不幸な小狐は幸せを探す   作:うしさん

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おさんぽ日和

 

 

 

 

───────やけにその瞬間はゆっくりに感じた。

 

 

目線は地面に向けられていて、まるでギロチンの処刑台に首を掛けたような錯覚を覚えた。

 

顔を上げることは許されず、ただその瞬間を待つしか無かった。

 

 

女が引き金を引く。火薬の炸裂する音が響く。

 

 

その銃口の先端は自分に向けられているはずなのに、まるで他人事かのような感覚を覚えた。

 

 

弾丸が身体に穴を開けた感覚と痛みが全身を駆け巡った瞬間、ボクの時間は再び動き出した。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

路地裏で一発の銃声が鳴り響く。

 

 

「・・・うぅっ...........っぐぅぅ!!」

 

(いたいいたいいたいッ....結局撃たれた....!)

 

 

幸か不幸か、内臓を傷つけられた訳では無い。

 

それならどこを撃たれたのか。

 

それは地面に着いていた左手の甲である。

今は痛みで感覚がめちゃくちゃになっているが、確実に弾丸が貫通している。

 

その証拠に地面についている手のひらからは真っ赤な鮮血がはじけており、手のひらを中心に少しずつ少しずつ赤いシミを広げている。

 

当たり前だ。こんな至近距離で撃たれたのだから。ボクの柔い身体に貫通しないわけが無い

 

 

「・・・なんだ。あんまり痛がらないんだな。」

 

(ふざけんなっ!痛いに決まってる!この血が見えてないのか…?)

 

「ハハッ、見てくださいよ二人とも。こいつキヴォトスの人間のくせに脆くないっスか?」

 

「うわ!マジか!遊んでたらすぐ死にそうだな。あんま楽しめそうにないなぁ~」

 

 

聞くからに不穏な会話だ。

被害を与えている本人を目の前にしてするような会話ではないだろう。

 

それを聞いたボクの身体は、末端から凍りついていくような絶望を感じている。

 

爪の先端、指の関節、撃たれた手の甲から手首、腕、肘、肩....最終的に心臓にたどり着いた時、辛うじて耐えていたボクの心は真っ二つに折れていた。

 

 

その折れて冷めきった心が、最後の抵抗かのように言葉を絞り出してしまう。

 

 

ち、がうの...に.....ボクは...やって、ない、のに.....

 

「おい!まだ反抗する気力が残ってるみたいだぜコイツ!!」

 

 

失敗した。・・・と思った。こんなことを呟いてしまったばかりに、聞きたくないことも聞かされてしまう羽目になるとは知らずに。

 

 

「正直なところ、お前が人違いだろうがどうでも良いんだよ。ま、本人であった方がいいってのはその通りなんだが。

 

『アタシらをこっ酷く負かしたアイツをぶん殴りたい。』

 

その復讐心のままに探し歩いていたら、たまたま見た目がほとんど同じお前がいた。アイツはヘルメットで顔面が隠れていたから顔を知らねぇ。

 

顔が分からなくても、身長、体格、特徴がほぼ同じお前をアイツだと思って殴れば、多少はこのイラつきが収まるんじゃないかってことだ。要するに、ただの八つ当たりだよ。だから諦めて大人しくしてろ。

 

・・・いや、やっぱり抵抗してもらって構わん。むしろその方が殴りがいがある。」

 

 

ほんとうに酷い話だ。今まで会ってきた中で一番タチが悪い。

 

気持ちよく寝ていたら叩き...蹴り起こされて、挙句の果てに八つ当たりで殴らせろだって?

 

 

ふざけんな!!!!

 

 

ボクはお前たちみたいなやつのために存在しているサンドバッグなんかじゃない!!今まで散々痛めつけられて奪われて、酷いことばっかりしやがって!!

 

悔しい...!!!

