不幸な小狐は幸せを探す   作:うしさん

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最悪な白夜夢【終】

 

 

 

「・・・ふぁ~~...はふぅ…。おはよう、ヒナちゃん」

 

 

「・・・んんぅ...おはよう、ホシノ...」

 

 

「よく眠れた?」

 

 

「そうね…。いつもよりはちゃんと眠れたわ」

 

 

「そっかそっか」

 

 

 

あれから私たちはベッドに辿り着いた瞬間、糸が切れたかのように眠りについた。セナちゃんを除いて。

 

目が覚めた時にお布団が掛けられていたから、多分セナちゃんが気を利かせて被せてくれたのだろう。

 

同じベッドの上で三人川の字で眠っていた。私とヒナちゃんの間にユキちゃんが挟まるような形だ。眠る前に何か話をしようと思っていたけど、そんな事をする暇もなく意識が夢の中へと沈んでいった。

 

不眠症だと診断され、まともに眠れなかったヒナちゃんもその時だけは心の底から休めたみたいだ。ユキちゃんが隣にいたからなのだろうか…。ユキちゃんの謎は深まる一方だ。

 

そんな彼女は今もすやすやと寝息を立てている。私たちは二人で髪を撫で、頬を優しくさすっている。そうする度にユキちゃんの口角は上がり、小さく笑い声が漏れている。それに加え、何時ものように撫でる手に顔をすりすりと寄せてくる。

 

私たちはその姿を見て心の底から安堵する。昨日の事なんて無かったかのような様子に少し毒気を抜かれるような心地がした。

 

しばらくそうやって戯れていると、ユキちゃんが大きく身を捩りながら伸びを始めた。それと同時に大欠伸をし、瞼がゆっくりと開かれていく。輝きを取り戻し、透き通った空色。そこには濁りひとつ無かった。

 

私たちは二人でその様子をどきどきとした心地で眺める。ひと通り伸びをして満足したのか、辺りをキョロキョロと見回しているところでピッタリと目があった。

 

その瞬間、ユキちゃんはぽかんとした様子で固まる。だけど次第に目尻に涙が浮かんでくる。次に瞬きをした時には、大声を上げ私の方に飛び付いてきた。

 

 

「うぅ...!!ごめんなさい!ごめんなさい!約束を破ってごめんなさい...!うぁぁぁ…うわぁぁん!」

 

 

私はそれを全身で受け止め、努めて冷静に落ち着かせる。内心では目が覚めた喜びと、開口一番の謝罪に対する困惑でいっぱいだった。

 

 

「ほらほらー、そんなに泣かないで?折角の可愛らしいお顔が台無しだよ〜。何があったのか分からないからよければ私に聞かせて欲しいな。怒ったりなんて絶対しないからさ」

 

 

そう言うと、目をごしごしと擦り涙を拭い、泣くのを我慢しようとし始めた。だけど中々涙を止めることが出来ずに何度もしゃくり上げている。私は落ち着くまで胸の中で抱き締め、背中をさすり続けた。

 

そうして、ゆっくりと事の次第を語り始める。

 

 

「・・・ひっく...うぅ、お、おとといの夜にね、バイトに参加しようと思ったの...」

 

 

「うん…」

 

 

「だ、だけど、そのバイトは夜の時間で...外に出ちゃいけない約束だったけど、どうしても行きたくって…」

 

 

「そうだったんだね。そこまでして行きたかったバイトって何だったの…?」

 

 

私は話の核心に迫る。夜に一人で外に出てはいけないという約束を破ってしまったのはまだ分かる。だけどゲヘナに、しかもあれ程の危険地帯に居たというのは未だに理解出来ない。

 

ユキちゃんの口から飛び出してきたのは、衝撃的な事実だった。

 

 

「───────温泉開発バイト…。

SNSアプリで流れてきたの...」

 

 

「・・・っ!!」

 

 

「・・・ユキっ!それは本当なの…?!」

 

 

(・・・まさか、私の、せい…?私がSNSアプリなんて教えたから今回のような事が起きた...?)

 

唐突な事実に心が揺らぐ。今回の顛末の元を辿れば、私が全ての元凶になる…。

 

(という事は、私のせいでユキちゃんはまた死にかけた...?!)

