不幸な小狐は幸せを探す 作:うしさん
気を取り直して身体を洗おう。
タオルにボディーソープを付けて泡立てる。首から順に下へと洗っていく。垢や汚れが多いのか泡立ちが悪くなるが、悪くなったそばからボディーソープを追加する。
古傷を刺激しないように慎重に洗っていたら、それに気付いたのか、痛みはもう無いから普通にやっていいよと言われた。
身体は一通り洗い終えた。最後はこの大きな尻尾だ。こっちはシャンプーで洗おう。そう思いシャンプーを手に取り洗い始める。
「うひゃん!!」
「うぇっ?!!痛かった?!ごめんね!」
「だ、だいじょうぶです...少しびっくりしただけなので...」
そういえば尻尾持ちの子は、尻尾が敏感だということを忘れていた。優しくマッサージするように洗おう。
そう思い、再び洗い始める。暫く洗っていると顔がトロンとし始め、可愛らしい吐息が漏れるようになっていた。
「よし!完璧!そしたら流そっか!」
「ふぇぇ...もうおわり〜?」
「そうだよぉ〜おわりおわり」
洗い終えたので、泡を流す作業に移る。残念そうな表情をしてももうやりません。また今度ね。
大事なのはここからだ。お風呂に入ろう。
「小狐ちゃん!しょんぼりするのはまだ早いぜ...むしろここからが本番だよ!!」
「ほんばん?」
「そう!お風呂に入るんだよ!」
「おふろ!どうやって入ればいいの??」
確かに小狐ちゃんの身長じゃ入りずらいかもね。そう思い至り、お風呂に入れるために動き出す。
「こうして...ヒョイっと」
「うひゃぁっ!!」
両腋に手を差し込み、上に持ち上げる。軽いから楽々持ち上げることが出来た。そしてそのままドラム缶の中にぽちゃんと放り込む。どんな反応をするのだろうか....
「・・・・・・ふぁぁぁ〜〜〜」
どうやらお気に召してくれたようだ。お風呂に入った瞬間は眼を大きく見開き、猫目みたいにして身体を縮こまらせていたけど、しばらくするとすぐに表情が溶けていきリラックスした声を上げ始めた。
「初めてのお風呂の感想はどう??」
「きもちぃ~~~ですぅ~~」
「そっかそっか!よかったねぇ。満足するまで入ってていいからね」
「ふぁい」
ドラム缶の大きさは小狐ちゃんの身長と大体同じくらいだ。頭まですっぽりドラム缶に隠れているが、ひょっこりと大きな耳が飛び出ている。遠くから見ると、ドラム缶に耳が生えているみたいで少しおもしろい。
そんなことを思っていたら、耳がだんだんとドラム缶の中に沈み込んでいった。ブクブクという音とともに...
(・・・あ、まずい)
ドラム缶に急いで向かい、溶けてしまったソレを引っ張り出す。
「ちょっとちょっと!!お風呂の中で寝ちゃダメだよ!!溺れたらあぶないでしょ?!」
「・・・ぷはぁ!死んじゃった?きもちよすぎてしんじゃったのかな?どうしよう...」
なにを言ってるんだこのコは。やっぱりおバカなのかもしれない。
「死んでません!ほらこっち見る!あたしのこと分かる??」
「うわぁぁぁああん!!おねえさぁぁん!!死んじゃったとおもったよぉ...!」
泣いちゃった...!ホントに感情が忙しいコだ。
今は身体の下半分をお湯の中に浸し、ドラム缶から腕を伸ばしてだっこを求めてくる。
しょうがない...あたしも濡れちゃうけど今更か...