 

何が悔しいって、こんなにやり返してしまいたい気持ちであたまの中が煮え滾っているのに、怖くて震えることしか出来ない自分が何よりも悔しいッ!!!!

 

 

「・・・うぅ...!くそぉっ!ひっく...うぁぁっ....ぐすっ...いやだよ.....っぅぅ....いやだよぉ.....ぐぞぉ...!うぅっ!」

 

 

震えが止まらない。恐怖からくる震えなのか、怒りから来る震えなのか、恐らくその両方だろう。

 

目尻に涙が溜まり、溢れ出てくる。

 

撃たれて痛む拳を握り締める。

 

 

「ふははっコイツ泣き出しましたよ」

 

「いやぁ泣いてるコを痛めつけるのは心が痛むなぁッと!おらっ!!」

 

「ぐはっッ....」

 

 

最初の正座の姿勢のまま、腹部につま先が突き刺さる。軽く飛ばされ地面に横たわってしまう。

 

これだけでは終わらない。

 

 

「恨むんならアイツとそっくりに創ったカミサマでも恨むんだなぁ!!!これでもくらえっ」

 

「うぅっ、あぁっ...あぁぁぁぁ....!!うああああぁぁぁぁ!!」

 

 

ハンドガンの銃声が響く。

 

胴体に撃ったら死ぬとでも思ったのか、致命傷を避けた部分を狙ってくる。

 

計三発。右半身を上にして横たわっていたため、右肩、右腕、そして右の腿に風穴が空く。血が流れ出てくる。

 

 

「それにしても、お前本当に脆いな。危うく殺しちまいそうだ。」

 

 

そう思うのならさっさと殺して...!心臓を撃ち抜いて、あたまを撃ち抜いて殺してよ...

 

そのような考えがあたまを埋め尽くすが、声が出ない。出せない。

 

太い血管に掠ってしまったのか血が止まらない。命が溢れていく感覚。恐怖や絶望した時とはまた違う寒気がボクを襲う。

 

 

(今度こそ死ぬのかな…。ようやくこの苦しい生活から抜け出せるのかな…。そうだといいな。)

 

 

そう思い、眼を閉じようと...

 

 

 

 

 

 

「寝させねぇよッ!!!」

 

 

「っっっっっカハッッッ.....ぐぅっ..!ううっ..........おぇぇぇ」

 

 

再び鳩尾辺りにトーキックが炸裂し、小さな身体が宙を舞う。先程よりも遠くに落下し、赤い道をつくりながら勢いよく転がる。

 

ようやく動きが止まったと思ったら、びちゃびちゃと音を立てながら赤い色の混じった吐瀉物が溢れ出てくる。

 

身体の内側が燃えるように痛む。本当に生かすつもりはあるのだろうか...

 

 

チカチカとする意識のまま、ぼーっと一点を見つめることしか出来なくなってしまった。目を閉じたらまたさっきみたいに暴力を振るわれてしまうのではないかという恐怖に囚われている。

 

「もうこれ以上は死ぬんじゃないすか?なんか痙攣し始めたっすよ?マジで殺人はシャレにならないんでやめて欲しいっス。」

 

「・・・そうだな。少し気分はマシになった気はするが、やっぱり物足りないな。今度こそ本物探しでもするか...?」

 

「イイなぁ!それ!!他の地域は粗方探したからしばらくはこの周辺を拠点にして探そうぜ!」

 

「という訳だから、お前はどっか遠くに行っとけよ〜?聞こえてるかわかんないけど」

 

「次この辺りでお前のこと見かけたら、また間違って撃っちまうかもな」

 

 

全部聞こえてる。うっすらとだけど。

 

どうやらボクは此処を追い出されて再び根無し草のような生活に戻ってしまうみたいだ。どれくらい此処に住んでいたか覚えていないけど、この場所は割と気に入ってたからすごく辛い。

 

追い出されたら次はどこへ行こうか...この場所以上に落ち着ける場所はあるのだろうか。それ以前に意識を手放した後、目を覚ますことはできるだろうか。

 

 

次に目を覚ましたら全部夢でした、みたいなことにならないかな

もしくはお金持ちの人のペットにでもなってたらいいのにな

 

ならないよなぁ...

