不幸な小狐は幸せを探す 作:うしさん
スイートパラダイスで満足した後、アジトへと帰還した。
帰り道も行きと同様、二人で手を繋いで帰ってきた。行きの時もテンションは高かったけれど、帰りの方がすごいテンションが高かった。
ずっとニコニコで鼻歌を歌ったり急にスキップを始めたりしてすこし大変だった。よっぽど楽しんで貰えたのだろう。
今はだいたい夕方前くらいの時間だ。そろそろ訓練が終わりボスが帰ってくる。
ニコニコの小狐ちゃんを今朝いた場所に寝かしつけて、あたしはボスの帰りを待っている。
待つこと数十分、訓練を終えたヘルメット団のメンバーが続々と帰ってきた。土煙で全身が汚れており、みな口々に訓練の話やボスの話をしている。主に愚痴ばかりだが。
ほとんどの団員が帰還した。そして最後にボスが帰ってくる。あたしはボスと言葉を交わそうと近づいていった。
・・・・・ここからがあたしの戦いだ
「お疲れさまです」
「あーおつかれー。そういえばあのよわよわキツネの様子はどうだ?」
「多分元気だと思いますよ。今はお腹いっぱいで眠ってます」
「お腹いっぱいで寝るってガキかよ...」
はい。その通りです。あのコはガキです。言い訳のしようもございません。見た目はあなたと変わらないけど。
「おまえ、今変なこと考えただろ...」
「いえいえ~そんなことはありませんよ?」
ふぅ。危ない危ない。ボスは妙に勘が鋭いときがあるからなぁ。気を付けないと
「それで私に何か用でもあったのか?わざわざ待ち伏せまでして」
「あーそうですね...すこし大事な話というか、長くなりそうなので座って話しません?」
ついに言ってしまった。あたしは今からヘルメット団に反抗するようなことをする。二日間をあのコと過ごして、あたしが自分で考えて出した結論。
あたしはあのコを戦場には連れて行きたくない。今まで散々大変な目にあってきた分幸せに過ごしてもらいたい。
おいしいご飯を食べて幸せそうな笑顔を浮かべてて欲しい。行ったことのない場所で大はしゃぎしていて欲しい。たくさんのお友達に囲まれて楽しそうにしていて欲しい。怪我なんてすることのない平和な場所にいて欲しい。
息を詰まらせないくらいのパンを食べさせてあげたい。一緒にスイーツをたくさん食べたい。
その様子をずっとそばで見守っていたい。
こんなに重い感情があたしにあったなんて、自分でも驚いている。
そんな思いを胸に抱え、ボスと同じ席に着く。準備していた軽いお茶菓子を用意する。
ボスと目が合い、どちらからともなく話が始まる。
「それで、話ってのはなんだ?」
あたしの言いたいことを察しているのか、鋭い目線でこちらを見つめる。思わず冷や汗をかいてしまう
「あたしが話したいのは明日の作戦のことです。」
「その作戦がどうした?もうそれは決定事項だ。今日一日みっちりと訓練もしたし、今更取り消すなんてことは出来ないからな?」
「・・・っ!!そこをなんとかお願いしますっ!!代わりの案ならいくらでも考えるし、あたしがあのコの代わりを務めることだって、なんだってするっ!だから...どうかあのコを囮にすることだけはやめてください...!!」
「・・・ダメだ。一度決めたことは覆さない。今の段階で一番成功率が高いのはあの作戦だ。アレは離脱の為の作戦だが、失敗したら多くの団員が犠牲になるぞ?その責任をとれるのか?お前が代わりになる?バカを言うな!たかが一人のヘルメット団員に囮が務まるかよ!」
・・・くそっ!全部ボスの言うとおりだ...
あたしには囮としての価値はない。さらにみんなを逃がすために時間を稼げるような強さもない。ただの一般ヘルメット団員でしかない...
この様子だと何を言っても否定されてしまう...ここで黙って引き下がるわけにはいかないが、ここからどうすればいいのかが全く分からない。
あたしはなんて情けないのだろう...
