不幸な小狐は幸せを探す 作:うしさん
・・・あぁ、またこの感覚...
海に揺蕩っている感覚。深海の水圧で潰されるかのような息苦しさ。
ボクは今、深い意識の底にいる。死んでいる訳では無いことは嫌という程わかっている。
目が覚める時は、決まって不快な目覚めとなることを知っている。
最後の記憶は何だっただろうか。確か、何かから逃げるようにして必死に歩いてた気がする。
・・・そうだ。逃げてたんだ。ボクに酷いことをしてきた奴らから。
そして、その途中で力尽きて眠ってしまったのか。不幸中の幸いか、意識を失う前に水分を十分に補給出来たし、日陰で意識を失えたから最悪なことにはならないと思う。
だんだんと意識が浮上している。次第にはっきりとものを考えられるようになってくる。目が覚めたらどうしようか。
また歩き出す?それとも公園にしばらく居させてもらおうか?はたまた思い切ってこの近くにある学校に通わせてもらえるように頼んでみようか
・・・目が覚めたら考えよう。今は何も考えたくない。どうやらボクの身体は、相当まいってしまっているらしい。
意識は水面に近付いている。まもなく意識が覚醒する。
今回は無事に目を醒ませますように……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その願いは儚く散ることになる。
「……ここ、どこ?」
目を覚ますと、そこは記憶にない景色だった。
ここがどこかという疑問は、街をさまよっている時もずっと思っていた事だが、さすがに意識を失う前の景色は覚えている。
もしかして、その記憶の時には既に夢の中だった?
いや、そんな訳があるはずがない。
誘拐された?確かにあんな所で無防備に寝ていたら悪いヤツが目をつけるに決まっている。
この世界の治安はなかなかに終わっているのだ。そんなことは日常茶飯事だということは、ちゃんと経験から学んだ。
辺りを見回すと、少し薄暗い廃工場が見えてくる。明らかにもう使われていないであろうと思われる機械が立ち並んでいる。
その機械の周辺には、至る所で制服を着た女の子達が談笑していたり、武器の整備をしていたりする様子が見られる。
すると、ボクが目覚めたことに気が付いた一人がボクの元に駆け寄ってくる。そしていきなり声を掛けてきた。
「おいお前大丈夫か?意識はハッキリしてるか?喋れるか?」
お姉さんが早口で質問を捲し立ててくる。すこしこわい
「だ、だいじょうぶ、です...」
なんとか質問に答える。喉がからからで上手く声が出せなかった。恐らく何日も食べれてないからか、力があまり入らない。
なにか飲み物でもなんでもいいから貰えないだろうか。とりあえず聞いてみることにした。
「あ、あの...なにか飲み物をいただけないでしょうか...?何日も口にできていないので...」
「ん?確かにずっと寝てたもんな。ウィナーin ゼリーしかないけどそれでいいか?」
「も、もちろんです...!ありがとうございます...!」
「おう、ほらよ」
本当にありがたい。まともな味の物なんて、口にしたのは何時ぶりだろうか。大急ぎでキャップの口を開けようとするが、力が入らない為に上手く開けられない。
その様子を見た恩人は、貸してみと、キャップを開けてくれた。なんて優しい人なんだろう。
ちゃんとお礼を言って飲み口に口をつける。このタイプの飲み物に出会ったことが無かったから、最初はなかなか上手に飲めなかったけど慣れてきて普通に飲めるようになった。
「ふぅっ、うまかったぁ〜」
「ハハッ、ウィナーをそんな美味そうに飲むやつなんて初めて見たわ!お前にあげて良かったよ。それにしてもお前、警戒心無さすぎな!もう少し疑えよ?」
なんていい人なんだ...最初は怖い人かと思ったけど、最初の印象なんて当てにならないな。なんて思ってたらその人が仲間に声を掛けだした。
「おーいみんなー!ボスー!!キツネっ子が目を覚ましたぞ〜!!」
「おー、やっとかぁ。長かったなー」「よく眠れたか〜?」「ようやくボスの言う作戦とやらが聞けるよぉ」「作戦って何なんだろうな?」「あのコが目覚めた後って事はあのコを使うとか?」「ないない!あんな弱っちぃの戦力にならないって!」
わらわらとボクの近くに同じような格好をした人達が集まってくる。みんな口々にボクのことに関して話しているようだ。なにか不穏なことも聞こえてくるけど、あんまりよくわかんない。
どうすればいいのかと戸惑っていると、リーダーらしき人物の声が人混みの後方から聞こえてきた。
「おいお前ら!静かにしろ」
その一言で、さっきまで騒がしかった様子が嘘だったかのように静まった。少し幼い高い声だが、頑張って低い声を出している感じがして少し気が緩んだ。
人混みの一部が掻き分けられるように少しずつ動き、そのうち一つの人影が人混みから現れた。
そこから出てきたのはボクにとってまさかの人物だった。
「・・・・・・ボク?」
思わず声に出してしまった。よく見ると所々違ったりしている。頭部のパーツは意外と違うし、ボクは武器を持ったことがないが、その人は身の丈に合わない大きな銃を担いでいる。
「違う。ただ似ているだけの赤の他人だ。」
相手方からも否定された。でもお互い似ている自覚はあるみたい。
そこでふと、
そういえば最近、人違いで酷い目にあった。
たしかその人も白い髪に白いしっぽ、さらにスナイパーライフルを持ってて....
