不幸な小狐は幸せを探す 作:うしさん
アレは一体なんだったんだろうか...?
ヘルメット団のあの一連のやり取りを見ているうちに、自分は何を見せられているんだという気持ちになった。
この腹の痛みはなんなんだ。さっきアイツらから喰らったものだろう。その事すらもはや記憶が曖昧だ。
そんなことよりも今考えるべきことがある。
ヘルメット団の言う『作戦』についてだ。
聞こえてきた話によると、このヘルメット団はアビドス高校という学校に戦闘によく行くらしい。血気盛んなことだ。
次の戦闘の時には、相手をいつも以上に怒らせるかもしれない事をするから、安全に逃げられるようにしたいみたい。
そこで白羽の矢が立ったのが、このボクだそうだ。なんて不本意で不名誉な抜擢だろうか。
ボクはどうするべきなのかな...
今のうちに逃げる?
ダメだ...!少なくとも10メートル以内に見張りのようなやつがこっちを監視している。逃げたりなんかしたらまた暴力を振るわれる...
それなら戦う?
それは一番ない!さっきのを見ただろう?戦いを挑んだ時点でボクの負けは確定しているようなものだ。番狂わせなんてありっこない程の実力差がある。
逆にヘルメット団と一緒になってアビドスと戦う?
それも絶対に無理。誰かを傷つけるようなことはしたくないし。さっき殴りかかってしまった時は、感情で身体がコントロール出来なかったからであって、殴りたかった訳では無い。
それに銃を撃ったことも、ましてや銃を持ったことすらない。そんな奴が急に戦えるようになるだろうか?いや、ならない。普通に流れ弾で死ぬ
・・・これ詰んでない?
どう足掻いてもボクに逆転の兆しが見えないんだけど...
ほんとうにあのボスの影武者にならないといけないのかな...?
アビドスを怒らせるって言ってたし、その状態の相手にどんな目にあわされるか分かんない。しかも仲間思いって話らしいし、怪我なんてさせたら本当に容赦なく襲ってきそう。
まるでライオンの群れに放り込まれた羊、金魚の水槽に撒かれた餌のようになってしまいそう。
諦めるしか、ないのかな...
・・・そうだ!もし囮にされてアビドスの人の前に放り出されたら、事情を全部話してみよう!それで助けて貰えばいいんだ!
もしかしたらそのまま入学なんてことも有り得るかも...?
・・・なんちゃって...!そんな上手くいくわけないよね...
はぁ...本当に上手くいけばいいんだけどなぁ...
でも、とりあえず交渉はアリだと思う。今のこの完全に詰んでいる状況から抜け出すための唯一の手段だ。
作戦決行は明後日らしい。それまで何を話すかちゃんと考えておこう。
ただでさえ人と話すのが苦手なんだから、上手く喋れなかったらボクの『作戦』が台無しになってしまう。
それじゃあボクは、暫くここで大人しくその日が来るのを待ってよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
───────と思ってる時期もありました。
時期なんて大袈裟な言い方だったね。実際はあれから数時間ほどしか経ってない。
急にどうしたなんて思われるかもしれない。でも今ボクは緊急事態に陥っている。
なんと...ボクは今...お風呂なるものに入れられている...!!
ドラム缶風呂って言うらしい。見た目は名前の通りだ。
今まで路地裏で生活していたせいで、お風呂なんてものには一切関わりが無かった。けど今、初めて生きる理由みたいなものを見つけた気がする...!
(お風呂って、なんて素晴らしいものなんだ〜〜!!)
カッポ〜ン♨︎
そんな効果音がふと頭に浮かぶ。しかしここはドラム缶風呂。そんな音が出るものなんて無いのだ。
汚くて臭いからこれを使えと言われたのだけど、どうすればいいのか分からずに立ち竦んでいたら、使い方を教えてくれた。やさしい。
はっ!優しくされた後に蹴飛ばされたのを忘れたのか!そんなすぐに信用しちゃダメだ!
お風呂に入る前に髪の毛をこれで洗えと言われ、いい香りのするボトルを渡された。これも何が何だかよく分からずに、とりあえず食べてみようとした。
でも、これは食べものじゃないと止められて、使い方を教えてもらった。ついでに髪の毛も洗ってもらった。やっぱりやさしい。
なんだかんだ言って結局面倒見いいじゃないか!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お風呂も上がってスッキリした。全身からいい匂いがする。幸福感で満たされてる。
ボクは今、髪の毛を乾かしてもらってる。いい髪なんだからちゃんと手入れはしろ、とブツブツ呟きながら、ボクはされるがままだ。
タオルでぽんぽん、どらいやーという機械でブォーンと髪を乾かされる。
出来たよと言われ、次は何をすれば...と思っていたら服を着せられることになった。
影武者用の試着らしい。
シンプルな黒いスカートに白いワイシャツ。胸元にワンポイントの水色のリボン。ボクの瞳の色とおそろい。
そして白のハイソックスにブラウンの靴。これはローファーというらしい。
仕上げに真っ黒いヘルメットを被れば完成だ!
