塔の街ベルラート
「一先ず、塔の街へ行くか」
影の地へと転移して、目の前の平原を眺めること暫く。神になる。その目的ために俺は一先ず塔の街へ向かうことにした。影の地へ訪れるのはこれで二度目になる。一度目は王朝の騎士たちと共に訪れた。だが今回は一人旅だ。何の後ろ盾もない。慎重に行かなければ。
街へ向かう途中、巨大なウィッカーマンが火に焼かれた廃墟周辺を巡回していたため、少し遠回りして街へ向かう羽目になった。遠回りしたためか、街へ着いた時にはすでに夜だった。
薄暗い街の中を探索していき、ある倉庫の扉の前に立つと。俺はその倉庫に向けて、声をかけた。
「角人の老婆よ。以前、ここに訪れた角人だ。話がしたい。扉を開けて、部屋の中に入れてはくれないか!」
「その声は。以前、塔を訪れた集団の一人か。いいじゃろう。だが、今は散らかっておるでな。片付けるので少し待て」
どうやら、少し待つ必要があるようだ。俺はその場で座り込んで楽な態勢をとると、老婆の準備が整うのを待った。
「もうええぞ。待たせてすまなんだ。夕飯時ゆえ、飯を作っておった」
「それは、悪い時にきてしまったな。すまない。都合が悪いなら日を改めさせてもらうが」
「かまわんよ。折角の久方ぶりの客人じゃ。それにあんた。随分とボロボロじゃないか」
「そんな状態のあんたを帰らせるのは流石に気が引ける。飯をご馳走するから今晩は泊まっていきな」
「折角のお誘いだが、断らせてもらう。私は急ぎのようがあるんだ。話を済んだらすぐに、向かわな───ぐぅ──ーればならない場所があるんだ」
急いでいたため、老婆の誘い断ろうとした時、腹が鳴った。そういえば、王朝が崩壊し影の地に訪れてから一切食事をとっていなかった。腹が空くのは当然といえる。
「……あんたの腹はそんでもないみたいじゃがな。それに。婆の寂しい夕食に付き合ってくれんか」
「……食事に同伴させていただこう」
俺は老婆の誘いを受けて、夕飯に同伴することになった。
「ほれ、たんとお食べ」
「感謝する。これは……」
老婆に礼をいい、皿を受け取った。だが、それは失敗だったのかもしれない。なぜなら受け取った皿。その中身は、何か黒い液体で煮込まれた大きなサソリであったのだから。サソリは随分と長い間、煮込まれていたようで甲殻の隙間から見える身は黒ずんでいた。
……グロテスクな見た目だ。あまり食欲を注がれない。
「どうしたんだい。熱いうちお食べ。サソリ煮込みは出来立てが一番うまいんだから」
「いただきます」
結局、老婆の気遣いに折れた俺は覚悟を決めて、サソリ煮込みを口に入れた。
「うまい。老婆よ。お代わりを頼む」
「ええぞ、ほれ」
「婆の煮込みは美味かろう。なんせ汁に気を遣っておるでな。その汁は秘伝の調合で……」
味は見た目に反して、とても美味かった。それに俺の出自故か。懐かしさを感じた。俺の中に眠るもう一つの魂も震えているのが感じられる。何だか、故郷に帰ったような気分だ。安心感がする。
「あんた。そんなにがっつかなくても煮込みは逃げやしないよ。それに涙なんか流してどうしたんだい」
「え。泣いてなんか」
「あれ、目から汗が。この料理がなんか懐かしい味で。それで、安心したから」
「あんた……」
この世界で見つけた安住の地である王朝。それをミケラに壊されたことで心身ともに弱りきっていたからだろうか。気づけば俺は泣いており、安心感を求めるため。煮込みを掻き込んでいた。
老婆は無言でそんな俺に近づいてきた。老婆は俺の後ろ側に回り、その手を背中に添えると無言で背中をさすりだした。それは俺が泣き止むまで続いた。
「落ち着いたかい。あんたも疲れたんだろう。今日はもう寝な。要件は明日話な」
「先ほど、お見苦しいものを。すまないが。そうさせてもらう」
こうして、話は明日に持ち越しとなった。