不幸な小狐は幸せを探す   作:うしさん

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評価コメント機能に最近気付きました。嬉しい感想やアドバイスありがとうございます。感想欄でも同じアドバイスを頂いたので、それに伴いこれまで書いた一部を調整します。内容には影響しません。読みやすい作品を目指していきます。


ゲヘナに行こう!【表】

 

 

今日はついにゲヘナに向かう日だ。向かうのは私とユキちゃんの二人だけ。大人数で行っても仕方ないからね。もし全員で行って、攻めてきたーだなんて言われたらたまったもんじゃないし。

 

それに、これは私の罪の清算でもある...

 

完全に私の過去は消し去ることは出来ないけど、ものすごくお世話になったセナちゃんにお礼を言いに行くことで一区切りをつけようと思うのだ。全部独りよがりで自分勝手な行動だというのは理解している。

 

そういう訳だから、先にセナちゃんに連絡だけしておこう。ゲヘナに着いた時にセナちゃんが居なければ無駄足になってしまう。忙しくないといいんだけど⋯

 

 

Prrrrr.....Prrrrr.....

 

 

『はい。こちら救急医学部。』

 

「もしもし?アビドス高校の小鳥遊ホシノですけど、氷室セナちゃんはいるかな?」

 

『・・・氷室セナなら私ですが。なにか御用でしょうか?』

 

「あの、さ。この間のお礼がしたいんだ。帰り際に対価の話をしたでしょ?あのコの調子もかなり良くなってきたからあの時の約束を果たそうと思って⋯」

 

とりあえず今日は居てくれてるみたいだ。ひとまず安心した。私の目的は伝えることができた。セナちゃんはどんな反応を返してくるだろうか。

 

『あぁ、あの時の⋯。そういえばそうでしたね。それでしたら私の方が現在少しだけ立て込んでいて、向かうのが難しいので来て頂けると有難いのですが⋯』

 

「元々こっちから向かうつもりだったし気にしないで大丈夫だよ。今はゲヘナに居るんだよね?」

 

『はい。ですが何時何処に呼び出されるか予想も出来ません。到着された頃には居ない、なんて事も有り得るでしょう。その時はどう致しましょうか』

 

「全然待つよ。患者さんを優先してあげてよ。私達もそれで助かったんだしさ」

 

『分かりました。ありがとうございます。ゲヘナの上の方にはアビドスの方が来られるということは伝えておきますので、安心してお越しください。あと正門に案内役としてうちの部員を置いときますので好きに使って大丈夫です。それでは...』

 

「うん。ありがとね。また後で」

 

 

よかった。気を使って案内役も手配してくれたみたい。確かに初めて行く学園の地理なんて分からなかったからすごく助かる。

 

お世話になった分の菓子折りも用意できた。銃弾で破けて汚れてしまった病衣も、できる限り修復して此処にある。あとはユキちゃんを呼んで出発するだけなんだけど、

 

校庭からなんだか楽しそうな声が聞こえてくるなぁ⋯

 

「ん、シロ遅い」

 

「くそぉ!シロコが速すぎるの!!」

 

「ふっ、まだまだだね...こっちだよ」

 

「うひゃん!あは、あひゃは!あはははは!!」

 

 

またやってるよ⋯。楽しそうでなによりだけどさ。

 

ユキちゃんとシロコちゃんの最近のブームは追いかけっこだ。少し前まではおんぶダッシュだった。シロコちゃんがユキちゃんを背負って全力ダッシュをするだけなんだけど、これでもかというくらいにユキちゃんが喜ぶものだからシロコちゃんも張り切り過ぎて、最終的に二人で重なるようにして倒れている光景をよく見た。流石の体力オバケのシロコちゃんでも厳しかったみたい。

 

だけど最近は普通に追いかけっこをしている。

と思いきや、シロコちゃんの一方的ないたぶりになってる。ユキちゃんも何とか捕まえようと頑張ってるけど、シロコちゃんには敵う訳もなく敢無く擽りの刑に処されてばかりだ。

 

見てる側としては微笑ましい光景だけど、ユキちゃん本人はどう思ってるんだろう...?