 

数日前の記憶が蘇り、どうしようもない後悔が降り注ぐ。いくら防ぎようが無かったとはいえ、自らの無力を嘆く事しか出来ない。謝った所でなんの解決にもならない。

 

私の罪は積み重なっていく…。押し寄せる罪悪感の波を胸の内で抑え込む。焦りが募り動悸が激しくなるが、それを表情には絶対に出さない。このままでは昨日の二の舞だと、深く息を吸いこみ自己嫌悪の感情ごと呑み込んだ。

 

これからはより注意深くユキちゃんを見守らないと…

 

一旦頭を切り替えよう…。今は兎に角、もっと詳しい状況を聞き出さなければならない。

 

 

ここまで静観していたヒナちゃんはその言葉を聞いた瞬間、唐突に口を挟む。顔には相当な焦りが浮かんでいる。それもそうだ。だってゲヘナのテロリストの問題にユキちゃんを巻き込んだという事なのだから。

 

 

「ひ、ひなちゃん…」

 

「あっ...ごめんなさい…。私にユキと話す権利なんて無いわね…。席を外すから終わったら声を掛けて…」

 

 

そう言ってベッドから立ち上がり部屋を出ようとする。行かなくて大丈夫だと言いたいけれど、私にもヒナちゃんの気持ちが分かるからこそ出て行くのを止めることは出来ない…。

 

しかしユキちゃんは違った。

 

 

「まって!!行かないでっ!ボク、ヒナちゃんにも謝らないといけないの!だから、おねがい...ボクのそばにきて...」

 

 

「・・・えっ...ほんとうに、いいの...?あなたを撃った私が、怖くないの…?」

 

 

「怖くない!大好きだよ!!ヒナちゃんが好きだから...!このバイトにヒナちゃんが来るって言われたからっ!ボクは会いに行こうと思ったんだ…!」

 

 

「・・・っ!ユキ、ありがとう…」

 

 

そうしてヒナちゃんは踵を返しベッドの上へと戻り、ユキちゃんの事を全身で包み込んだ。ユキちゃんは胸に顔を埋め再びすすり上げ始め、ヒナちゃんはそれを受け止める。その様子はユキちゃんが落ち着くまで続いた。

 

 

緊迫しているけど、どこか甘い空気が漂ってくる。だけどその空気の中に入り込む違和感。お風呂が大好きなユキちゃんが、温泉開発バイトに行きたいと思うのは何もおかしなことでは無い。まだ彼女は温泉に行ったことがないから好奇心が抑えられなくなる気持ちも理解出来る。

 

しかし、一人で夜のゲヘナに行くことの危険性が分からないわけでは無いはず…

 

行くという決定を下したのには、何か決定的な要因がある…!

 

さっきユキちゃんは奇妙なことを言っていた。そのバイトにはヒナちゃんが来るといった情報を教え込まれていた...?

 

 

「・・・ねぇ、ユキちゃん。そのバイト募集の内容って覚えてたりする?特にヒナちゃん関連で…」

 

 

二人が落ち着いたところを見計らって違和感の真相に迫る。

 

 

「あのね、風紀委員長が来るかもしれないって書いてあったの。そして電話でも依頼主に聞いてみて、ヒナちゃんが来る可能性が高いって言われて…。だからボクはヒナちゃんが居るなら安心だと思ったんだ...」

 

 

「・・・そっか...」

 

 

「う、うぅ...ごめんなさいっ、ユキ...!そんなに信頼してくれていたのに、裏切るようなことをしてしまって...」

 

 

「もう謝らないで、ヒナちゃん。ボクは今、こうして生きてる。怒ってなんかいないし怖くなんてない。アビドスのみんなと同じくらいヒナちゃんのことが大好きなんだから」

 

 

「───────っ!!」

 

 

今回ユキちゃんを傷つけてしまった当人であるヒナちゃんは、事ある毎に謝罪の言葉を口にする。気持ちは痛いほど分かる。ユキちゃんが赦してくれていると分かっていても口をついて出てしまうのだ。

 

あと、いつの間にかユキちゃんはヒナちゃんにすごく懐いてしまったみたい。さっきから大好き大好きって、少しだけ胸の中がモヤモヤとしてしまう。

 

だけど私としてもヒナちゃんのことは好ましく思っている。噂だけ聞くと怖い人かと思っていた。でもこの間と今回の件を通じて、ヒナちゃんも一人の普通の女の子と同じなんだという事が知れた。

