不幸な小狐は幸せを探す   作:うしさん

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独白

 

 

わがはいは小狐である。

 

名前はまだ無い。

 

・・・と、少し前のボクなら言っていた。

 

 

ボクの名前は雪白ユキです。

 

この名前はボクのとても大切な人たちに付けてもらいました。あの日からボクの世界にはたくさんの色で溢れ返り、何をするにしても新鮮な気分です。ここは夢なんじゃないかな?ってずっと思ってます。

 

路地裏で生活していた時に想像していた理想の学校生活。少人数でみんなが優しい学校。そんな条件に合う学校なんてほとんど無いと思ってました...

 

・・・だけど、実在してた!!

 

全校生徒五人!みんな優しくしてくれるしご飯とか食べさせてくれる!お菓子もくれるし一緒に遊んでくれる!

 

こんな幸せなことなんて他にあるだろうか!!いや、ない!!

 

ホシノおねえちゃんにアビドス高校に入学してみない?って言われた時は大声で泣いて喜んだくらいだ。その時はみんなをびっくりさせちゃった...ごめんなさい。

 

だけど、入学するって話が決まった時にアビドス高校が抱えている重大な問題の話も聞いた。どうやらこの高校はすごく大量の借金を抱えているみたい。

 

今いる五人が悪い訳じゃなくて、その前からどんどんと借金が重なっていったんだってさ。環境の変化のせいだって。それを何とかしようとしたアビドスに昔居た人達が悪い大人たちに騙された。ホシノおねえちゃんが言うには大人は信用出来ない生き物みたい。自然の影響なら、ボクたち人間は為す術なんてものは無いんだ。

 

昔はもっとたくさんの生徒がいたらしいけど、みんなどっか行っちゃったらしい。そりゃそうだよね。返せるかも分からないほどに膨らんだ借金。しかも自分が悪い訳では無いのに背負わされるなんて、たまったもんじゃない。

 

だけど今残ったみんなは、それでも借金を返そうと頑張ってる。ボクはそれを聞いてすごく感動した。ボクは今まで色んなことから逃げるような人生を送ってきたけれど、みんなは解決出来るか分からないほど大きな問題でも立ち向かってる。

 

その姿はボクの憧れだった。素直にかっこいいと思った。だからボクも手伝えることがあったらなんでもする。みんなの為になることなら何でもしてみせるんだ!

 

 

そんな気合いが入ったことを考えてるけど、今ボクはお昼ご飯をセリカちゃんにあーんして貰ってる。バイト先で賄いを貰ったけど食べきれないからくれるって!ボクが路地裏で生活している間、他のみんなはこんなに美味しいものを毎日食べてたなんて信じられない!

 

こんなに美味しいものを食べた後だと、もうあの生活に戻れないよ...

 

そういえば服もちゃんとしたものを貸してくれた。前まで着てた病衣は血が滲んで汚れてるし、穴も空いちゃってるから着替えようって話らしい。

 

そういう訳で、学校に余ってた制服を着せてもらうことになった。一回着せてもらったことはあるけど、やっぱり着方がまだ分からないから全部やってもらった。これで何となく着方も分かった気がするから、次からは一人でやってみよう!

 

みんなとお揃いのこの制服は、ボクには少し大きいみたい。だぼだぼっとしてて腕が袖で少し隠れて動かしづらいかも...

 

でもここでわがままは言わない。なんてったってボクはいい子だから。余計な手間をかけさせない省エネでハイブリッドな子だから。

 

病衣から制服に着替えたのには汚れ以外にもちゃんと理由がある。怪我が完治したっぽいからだ。元々色々なことがあって怪我して病衣を着てたけど、治ったら着替えるのは当たり前のことだ。

 

いつまでも病衣だと動きづらいからね。それにこの病衣は借り物らしい。死の淵をさ迷っていた所を助けてくれた命の恩人が貸してくれたんだってさ。

 

ホシノおねえちゃんが言ってたんだけど、ボクの怪我が完治したら連れていきたい所があるんだって。詳しい場所は分からない。でもボクの命を繋げてくれた人が、ボクが完治した姿を確認したいみたい。

 

ボクもお礼が言いたかったからちょうどいいタイミングかも。どんな人なんだろうな〜。絶対優しい人だよ。笑顔とか素敵な人かも。ノノミちゃんみたいに包まれるような優しい雰囲気を持った人って可能性もある...

 

まぁ、どんな人だとしてもボクの命の恩人には変わりないよね。会ったらしっかりとお礼を言おう!ボクの命を救ってくれた分、全力の感謝を伝えてみせる!

 

感謝を言いたいのはその人だけじゃない。ボクのお世話をしてくれるアビドスのみんなにもだ。

 

ホシノおねえちゃんはあたたかい。よくお昼寝をしているところに突撃しちゃうけど優しく迎え入れてくれる。あたまを撫でてくれるのはすごく気持ちいい。髪の毛とかお耳を吸われてるのはボクの勘違いなのかな...?ボクとしては大事にされてるんだなって思うからとっても嬉しいけどね。

 

ノノミちゃんもとても優しい。最近のお気に入りはお膝の上!座り心地は最高級!あったかくて眠くなっちゃう。後ろからぎゅってしてくれる時に、背中に当たる柔らかいナニカはあんまり気にしないようにしてる。気にしたら負けだよ。ボクにも可能性は残ってるんだから...