 

 

「あは!あはははは!やめて!!シロコもうやめて!あひゃ!そろそろ怒るよ!」

 

「シロが怒ったところで痛くも痒くもない。赤ちゃん猫のねこぱんち程度にしか思えない」

 

「そんなことないよ!普通のねこぱんちくらいできるし!

あ、でも待って...ボクってキツネだからねこぱんち一生できなくない...?きつねぱんちしかできなくない?!」

 

「・・・ん、やっぱりシロはアホだね...」

 

「なんでさ!」

 

 

・・・うん。楽しそうで、なによりだよ...

というより尻尾見れば丸わかりだった。さっきからずっと右へ左へ凄い速さで動いてる。

とりあえず出発は早い方がいいよね。呼び戻してすぐに出発しよう。そう思い、窓を開け外に居るユキちゃんに声を掛ける。

 

 

「お〜い、ユキちゃーん!そろそろ出発するよー」

 

「あ、そっか!もう行くのか!それじゃシロコ行ってくるね!いい子にしてるんだよ!」

 

「それはこっちのセリフ⋯。ホシノ先輩、この子が馬鹿なことしないようにちゃんと見張っててね」

 

「おじさんに任せてよー。ばっちりと目を離さないようにするからさ」

 

 

そうしてユキちゃんは私の方にやって来た。二人で手を繋いで出発する。移動手段は歩きと電車だ。時間はまだ午前中だし、ゆっくりと行こう。

 

「ねぇねぇ、ボクを助けてくれた人ってどんな人なの?」

 

急にこんな質問をされてしまった。でもユキちゃんにとっては当然の質問だ。命の恩人のことを知りたいと思うのは何もおかしな事じゃない。

 

私はあの時の光景を今でも鮮明に思い出せる。セナちゃんとしたやり取りも殆ど覚えている。嫌な記憶ほど脳内に刻み込まれるのは人間としての防衛本能なんだろうけど、こんなに苦しい気持ちになるのなら要らなかったと切に思う。

 

(それでなんだっけ...?セナちゃんがどういう人なのか、ね─────)

 

 

「助けてくれた人の名前はセナちゃん、氷室セナっていう人なんだ」

 

「セナちゃん...。うん。よし、覚えたぞ!それでそれで!?」

 

「んー、そうだねぇ。雰囲気はクールな感じかな?」

 

「クール!かっこいい人なんだ?」

 

「かっこいいとはまた違うかな?常に落ち着いていて周りの人を安心させるような感じって言えば良いのかも」

 

「へぇ〜!早く会ってみたいなぁ...」

 

 

・・・そうだった。言葉にして漸く気付けたけど、あの時はセナちゃんの冷静さに随分と助けられた。今思い出しても、私はあの時、度重なるショッキングな出来事の連続で冷静さの欠片も無かった。後輩達には情けない姿を見せて失望させたかもしれない。

 

そんな時に現れたのがセナちゃんだ。救急医学部が来てくれて、必ず命を助けると約束してくれた。あの時の安心感は今までに無いものだった。本当に助かるのか、とか色々な不安が頭の中を埋めつくしてしまったけれど、心のどこかであの人なら大丈夫だ、って思えた。

 

私も改めてしっかりとお礼をしないと。

 

そうしてなんて事ない話を二人でしながら電車を乗り継いでる内に、目的地が段々と近付いてきた。もう次の駅で到着だ。

 

ゲヘナ学園は規模の大きさだけでなく、治安がかなり悪いことで有名だ。ただでさえ治安が良くないキヴォトスの中でもトップクラスでヤバい場所らしい。

 

普通の道を歩いていた筈なのに店が爆発したり、地面が爆発したりという話を聞いているだけで頭が痛くなってくる。それだけではなく生徒同士のいざこざなんて日常茶飯事で、治安維持組織はもうてんやわんやに違いない。

 

同情するよ...