・・・・っお前かっっ!!!
お前のせいで...!!お前のせいでボクは酷い目にあった...!!蹴られて撃たれて殴られた!アイツらは...アイツらは...!お前が誰彼構わず喧嘩を売るからパッと見で似ているボクに八つ当たりしてきたんだ!!この恨み、晴らさでおくべきか…!
あの時の激情がフラッシュバックする。手に力が入る。目尻には涙が浮かび上がる。
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい.......!!!!!!
その感情のままに口を開いてしまった。
「おまえぇ!よくも...!よくもぉ....!!お前のせいでボクは酷い目にあったんだぞ!!お前が傷つけたヤツがボクに復讐しに来たんだ!!すっごく痛かった!血がたくさん出た!住んでいた場所も追い出された!もう帰る場所が無いんだ!!絶対に許さないからなぁ!!」
小さな身体で泣きながら喚き散らす姿は、さぞ滑稽に映っただろう。
実際そこにいたやつらはニヤケ面の奴ばっかりで、こっちを指さし笑いを堪えきれないといった様子だった。
その態度に対してさらに腹を立ててしまい、とうとう自分を抑えきれなくなり身体が動いてしまった。
自分の写し鏡みたいなやつに向かって殴り掛かる。鍛えたことがない身体から繰り出されるへなちょこパンチは、相手の頬目掛けてとんでいく。
ペしっ
当たった!と思った。しかしよく見ると当たった先は、横から差し込まれた手のひらだった。
それに気を取られ呆然としていると、いきなりボクの身体が後ろに吹っ飛ぶ。
「ぐっ....!うっ.....!あぅ......」
何が起きた?と小さな頭を働かせる。
遅れてやってくる腹部の痛み。とばされた弾みで転がってしまい、目が回っている。
ようやく落ち着いて元いた場所を見ると、そこにはゼリーをくれた優しいお姉さんが、蹴りを終えたような構えで立っていた。
「・・・ぇ....?」
「いやぁ〜ボスに手を出されたら黙ってる訳にはいかないもんでねぇ
・・・・悪いな、キツネっ子」
その瞬間、この場にはもう味方が居ないと理解り、目尻に留まっていた涙は溢れるように零れていた。
「ここは私たちガタガタヘルメット団のアジトだ。逆らうことはオススメしない。次なにか反抗したらどうなるか....その
「ぶふっ...ボスもほとんど同じなのにね」
「そこっ!!聞こえてるからな!後で覚えてろよ?!」
「ひゃぁ!すんません!!」
もう...どうにでもなれ...
周りの音が聞こえない。お腹が痛い。でもそれよりも何よりも、心が痛い。
ようやく出逢えた信じられそうな人。初めて会ったのにおいしいゼリーをくれた優しいお姉さん。
その人が今、ボクの事をゴミを見るような目で見ている。
信じていた人からの裏切り。さらに暴力付き。ちらついた希望が一瞬にして絶望へと変わってしまう苦しみ。
本格的に人が信じられなくなってしまったかもしれない。
ただでさえ人との関わりが無かったボクは、周りの人が何を考えてるのか全く分からない。
公園にいたボクをどうしてここに連れて来たの?なんで優しくしてくれたのに急に蹴飛ばされないといけないの?何も悪いことをしてないのになんでみんなそんな目で見てくるの?
こわい。逃げ出したい。
その考えがあたまを埋め尽くすが、次動いたら何をされるか分からない恐怖で動けないという負のループに陥ってしまっている。
***
「なんかボスそっくりな見た目であんな風に泣いてるとこ見るのおもろいっすね!」
「はぁ!?おい!てめえ泣くんじゃねぇ!!今すぐ泣き止まなかったらぶん殴るからな?!」
「・・・うぅ...ひっぐ...ご、ごめんなさい...ぐすっ」
「あああああぁぁもう!!自分が泣いてるみたいで腹立ってくるっ!!マジで撃つぞ?」
「ボス、ボス、そいつ作戦で使うとかなんとか言ってませんでした?そんな至近距離でその銃撃ったら、そのキツネっ子死ぬんじゃないですか?ただでさえ弱ってるのに。」
「・・・あぁそうだった。少し取り乱した。悪いな。」
「少しどころじゃなかったような...」
「だぁから聞こえてるっつってんだよっ!!」
「ひぃん...さーせん」
「はぁ、まぁいい。今は作戦だ。さっきも話に出たが、とある作戦を考えた。・・・ま、一回限りの使い捨て作戦だけどな。」
「ゴクリ、それは...一体......大体わかるけど」
その場にいる者のほとんどが息をのむ。
「・・・それは...」
「それは・・・?」
「それ実は私じゃないよ!影武者大作戦だっっ!!!!」
だっ!だっ!だっ!だっ!だっ!......