 

アヤネちゃんは色んなことを教えてくれる。ボクの天才的にハッピーな頭脳なら、教えてもらえればすぐになんでも分かるようになると思ってた。だけどアヤネちゃんの口から出てくるのは次から次へと知らないことばかり。毎日が勉強だ!物置に置いてあったハチマキを付けるとあたまの回転が早くなる気がする!だからボクは勉強する時はいつもハチマキを巻いているのだ。

 

シロコはあれだ。うん。初対面の時からボクの直感が囁いていたんだ。ボクを見る目が怪しいから気を付けろって。でもすごく良い奴だ。たくさん遊んでくれるしお菓子もくれる。なんだかんだ一緒に居て心地いい。自転車に乗せて走ってくれた時はサイキョーに気持ちよかった。抱っこ紐で背負われたのは気に食わなかったけど...。シロコ先輩なんて言ってやるものか!シロコはシロコで十分だ!

 

セリカちゃんもなんかボクを見る目が怖い時がある...。たまにだけど。でも基本的には優しくしてくれるし今みたいにご飯を食べさせてくれる。同じプロ仲間で、バイトのプロらしいからいつかみんなにお金を返す時はセリカちゃんに頼もう。シロコに貰ったスマホっていうやつ。これはすごく高そうだから頼みの綱はセリカちゃんだ!返し終わったら学校の借金を返すのを手伝おう!

 

 

それにしてもお弁当美味しすぎ。

手が止まらねぇや!セリカちゃんの。

 

ボクはエサを待つ雛鳥のように口を大きく開けて、口になにか入るのを待ってるだけだ。口になにか入った瞬間ぱくっとかぶりつくだけの簡単なお仕事!

 

ボクばっかり得してるからセリカちゃんは大丈夫なのかな?って思ってたけど、なんかセリカちゃんもずっとにこにこしてて楽しそうだからボクもされるがままになってる。

 

・・・あ、これもうまい。あ!こっちもうまい。あれも、これも、それもおいしい!!

 

 

・・・むぐっ...!!なんだ...コレは...!

 

食欲をそそる甘味と酸味の絶妙なバランスの取れた香り...!口に入れた瞬間に溢れ出す甘い汁...!舌全体に広がる優しい甘み...!噛むと中に隠れてた甘酸っぱい白ご飯...!甘味の方が強いけど、所々で主張してくる酸味がいい味だしてるよーー!!!

 

 

・・・この料理に出会えただけで、この世にうまれてきた意味が見出せた気がする...

 

 

 

***

 

 

 

あの小狐ちゃんに名前を付けてあげてから数日が経った。

 

予想外の展開で私に懐いてくれたから、あの一件が恨もうにも恨めなくなってしまった。正直かなり複雑な気持ちだ...

 

もしあの一件が無ければ、私と小狐ちゃんは今も互いに距離を置いて接していただろう。トラウマというものはそんな簡単に克服できるものでは無いことは私も知っている。実際、私も未だにあの時の光景に囚われている...

 

そのトラウマを覆い隠すほどの大きい出来事で記憶を塗り替えないとなかなか消えてくれないのだ。小狐ちゃんにとってその記憶を塗り替える程の出来事が、偶然あの夜の出来事だったみたい。

 

・・・でもまぁ、あのコが他の子に比べるとかなりちょろいっていう部分も大きいと思うけどね...

 

それにしても小狐ちゃんの名前を決めた日は、私も久しぶりに気分が盛り上がってしまった。目が覚めた時に感じた胸元の温もり。嬉しそうに耳を倒し尻尾を振りながら私の目を見つめるあのコ。

 

意識が覚醒してからそんな調子だったから、私も愛情というものが溢れてしまうのも当然の結末だ。ついこの前まではあんなに怖がられていたということを加味すると、さらに可愛く見えてくる。大事にしてあげないといけない、と考えてしまう。

 

『雪白ユキ』という名前を考え付いたのは私だ。自分の事ながら、なかなかいい名前を思いついたと思う。幸せになって欲しいという願いは本物だ。

 

話を聞く限り、ずっとホームレスとしてキヴォトスを彷徨っていたらしい。その中で沢山傷付いた。私たちとの出逢い方は思い出したくもない辛いものだったけど、その分私たちが今までの不幸な人生に終止符を打ってみせる。

 

それにヘルメット団のあの人も言っていたように、ユキちゃんにはこの世界の色々なことを経験させてあげよう。多分あの人がユキちゃんにとって信用出来た初めての人。そんな人から私は託されたのだ。好きな物、好きなこと、沢山見つけてもらって幸せな人生を送って欲しい。

 

あの日から私たちの日常生活は変わった。基本的にユキちゃんは、学校に寝泊まりしてる。本人が、家に帰った後にまで迷惑をかけたくないからって理由で学校に残る事を希望したのだ。私たちにとっては迷惑でもなんでもないんだけどね。

 

だけどたまに家に着いてきてくれる時もある。あのコはちょろいから連れ出すこと自体はとても簡単だ。ご飯で釣れることもあるし、一緒に遊ぼうって言ってもひょこひょこ着いてきてくれる。

 

・・・ホントによくこれでホームレスやってたよね...