ダメだっ!自己嫌悪に陥っている場合じゃない!!諦める前にその頼りない頭から絞り出せ!どうにかしてあのコを
・・・守る?守る......。そうか、守ればいいのか!!これだ!これならみんなの邪魔にならないし、救えるかもしれない...!
「・・・それなら!あたしは戦場から逃げません!その場に置いていってもらっていいです。これなら文句はないでしょう?」
「なるほどな。そういうことか。まぁ別にやめろとは言わないが、怪我を負っても自己責任だからな?うちの物資はやらないから自分で賄えよ?」
「それで大丈夫です」
よしっ!よしっ!少なくともこれであのコを危険から遠ざけられる可能性ができた。あのコが囮にされたらあたしが盾になってでも守ってあげよう。
勝とうなんてハナから思ってなんていない。物理的に守るんだ。あの小さな身体ならあたしの身体で大部分が覆うことができる。今初めて身長が170近くあってよかったと思える。この身体は小さなあのコを守るための大きな身体だったんだ。
希望が見えてきた...あたしはどうなってもいい...せめてあのコを無事に帰したい。
明日に備えて気合を入れねばなるまい
「なんだ?アイツに情でも移っちまったか?誰かに面倒見させたのが失敗だったか...」
「はい、あのコには幸せになってもらいたいです。あのコのお世話をあたしに頼んでくれてありがとうございました」
「はぁ...お前にそこまで言わせるなんてな...まぁ好きにしろよ。無事に帰ることが出来たら、だけどな」
「ありがとうございます!!」
そう言い残しボスは席を立った。あたしは緊張から解放された疲れでしばらく動くことが出来なかった。
ようやく落ち着いてきて、装備の整備を終わらせ小狐ちゃんの眠っている場所へと向かう。
そこにはスヤスヤと気持ち良さそうにヨダレを垂らして寝ている小狐ちゃんがいた。
自分の身に危険が迫っているっていうのに平和なものだ。
あたしは小狐ちゃんの隣へと潜り込む。
横を見ると幸せそうな寝顔をしている。思わず抱きしめてしまう。
温かくていい匂い。昨日お風呂に入ったばかりだからまだ綺麗だ。
胸に抱き寄せ、温もりを感じているとあたしも眠くなってきた。思っていたよりあたしの身体は疲れていたみたいだ。
本当に大変なのは明日だ。守り切れるのがベストだけど、あたしが守りきれず、小狐ちゃんが捕まってしまった時の
これを使う時はヘルメット団から私の居場所は無くなるだろう。無くなるどころか、ヘルメット団から追われる身になる。確実に...
襲い来る眠気を逆らうことなく素直に受け入れる。静かに目を閉じ明日を夢見る。
・・・明日が無事に終わりますように。
***
目が覚めると外は夜だった。
隣にはおねえさんがいる。困ったことにボクのことをギュッと抱きしめている。寝ていた時の安心感の正体はこれかぁ
だけど身動きが取れない...脚が絡まってるし、首元を腕でがっちりとホールドされている。
どうしよう...まだ眠いからもう一眠りしようかな?
そう思ったけど、明日のことが思い出されてなんか不安になってきた。
ボクはどうなるんだろう...戦場というものは全然見たことがないから想像ができない。
この世界の人達はボクみたいに脆くないみたい。銃で撃たれても、血が溢れるなんてことはほとんどないらしい。
確かにボクみたいに脆いのばっかりだったら死人が出そうだ。そしたらこんな血気盛んにならず、もう少し治安も落ち着くだろう。
アビドス高校の人たちはどんな人なんだろう....怖い人たちなのかな?それとも優しい人たちなのかな?
優しい人たちであってほしいな。人数が少なくて仲間想いっていう話らしいから、優しそう。
ボクの話を聞いてくれるだろうか?問答無用で攻撃してくるなんて事は無いとは思うけどどうだろうか?
