不幸な小狐は幸せを探す   作:うしさん

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あと2話です。短い平和です。


殺人パンと幸せケーキ

 

 

目を覚ますと、見覚えのある光景だった。

 

ここはヘルメット団のアジト。公園で意識を失っている間に連れてこられた場所。

 

 

初めて信頼出来るヒトに出逢えた場所。

 

 

ボクの隣にはおねえさんがすやすやと眠っている。寝る前までボクの面倒をずっと見てくれた優しいヒト。何も知らないボクに新しいことをたくさん教えてくれたヒト。

 

ボクは今、初めてヒトの温もりというものがわかった気がする。あたまに残る柔らかい感触、これは多分おねえさんの膝枕だろうか?

 

敵ばっかりのヘルメット団のアジトでも、このおねえさんが居てくれるだけで安心できるような気がする。このヒトもヘルメット団っていうことは置いといてね。

 

他の団員はボクのことを見て見ぬふりをする。まるで腫れ物かのような目で見てくる。アイツらにとっては団長の偽物、薄汚いホームレスでしかない。

 

この空間で、今日一日どのようにして過ごせば良いのだろうか。周りの様子を見る限り、今日はヘルメット団は特にやることは無さそうに見える。各々の装備の確認をしたり、おっきなクルマを運転したりしている。

 

さっきから戦車の中から人が投げ捨てられてるけど、アレは訓練なのだろうか。「もっと早くスムーズに!」ってボスに怒鳴られてるから訓練なんだろうけど、なんかバカっぽい。

 

 

ボクは何をしようか。変な動きを見せれば影武者にされる前にぼこぼこにされるかもしれない。だから余計なことはしないで大人しくしてよう。

 

そう思い、しばらくの間ぼーっとしていた。もう一眠りしようかなとも思ったけど、なんか落ち着かなくて眠れなかった。おねえさんはまだ気持ちよさそうにして眠っている。

 

 

こころが不安になって、落ち着かなくって思わず我慢できなくなってしまい、おねえさんに抱きついてしまった。

 

いい匂いがする。温かい。不安が消えていく。胸元で大きく深呼吸をする。

 

 

「・・・・・・こぎつねちゃん....?それはちょっとはずかしいかも...?」

 

 

「ひゃっ!ごめんなさい!おはよう、ございます...」

 

 

びっくりした。起こしてしまったみたいだ。ちょっと困ったような顔をしてこっちを見ている。悪いことをしてしまった...

 

 

「あの、起こしちゃってごめんなさい」

 

 

「あーいや全然大丈夫だよぉ。そろそろ起きようと思ってたところだったし。」

 

 

やっぱりまだ少し眠そうだ。重たい瞼を手で擦り、大きく欠伸をしている。

 

気も遣えるとってもいい人!すき!起こしちゃってホントにごめんなさい!!

 

 

「キミはもう朝ごはん食べた?」

 

「ううん、たべてないです」

 

「そっか。じゃああたしパン持ってるから一緒に食べよっか」

 

「え?いいの!?パンってすごく高いやつじゃないの?!」

 

「あははっ、パンは高くないよ。むしろ安い方かな」

 

 

驚いた...パンは安いものだったらしい。パンが安いものだったら、本当に高いものは一体どんなものになるんだろう...

 

おいしすぎて死んでしまうかもしれない。でも死んじゃうなら食べたくないなぁ

 

どっちにしろボクには縁のない話かな。

 

 

「はい、これあげる」

 

「あ、ありがとう、ございます...!」

 

「いいっていいって!気にしないで食べて!」

 

 

細長いパンをもらった。袋の中に五本くらい入ってる。袋を開けようとするけど上手くあけられない。

 

どうしよう、と固まってたらおねえさんが開けてくれた。本当にいいひとだ。

 

 

さっそく袋の中からひとつ取り出してみる。

 