 

まぁ、それは置いといて学校では、みんなの様子が少し変わった。世話焼きな部分が出てしまってるみたい。

 

ユキちゃんの定位置の一つは、ノノミちゃんの膝の上だ。ノノミちゃんも満更でも無さそうで、後ろからぎゅってしてあげてる姿をよく見る。あのコは人肌の温もりがどうやら好きみたいで、すぐにくっつこうとしてくる。

 

私もお昼寝をしていると、あのコはところ構わず私の腕の中に入り込んで来る。ユキちゃんは小さくて体温が高いから抱き心地は最高だ。耳や尻尾の毛並みもふわふわで気持ちいい。あと何故かすごく落ち着く甘い匂いがするから、私もリラックスして眠れる。最近はちょっと依存気味かも...

 

アヤネちゃんも、色んなことを教えてあげてる。あのコはお世辞にも賢いとは言えないから教えがいがあるのかも。勉強だったり常識だったり、食べ物とか遊びとかも教えてあげてた。でもいくら教えてあげても、あのアホっぽさは抜けないみたい。なんでハチマキなんて巻いてるのかな...?あんなの今まで何処にあったの?

 

・・・まぁそれが可愛らしいところでもあるんだけどさ...

 

シロコちゃんは遊び担当みたいになってる。ユキちゃんも何故かシロコちゃんだけには反抗するけど、なんだかんだ言ってとても仲良しだ。シロコちゃんの後ろをちょこちょことついてまわる様子は、シロコちゃんが望んでた子分ポジションそのままに見える。

 

あと気付いたらスマホを買い与えていた。これに関しては本当に驚いた...

 

シロコちゃん曰く、

『私の妹分だから常に位置は把握しないといけない。』

 

だってさ。

 

過保護だなーって思ったけど、やっぱり私も何処にいるかは心配になるからシロコちゃんのことはあんまり言えないかも。ファインプレーだよシロコちゃん。連絡も取れるし良いことだ。

 

セリカちゃんはあのコにデレデレだ。セリカちゃん本人は隠してるつもりなんだろうけど、ユキちゃんを見ている時は口角が普段より二割増くらい上がってる。

 

・・・実際、今もご飯を食べさせてあげてるけど、にやにやとしながらひたすらにユキちゃんの口と弁当の間で箸を動かし続けてる。飲み込むのを確認する前に弁当から新たな品を口元に運んでる。ユキちゃんはあれで大丈夫なのかな...?本人は満足そうに口を大きく開けてるけど飲み込むの早くない?

 

あ、またすぐに口の中に吸い込まれた...

 

・・・と思ったら、どうやらユキちゃんの様子が急におかしい。いきなり俯いてぷるぷると震え出した。どうしたんだろう...?喉に詰まらせたのかな?

 

「・・・セリカひゃん!むぐ、今のなに!?」

 

ほっ、良かった...。喉に詰まらせた訳じゃなさそう。それにしてもテンションがすごく上がってる...!何があったの!?

 

「えへへぇ........。・・・あ、え?!今の!?もしかして美味しくなかった...?ペッてする!?」

 

・・・セリカちゃん、デレデレし過ぎじゃないかな...?まぁ気持ちは分からないでもないけどさ。

 

「しないよ!めっちゃおいしかったの!!なんて名前の料理なの!?」

 

「あ、あ〜...そういう事ね...!今のはおいなりさんって言うのよ。甘い味付けをした油揚げに酢飯を包んだものになるわ。」

 

どうやらただ美味しい料理を見つけただけだったみたい...。でもこれはすごくいい傾向だ。ユキちゃんには好きな物を少しずつ増やしていってもらおう。『好き』の積み重ねで幸せを感じて欲しい。

 

・・・それにしても狐は油揚げが好きっていうのは本当だったんだね...。ただ単においなりさんが好きって可能性もあるけど。

 

今度油揚げ単体を食べさせてあげよう。どんな反応をするんだろう?

 

 

最近はあのコの身体の調子も良くなってきたから、そろそろ外に連れ出してみてもいいかもしれない。とりあえず最初はゲヘナのセナちゃんのところかな。あの時の約束は忘れていない。改めてお礼を言いに行こう。ユキちゃんが無事な姿をしっかりと見せないと。

 

次はどこに行こうかな?行ってみたいところや、やってみたい事とかあるのかな?とりあえず聞いてみて、あったらそこに連れて行ってあげよう。無ければ私たちの好きな場所に行ったり、好きなことを一緒にやってみてもいいかも。

 

 

・・・しばらくは平和な時間が続きそう...

 

 

 

 

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