考えられる限り最悪なパターンとして、アビドスの誰かが血を流してしまうような怪我を負ってしまうこと。それに対して、アビドスの人たちが怒ってしまうこと。
そうなってしまうと話を聞いてくれるか分からない。ボクもこの前怒って殴り掛かってしまった時は、我を忘れてしまって自分をコントロール出来なかった。
正気に戻ったのは、蹴っ飛ばされた後だった。
アビドスの人が怒りに支配された場合、正気に戻すためにはいったいどうすればいいのだろうか。
わからない...今考えたところで答えなんか出るわけがないよ...
とりあえず先のことを考えてみよう。
ボクはヘルメット団から早く離れたい。おねえさんと別れるのはすごく嫌だ。だけど、ここにいる限り危険な目にあうことは確実だ。それならまた一人でひっそりと暮らした方がいい。
欲を言うならばおねえさんについてきてもらいたい。でも、ここがおねえさんの居場所なんだ。居場所を見つけることがどれだけ大変かボクにはよく分かってる。無茶は言うまい。
希望的観測だけど、もし無事に作戦が終わってアビドスの人に話が分かってもらえたら、入学の話とかしてみてもいいのかな?ずっと前から通ってみたかった学校。みんな優しく、人が少ないというボクの理想ぴったりの学校。
友達なんか作って毎日楽しいおしゃべりとかしちゃったり!一緒に買い物やごはんを食べに行ったり!!お勉強なんかもしてみたい!!!みんなで協力して大きな課題とかにも立ち向かったりとかも学生っぽくていいかも...
入学出来たら今までの生活とは一変すると思う。家はないけど学校に泊めさせてもらえたら雨風は防げるし、働く先を見つけられたらお金だって手に入る。お金がもらえるってことはつまり!おいしいご飯が食べられるってコト!!
想像するだけでよだれが...じゅるり...
・・・ってまだ決まったわけじゃないのに何考えてるんだ!これはあくまでこうなればいいなってだけの話!実現しなかったらただ辛くなるだけだ!
はぁ...ほんとうにどうしよう...
というかなんかおいしいご飯のこと考えてたら、お昼のこと思い出しちゃったよ...
おいしかったなぁ...ケーキ...あんなにおいしい食べ物初めてたべたよ...
お店の前に連れて来られた時はすごくびっくりした。こんなところに入ってもいいのかな?なんて思っていたけどおねえさんに手を引かれて入ってしまった。
入った瞬間感じるものすごく甘い香り。朝のパンとは比べ物にならない甘い香りの暴力。ボクの心はメタメタにされてしまった。この暴力ならいくら喰らってもイイ!!
自由に好きなものを選んでいいって聞いて、わくわくどきどきが止まらなかった!白いクリームが乗ったケーキ、チョコレートのクリームたっぷりのケーキ、チーズの酸味が香るケーキ!!どこを見てもケーキケーキケーキ!!
こんなに幸せなことがあっていいのだろうか!もしかして天国なのかな?って思ってた。
おなか一杯になってしまった時は胃袋の小ささを恨んだくらいだ。もっといろんなの食べたかった。
いつかまた行きたいな
今度は全種類制覇してみせる!!
ふと思った。最初何のこと考えてたっけ?
なんでケーキの話になってんの?真面目なこと考えてたはずだったんだけどいつから妄想してたんだろ。わかんないや。
自慢じゃないけどボクは真面目な話とか苦手なんだよね。こうなることは必然っていうか、つまりはそういうこと。
明日は明日、今日は今日。明日のことは明日考えよう。今日は幸せに浸っていたい。
明日も今日みたいな平穏で幸せな一日を過ごせたらいいのになぁ
もうそろそろ寝よっかな。このぬくぬくした場所なら、さっき目覚めたばかりでもまたすぐに眠れそう。
そう思いおねえさんの胸元にギューッと抱き着く。人肌に触れられる幸福感ってなんてすばらしいんだろう。
だんだんと瞼が重くなってきた。
(ありがとう、おねえさん...おやすみなさい...)