不幸な小狐は幸せを探す 作:うしさん
今日もいつものように陽の光で目を覚ます。建物の隙間から辛うじて射し込む日差しは、日陰ばかりの路地裏にとって天から垂らされる糸のように思えた。
その光がピンポイントで眠りに就くボクを照らしつける。夜の冷え込みとは違い、太陽のひかりがぽかぽかして気持ちがいい。
「くぁぁ~~~~んふぅ...」
ぽかぽかしてぬくぬくしているこの瞬間が一番幸せを感じる。眠気を咬み殺すように欠伸をしながら寝床で伸びをする。
寝床とは言っても偶然落ちてたマットに、掛け布団替わりのボロ布だけ。このちっちゃい身体には十分すぎるくらいだ。
あるのと無いのとじゃ全然違うので、捨てられていたものをありがたく使わせてもらってる。
ちなみに服だけど、腰布とビッグサイズのだぼだぼTシャツ。これも落ちてた。案外あるものだ。
普段通りの朝だ。昨日よりも少し肌寒いかな?朝方だからそう感じるのは当たり前か。
なんて疑問を自己完結させて、かけ布をはがし上体を起こす。そのまま立ち上がり再び伸びをする。
「んんぅ〜〜〜ふぅっ…!今日は何をしよっかな~」
と、独り言を呟いてみるものの寂しくこの空間に響くだけだ。さらに悲しいことにやることは特にない。
今住処にしているここはブラックマーケットから少し離れた人通りの少ない空き地だ。
ブラックマーケットに住んでいた時期もあったけど、もれなくボコボコのボコだったのでソッコーで退散してしまった。
「なんてったってボクは最弱なのだ!!ふはははは!は、はは、あはは…はぁ…」
自分で言ってて虚しくなってきた。独りで何やってるんだろ。
独りなのは今更か…
正気を取り戻したボクはゴミ漁りに勤しむ。鉄クズから生ゴミまで種類は豊富。食べられれば何でもいい。
なにか朝ごはんになるようなものは無いかと脚を動かしあちらこちらへ。ゴミの山の中に手を突っ込みガサガサと。
無心でそんなことをしていると、唐突に目の前を何かが横切ったのを感じた。
「うひゃぁっ!!なんだぁ?てめぇ!!待てこのっ」
なんとびっくり、いきなりネズミが飛び出してきた。驚いている暇もなく、カスみたいな反射神経で捕まえようと試みるも、一瞬にして逃げられてしまったみたいだ。
ざんねん。
実はボクは無機物以外なら割となんでも食べられる。
そこら辺に生えてる雑草から昆虫、時にはネズミを狩って拾ったライターで炙って食べたりしている。
悪食だと罵ってもらって構わない。こうでもしないと生きていけないのだから。空腹の限界に達すると、割と何でも食べられたりする。
「むしろ害獣退治に一役買っていることを褒めてもらいたいものだ!病原菌がどんなもんだ!毒でもなんでもかかってこい!鉄の胃袋を持つボクに怖いものなんてないのだっ!!!」
またテンションがおかしくなってしまったみたい。情緒不安定なのかな。定期的に馬鹿みたいな発作が起こるのを止めたい。長い間ひとりぼっちだからストッパーが居ないんだ。
辛い記憶だけど、ネズミや昆虫みたいなゲテモノを食べ始めたばかりの時は片っ端から体調を崩し、吐き気が止まらなければお腹の中もぐるぐると暴れていた。
ただでさえ食べるものが少ないのに身体の中がすっからかんになってしまい、いつ死んでもおかしくなかった。新しく食べ物を補給する余力なんて無く、一日中横たわり苦しみと戦っていた。
目の前が霞み立ち上がることすら覚束無い。一歩前に踏み出す度にその場にぐしゃりと倒れ込む事を繰り返す。そんな事をしていて、飢え死に寸前の状態だった。
というか
あれだけ酷い状態だったのに、生きていられるわけがないんだよ。
何回も意識を失って記憶が飛び飛びだし。
気づいた時には身体から毒素が消えてたみたい。
この生命力はボクだけの特殊能力なんじゃなかろうか。アニメや漫画みたいなチカラだったりして!