 

小さな背中に背負うのは、その身に合わない程の重圧。ゲヘナの全てを背負っているといっても過言では無い。今のゲヘナの治安が保たれているのは偏にヒナちゃんが居るお陰だ。

 

 

・・・話がずれてしまった。

 

知りたかったのはバイトの詳細。断じて私の嫉妬心なんかに気付きたかった訳では無い。

 

ユキちゃんの証言から、先程感じていた違和感の正体が判明した。

 

彼女は一人でバイトに行ったつもりはなかった。バイト先にヒナちゃんが来るということを見越した為に、一人で行っても安全だと思ってしまったのだ。

 

しかし問題なのはここから。

 

ただヒナちゃんがバイトに来るという話では無かった。()()()()()()()()バイト先にやって来る、という言い方が正しい。

 

今回ユキちゃんが参加しようとしたのは、ゲヘナでも頻繁に問題を起こす温泉開発部のテロ行為。

 

最近の度重なるテロで、ヒナちゃんが出動させられる度に怪我人が出て、活動に参加できる部員は減らされていった。人手不足に陥った温泉開発部の一人がSNSで人手募集をかけたのが、今回の騒動の元凶。

 

私はそいつをとっ捕まえて懲らしめてやりたい気持ちに駆られる。だけどゲヘナの生徒でもない私が、他校の問題に手を出す訳にはいかない...

 

今回は大人しくしていよう…。ヒナちゃんに任せてもいいだろう。私と同じ気持ちを持ったヒナちゃんならきっと、存分に懲らしめてくれるはず。

 

 

そうやって私が探偵の真似事みたいに思考を巡らせていると、スマホに一本の通話が入った。

 

相手は誰かと確認する前に電話を取る。

 

 

『もしもしっ!?ホシノ先輩今どこ!?』

 

 

「うわぁっ!びっくりしたぁ...」

 

 

・・・焦った...

 

電話口から聞こえてきたのはセリカちゃんの大声。寝覚めでぼんやりとしていた頭も、今の大声でバッチリと覚めた。

 

そういえば昨日の夜からスマホに通知が来ていたけど、何も連絡を返していなかった。あの時はユキちゃんの事が心配で堪らなかったから後回しにしてたんだった...

 

だんだんと申し訳ない気持ちが込み上げてくる。謝ったら許してくれるかな...?

 

 

「うへぇ、ごめんごめん。今ちょっとゲヘナに居てさ、帰るのはもう少し後になるかも。・・・あっ、ユキちゃんも一緒だから安心してね」

 

『安心してね、じゃないわよ!何がどうなってるの!?何も情報が無くてこっちは昨日の夜から困惑しっぱなしよ!ホシノ先輩は電話に出ないし、シロコ先輩はすごく不安定になるしで大変だったのよ!?』

 

 

やばい…セリカちゃん怒ってる。みんな心配してくれてるんだと思うけど、特にシロコちゃんが心配だ。

 

シロコちゃんも私と同じで、ユキちゃんの位置を把握出来るアプリを入れてた。シロコちゃんが不安定なのはきっと、ユキちゃんの居場所がアビドスに無いことを知ってしまったからなのだろう。

 

早くユキちゃんは無事だって事を伝えないと...

 

 

「セリカちゃん、今近くにシロコちゃんは居る?」

 

『いるけど...』

 

「そしたらシロコちゃんに、ユキちゃんは無事だって伝えて欲しいんだ。私が付いてるから安心して、って」

 

『わ、分かったけど、ホシノ先輩はこれからどうするの…?』

 

「ん〜多分遠くならないうちに帰るよ。だからセリカちゃん、おじさんが居ないからって泣かないでね〜?」

 

『誰が泣くかっ!!!もういいっ!無事で良かったわ!じゃあね!』

 

 

切れてしまった。みんなに悪い事をしちゃったな…。せめて行先だけでも伝えておくべきだった。何も言わず勝手に動いてしまうのは私の悪い癖だ。

 

 

「・・・ホシノ?今のはアビドスの?」

 

「うん、そうだよ。みんな私とユキちゃんのことを心配してくれてるみたい。だからもう少ししたら私たちは帰る事にするよ。」

 

「そう...帰るのね...」

 

 

(・・・ん?なんかヒナちゃんすごく残念そうな雰囲気出してるんだけど…。私が帰るのがそんなに寂しいのかな?そんな風に思ってくれるなんて可愛いところもあるじゃ〜ん?)

