かなかったのか不思議でならない。昨日目覚めたばかりで、聞くタイミングを逃していたと言えばそれまでだけど、こんなに仲良しのホシノ先輩でさえ気付いていないのはおかしい....
「・・・ねぇ、ホシノ先輩...」
「ん?どしたのセリカちゃん」
「この子の名前、知ってる...?」
「───────知らないかも...!!」
「だよね!?みんな誰もその子の名前を口にしないし!小狐ちゃんだったりあの子だったり、この子、その子、
「「「「・・・・きのこ...?」」」」
「私たちが自己紹介したんだからこの小狐の名前も聞かないと!」
「どなたかツッコんであげてください!」
「ムリですよ〜!セリカちゃん今真剣モードで話進めてるんですから!」
「ん。ちび狐のアホが移った」
「・・・ここで指摘しちゃうと話進まないからそのままにしよっか...」
(・・・はぁ、まったく...なに四人でコソコソ話してるのよ...!名前を聞くんじゃないの?)
するとホシノ先輩が動き出した。ようやく名前を聞き出せる。
「ねぇねぇ小狐ちゃん。キミの名前も聞かせて欲しいなぁ」
「え?ボクの名前?」
「うん。今私たちが自己紹介したから、今度はキミの名前を聞かせてよ。」
「・・・ん〜」
どきどき...
「・・・えーっとねぇ〜」
(・・・長くない?自分の名前くらい秒で言えるわよね...)
「ない!!」
「「「「「───────え...?」」」」」
「名前無いん、ですか...?」
「名前無い!なんで?」
「・・・いや!こっちが聞きたいわよ!!!」
(ホントになんで!?名前無いの?!記憶喪失とか!?
でもさっき、覚えていないほどの長い間路地裏生活してたとか言ってたし...この子何者なの...?)
「・・・えーっと、どうしよっか...?」
「まさか名前すら無いなんてびっくりです...」
「私たちでつけてあげるのはどうでしょうか...?」
「ん。賛成。」
私もそれには賛成だけど、どうやって名前なんて付けてあげればいいんだろう...その前にまずこの子に確認を取らないと。
「ねぇ、名前が無いなら私たちで付けようってなったんだけど、どうかな...?」
小狐はぽけっとした顔で私のことを見つめる。
数秒間固まっていた。だけど、だんだんと目を輝かせて口を開く。
「・・・つけて!!みんなに付けて欲しい!!ボクのなまえ!」
良かった...これで断られてたらどうしようかと思った。
それで肝心の名前なんだけど、どうしよう?誰がつけるのかな?
「良かったです〜♪それならお名前をみんなで考えましょう!」
「そうだね〜。良い案が思い付いたらどんどん言ってこっか」
「それなら私が今パッと思い付いたのですが、真っ白なのでシロっていうのは...
・・・すみません!コレではシロコ先輩と紛らわしいですよね...!今のは無かったことにしてください!」
「・・・ん。それいいね。私の妹分みたいでいい感じ。それで行こう。」
「いやいや、さすがにもう少し考えない!?」
「確かに決めるのはもう少し案が出てからにしよっか。」
「ん...わかった...でも今の第一候補はこれ。」
相変わらずシロコ先輩はこの子の事となると急に頑固になる。ていうか気付いたら子分から妹分にまで昇格してるし...
・・・昇格って言うのかな...?
「じゃあ次はおじさんが。真っ白なところから取るなら、雪っていうのはどう?ユキちゃん。呼びやすいし良いと思うんだよね」
「良いですね!それ!とってもかわいいです!」
(・・・ユキちゃん...確かに呼びやすくていいかも!)
「名前に関しては私も賛成よ!だけど上の名前はどうするの?」
「・・・シロは...?」
シロコ先輩...まだ諦めて無かったの?『しろ』を使う苗字なんてあったっけ?
「・・・それなら、私が全部決めちゃうみたいになるかもなんだけど、ひとつ案出してもいいかな?」
「なんでしょうか...?」
「この子には『幸せ』になってもらいたい。幸せって、『ゆき』とも読めるでしょ?だから、シロコちゃんの要望を含めて考え出した名前は....」
「「「「・・・・名前は....?」」」」
「───────''雪白ユキ''
・・・これでどう、かな...?」
(ゆきしろゆき...雪白ユキ.....
・・・良いっ!いいじゃない!)
「私はすごくいい名前だと思うわ!!」
「私も賛成です〜!」
「私もです!」
「ん!いいと思う!」
「そっかー。それなら良かったよ。」
みんなもどうやら賛成みたい。その名前を聞いて他の名前なんて思いつけないくらい、いい名前だと思う。さすがホシノ先輩だ!やっぱりやる時はやってくれる理想の先輩だ!
「・・・ゆきしろ、ゆき...。ゆきしろゆき...!ボクのなまえは....!
───────雪白ユキだ!!
素敵な名前!!ありがとうみんな!」
新しい仲間が加わってこれからさらに騒がしくなると思うけど、私たちがやる事は変わらない。私たち自身の力だけでアビドスを取り戻すんだ。この子、ユキちゃんにも少しずつ慣れていって貰って、手助けをしてもらおう。
将来どうなるかの不安はもちろんある。だけど今は新しい仲間が増えたことを喜んでも、いいよね...?
ふとシロコ先輩がユキちゃんを自分の方に抱き寄せて急に変なことを言い出した。
「ん。私はちび狐のことはシロって呼ぶから。」
「いやだ!ユキって呼んで!」
「だめ。シロが私のことをシロコ先輩って呼ばないと私もユキって呼んであげない。」
「んぅーー!シロコ!!」
「・・・なに?シロ?」
「ユキだってば!!」
・・・ホントに何やってんだか...これじゃあ騒がしくなる所じゃなさそうかもね...
ユキちゃんはシロコ先輩に抱き寄せられたまま、顔を見上げキャンキャン吠えている。私たちはその様子を微笑ましく見守っている。結局、名前も関係も、シロコ先輩の子分みたいになってるということはあんまり言わないでおこう。
(くぅ〜〜)
・・・そこで急に保健室に小さく響くお腹の音...
音の発信源は、シロコ先輩の腕の中から。
それに気づいたシロコ先輩はカバンを漁り出した。
そこから出てきたのは...
「はらぺこ狐のシロにはコレをあげる。」
「・・・え!?なにこれ!?食べ物??!」
「そう。コレは一本満足ボー。食べさせてあげるから口開けて。」
「わかった!あーーー」
見事に餌付けされてる...。ホントにちょろいわこの子。
でも私もいつかは食べさせてあげたいかも...
まだ時間は沢山あるんだ。これからどんどん仲良くなって、一緒にたくさんのことを経験していこう。
ここ最近は借金に加えてヘルメット団の侵攻もあって、空気が少し重たかったけど、この子のおかげで空気も明るくなった気がする。アホっぽい所がそうさせてるのかは分からない。でも確実に肩に入ってた力が抜けたと思う。
今日はまだ終わってないけど、明日を迎えるのがもう楽しみだ!