───────ってそんなわけないか…!
まぁたとえそんな能力持ってたとしても、ひたすらに地獄のような苦しみしかないんだけどね。派手でもかっこよくもない、しぶとく生き残るプロ路地裏生活者にふさわしい能力だ。
気を取り直して朝ごはんを探そう。
幸いなことにこの付近には公園があり、そこには草原が広がっている。
水飲み場とか設置されているから食事に困ったら公園に行けば大体なんとかなる。トイレも設置されているからすごく快適だ。
雨の日はその公園で身体を洗い流しているから衛生面もぎりぎりなんとか保たれている。たぶん
改めて思うと、よくこんないい場所を確保出来たものだ。
今日はなんだか気分がいいから自然と公園へと向かう脚が軽くなる。
軽すぎて空も飛べちゃうかも!なんて思いながら下手くそなスキップを華麗に披露する。
絶望的にダサい。けどプロロジウラーのボクには今更過ぎてノーダメージ!楽しくなってきたので鼻歌まで歌っちゃう!!
「ふんふんふ~ん!ふふふのふ~ん」
さらに回転!そよ風ステップ!!
(楽しい!楽しいよ、ママ...!)
存在しないママを創り出してしまった。
だれだこいつ
空も風も気持ちぃし空気もおいしい。そのうえ程よい日差しがボクを少しおかしくしてたみたいだ。
恐るべし、大地の恵み。いつもありがとう
正気に戻ったところでちょうど目的の場所に到着したみたいだ。
今日も元気に青々と生え揃ってることを確認して、どこを狙うか目標を定めてその場にしゃがみこむ。
自分なりの選ぶコツというものがある。
とにかくフィーリングでみずみずしいやつを選ぶのだ!!
コレは企業秘密なので広めちゃだめだよ。
え?大したコツじゃないって?うるせぇやい!
口に入れば全部一緒でしょ?!
あたまの中で1人芝居が始まってしまった。
今日は定期的におかしくなっちゃうかも。
どうしたボク。死ぬのか?今日死ぬのか??
いけない。このままだとまたおかしな方向に話が進んでしまう。
ちゃんと食料を採取しないと。
せっかくだし今日の分の食料は全部ここで調達しておこう。
水を汲むために2Lペットボトルも持ってきたのだ。賢いね
............
「お、重い...」
袋いっぱいの、水洗い済みの雑草と2Lのペットボトルを両腕に抱え込み、ボクの住処へと一歩一歩足を進める。
『行きはノリノリ帰りはツラい』
なんて言葉があった気がするけど今日みたいな日のことをいうのか…
そんなことを考えながら無事我が家に到着した。
抱えていた戦利品を地面に下ろす。
朝から動いてお腹も空いてきた。
採ってきたものを早速食べよう。
ボクはイス替わりの石に腰をかけ、テーブル替わりの木の板に野菜(雑草)を並べる。朝は軽くこのぺんぺん草みたいな植物にしよう。
そう決めて、手を合わせていただきますをしっかりとする。
食べ終わったらお水を一口。その後お口もちゃんとゆすぎます。
ごちそうさまも忘れずにね。
朝ごはんは済んだけど、この後やることは特にない。
食料はさっき調達したから明日くらいまでなら動かなくて良さそう。
そう思い至り、ボクはまた眠りにつくために寝床にもぐり込む。
体力の消費を抑えるためにも寝るのが一番だ。
(がんばれ、数時間後のボク。いいことあるから強く生きるんだぞ)
寝る前のルーティンとなっている自分へのエールも欠かさず行い、再び眠りにつく。
数時間後そこで初めて、今までやってきた祈りなんて意味が無かったことに気づいた。
***
(ぺちぺち)
「………ぉい…………きろ…」
(んんぅ...?あさぁ?なにかきこえる...?ほっぺたが叩かれてる...?)