 

じわじわと湧き上がる嬉しい気持ちを隠していると、再びヒナちゃんが口を開いた。

 

 

「・・・ホシノ、お願いがある。」

 

「ん?どしたの?」

 

 

(まさか本当に帰って欲しくないとかだったり?)

 

 

「三日ほど、ユキとゲヘナに残って欲しい」

 

 

「・・・!!」

 

 

本当に?ヒナちゃんの真面目そうな性格から、冗談を言うようには見えない。そしてその言葉を発する今の表情も真剣そのものだ。

 

私はどうしたものかと考えていると、いきなり部屋の扉が開かれた。

 

そこにいたのは先程から姿が見えなかったセナちゃんだった。

 

 

「その話、私からもお願いします。三日だけでいいので残って下さいませんか?」

 

「別にそれは良いんだけどさ、理由とか聞かせて欲しいかな?」

 

「理由…。あの、あまり大きな声では言えないのだけれど...」

 

 

(きっと私と離れるのが寂しいんだ。さっきあれだけ寂しそうな顔してたもんね。仕方の無いヒナちゃんだ。そう思うとなんだか私も寂しくなってきちゃったよ…)

 

 

 

 

「──────────ユキと眠らせて欲しいの」

 

欲しいの...欲しいの...欲しいの...

 

 

 

 

「───────ええっ!!?」

 

 

「え...?そんな驚くことだったかしら…?」

 

 

(驚くことだよ!てっきり私と離れるのが寂しいとか勘違いしちゃったじゃん!うへぇ...恥ずかしいよ〜…!)

 

 

「もぉ〜ユキちゃんと眠りたかっただけなら最初から言ってよね!」

 

「今言ったわ。」

 

「そういう事じゃなくて〜!

・・・はぁ、まぁいいや。ユキちゃんはそれでも大丈夫?」

 

「全然いいよ!久しぶりにヒナちゃんと眠れるの楽しみだったんだ〜!」

 

「そっかそっか。そういう訳だからおじさんもユキちゃんと残るよ。」

 

「ありがとう、ホシノ。本当に心から感謝するわ」

 

「ま、まぁそこまで言うなら悪い気はしないかな?」

 

「ホシノさん、私からもお礼を。そのついでに私からのお願いも聞いて頂けないでしょうか...?」

 

「セナちゃんの?もちろん、何でも言ってよ。セナちゃんの頼みなら幾らでも。」

 

 

丁度いいタイミングだ。アビドスに帰ったらセナちゃんに恩返しする機会も少なくなるだろう。こうしてゲヘナに残っているうちに出来る限りのことはやっておこう。

 

 

「この三日間、風紀委員長はユキさんと完全に休ませます。不眠症の解消が出来ればベストです。その間、風紀委員長は不在となり治安の維持に多少の不安が出てきます。そこで……」

 

「そこで私がヒナちゃんの代わりに動けばいいんだね?」

 

「話が早くて助かります。お願い出来ますでしょうか?」

 

「任せてよ!こう見えてもおじさん戦闘には自信あるからさ〜」

 

「ありがとうございます。もちろん、その間の物資や食事はこちらで全て負担致しますのでご安心ください。」

 

「何から何まで助かるよー」

 

 

こうして私たちは少しだけゲヘナに残ることになった。

 

治安維持活動をゲヘナですることにあたり、上の組織には話を通しておいてくれるらしい。偶然近くを通りかかった風紀委員会の行政官にもそのことを話した。その場でぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるだけ騒いで、ヒナちゃんの一言で結局受け容れてくれた。

 

ヒナ委員長があーだこーだとか言ってたけど、言っていることはよく分からなかった。何が言いたかったんだろう?最終的には受け容れてくれたし、どうでもいいか。

 

また、服も目立たないように風紀委員会のジャケットを貸してくれるみたい。流石に許可を得ているからといって、堂々とアビドスの制服で動く訳にもいかないしね。余計な火種になりそうな部分は潰していくべきだ。

 

食事も寝床も用意してくれるらしいから、生活には困ることは無さそう。といっても三日間だけなんだけど。

 