ボスのかわいらしい声が薄暗いアジトにこだまする。アジトが一瞬の間静まり返る。
数舜の後、堰を切ったように微妙に盛り上がった歓声があがる。
「お、おぉーーーー!!」「うおぉーーー」「すげーーー」「さすがボスーーー」「どりゃぁーーーー!!」「かわいいよーー!」「きゃーこっちむいてーーー!」
どうやらその場のノリに合わせて、適当に声をあげている者も混じっているようだ。
しばらくの間、お祭り騒ぎのような状態が続く。
「...で、詳細は?」
「うわぁ急に落ち着くなよ」
「すみません」
「・・・こほん!この作戦の肝はそこで泣いてる弱虫キツネだ。そいつに私たちと同じ服、同じヘルメットを装着させる。そうすれば私の影武者が完成するというわけだ!
ひじょーーーに不本意だが、ヘルメットをかぶれば私たちの姿は見分けがつかないだろう。多分アビドスのヤツらには私がボスだってことはバレているはずだ。
逃げる時にそいつを囮にすれば、私たちは安全に撤退できるって寸法よ!!」
自信満々に作戦内容を話す。ヘルメット団のメンバーは一応理解はしたみたいだ。
「おぉー、名前の割にはすごくちゃんとした作戦だぁ」
「おい...名前の割に、とはなんだ。かっこいいだろアレ」
「というか、なんで急に囮を使おうなんて話になるんですか?いつも通り逃げればいいじゃないですか」
一人のメンバーが、作戦内容以前の質問を投げかける。
「いや、それに関してなんだが、今回はこれを使おうと思ってるんだ」
そう言ってボスは自身のポケットを探り、とあるものをその場にいるメンバーに見せる。
「そ、それは...まずくないっすか...?」
「だからだよ。これを使えば恐らく、いや確実にあいつらはキレる。なんてったってこの弾は他の弾よりも威力が高すぎる違法弾だからだ。その分、怪我が大きくなる。普段見ないような大怪我を誰かが負ったりなんかしたら、頭に血が上るだろうよ。あいつらは数が少ない分仲間思いだから。お前らと違ってな」
普段よりも何倍も力のこもった話にメンバー全員が聞き入ってしまう。次の作戦は気合を入れるぞと、みんなが意気込み始めている。
「そんなことより
どうやらみんながみんな、意気込んでいるようではなかったらしい。急な話題転換にボスもびっくりしている。
「うぇ?!こ、これは言葉の綾、っていうか?真面目な話をして少し気分が盛り上がってしまったというか...?え、ぁぁ...ごめん」
「あ~あ、ボスにそんなふうに思われてたなんてなぁ~ちょっとショックだなぁ~」
「いやごめんて。・・・っていうかほとんどお前のせいだかんな!!?さっきっから私に対して小声で茶々ばっかり入れやがって!!小声のくせに声デカいんだよ!!うるせぇーんだよぉ!!」
「うわぁ、さーせんさーせん」
「お、おまえ...前々から思ってたけど私のこと舐めてるだろ...おまえのせいで私の威厳がどんどん無くなってる気がするんだよ!」
「よかったじゃないっすか。親しみやすくって。そうやって子供らしく喚いてる方がカワイらしいっすよ。」
「ぐぅっ...そ、そうじゃなくってぇ、ち、ちがくってぇ」
「照れてる顔もカワイイっす」
「・・・んもうッ!
「「「「「「・・・・かわいい」」」」」」
「あぁーーーーーもう!!うるさいうるさいうるさぁ〜〜〜〜〜い!!!」
そうやって捨て台詞を残し走り去っていった。
ボスがいなくなってしまったため、その場は解散となった。
そしてその場に残されたのは、ぽやぽやとした空気と、小狐だけである。
小狐は、ボスが自分を相手にしていた時との空気感のギャップにより途中で泣き止んでおり、その一部始終をフレーメン反応を起こした猫のような顔で眺めていた。
アビドスとの邂逅は近い・・・・・
今日の18時過ぎくらいにまた投稿すると思います