(ペチペチペチペチ)
「……おい………おきろ…!」
(いたいよ。叩かないでよ。ちゃんと聴こえてるからさ...)
「おい!起きろっつってんだろ!!」
「オゴェっっ⋯⋯!!!」
(痛い痛い痛いっ!!なになになになになに?!一体ボクの身体に何が起きた???!)
意識もはっきりとしていないまま、強烈な痛みを感じて目を覚ましたけど状況を一切理解できない。
とりあえず周囲の状況を確認する。
目の前に三人のスケバンみたいなヤツらがボクを囲うように立っている。黒セーラーにマスクで顔半分を隠しポケットに手を突っ込んでいる。目が合うと思い切りガンを飛ばしてくる。
(やばい...ついにここを追い出されるのかな...)
なかなかピンチな状況であるのに、つい住処の心配をしてしまう。
割と快適だったこの生活を失って路頭に迷うのが、どうやら怖いみたい。
お腹には鈍い痛みが残っている。どうやらさっきの強烈なモーニングコールの正体は、腹部に対しての強烈な蹴りだったようだ。お腹の中心に爪先が抉り込んだせいで気持ちが悪い。
おなかをおさえて鈍痛に耐えながら、体勢を立て直して会話を試みてみる。
「けほッ...ど、どうして急に蹴るんですか...?なにか失礼なことをしてしまったでしょうか...?」
とりあえず下手に出てみる。大事な処世術だ。余計なことは言わない。
たとえ、
『ただ誰もいないところで寝ていただけなのに失礼も何もあるか!』
という考えがあたまに浮かんだとしても。
すると三人いる女の内の一人が口を開く。
「失礼だぁ?あんだけアタシらにちょっかい掛けてきたくせになんでてめぇが被害者ヅラしてんだよ」
「───────ぇ?」
本当に訳が分からない。ここに住み始めてからボクは誰かに関わることは無かったはずだ。
ここに住む前には誰かのテリトリーに侵入してしまって撃退されたことは何回もあるけど、その関係者なのか??
それにしては間隔が空きすぎじゃない??
もう少し詳しく聞かないとこの状況に納得できない。相手を刺激しすぎないように心掛けて話の続きを聞いてみることにした。
「あの、たぶん人違いだと思い、ます...
それはいつ頃でどんな事があったんですか?」
(ボクのばか!!誰かと話すのが久しぶりすぎて上手く喋れない…ドキドキして結構踏み込んだこと言っちゃったかも...)
また違う女が話し始める。
「人違いなわけが無いだろ!証拠だってあるんだからな?!あの時とは違ってヘルメットをつけてないみたいだけど、お前みたいなクソちびで白い尻尾を生やした白髪がそう何人もいるもんか!」
「別人のふりしても無駄だかんな?アンタらがアタシ達にした事を忘れたなんて言わせねぇぞ?」
(ひぇっ...やっぱり怒らせちゃった…!というかヘルメットってなに?!!別人のふりも何も確実に別人だと思いますが!?『アンタら』ってボクいつも独りなんですけど?!あなた達とは初めましてですよね!?忘れるも何もそもそもの記憶自体ないんですけど...!!)
あたまの中でぐるぐると情報が暴れている。
ツッコミどころが多すぎてツッコミが追いつかない。
ここは勇気をだしてしっかりと否定しなければならない。
だってボクはこの人達に悪いことなんて絶対にしてないんだから。
よし...!言ってやるぞ!
「あ!あの!!」
今出せる精一杯の声を上げる
「なんだよ。まだ口ごたえすんのか?」
「ぜったいに人違いだとおもい、ます!!ボクはこの場所を最近は離れてないし、誰かに暴力は振るいません!」
言ってやった...!言ってやったぞ!これでわかってもらえたかな⋯
「口ではなんとでも言えんだよ。こんだけ証拠が揃っているのに人違いで済ませられると本当に思ってんのか?」
・・・っ!!なんでわかってくれないの?!というよりさっきから証拠証拠ってなんなの!?