顔が見えないから本当にあのヘルメット団のボスそっくり。
見間違えてもおかしくないと思う。このせいで無駄に虐められたことはずっと根に持ってるけどね。
それにしてもヘルメットでお耳がぺしゃってなってて、若干心地悪い。何とかならないのかと聞いたら、我慢しろってさ。
服だけなら可愛い高校生なのに、なんでヘルメットなんて被って悪いことをしてるんだろう?
ヘルメットを外し、そんなことを考えていると、眠気が襲ってきた。
そりゃそうだよね。怒涛の一日だった。
倒れて、目を覚ましたと思ったら誘拐されてた。しかも戦闘に利用しようという目的で。優しくされたと思ったら突き放されて大泣きした。と思ったらお風呂に入れられて優しく手入れされた。
それに...
・・・
正直、疲れない方がおかしい。という訳で眠気に従い素直に寝るとしよう。
こんな時、どこでも眠れる身体に感謝だ。
おやすみなさい。
***
急にボスに命令されて驚いた。なんであたしが!?なんて思った。
理由を尋ねたら、
「こん中だったらお前が一番面倒見がいいだろ?妹いるらしいし。」
だってさ。
そんな訳で、いま一人ボーッとしているあの小狐ちゃんのお世話係に任命された。短い付き合いだろうけどとりあえず頑張ろう。
ゆっくりと後ろから近付いてみる。気づかれるまで少し待ってみよう。
おかしい...全然気付かれない...もう二十分ほど経っているのに。あまりに気づかれないから、斜め後ろに背中合わせで座ってしまっている。
寝てないよね?・・・・うん寝てない。ちゃんと目が開いてるし瞬きもしてる。
よくこんな危機感の無さで今まで生きれていたものだ。見たところ銃も持っていない。キヴォトスで初めて見たよ....こんな子。
何時までもこうしている訳にもいかないので、声を掛けてみる。
「ねね、小狐ちゃん」
「うわぁぁ!!びっくりしたぁ!!」
お手本のような驚き方だ。逆にこっちがビックリしたよ。
「急に声掛けてゴメンね!ボスからキミの事面倒見るように頼まれてさ!ちょっとこっち来てくれないかな?」
ボスから頼まれたことリストには、幾つか項目がある。
一つ目はお風呂に入れること。
このコ、はっきり言って臭い。どんな臭いかというと、汗とゴミ捨て場の臭いが混ざったような臭いがする。
どんな生活してたらこんな臭いが付くのだろうか?
倒れてたところを攫ってきたっぽいし、きっと訳ありなんだろう。
また攫われるとでも思っているのか、怯えながら瞳に涙を浮かべこっちを見てくる。尻尾も股にクルンと挟んじゃって、とても可愛らしい。
・・・はっ!怯えてるところを見て可愛らしいなんて、まさか自分がそっちの趣味だったとは....ちょっとショック.....
このコが可愛いのが悪い。ボスとは違う、虐めたくなくなってしまう魔性の可愛さだ。
とにかく安心させてあげなければ。襲うつもりは無いよって。
「だいじょーぶだって!そんな怖がらないで!酷いことはしないからさ」
そう言って手を差し出す。
それを見た小狐ちゃんは、恐る恐るといった様子でその手をちょこんと掴む。かわいい
そのままボスが用意させたドラム缶風呂まで連れていく。
きっと初めて見たのだろう。コレはなんだろう?といった表情を、顔全体をめいっぱいに使って表現している。どうやら感情が全て出てしまうコのようだ。
「これはお風呂だよ。でもこれはドラム缶にお湯張ってるから、ドラム缶風呂だね。キミ今さ、ちょっと汚れててすこ〜しだけ臭うから入ってもらおうと思って。」
「あ、やっぱり臭かったですか...」
「少し、ね!でもお風呂に入ったらキレイになるからさ!安心してよ!」
女の子だもんね。臭いはやっぱり気にするよね。傷付く前にフォローすることを忘れない。
とりあえず風呂に入れる前に、臭いと汚れを落とすために全身を洗ってもらおう。
そう思い、シャンプーとコンディショナーのボトルを渡した。小狐ちゃんはそれを、またしても不思議そうな顔で観察し始めた。
次の瞬間、あたしは衝撃の光景を目にした。
なんと小狐ちゃんはそのボトルに噛み付き始めたのだ...!
「ちょいちょいちょい!!!なにしてんの?!それ食べ物じゃないよ!」
「違うん...ですか?いい匂いがしたから食べものかと思って...」
驚いた...こんな子がいたなんて...