 

とまぁ、そんな感じの場所だから危険が至る所に潜んでいる。宛ら意志を持つ地雷原といったところだろうか。私も無駄に刺激しないように進んでいこう。

 

こんな所でユキちゃんを危険な目に合わせたりなんかしない。何が起きたとしても私が護ってみせる。目さえ離していなければ、私が絶対に傷付けさせないのだから。

 

ふと、外からプシューという音が鳴り列車が止まった。どうやら目的地に到着したみたいだ。列車から降りようと思い、ユキちゃんの方を見る。

 

 

「ユキちゃん降りる、よ……

あれ、ユキちゃん...?」

 

 

・・・ん...?

 

えっ───────

 

 

──────どこいった!!??

 

 

やばいやばいやばいやばいっ....!見失った!?

完全に私のミスだ!余計な考え事をしてる内にユキちゃんが居なくなってしまった!手をしっかり繋いで目を離さないでおくべきだったのに...!

 

あのコは良くも悪くも何にでも興味を示すから、初めての場所に来て大人しくしている訳が無い!!さすがにまだそんなに遠くには行っていないはず...!居たとしても駅のホーム辺りだろう。

 

急いては事を仕損じる、だよ。

落ち着いて、出来るだけ急いで探そう。

 

すぐさま列車のドアから飛び出す。辺りを見回すと降りたばかりの生徒の姿が多い。この中だったらアビドスの制服を着たちっちゃい子はかなり目立つはず...!何処だ!?

 

 

・・・あ。見つけた。

 

あっさりと見つけた。一瞬で見つけた。あのコを見つけるだけの絵本とかあったら五分も楽しめなさそうなくらい直ぐに見つけられた。

 

あんなとこでなにしてんのさ…

まぁ危ない事に巻き込まれて無さそうで安心したけど。

 

なんだか頭の悪そ〜〜な会話が聞こえてくる。

 

 

「ねぇ!ロボットの人!コレはなに?食べれるの?」

 

「あー!ダメですお客様!ソレは食べ物ではなく食玩の消しゴムです!お店の商品なので食べようとしないで下さい!!」

 

「コレこの前セリカちゃんが食べさせてくれたスシにそっくりだけど食べれないの?」

 

「確かに寿司そっくりですが消しゴムなんです!」

 

「ここは消しゴム屋さんなの?」

 

「よくぞ聞いてくれました!!このワタシの駅ナカ店は今までワタシがかき集めてきた食玩消しゴムを売るためだけに昨日勝手に作った店な....」

 

「はいはーい。ユキちゃんはこっち来ようね〜。知らない人に付いてっちゃダメだよー?」

 

「あ、スシ消しゴムが...」

 

「そんなのさっさとポイしなさい!めっ!だよ?」

 

「あぁ...!ワタシのお気に入りの寿司消しゴムが、線路内に...!」

 

 

まったく、何をしてんだか。

 

要するにこのヒトが今まで趣味で集めてきた食玩消しゴムを、駅のホームで勝手に店を作って売ってた所にユキちゃんが興味を示して見に行っちゃったってこと?

 

さすがゲヘナ。

もう既に治安の悪さの片鱗を見せ付けてくるなんて恐れ入った。

 

この店は多分バレたら速攻で潰されるんだろうけど、昨日から一日経っても潰されてないってことは放置しても大した被害は及ばないとでも判断されたのかもしれない。コレを対処するよりも先に、他にもっと危ない案件があるってことなのだろう。

 

どちらにせよ早くここを離れよう。ユキちゃんに馬鹿が移る前に。もう手遅れかもしれないけど...

それにこれ以上ユキちゃんを好き勝手に動かしてたらまたどっか行っちゃう。

 

そう思いユキちゃんの腰に手を回し、脇に抱えるようにして持ち運ぶ。軽いから楽々だ。ユキちゃんは干し布団みたいに手足をだらんと垂らし大人しくしてる。だけど尻尾だけはその大人しい様子に反して勢いよく揺れている。

 

何がそんなに楽しいんだろう...?

 

 

「もぉーユキちゃん?勝手におじさんから離れちゃだめでしょ?」

 

「ごめんなさい...。なんか面白そうな物があったからつい身体が動いちゃったみたい」

 

 

身体が動いちゃったみたいって、そんな脊髄反射みたいに普通なるかな?