柔らかく、甘い香り。嗅いだことの無い匂いだ。だけど不快にならないくらいの甘さ、むしろ食欲をさそうような甘い香り。花にいざなわれるちょうちょの気持ちがわかる気がする。

 

 

満を持して、口へと運ぶ。ゆっくりとゆっくりと慎重になってしまう。

 

 

口を開く。先端を咥え込む。口の中いっぱいに広がる甘い香り。

 

歯を立て、噛みちぎる。舌に触れる、とびきり甘い小さな粒。

 

ふわふわのパンと絡み合いより甘さが際立つ。

 

 

「どう?」

 

 

「・・・うぅ...」

 

 

「ん?どうしたの...?」

 

 

「ううぅ...」

 

 

「ノドに詰まっちゃった?!大丈夫??!」

 

 

 

 

 

「うまぁぁぁぁあああああ!!!」

 

 

 

 

「うわぁ!!びっくりしたぁ!!」

 

 

(うますぎる!!なんだこの食べものこんなの食べたことないよ!!!)

 

 

飲み込むことを忘れて、次から次へとパンにかぶりつく。

 

 

もう口の中に入らないと思ったらほっぺたがパンでぱんぱんになっていた。なんちて

 

 

 

・・・ってそんなことやってる場合じゃない!息ができない!!どうしよう!!?

 

 

 

「ふぁふぁふ!ふぉふぇふぇふぁふ!ふぁふふぇふぇ!!!」

 

 

「・・・くくっ...ぷふっ、ふふふ....あはははははは!!!」

 

 

笑い事じゃない!!!死んじゃうよぉ!!このままじゃ息が出来なくて死んじゃうよ〜〜!!!

 

 

「ふぁあふぇふ...」

 

 

「あはっ、あはは...!ふぅ、ふぅっ、、、、ブハッ!はははははは!!」

 

 

「ふぇぇふぇふぁふぉ.....う、うぅぅ...」

 

 

 

苦しい...息ができない...涙が出てくる

 

ボクはパンに殺されてしまうのだろうか。しかも安いやつ。殺されるなら高いパンに殺されたかったな...

 

助けて...助けてよぉ...おねえさん....死にたくないよ...

 

 

目の前がなんだかチカチカしてきた。涙で視界がぼやける。おねえさんの袖に縋り付く。

 

そこでようやくボクの様子がおかしい事に気付いたおねえさんは、すぐに助けようと動いてくれた。

 

 

「あ、う、うぅ....」

 

 

「あははっ...もうダメだ...疲れた...!!

・・・ッ!!!ちょっと!大丈夫?!!息出来てる?!顔色おかしいよ!!

・・・ごめん...あたしのせいだ...!ちょっと口の中に手入れるね...!」

 

 

そう言ってボクの口の中に指を差し込んで、ギチギチに詰まったパンを掻き出す。少しの間、そうやっているうちに口の中が楽になってきて息ができるようになってきた。

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ...」

 

 

「・・・本当にごめんね...もっと早くに気づいてれば...」

 

 

「はぁっ...ふぅ...ボクが悪いんです。パンがおいしすぎたから食べる手が止まらなくって...おくちが手の動きについてこれなかったみたい...」

 

 

「・・・?とりあえずお水あるからお水飲も?一回口の中きれいにしよっか」

 

 

お水を飲ませてもらう。これでだいぶお口の中が楽になった。

 

もう一回パンを食べようと思ったけど、どうやら食欲がなくなってしまったみたい。さっきの苦しみを思い出してしまい、お口に入れるのが少し怖くなってしまった。

 

いったんパンを置き、一息つくことにする。

 

 

「ふぅ」

 

 

「ほんとに大丈夫?体調悪くなっちゃったりしてない?」

 

「だいじょうぶ、です...だけどこのパンは今は置いとくことにしました。また今度食べたいです」

 

「そっか...あのさ...!!今日すこしだけお出かけしてみない?」

 

「おでかけ、ですか?」

 

 

急にお出かけに誘われてしまった!どうしよう...今までお出かけなんて行ったことがないから何すればいいのか分かんないよ...