「違う違う!それは髪の毛を洗う石けんみたいなものだよ。髪の毛を濡らして、泡立てながら髪を洗うもの!わかった??」
「へぇ〜!そんなものがあるんですね!すごいなぁ〜!」
いちいちリアクションが可愛い。子供を育ててるみたいな気分になってくる。
「はぁ...その様子だとまともに髪も洗ったこと無さそうだね...。わかった。あたしが洗ったげるからこっちおいでよ」
「・・・え、でも...」
「だいじょーぶだって!酷いことなんてしないから!髪の毛を洗うだけ!」
「じゃ、じゃあ...おねがい、します...」
不安がってる小狐ちゃんを半ば強制的に洗わせてもらう。せっかく可愛らしいのに汚れのせいで台無しだ。
それにあたしは、妹のお世話でよくこうして洗っていたから慣れたものだ。持てる技術を総動員してピカピカにして見せようではないか。
やはりというか当然というか、染み付いた汚れは落ちにくかった。そのため、何回かに分けて髪の汚れを落とした。
仕上げにトリートメントを髪に纏わせ、流さずに放置する。
最初は髪を洗ってあげている間はビクビクとしながら警戒していたが、途中から「うへぇ〜」なんて声を上げながらリラックスしていた。
あたしのテクニックに恐れ入ったか!どんな野生の小動物でもあたしの手に掛かれば、家ネコにも家ギツネにでも出来るのだ。
次は身体を洗おう。
小狐ちゃんに今着ているものを全部脱ぐように伝える。髪を洗う前に脱がせようと思ったけど、汚くて捨てるつもりだったから別にいいかなと、着させたままにしておいた。
「髪は洗い終わったし、それじゃあ次は身体を洗おっか?今着てるやつひとりで脱げる?」
「あ...身体も洗うんですか...?」
先程までは鼻歌が思わず出てしまうほどに高かったテンションが、いきなり下がってしまったようだ。一体どうしたというのだろうか?何かまずいことでもあるのかな?
「洗わないとばっちぃでしょ?それに、お風呂に入る前には身体を洗わないといけないルールがあるんだよ。」
「そうなんですね...分かりました。あの...!ボクの身体を見たら、嫌な気分にさせてしまうかもしれないので、あとはボク一人でも大丈夫です...」
なんだ、そんなことか。汚れが溜まってて恥ずかしいとかかな?まぁさっき臭いって言っちゃったからな。あたしは全然気にしないんだけどね。
「そんなこと気にしないの!あたしはキミのお世話をするためにここにいるんだから。キミがどんなに自分のことを卑下してもあたしは何とも思わないし、嫌いになんてならないよ」
「あ、ありがとう、ございます...」
そう言って服の裾に手をかけ、徐々に上に捲り上げていく。その過程で、細い身体の白い肌が見え始める。
あたしはその光景を見て絶句した。先ほどのやり取りが頭をよぎる。誰がこんなことを予想できただろう。あたしはさっきの自分の甘い考えを恨んだ。
その肌にはところどころに銃創がついており、生々しい怪我の痕が浮かんでいる。そして打撲痕だろうか、黒ずんでいる部分も多くある。一直線に走る切り傷と思われるものもいくつか見える。
もしかして、右耳の一部失われている部分も誰かにやられたものになるのだろうか...
「こんなに汚い身体でごめんなさい。嫌いになりましたか...?」
それを見て思わず感情的になってしまった。自分が濡れることなんて気にせず、辛そうな顔をしている小狐ちゃんを優しく、そして強く抱きしめる。
「ならない!なるわけがないよ...今まで、大変だったね...ひとりでよく頑張ったよ...!」
抱きしめながら頭を撫でていると、胸元からすすり泣くような声が聞こえてきた。
「うんっ...!大変だった...!!辛かった!!痛かったし寒かった!!うぅっ...ずっとひとりで...ざみじがっだっ...!!ぐすっ...」
「うん、うん。そうだよね。いくらでも泣いて大丈夫だよ。今はあたしが全部受け止めてあげるからさ」
「うあぁぁ...うぅ...!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん...!!!」
「よしよし。だいじょうぶだいじょうぶ。よくがんばったね」
そうやってしばらく声を掛け続けた。
数分後、ようやく落ち着いたのか涙をふいて顔を合わせてくる。
「あ、あの、お見苦しい所をお見せしてしまってごめんなさい...優しくしてくれてありがとうございました...!」
無理して取り繕ったような笑顔でお礼を言われる。
あたしはこの衝撃的な事実に少し困惑していたけど、あくまで自然に対応しようと思った。
「あたしの前では、これから一切気にしちゃダメ!謝るのもナシ!だから安心して!という訳で今度こそ身体を洗います!!」
「・・・っ!ありがとうおねぇさん...!!」
この件はひとまずこれで落ち着いた。
主人公は基本的にちょろいです。少しでも優しくされるとすぐにしっぽを振ります。
警戒心は一応備わっているけど、ほぼ機能してません。