でも尻尾も勝手に動いてるしそんな事もあるの、かな...?

 

まぁ考えたところで仕方がない。ここでしっかり言えば大人しくしてくれるはず。素直さだけなら一級品なんだし。

 

 

「この場所はアビドスよりも危険な場所なんだよ?だから面白そうな物があっても、それはもしかしたら危ないものかもしれない。だからおじさんの手を離しちゃだめだからね?」

 

「はい。ごめんなさい...。もう絶対に離さないから捨てないでください...!」

 

「絶対にそんな事しないよ。私もユキちゃんの手を離さないからね」

 

「そっか。そっか...!うん!ボクもおねえちゃんの手を離さない!」

 

 

やっぱり良い子だ。素直っていいね。大人と違って。だけどこの素直さが仇となって騙されたり変な事件に巻き込まれたりしないといいんだけど...

 

ユキちゃんは私の腕にぎゅっとくっつき、私はユキちゃんの歩幅に合わせてゆっくりと歩いている。いくらゲヘナと言えども、さっきみたいにいきなりやばい人が現れる訳では無いみたい。

 

基本的には落ち着いているけど、時折遠くから銃声が聞こえてきたりするくらいだ。だけどユキちゃんにとっては怖いようで、銃声が聞こえる度に耳を倒し、私の腕に力を入れ恐怖を我慢している。

 

今まで銃で散々な目にあってきたせいだろう。

 

私もユキちゃんが銃を恐れるひとつの要因になってしまっていると考えると、私がこうして一緒に居ていいのかな...?って思ってしまう。

 

でも今ここでこのコを護れるのは私しか居ない。だから今はそんな感情は抑えて警戒に徹していよう。

 

護身用に銃を持たせようと思ってたけど、ユキちゃんは銃を持てるのかな。遠くから聞こえる銃声だけでコレなら、間近で鳴る銃声に耐えられないんじゃ...

 

・・・そのことはみんなと相談して後々決めよう。とりあえず今日は目を離さなければ良いだけだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

歩くこと数十分。ようやくゲヘナ学園が目に入ってきた。やっぱりキヴォトス三大学園に入る辺り流石の貫禄を感じる。学園内も多くの人たちで賑わい、賑わい⋯⋯

 

・・・賑わってるって言うのかな。あれ...

 

ケンカしてるよ。普通に。同じ学園の仲間だっていうのに取っ組み合いの大げんかだ。周りには野次馬が群がっててすごく騒がしいことになってる。

 

二人とも結構ボロボロに見えるけど大丈夫なのだろうか。ユキちゃんはそれを見て私の後ろに隠れてしまった。私のお腹に手を回してプルプルと小刻みに震えてる。

 

(ユキちゃんを怖がらせないでよ……)

 

ふつふつと私の中で怒りが込み上げてくる。このコを怖がらせる奴は例外なく排除したい気持ちに駆られるけど、ここはアビドスではなくてゲヘナだ。

 

他の地区で騒ぎなんて起こせない。それに私たちはアビドスの客人として招かれている立場。もし今此処で騒ぎなんて起こしたらアビドスのみんなが危険な目に遭うかもしれない...

 

・・・ここは大人しくしていよう。

 

そう思いユキちゃんを安心させるために、背中に手を回しぎゅっと抱き寄せる。

 

 

「大丈夫だよ。何があっても私が護ってあげるからさ。私を信じて先に進もう?無理はしないようにね」

 

「・・・うん。ホシノおねえちゃんが一緒ならボクはサイキョーなんだ...ボクも先に進むよ」

 

 

嬉しいことを言ってくれる。つい頬が緩む。信じてくれるコが居るってなんて嬉しい事なんだろう。これだから私もみんなを信じて無茶が出来るってものだ。

 

それから少しずつ前に進んで行き、正門前に辿り着いた。案内役の子は何処に居るんだろうと探していると、さっきの騒ぎが起きていたところで何か動きがあったみたい。

 

そこに目をやると、騒動を鎮圧するセナちゃんの姿が。

 

そして背が私と同じくらいの子が見えた。あの子はかなりの威圧感を放っていて目つきも鋭い。それに只者では無い気配を漂わせている。全力の私でも勝てるかどうか分からない...