 

 

「そう!お出かけ!申し訳ないことしちゃったし、パンじゃない美味しいもの食べに行こうよ」

 

 

「へ?おいしいもの...?ほんと!!??ほんとにおいしいもの!!?」

 

 

うぉっ、急に喰いついてきた。そうだよ~パンよりも高いやつだよ~」

 

 

「いくっ!!!いきたい!!!」

 

 

「りょーかい。じゃあ準備しよっか」

 

 

 

やったやった!おでかけだ!しかもパンよりも高いおいしいものだって!!

 

ここ最近でうけた傷とか擦り剝けた足とか、まだすごく痛むし身体も重いけどそれを忘れられるほどにうれしい!!

 

なにたべれるんだろなー?肉とか魚かな?もしかしてケーキとか食べれたりして!

 

 

 

 

早く準備して出発だ!!!

 

 

 

***

 

 

 

 

 

小狐ちゃんをお出かけに連れ出すことにした。今日はほとんどの団員が自由な日だから好きなように過ごしている。

 

訓練をしているボスたちは、夕方ごろには終わるだろうからそれまでには帰ろう。

 

ボスには話したいことがあるんだ。

 

 

今は二人でお出かけのことだけを考えよう。

 

どこに行こうか。様子を見た所、少し疲れが見える。直近の怪我や疲労が溜まっているのだろう。先ほどは小狐ちゃんにホントに申し訳ないことをしてしまった。

 

かわいらしい失敗だなと、思わず笑ってしまっていたが、まさか本当に窒息しそうになっていたなんて思いもよらなかった。子供のお世話をするのは大変だ。

 

 

出かけるなら出来るだけ近い所がいいかな。遠いと大変だろうし。

 

アビドスにはほとんど何もないけど、ギリギリ栄えているところにはまだ飲食店があったはず。そこで何か軽く食べて帰って来よう。

 

今はだいたいお昼前だ。お昼ごはんにちょうどいい。到着するころにはお昼時だろう。

 

 

あたしたちは今そこに向かって歩いている。主にあたしが話を振って、小狐ちゃんが返してくるといった感じで会話をしている。

 

内容はほんとになんてことないあたしの日常。だけどこのコにとってはすべてが新鮮なのか、オーバーリアクションともとれるすごくいいリアクションをしてくれる。話していて気分がいい。

 

 

ひょこひょこと歩きながら小さな身体をピタッとあたしの方に寄せてきて、小さい子ならではの高い体温を感じられる。

 

途中からは気づかぬうちに自然と手を繋いでいた。身体を触れ合わせていると、言葉にできないような愛おしさがこみ上げてくる。

 

優しくしてあげたい、守ってあげたい、何かを買ってあげたい。そんなふうについ思ってしまう。

 

 

 

歩き始めて数分後、アビドス唯一の繁華街に到着した。繁華街とは言ってもほとんど寂れている。

 

何を食べたいか聞いてみようと思ったけれど、このコに食べ物の種類が分かるのかと思ったため、あたしのおススメの所に連れていくことにした。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

自分の好きなもの、食べたいものが自由に食べれるスイートパラダイス!ここに決めた!!

 

最近までギリギリ残ってたけど、ついに閉店してしまうらしい。

閉店セールなるものが開催されていて安くなっている。普段高くて行けないから丁度いいタイミングだ。

 

甘いスイーツ食べ放題、今朝は悪いことをしてしまったからその分贅沢に振る舞おう!