「しょ、証拠ってなんですか?」
「まずお前のその見た目。ヘルメットはつけてないし服も違うみたいだけど、お前のそのちまっこさ、白さ、尻尾はまんま同じだ。」
「見た目だけなら他にも...ッ」
「もちろん見た目だけじゃねェ」
「そうだ!!テメェが使ってた得物を忘れられるわけが無いだろ!あんだけ痛めつけられたんだからなぁ!」
反論しようとするが、すぐに被せるようにして畳み掛けてくる。
いったいなんの証拠があるというのだ。
ボクは武器なんて持ってもいないというのに...
「武器なんて、武器なんて持ってません!出すならもっとまともな証拠を....っっっゲホッ....がはっ....!!」
「ああん!?テメェ何寝ぼけたこと言ってんだァァ!?巫山戯んじゃねぇぞ!?」
さっき蹴られた場所に再び蹴りを入れられる。蹴られた勢いで後ろにごろごろと転がる。痛みがまだ残っていたままだったため、先ほどよりもずっと苦しい。
(でもほんとに武器なんて⋯⋯持った覚えなんか無いのにそんなのどこに...
そこでふと、あることに思い至り、重い体に鞭を入れ首をとある方向に向ける。
ボクはここに住み始めたことを初めて後悔した。
そこにあったのは──────────────
「・・・お前、あんな目立つ
「あ…あぁ……」
(最悪だ最悪だ最悪だ...!何が最悪かって全てが最悪だ!)
話の流れを聞いてる限りあいつらはヘルメットの集団に襲われたみたいだ。ボクも襲われたことがあるから分かる。おそらくそこでボコボコにされたのだろう。
でも、ボクにとっての最悪な不幸は他にある。たぶんそこのヘルメット集団のメンバーのうち一人が、ボクにそっくりな見た目をしていてスナイパーライフルを使っていた。その人はとても強く、こいつらに目の敵にされている。・・・といったところだろうか…
では肝心のボクの武器の話は?となるかもしれないが、そこに関しても本当の本当に最悪なタイミングだった。
問題はあの廃棄物の溜まり場だ。つい最近ロボットが廃棄物を捨てに来たのだけど、その中に一際目立つスナイパーライフルが混ざっていたのだ。それを見たスケバン達が、その銃をボクのものだと勘違いしている。
(あのクソロボット...!バラバラのスクラップにでもなればいいのに...)
全てを察したボクは、どうやら言い逃れが出来ない状態になっていると気づく。
口ごたえをすればするほど痛めつけられる未来がありありと想像出来る。
「おい、なんとか言ったらどうなんだ?」
何を言っても殴られる。こいつらの醸し出す今の空気感はまさにそれだ。
ボクは今までさんざん理不尽な暴力を振るわれてきた経験がある。わかってしまう。
殴られる蹴られる撃たれる。これからボクに襲い来るのはなんだろう。
反抗すればするほど長引くっていうのは嫌というほどに理解している。
今回もおとなしくしていた方がいいだろう。
やっぱりどれだけ経験しても痛みには慣れない。蹴られた腹部が未だに痛みを訴えてくる。
早く終わらせよう...
でもなんて返事をすればいいのか分からない。
とりあえず謝ってみよう。
こういう時『すみません』っていう言葉はとても便利だ。
『ごめんなさい』と言うよりも
何に対して謝罪しているか分からない今の状況にぴったりだ。
覚悟を決める。
坐り込んでいる今の姿勢から、もはやお家芸になってしまった土下座の姿勢にうつる。
手を前につきおでこを地面につける。ひんやりとしたコンクリートがボクの心を冷ましていく。
簡潔にひとことだけ
「すみませんでした...」
数瞬の後、一発の銃声が路地裏の空間に木霊する