 

その姿を見た野次馬達は大騒ぎをしながら走り去っていく。

 

 

「うわぁー!!風紀委員長が来たぞー!!お前ら逃げろ!」

「なんで委員長がここに居るんだ!?他の風紀委員は外に出たはずだろ!?」

 

「・・・はぁ。まったく、風紀委員会も舐められたものね...」

 

「そうですね⋯。風紀委員長のワンマンチームみたいになってますからね」

 

「痛いとこ突くわ...」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

「褒めてない」

 

 

ゲヘナ学園風紀委員会委員長。噂程度に聞いたことがある。

キヴォトスの中でも並ぶものは殆ど居ないくらいの強者⋯

 

本当になんでこんな所に⋯。ゲヘナの敷地なんだから居るのは当然だと思うけど他の風紀委員は外に出ているらしいし⋯

 

とにかく今ここで争う訳にはいかない。セナちゃんに声を掛けよう。あくまで友好的に。

 

 

「おーい!セナちゃ〜ん!!来たよ〜」

 

 

その声に二人は気付き、私の方に視線を向けてきた。セナちゃんは普段と変わらない目線を向けてきたが、風紀委員長ちゃんは私の姿を目にした瞬間、一気に目付きが鋭くなった。

 

その視線を受けて私も少し身構える。何時でもユキちゃんを護れるように...

 

「お久しぶりですね。アビドスの方」

 

「やぁやぁ、久しぶりだねぇセナちゃん。おじさんのことは気軽にホシノって呼んでよ」

 

「おじさん...?

いえ、分かりました。ホシノさん」

 

「んーお堅いねぇ。まぁいっか。今の騒ぎはもう大丈夫なの?」

 

「はい。ここの生徒は風紀委員長の姿を見ただけで蜘蛛の子のように散っていくのです。ゴ○ジェットを吹きかけた時のように」

 

「セナ。気持ちの悪い例えはやめて」

 

「・・・失礼しました...。フナムシの方が宜しかったでしょうか?」

 

「気持ち悪いのには変わりないわ...。例えるのをやめて頂戴」

 

・・・なんだろう。思ったよりも怖い人じゃないのかもしれない。さっきから二人の掛け合いを見てる限りだとそんなに怖いイメージが湧いてこない。

話しかけてもいいのだろうか。いつまでも無視するわけにはいかないし。

 

 

「あのー、風紀委員長ちゃん?おじさんキミに何かしたかな...?さっき急に睨まれた気がしたからびっくりしちゃって」

 

「風紀委員長ちゃん...?私の名前は空崎ヒナよ。睨んでしまったことに関しては謝罪するわ。あなたのことは情報部に居た頃に要注意人物として把握していた。それに今日あなたがゲヘナに来ることは知っていたけれど、姿が昔と全く違ったからじっくりと見てしまったわ。ごめんなさい」

 

・・・要注意人物...。まさか私が他の自治区からそんな目で見られていただなんて気づかなかった。特にアビドスなんて砂漠化で既に廃れた場所だと思われていてもおかしくないのに...

 

空崎ヒナ。私も警戒しておこう。

 

すると急に私の足元から声が聞こえてきた。

 

 

「あ、あの!ボク、セナちゃんにお礼を言いたくて来ました!!」

 

 

ユキちゃんだ。今この場の空気は、牽制の睨み合いによって少しだけピリピリしている。その中に混ざる清涼剤みたいな明るい声は、重たい空気を吹き飛ばしたように思えた。

 

 

「・・・あの時の...。そうですか。元気になったようで何よりです。長話をするには此処は向いてませんね。救急医学部の部室に向かいましょうか。風紀委員長も休んでいた最中なのですから一緒に戻りますよ」

 

 

そうして私たちは皆でセナちゃんの後ろをついて歩く。そこでふと疑問に思ったことを聞いてみることにした。

 