 

 

 

辛うじて繋いでいる意識で考えていると、こちらに近づいて来る足音が耳に入る。

 

ボクの目の前でその音は止まり、大きな影がボクの身体に覆いかぶさった。

 

と、思ったらいきなり身体が宙に浮かんだ。どうやら胸ぐらを掴まれて宙ぶらりんの状態になってるみたいだ。

 

ボクはぼーっとする意識のままに、辛うじて開いている目で相手を見つめる。

 

掴んできたヤツは、にやけ面をしながらこっちを見てくる。

 

今から何をされるか分かってしまう自分が嫌になる。

 

 

 

(あ、殴られる)

 

 

「お前はもう用済みだから眠っとけよッ!!」

 

「バカッお前ホントに死ぬぞ!!やめとけ!」

 

 

(最初から最後まで三流悪党みたいな喋り方しやがって。くそやろう)

 

 

 

トドメの右下からのアッパーカット。

 

 

身体が再び宙を舞う。呻き声すら出せない。

 

 

脳みそが揺れる。もうダメだ...

 

 

これ以上意識を保てない。

 

 

最後の最後に捨て台詞を吐いて、今度こそ意識を閉ざした。

 

 

 

 

***

 

 

「マジで死んでないよな...?こいつどうします?」

 

 

哀れな小狐が意識を失って数秒後、辛うじて生きてはいるが反応が無いことを確認してから下っ端の一人がリーダーの女に尋ねる。

 

 

「その辺に棄てとけ。確か公園が近くにあったよな。そこのゴミ箱辺りに置いときゃ、目が覚めた後ゴミでも漁って食うんじゃねぇか?水飲み場もあるしなんとかなるだろ」

 

 

「ヒューっ!鬼畜ぅ!さすがリーダー!!」

 

「腐ってもキヴォトスの人間だし、何とかなりますかね⋯」

 

 

さもそうするのが当然かのように答えるリーダーに、茶々を入れる下っ端二人。

 

小狐の主食にはゴミも含まれているため、あながち間違いでは無い。

 

リーダーは小狐の薄汚い恰好と身体の貧弱さを見て、始めからこんなところに住んでるやつがヘルメット団のメンバーでは無いと気づいていたみたいだ。

 

当然のように鬼畜である。

 

 

そんなやり取りが行われた後に、一人の下っ端が意識の無い小狐の首根っこを引っ張って公園へと向かっていった。

 

 

 

その二人が通ったところは真っ赤な血の道になっていた。

 

その後、治安維持の為に見回りをしていたパステルカラーの髪色をした生徒が、それを見て大騒ぎしていたのは...

 

また別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

意識が覚醒する。

 

 

「・・・生きてる...」

 

 

命があることを確認する。嬉しいような悲しいようななんとも言えない感情。

 

長い眠りから覚めた時のような気怠さが、何十倍にもなって襲い掛かってきた感覚。

 

 

相変わらず生命力の高いこの身体が恨めしい。

 

 

全身が痛む。幸いなことに血は止まっているようだ。傷は塞がりかけているが、完治とまではいかない。

 

あれから一体どれだけの時間が経っているのだろう。此処はどこなのだろう?