でもこれならセナちゃんへの恩返しになるはず。この三日間、与えられた仕事を全うしよう。

 

そしてヒナちゃんだけど、やっぱりユキちゃんが一緒だとよく眠れるみたい。この三日でやる事は、眠りのリハビリと言ってもいい。これまでの疲労を出来る限り癒して、あわよくば不眠症も解消出来れば、といった作戦のようだ。

 

ユキちゃんもかなり乗り気で、今も気持ちよさそうにヒナちゃんにくっ付いている。二人とも満更でも無さそうで、寝床で横になりながらお喋りをしているみたい。何を話しているのかまでは分からないけど、すごく楽しそうだ。

 

そんな感じで私たちのこれからの予定が決まった。私は再びアビドスのみんなに連絡を入れるためにスマホを手に取った。

 

 

Prrrrrrr...Prrrrrrr...

 

 

『・・・もしもし』

 

「もしもし?その声はシロコちゃん?」

 

『ん、セリカに代わってもらった。ホシノ先輩、今度はどうしたの?』

 

「さっきの電話で、あと少ししたら帰るって言ったじゃん?」

 

『うん。セリカから聞いた』

 

「とある事情で帰るの三日後くらいになったから連絡をしとこうと思ってね〜。そういう訳だからみんなによろしく〜」

 

『待って。ホシノ先輩。事情って何?危ないこと?』

 

「いやいやぁ、そんな事無いよ。ゲヘナの風紀を取り締まる手伝いをする事になってさ。シロコちゃんはおじさんがその辺のチンピラに負けると思う?」

 

『ん、思わない。それなら私からとっておきの物がある。今度みんなに渡そうと思ってたけど、ホシノ先輩には今渡しちゃうね。』

 

「へ?とっておきの物?」

 

『うん。とっておきの物。アヤネにお願いしてドローンで送る。ゲヘナの人にドローンを受け取るようにホシノ先輩から言っておいて。』

 

「それは分かったけど、中身は?」

 

『ん、内緒。だけどゲヘナで活動する時に正体がバレたらまずいと思うから、活動する時は送った物を着けて。それじゃあ、またね。』

 

 

また切られてしまった。シロコちゃんの言う、とっておきの物ってなんだろう…?あのコが考えることはよく分かんないから何が送られてくるかなんて想像もつかない。変なものじゃない事を祈るばかりだ。

 

とりあえず私はセナちゃんにそのことを伝えた。ドローンが到着したら私に教えて欲しい、と。

 

そんなこんなで待っていると、ドローンが到着したという報告が伝わってきた。私の手元にはアヤネちゃんのドローン。そしてそれに括り付けられたひとつの箱。

 

箱の留め具を外して、そっと蓋を開けて中身を覗いてみる。

 

その中にあったものは───────

 

 

 

「・・・ん?なにこれ...。覆面...?」

 

 

───────ピンク色の目出し帽だった。

 

ご丁寧に目と口を出す方の面に「1」と書かれている。私にこれを着けろと?一体何の冗談だと思いながらも、とりあえず被ってみる。

 

 

「・・・ホシノ、あなた何をしているの...?」

 

「あははっ!ホシノおねえちゃん何それ!かわい〜!!」

 

「・・・さぁ...?おじさんもよく分からないや。でもアビドスうちのコがゲヘナで活動する時はコレを着けろって...」

 

「アビドスにはおかしな人が多いのね」

 

「うへぇ、否定出来ないかも…。でもいつかヒナちゃんにも紹介するよ」

 

「そう。私も楽しみにしてるわ」

 

「ヒナちゃんアビドスに来るの!?」

 

「ふふっ...いつか、ね。ユキがいい子にしてないと行かないかもね?」

 

「いや、イヤだ!いい子にしてるから絶対に来てね!?絶対だよ?」

 

「わ、分かった。分かったからそんなに揺すらないで...」

 

 

二人が楽しそうでなによりだ。折角シロコちゃんが用意してくれた物だし、とりあえず被って活動しようかな。正体がバレないという点で見たら完璧だし。

 

 

そうして私はゲヘナの街へと繰り出した。基本的には争いの仲裁。仲裁という名の制裁だ。ヒナちゃん曰く、争い事などは武力制圧でいいらしい。

 

言っても分からぬ馬鹿ばかりだから、言葉よりも暴力で話を聞かせるのが手っ取り早いそうだ。

 