 

「そういえばセナちゃん。案内役の子はどこにいたの?おじさんたちが到着したときそれっぽい姿は見えなかったけど...」

 

「それに関しては申し訳ありません。外で大規模なテロがあったせいで風紀委員に同行させまして」

 

「あぁ、大変だね...セナちゃんも風紀委員長ちゃんも...」

 

 

なんだ。そういった理由なら仕方がない。日常的にテロ行為が起こるって本当だったんだ……

 

私の疑問も解決して無言で歩く。私の手を握っているユキちゃんはだんだんとテンションが上がって来たみたい。少しずつ足取りが軽くなってきて、鼻歌も混じり始めた。口角は上がり尻尾もフリフリと動いている。

 

 

「・・・そういえばあなたの隣にいる子は誰?アビドスの制服を着ているみたいだけれど。最後に確認したときにはその子の記録は無かったわ。」

 

 

風紀委員長ちゃんに急に質問された。

なんて説明したらいいのだろうかと、私が答えに困っていると隣のユキちゃんが代わりに答えてくれた。

 

 

「ボクの名前は雪白ユキっていうんだよ!ホシノおねえちゃんが名前をつけてくれたんだ!よろしくね!風紀委員長ちゃん!」

 

 

(あちゃ。私のマネしちゃった)

 

私は、今は呼び方を変えるつもりはないけど『風紀委員長ちゃん』呼びはどうなんだろう?イヤだったりするのかな?ユキちゃんは怒られないといいんだけど...

 

 

「そう。ユキっていうのね。いい名前だわ。私は『風紀委員長ちゃん』じゃなくて、『ヒナ』。空崎ヒナっていうの。だからその名前で呼んで頂戴」

 

「うん!わかった!よろしくね!ヒナちゃん!」

 

「ええ...よろしくね...」

 

「どうしたんですか風紀委員長。らしくもなく微笑んだりして。天変地異の前兆ですか?」

 

「なっ...!!・・・私だって可愛らしいものを見たら頬が緩みもするわ...」

 

「私から見たら今の微笑んだ風紀委員長も可愛らしいですけどね」

 

「・・・セナ。私の事からかってる?」

 

「いいえ。全く」

 

 

さっきの初対面の時とは別人レベルで雰囲気が変わった。要らない心配だったようだ。元気で明るい、悪く言えば能天気なこのコが居てくれるお陰で空気がキレイになる。それに私も、これで風紀委員長ちゃんと話しやすくなった。

 

私としてもギスギスした空気は嫌だ。今みたいなほのぼのとした空気の方が、昔から居心地がいい。本当にユキちゃんが居てくれて助かった。

 

そうして救急医学部の部室に到着した。私たちはそれぞれ空いている椅子やベッドに座り本題に入り始める。

 

 

「改めてセナちゃん。あの日は本当にありがとね。いくら感謝してもし足りないよ。コレ、精一杯の感謝の気持ち。良ければ受け取って欲しいな」

 

「ボクからもありがとう!助けてくれて!」

 

「・・・いえ。医療従事者として当然のことをした迄です。お礼は受け取りますがあまり重く考えないでください。」

 

「あの...聞いていいのか分からないのだけれど、何があったの?」

 

 

そこはあまり突っ込まれたくなかった。それでも私の消えない罪だ。私の犯した罪からは逃げない。話さない理由は無い。

 

 

「・・・それは...」

 

「ヘルメット団のせいでボクが死にかけたんだ!そこでホシノおねえちゃん達がセナちゃんを呼んで助けてくれたの!」

 

 

───────っ!!!

 

ユキちゃん....このコは、ほんとうに⋯!

 

 

「・・・うん。そうだよ。ヘルメット団の罠に私がまんまと引っかかってこのコを撃ち抜いたんだ。それでセナちゃんを呼んだ」

 

「───っ!