 

 

 

「あ!あの!こんなにすごい所でいいの!?」

 

 

「いいのいいの!さっきキミには申し訳ないことしちゃったしね。好きなの好きなだけ食べなよ!」

 

 

「好きなの好きなだけ...!」

 

 

「最初は一緒にいこっか?」

 

 

「うんっ!!」

 

 

さっそく取りに行くことにする。店に入ってからずっとわくわくそわそわしている小狐ちゃんは、大きな耳と尻尾が忙しなく動いている。スイーツを見る目がすっごくきらっきらしてる。楽しそうで何よりかな。

 

途中で四人のトリニティ生が微笑ましいものを見るみたいな感じで通り過ぎて行った。わざわざトリニティからよく来たなぁ、なんて思いながらあたしも自分の分を選ぶ。

 

とりあえず一つ取って席に戻る。あたしはチーズケーキ。小狐ちゃんはシンプルなショートケーキを選んだみたいだ。

 

いただきますをして、フォークで切り分け口に運ぶ。うん、おいしい。

 

すると向かいの席から声にならない声が聞こえてきたような気がした。

 

目の前を見ると、そこには口の周りいっぱいに生クリームを付けた小狐ちゃんが満面の笑みでケーキをぱくぱくしていた。

 

朝で学んだのか、ペースはゆっくり目だがもう半分以上無くなっている。

 

 

 

「どう?おいしい?」

 

 

「おいひぃ!!うまいうまいうまい...うまいうまいうまい...

 

 

 

なんか喋りながら食べ続けてる...エサに夢中な子猫か...!

 

あっという間に食べ終わっていた。本当にあっという間だった。この勢いで沢山食べて欲しい

 

 

 

「ほらほら、そんな急いじゃって。ケーキは逃げないよ~。次の取りに行く前にお口拭こっか!こっちおいで」

 

 

「あい」

 

 

 

テーブルにある紙ナプキンで口の周りをキレイにしてあげる。あうあうと大人しく受け入れてくれた。

 

信頼されてるって証拠なのかな...

 

 

 

 

そんな感じで結局四つくらいのケーキを食べていた。食べ終わるころにはおなかいっぱいでとても満足そうにしていた。

 

連れてきてよかった、そう素直に思う。

 

 

おなかがいっぱいになって、少し眠そうにしていたのでこれで帰ることにした。

 

 

 

明日、あたしはどうするべきなんだろう。そんな疑問が昨日から頭の中をぐるぐるとしている。

 

作戦通りに動き、このコを囮にしてみんなで逃げるのか。それともあたしがそうなる前に止めるべきなのか。

 

皆で逃げることが出来た場合、取り残されたこのコはどうなるのだろうか。怒ったアビドスの人たちはこのコをどうするのだろうか。少なくとも痛い目には遭わせられるかもしれない。ヴァルキューレに突き出されるかもしれない。

 

どのケースでも冤罪で証明する手段がない。ヘルメットをかぶっているから顔も割れていない。捕まったら助かる手段はほとんどない。そんなひどい目には合ってほしくないと、この二日間でそう思ってしまった。

 

 

逆に囮になることを止めた場合どうなるだろうか。普段通り逃げることができるだろうか。違法弾で数少ない仲間が怪我を負ったら、今まで以上にこっち側に被害が出るだろう。

 

盾を持ったピンク髪の人、あの人の強さははっきり言って異常だ。堅いし速いし強い。隙なんてない。

 

今までのあたしたちは、多分見逃されているだけだ。壊滅させようと思えばいつでもできる。あたしはそうだと確信している。

 

他のメンバーも一人一人が総合的に強い。連携の取れた動き、タイミングの完璧なサポート、どれをとっても敵わない。

 

唯一、うちのボスが届くかどうかといった感じだ。

 

だというのにみんな占拠することを諦めようとしない。上からの依頼だとかいう話だけどこんなの無理ゲーだ。

 

一回ボコボコにされたらみんな分かってくれるかな。

 

 

 

戻ったらボスと話そう。

 

 

このコを使うことがないような未来が待っていることをただ祈るばかりだ。

 

 

 

 

 

 

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