私の姿を見たヤツらは総じて指を指して馬鹿にしてきた。この見た目が可笑しいことは自覚してるけど、大切な後輩が用意してくれたものを外部の奴に嘲笑われるのは流石に腹が立ったので即座にはっ倒す。

 

基本的に風紀委員会とは別行動だ。大きな騒ぎがあった時は自然と一緒になる事も多かった。

 

ヘルメット団同士の抗争や、ゲヘナのテロリストとして有名な温泉開発部、美食研究会の制圧も一緒に行った。

 

途中、温泉開発部の中で今回SNSで募集をかけた奴を炙り出し、私直々にかなりきついお灸を据えた。今回の手口は非常に悪質だ。部長のカスミという人物と()()をしても、大泣きしながら「私は知らなかった」の一点張りだった。

 

詳しく事情を聞くと、その部員が独断で募集をかけたようだった。偶然それに引っかかってしまったユキちゃんが温泉開発に参加してしまい、風紀委員長として駆けつけたヒナちゃんが撃ってしまった。

 

ユキちゃんでは無い誰かが引っかかったのなら、そんなに大事にはならなかったのかもしれない。だけど、特別身体の弱いユキちゃんが引っかかってしまったからこそ、今回は酷い事になってしまった。

 

不幸が重なった結果の最悪な事故のようなものだ。

 

しかし、今回の件は防ごうと思えば防げた...

私がユキちゃんの事をもっとよく見ていれば、隠し事がなにか追求していれば、夜の外出の危険性を教えこまなかったから...

 

いくら後悔しても時間は戻らない。

 

だからこれからはもっと注意深くユキちゃんの事を見ていなければならない。

 

もう二度と戻れなくなる前に...

 

 

それ以外の騒ぎは、大したことも起こらずに制圧した。無事三日やり切った時には、風紀委員会の人達から感謝された。「謎のピンクの覆面の人」と呼ばれ、崇められた。正体は多分行政官以外にはバレていないのではないかと思う。

 

結果的にシロコちゃんからの贈り物は役に立ったと言えるだろう。帰ったら洗ってちゃんと返しておこう。これからソレの出番が来るとは思えないからね。

 

 

そしてヒナちゃんとユキちゃんの様子だけど、この三日間はずっと一緒に居たみたい。

 

基本的には二人仲良く眠っていて、食事時くらいに目を覚ますというような生活をしていた。食事をした後は、すぐに眠りにつくという訳ではなく、横になりながら寝落ちをするまでお喋りをしていた。

 

そのお陰かどんどんと距離が縮まっているように見えて、少し疎外感を覚えた。私もあの二人と一緒に、同じお布団の上で眠りたかった。同じ温もりを共有したかった。同じ話題で盛り上がりたかった。ゲヘナの見回りさえなければ一緒のお布団で眠れたんだけど...

 

まぁでも、他でもないセナちゃんの頼みだ。反故にする訳にはいかない。ヒナちゃんと連絡先は交換したからまた近い内に会えるはずだ。

 

その休息のお陰か、私たちがアビドスに帰る頃にはヒナちゃんの目元の隈はかなり薄くなっていた。肌も心做しかつやつやとしていて、表情は明るかった。

 

三日前のような暗い表情をするヒナちゃんは、もうそこには居ない。事ある毎に謝る事も無くなった。帰る直前となった今でも、ユキちゃんと手を絡ませ、微笑みを浮かべながら楽しそうにお話している。

 

ユキちゃんセラピーの効果は抜群だったみたいだ。不眠症が解消されたのかは未だ分からないけど、ヒナちゃん曰くもう大丈夫とのこと。

 

自信ありげに言っていたから心配は無いと思うけど、やっぱり少し不安だ。だからまた眠れなくなったら私たちを呼んで欲しいと伝えておいた。これならヒナちゃんが倒れる前に休ませることが出来る。

 

 

「それじゃあ、またね。ユキ、ホシノ」

 

 

そうしてヒナちゃんは名残惜しそうに別れの挨拶を告げ、私たちはアビドスへの帰路に着いた。

 

 

 

ここからはアビドスに着いてからの話だ。

 

 

「シロっ!!」

 

「わぷっ…!し、しろこ...?」

 

 