・・・そう、嫌なことを思い出させたわ。ごめんなさい...」

 

「そうだったのですね...。ホシノさん、この件に関してあなたは責められる謂れは無いでしょう。悪いのはヘルメット団です。

あなたの脳裏を支配するその時の記憶は消えません。ですが、もう少し肩の力を抜いた方がいいのではないでしょうか。今のあなたはかなり危うい状態のように見えます」

 

 

・・・分かってる。悪いのはヘルメット団。

だけどあそこまでユキちゃんを追い詰めたのは私。

どうしてもその事が頭にこびり付いて離れてくれないんだ...!!

 

 

「今は何を言っても無駄だと思います。なので今は、そんな今だからこそ沢山の楽しい思い出をユキさんと作ってください。思い出したくない記憶を、新たな楽しい記憶で埋め尽くすのです。そうすれば自ずと、悪い記憶は消えはせずとも薄れていくでしょう」

 

「・・・セナちゃん。うん、そうだね...。そうするよ。ありがとね。」

 

 

私の罪は消えない。そんなことはもう分かりきった事だ。それならそうと割り切って、新しく思い出をユキちゃんと作るのも悪くないのかな。流石セナちゃんだ。私の心が随分と軽くなった気がする。

 

 

「ホシノおねえちゃんたくさん遊んでくれるの!?」

 

「そうだよ〜。これから一緒にいっぱい遊ぼうねぇ」

 

「やったぁ!何するか今のうちに考えておかないとだね!」

 

「微笑ましい関係ですね」

 

「そうね。私にもあの子みたいな癒しが欲しいわ」

 

「うへー、ユキちゃんは風紀委員長ちゃんには渡さないよー?」

 

「・・・言ってみただけよ」

 

 

ホントかなぁ?結構本気で言ってると思ったんだけど。やっぱり風紀委員長ともなると、激務による疲労から癒しを求めてしまうのだろうか。

 

そういえばなんでここに風紀委員長だけが居るのか聞いてなかったかもしれない。ちょうどいいタイミングだし、今聞いてみよう。

 

 

「ねね、風紀委員長ちゃん。他の風紀委員は外に出てるって話らしいけど、どうして風紀委員長ちゃんだけ残ってるの?」

 

「それは私がお答えしましょう。風紀委員長は他の風紀委員の方から無理矢理、強制的に休まされているのです」

 

「へ?どゆこと⋯?」

 

「風紀委員長は全て自分で解決しようとしてしまうので、休みが取れていないのです。昼間は暴動やテロの鎮圧。夜も寝ずに仕事。こんな生活をしているものですから、他の風紀委員の方が心配なさっているのです。そこで行政官から私直々に見張ってて欲しいと言われてしまって今に至ります」

 

 

・・・思っていたよりも酷かった!!風紀委員長ちゃんの顔をよく見たら目の下の隈がとんでもない事になってる…!よくこれで起きてられるね⋯。こんなことになってるならユキちゃんのこと少しだけ貸してあげてもよかったかも⋯

 

 

「────ちなみに今何徹目なの⋯?」

 

「そうね。覚えてないわ」

 

「行政官曰く六徹目だそうです」

 

「六徹目!!?本当に大丈夫なの!?」

 

「大丈夫よ。たぶん⋯」

 

 

いやいや、明らかに大丈夫じゃないでしょ⋯。私だったら六徹もしたらきっと死んじゃう。コレはユキちゃんに頼んで癒しを提供することを本格的に検討しないといけない案件かもしれない。

 

 

「ヒナちゃん疲れてるの?」

 

 

なんとユキちゃんから声を掛けた!どうなるのだろうか。もしかして本人からユキちゃんサービスの申し出があるかもしれない。

 

・・・ユキちゃんサービスってなに?

私も疲れてるのかもしれない。風紀委員長ちゃんとは比べ物にならないんだけど。

 

 

「そうかもしれないわ」

 

「眠れないの?」

 

「眠れ、ないかもしれない...。眠ろうとしてもどうしても頭が冴えてしまって⋯」

 

「────それなら、ボクをぎゅってしながら眠るといいよ!!」

 

「・・・え?」

 

 

─────えぇっ!!!??