 

辺りを見廻す。此処は公園。ボクがよく通ってた公園だった。

 

よく見たら運ばれた時に付いてしまったであろう、ボクの血の跡で出来た道が見える。

 

これを辿れば元の住処に戻れる。しかし、あいつらがいるかもしれない。

 

この血痕を見て誰かが来る前にここを離れよう。あいつらはこの周辺にしばらく居るらしいから、出くわす事がないほど遠く離れた場所へ。

 

身体に力を入れる。どうやらギリギリ歩けるくらいには回復しているようだ。重い身体を引きずりながら行く宛てもなく只々ひたすらに歩き続ける。

 

せっかくこの前汲んだ水も食料もあの場所に置いてきてしまった。意識を失ってたから当たり前だけど。

 

なんなら調達自体もさっき出来たけど、袋やペットボトルが無かったから一口だけ水を飲んで出発した。

 

水を飲んだ時に口の中に鋭い痛みがはしり、口内が切れていたことを思い出した。痛みと一緒にアイツらへの憎しみも思い出してしまったので、ひたすら歩き続けることで忘れようとした。

 

 

 

 

 

景色が次々に移り変わっていく。平穏な住宅街。高層マンションのビル街。人々で賑わう商店街。沢山の生徒が通っている学校。

 

 

 

どれも薄汚い格好をしたボクには全くふさわしくない場所で、多くの人の好奇の視線がボクに向けられてることに気づいてしまう。

 

 

「やだわ、あの子。薄汚い。」「あんなに小さい子がこんなとこで何してるの?」「なんかケモノ臭くね?!」「いやゴミ捨て場の匂いじゃない?」「どこの生徒なのかな」「ヴァルキューレ呼ぶ?」

 

 

 

怖くなってしまったボクは、逃げるようにして人の少ない方へと必死に移動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

(ここは...どこだろう...?)

 

 

どこに行くにしても初めての場所であるため、常にその疑問に囚われている。

 

 

「...ふぅっ、ふぅっ....」

 

 

どれだけ歩いただろうか。何回もの日の出と夕焼けを観測した。

 

 

止まったら動けなくなると思い、喉の渇きなんて意識する暇もなく必死に移動することだけを考えていた。雨の日だけが癒しだった。体力も限界に近い。元々ぼろぼろだったのによくこんなに歩けたものだ。

 

 

「ここ、どこ……?」

 

 

気がついた時にはほとんど人のいない住宅街に来てしまったみたいだ。

 

 

「はぁっ...はぁっ…!だれか、たすけて…」

 

 

住宅街であるのに人がいないなんて不気味で仕方がない。

 

 

「…だれも、いない、の......??」

 

 

辺りを見回すと砂が異様に至る所に散らかり、積もっていることに気づく。気温も高くなってる気がする。

 

 

「あつい…だれか......みず…」

 

 

この辺りに足を踏み入れてから体力の減りが急速に早くなっている。限界が見えてくる。

 

 

せめて日陰で休みたいと思い、陽の光を避けるゾンビのように日陰をさまよい求める。

 

 

(そろそろ....やばい、かも...)

 

 

意識がチカチカとし始めた時、ようやく小さな公園を見つけた。極限状態だったボクにとって、その場所は楽園と呼べるような場所であった。

 

こんな身近な日常に楽園を見つけることが出来るボクは()()()()()()()だ。

 

 

 

全てを見下ろすように生えている巨木の下に水飲み場を発見する。一歩一歩ゆっくりと、確実に近づいていく。体内から絞り出された汗が滴り落ちる。希望が湧いてくる。

 

 

(よし...!!よしよしよし!!!やったやったっ!みずだ!!ようやく飲める!!)

 

 

やっとの思いで辿り着いた瞬間に蛇口をひねり、浴びるように水を貪る。

 

 

 

「ぷはあぁっ!!幸せだぁぁぁーーーぁぁぁぁれ?」

 

 

 

満足して叫びをあげ、休もうと座り込んだその時、視界がぐわんぐわんと歪み始め段々と意識がとんでいく。

 

 

視界は完全に白く染まり身体が倒れてしまう。

 

 

 

(せっかくここまで辿り着いたのに...またこれか...)

 

 

 

そうして長い旅路の途中で、眠りについた。

 

 




ここまでがプロローグです。
次話から助走に入ります。
本格的な曇らせに入るまで少々お待ちください。
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