アビドス高校の校門をくぐって早々に、シロコちゃんが飛び出してきた。その勢いのままユキちゃんを抱き締め、無事な様子を確認して喜びを噛み締めていた。

 

 

「ユキちゃんっ!大丈夫ですか!?」

 

「怪我とかしてないですか...?」

 

「大丈夫だったの!?ホントに心配したんだから!」

 

 

ノノミちゃん、アヤネちゃん、セリカちゃんもその後に続く。みんなだいぶ心配していたらしく、顔に不安げな表情を浮かべユキちゃんの無事を確認している。

 

 

「・・・う、うぅ...みんな、ごめんなさい...!約束したのに、夜に外に出ないって約束したのに…!約束を破ってごめんなさいっ…!」

 

 

ユキちゃんは涙を流しながら必死に謝っている。シロコちゃんの胸の中で泣きじゃくり、もう二度と約束は破らないと心新たに誓っている。私はそれを見て声を掛けた。

 

 

「ユキちゃんもこうして反省してるし、きっと大丈夫だよ。ユキちゃん、何かあれば私たちに何でも相談してね。悪いようにはしないからさ」

 

「うん、うん...!ごめんなさい…!」

 

 

正直、今回の一件はかなり心臓に悪かった。

 

保健室からユキちゃんの姿が消え、ゲヘナへと向かっている事を知った時は冷や汗が止まらなかった。

 

そしてゲヘナに到着し、派手な騒ぎがあちこちで起こっている。位置共有アプリが示す先から漂う濃い血の香り。その場に座り込むヒナちゃん。

 

過去の記憶が鮮明に思い出される。

 

大切な人がいなくなってしまう絶望感は、いくら月日が経とうとも忘れられるものでは無い。

 

いつまでもいつまでも、心の中に残り続ける。

 

一人になる度に思い出す。

 

だって……

 

 

・・・他でもない私のせいなのだから...

 

 

 

「ねぇ!聞こえてるの!?ホシノ先輩!」

 

「ホシノ先輩?大丈夫ですか〜?」

 

 

・・・少し考え過ぎていたみたいだ。みんなに呼ばれている。いつものように振る舞わないと...

 

 

「い、いやぁ〜ごめんごめん。ちょっと考え事してて聞こえなかったかも。もう一回言って貰える?」

 

「だ!か!ら!今回はホシノ先輩も悪いよって話!」

 

 

「うへっ!?おじさんが!?」

 

 

「そうよ!!あの日の夜は私達も不安で眠れなかったんだから!」

 

「そうですよ〜!いくら連絡しても出てくれませんし、お二人は何処にも居ないし大変だったんですよ?」

 

「突然ユキちゃんからアビドスを出ていくかのような連絡が来た時は本当に焦りました...」

 

 

「ごごご、ごめんなさい!!わざわざボクなんかのために時間を作ってもらうのが申し訳なくって、あんな言い方になっちゃったの...」

 

 

「ユキちゃん、その『ボクなんか』って言い方は絶対ダメ!あなたは大切な私たちの仲間なんだからみんな平等なの!わかった?」

 

「はい...ごめんなさい」

 

「あ〜もう!謝るのも禁止!後で何があったのか聞かせてもらうからね!」

 

 

セリカちゃんはこうして声を荒らげているけど、ユキちゃんを気遣うことしか考えてない。今回の件をみんなに話すのは、かなり心苦しい。

 

だけど心配をかけたお詫びとして、事の顛末を話さないといけない。そしてユキちゃんがこれ以上傷つくような事が無いように、みんなで対策を考えよう。

 

ひとまずはユキちゃんがこうして帰って来れた事を喜ぼう。無事とは言い難いけど、本当に最悪な結末を迎えずに済んだことは喜ばしいことだ。

 

 

私たちは歩いて対策委員会の教室へと向かう。

 

とりあえずユキちゃんには席を外してもらい、みんなに今回の事を全て話した。

 

事の始まりから終わりまで、私が見たもの、感じたもの全てだ。

 

みんなは表情暗く、拳を強く握り締めながら私の話を聞いてくれた。話が終わる頃には、みんな黙り込んで何か話せるような雰囲気では無かった。

 

だけどそんな空気のまま終わらせるつもりは無い。これからユキちゃんの事をどうするか、どう見守るかをしっかりと話さなければならない。

 