「はいはい、いい子だからこっちおいでー。こわくないよー」
「うぅ...」
入れた時と同じように両腋に手を差し込み、ドラム缶の中から引っ張り出しバスタオルを身体に巻いてあげる。
髪の毛からも尻尾からも水が滴っているため、早く乾かさないと風邪をひいてしまう。用意していた二枚目のタオルを取り出し、髪と尻尾を軽く拭いてあげる。
結構長いから拭くのが大変だ。あたしは肩辺りまでしかないので割とマシだけど、このコは腰下まである。伸び放題で手入れされた様子はない。
せっかくなのでちょいちょいとハサミで、前髪や毛先を整えてあげる。これも妹にやってあげていたので慣れたものだ。
ハサミを取り出した時、少し震えていたけどなにか地雷を踏んでしまったのだろうか。笑顔を作って、こっちに心配をかけないようにしていたので、無理に掘り返さないことにした判断は正しかったのだろうか。
出来るだけ急いで整えてあげよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数分後そこに居たのは、真っ白、または白銀に輝く髪の毛を靡かせた超絶美少女(幼女)だった。
重たかった前髪がさっぱりとし、隠れていた空色のおめめがパッチリとしている。
当の本人はというと、今は姿見を眺めながら目をパチパチとさせ、くるくると自分の姿を見ている。
髪をタオルで軽くぽんぽんとしただけなので、まだ湿ったままだ。完璧に乾くまで大人しくしてもらわないと。
「ほらほら、勝手に動かないの!こっちおいで!ドライヤーかけたげるから」
「あ!ごめんなさい!あの、どらいやーってなんですか??」
やっぱドライヤーも知らないか。そんな事よりもテンションが上がってなんか楽しそうだ。にこにこと満面の笑みを浮かべている。
「かわいい...ドライヤーは髪を乾かすための機械だよ。」
いけない。可愛すぎて口から思わず漏れてしまった。
「かわいいドライヤー?かっこいいとかもあるんですか?」
おバカでかわいいなぁほんとに。食べちゃいたいくらい
「何でもないよ!ドライヤーを使って小狐ちゃんのまだ濡れてる髪をサラサラに乾かそうってこと!」
「サラサラ!!やってほしい!!はやくはやく!」
「はいはい、やってあげるからこっちおいで。水しぶきすごいから尻尾ぶんぶんも我慢してね」
「ご、ごめんなさい...でもしっぽ勝手に動いちゃうんです...ボクにはどうすることもできなくって...」
未知との遭遇でテンションが上がりまくっているのか、水で濡れた大きな尻尾が右へ左へ凄い勢いで揺れている。そのせいで水滴が撒き散らかされ、辺りに水跡がついている。あたしにも水飛沫が襲いかかる。
「勝手に動いちゃうならしょうがないか。それじゃあほら!ここに座って座って」
そう言うと、用意されていた小さな丸椅子にちょこんと座る。あたしはドライヤーの電源を入れ、髪を乾かし始める。
大きな音にびっくりしたのか、大きなお耳をペタンと倒してしまった。
耳と尻尾の感情表現も豊かすぎるな...かわいい。
数分かけて、髪と尻尾を乾かし終える。酷い生活を送っていたはずなのにさらっさらの髪の毛ともっふもふの尻尾。羨ましい限りだ。
さすがにタオル一枚のままではよろしくないので、早速ボスの頼み事その二に移ろう。
次は着替えだ。支給されたヘルメット団の制服に着替えてもらおう。そう思い、呼びかける。
「おーい!小狐ちゃーん?新しい服着よっかー」
「あ、はい!」
温かい風で眠くなってしまったのだろうか、すこしぼーっとしている。
手を引っ張って、制服が置いてある場所まで一緒に歩く。数秒でたどり着いてしまう。もう少し手を握ってたかったという気持ちを抑え、着替えに移る。
「まずは下着をはこっか?基本的にはボスと同じサイズのやつ用意したんだけど、合わなかったら教えてね?」
「うん。わかった!下着はどうやってはくの?」
しまった...そこからだったか....
仕方が無いので穿かせてあげることにした。
「ほら、右脚上げて右の穴に入れてみて。」
「・・・こう?」
「そうそう!えらいねぇ」
「ふふん...!」
「じゃあ次は左脚も同じようにしてみよっか?」
「こうだ!」
「あぁ〜違う違う。言い方が悪かったね。ごめんね!左脚は左の穴に入れるの」
「こっちだ!」
「そうそこ!よく出来ました!」
「うへへ...ボクはすごいんだ...!」
すぐに調子に乗ってしまうところもご愛嬌。小さな声で呟いても全部聴こえちゃいます。無意識なのかな?かわいいね
下が穿けたので、次は上だ。身体がとても小さいので、胸は未成長だ。是非ともこのままでいて欲しい。
ボスのお胸も同じようなサイズなので、キャミソールを着ている。
このコにも同じサイズのキャミを着させてみよう。
用意したのは白のシンプルなやつで、ワンポイントの小さなリボンが刺繍されている。シンプルイズベストってやつだ。
「この服は一人で着れる?」
「着れる!まかせて」
なんで服を着るだけなのにこんなに自信満々なのだろうか。なんか覚悟を決めたような顔つきになってるし。かわいいから全てが許されそう。
そんでそれは普通に着れるんだ。まぁ元々Tシャツ着てたんだからそりゃ着れるか。
「着れたよ!どう?」
「おー!すごいね!よくできました!!よく似合っててかわいいよ」
「えへへ!」
チョッロ。このコちょっとチョロ過ぎない?ホントに大丈夫なの?心配になってきちゃうよ。
というわけで下着は着ることが出来た。次は制服を着せようと思うが、下着であの様子なら制服はどうなってしまうんだと不安になってきた。しっかり隣で見てないといけない。
でもアドバイス無しだとどうなるんだ、という疑問が湧いてきた。ちょっとしたイタズラ心から一人で着させてみることにした。
「次はこの制服を着てもらいます!一人で着れる?」
「きれるよ!みてて」
調子に乗っててくれて良かった。どこからそんな自信が来てるのか分かんないけど、楽しみに見させてもらおう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その様子は宛らキメラのようだった。
ワイシャツは腕を通す向きを間違っており、本来なら背中に来るはずの面が前に来ている。頭はスカートで覆われ、前傾姿勢で視界を確保しようともがいている。パンツは丸出し。
衝撃の光景に笑いと溜め息が同時に出てしまった。
まぁワイシャツとスカートは、初めて着る時は少し苦労するよね。気持ちは分らないでもないけど、さすがにこれはフォローできない...かな。
「あ、あはは...。大変なことになってるから一旦全部脱ごっか?」
「・・・・・・うん。」
流石の小狐ちゃんも、これには少し堪えたみたい。モゾモゾとスカートを頭から落とし、ワイシャツから腕を抜いてキメラから元の姿に戻った。
「・・・分かんないので着させて、くだ...さい....」
すごいショック受けてる......!いじわるしてゴメンね!