 

コレが噂に聴くユキちゃんサービスってやつ?!私もよくして貰ってるけど効果はバツグンだ!風紀委員長ちゃんのこんなにやつれた顔を見た後だとユキちゃんを貸してあげないなんて言えないし...

 

 

「小鳥遊ホシノ⋯。私がユキを抱きしめてもいいのかしら⋯?」

 

「おじさんに聞かないでもいいのに。ユキちゃんが良いって言ってるんだから存分に休みなよ〜。ユキちゃんは究極の癒しだからさ...癒される覚悟はちゃんとしてね?」

 

「そうだよ!ホシノおねえちゃんはボクと眠る時は、幸せそうな顔でぎゅっとしながらボクの髪とかお耳を吸ってるんだよ!ヒナちゃんもやってみて!」

 

「・・・そんなことをしているの...?」

 

「ちょっ、ちょっとユキちゃん?なんで今そんなこと言っちゃうかな?!・・・っていうか気付いてたんだね…」

 

 

(恥ずかしいよ〜!なんでよりにもよって初対面の人の前でこんな事を暴露されないといけないの!?しかも本人の口から私の痴態を晒されるなんて⋯!)

 

多分今の私の顔は赤くなってしまってると思う。ここまできたらもうやけだ!風紀委員長ちゃんも道連れにしてやる!!

 

 

「ほ、ほらほらー、風紀委員長ちゃんもユキちゃんのことぎゅってしながら吸いなよ〜。一瞬で天国に行けちゃうからさ〜」

 

「・・・あなた、吹っ切れたわね⋯

はぁ、そこまで言うならお言葉に甘えさせて貰うわ」

 

 

そう言ってベッドに寝っ転がる。そこに後からユキちゃんが風紀委員長ちゃんの腕の中に潜り込んで行った。ユキちゃんは相変わらず楽しそうで、尻尾も暴れている。そして少しずつ身体を寄せていき、身体を丸めるようにして風紀委員長ちゃんの身体の前に収まった。

 

風紀委員長ちゃんは恐る恐る割れ物を扱うように手を触れ、大丈夫だと思ったのか段々と腕をユキちゃんに回していく。ゆっくりとゆっくりと回していき、漸く身体全体を腕で包むような体勢になった。

 

それを確認したユキちゃんはさらに身を寄せ、風紀委員長ちゃんの胸元に頬っぺをすりすりとするように身を捩らせる。その様子を見て表情を緩ませ、頭を上から下へと梳くように撫でていく。ユキちゃんは気持ちよかったのか、喉の奥から鳴るようなか細く高い声が漏れている。

 

 

「ふふっ⋯あたたかい⋯」

 

 

そう呟いて、瞼が少しずつおりていく。完全に瞼が閉じた瞬間、肺の底から大きく深呼吸を一回。

 

その後は静かな寝息が二つ。静寂に包まれた部屋に響いていた。

 

 

「・・・寝ちゃったね」

 

「寝ましたね。先程までどうしても眠れないと嘆いていた風紀委員長がこんなにもあっさりと眠りにつくなんて驚きです」

 

「人を癒す特殊な力とかあるんじゃない?」

 

「・・・そうかもしれませんね...」

 

「なんか二人の様子を見てたらおじさんも眠くなってきちゃったよ」

 

「それでしたらそこの空いているベッドを使って貰っても構いませんよ。今日だけの特別です。風紀委員長を休ませてくれたお礼、ということで」

 

「おじさんはただ連れてきただけなんだけどねぇ。ならありがたく使わせてもらおっかな〜」

 

 

セナちゃんにお礼を言ってひょこんと空いているベッドの上に飛び乗る。寝っ転がって大きく息を吸うと、鼻の奥に入り込んでくる消毒液の独特な香り。いつもと違う環境だけど何故だか眠気が誘われる。

 

 

「私は暫くここに居ますので、安心してお休み下さい」

 

「ありがとね⋯。色々と」

 

そうして私も意識が段々と沈んでいく。隣のベッドで寝息を立てる二人の姿を見ると心が落ち着いてくる。そして、余計なことを考える暇もなく私は深い眠りについた。

 

 

 

 

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