私たちが過保護にしすぎたせいで、ユキちゃんは夜に外出することを止められると思ったからこそ私たちに何も告げずに出ていってしまった。

 

だからこれからはやりたい事、行きたい場所があったらどんな事でも私たちに相談してもらおう。それらは出来る限り叶えられるようにする。今回みたいにユキちゃんが傷付くのが一番嫌だから。

 

 

一通りの事を話し終え、ユキちゃんの元へ向かう。

 

さっきの話をした後だからか、みんなどこか心配そうな目をユキちゃんに向けている。そして、ベッドの上でポケーっとしているユキちゃんを突然ノノミちゃんが抱き締めた。

 

 

「ノノミちゃん...?いきなりどうしたの...?」

 

「・・・今だけは、このままで居させてください...」

 

 

何も分からないといった顔のまま、ユキちゃんはされるがままに抱きしめられる。数分後に解放され、さっき五人で決めたことをユキちゃんにも伝えた。

 

納得はしてくれたようで、素直に聞き入れてくれた。ユキちゃんは、今回の身勝手な行動をかなり反省していて、先程からずっとしょんぼりしている。

 

保健室に六人も揃っているのに長い沈黙が続く。こんな状況は初めてかもしれない。何か話そうにも何を話せばいいのか分からない。みんな俯き、視線は下を向いている。ユキちゃんの鼻を啜る音だけが保健室に響く。

 

 

「・・・あ〜もう!やめやめ!こんな空気、私たちらしくないわ!」

 

 

その様子を見兼ねたのか、セリカちゃんが唐突に大声を出した。確かにセリカちゃんだけ、先程から気まずそうにキョロキョロとみんなの様子を伺っていた。

 

突然の大声にみんなはキョトンとしている。そしてセリカちゃんは言葉を続けた。

 

 

「もう過ぎた事なんだし、いつも通りに戻ろうよ!色々あったけど、ユキちゃんは元気に生きてる!今はそれで充分じゃないの!?」

 

 

「・・・うん。セリカちゃんの言う通り、ユキちゃんは生きて今ここにいる。確かにそれで充分だね」

 

「そうですね…。いつまでも引き摺る訳にもいきませんし、気分転換に何処か行きませんか?」

 

「いいですね〜!何処に行きましょうか?」

 

「ん、賛成。シロは私がおぶっていく。」

 

 

一瞬にしてその場の空気が変わった。セリカちゃんのこういう所は素直にすごいと思う。年下なのに頼れるいいコだ。

 

そうしてアヤネちゃんの提案で、どこかに行こうという話になった。そこでもセリカちゃんに何か案があるみたい。

 

 

「今は丁度お昼時だし、ラーメンでも食べに行かない?美味しいラーメン屋に連れて行ってあげるわ!」

 

 

「ラーメン!?ボクまだ食べた事ない!早く行こっ!」

 

 

「うわぁっ!引っ張らないで引っ張らないで!今から行くから落ち着きなさい...!」

 

 

「あはは…。何だかいつも通りの日常が帰ってきた感じがしますね」

 

 

「そうですね〜。当の本人であるユキちゃんもあんなに元気ですし、私たちもこうしてはいられませんよ〜♪セリカちゃん、待ってくださ〜い!」

 

 

「ノノミ先輩!?わ、私も行きますから!セリカちゃん待ってー!!」

 

 

「・・・シロコちゃん、おじさんたちも行こっか?」

 

 

「ん、楽しみ。ホシノ先輩の奢り」

 

 

「うへ!?おじさんが奢るの!?なんでなのさ〜!」

 

 

「今なんて言ったか聞こえなかった。先行くね」

 

 

「ま、待ってよ〜!おじさんを置いてかないで〜!」

 

 

 

結局奢ることになってしまったのは残念だけど、おかげでいつも通りの日常が戻ってきた。

 

借金はまだあるし、今回みたいな大変な事も沢山起こるだろう

 

 

だけど最後にはみんなが笑えるハッピーエンドを目指したい

 

 

 

誰にもこの日々を奪わせたりなんかしない

 

 

 

 

私たちの日常をこれからも続けていくんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この話はこれでお終いです。ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

ご期待に添える内容に出来たでしょうか…。もしよろしければ感想や評価で教えて頂けたらとても嬉しいです!

あと一話を投稿した後、ようやく本編になります。
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