「そんな気にしないで大丈夫だって!あたしも最初は着るの大変だったし!」
あんなに酷くはなかったけど。嘘も方便だ。
「・・・ほんと?」
「ホントホント!」
「ほんとにほんと?」
「ホントのホント!」
「・・・そっか!大変なのか!よし!」
あからさまに機嫌が良くなった。ちょっと心苦しいけど元気になったならよかったよ。
気を取り直して、あたしが全部着せることにした。
ワイシャツに正しい向きで腕を通して、ボタンをしっかりと留める。スカートもちゃんと脚から履いてもらい、ベルト代わりのヒモをきちんと締める。
水色のリボンを首元に付けてあげると、とても嬉しそうにしていた。
「ボクの眼の色とおんなじだ!」なんて言ってはしゃいでいた。
白い靴下を両脚とも上まで伸ばして、ローファーを履かせてあげる。
これでほとんど完成だ!
「出来たよ!鏡みてごらん!」
「お、お、うぉーーー!!服だぁーーー!!」
驚くところそこかい!!!!
確かにまともな服着ていなかったけども!!
まぁ喜んでくれたならなによりだよ。影武者用の変装ってところが無ければあたしも素直に喜んであげられたんだけどね....
完全に情が移ってしまっている。作戦決行は明後日。それまでにあたしはどうすればいいのか考えなければならない。
今はとりあえず後回しにしよう。
「最後にこのヘルメット着けてみよっか」
「つけてー?」
うわぁ、ナチュラル上目遣いかわよ。他の人がやったら絶対キツくなるのに、このコのはひたすら可愛い。
それよりもなんかすごく懐いてくれてる感じがする。なんだこの全幅の信頼を置くかのような体勢は。丸椅子に座りながら、後ろにいるあたしに寄りかかって来ている。
甘やかしたい。なでなでしたい。ギューってしたい。
けど今は我慢だ。任された任務を終えるまでは...!!
という訳でヘルメットをつけます。小さい頭にカポっとはめる。大きな耳を潰しちゃうのはゴメンね
「どう?」
「耳がなんかへんなかんじする」
「ゴメンねー、それだけはどうしようもできないんだ。少しの間だけだから我慢出来る??」
「はぁい」
やっぱり耳潰れてるとイヤだよね。それにしても本当にボスと見分けがつかないくらいにそっくりだ。ヘルメットを取ると違うってわかるけど、基本外では外さないから確実にバレないと思う。
作戦決行は明後日。明日はみんな休みだ。
それぞれ身体を休めたり、武器などの装備を準備したりする。あたしはそこら辺は割とすぐ終わるから、このコの面倒を見ていよう。
そこで当日どうするかちゃんと考えないと。出来ればこのコには傷ついて欲しくない。それを念頭にいろいろ考えよう。
そんなことを考えていると、小狐ちゃんはヘルメットを外して、うつらうつらと船をこいでいた。
そりゃそうだよね。このコにとって今日は大変な一日だったと思う。お風呂にも入って身体が温まっているし、そのまま寝させてあげよう。
あたしもちょうど眠くなってきた。簡単な敷物の上に寝転がってあたしの腿に小狐ちゃんの頭をのせてあげる。
「おやすみ。いい夢見てね」
そう囁き、頭を一撫でしてからあたしも眠りについた。
ありがたいご指摘がございましたので、胸糞タグを追加させて頂きました。小説初心者なのでこういった指摘があれば感想欄で教えて頂けると幸いです。