塔の街ベルラートの倉庫。老婆と一晩過ごした俺は。翌日の朝、老婆にここに来た目的を話していた。
「私は神に成るために訪れた。この街には神になる秘術が伝わっているんだろう。頼む。教えてくれ」
「お主。何故、秘術について知っておる。答えよ」
「秘術については私が信奉する神が教えてくれた」
「お主の神か。名はなんという」
「真実の母という神だ」
「……」
その質問に答えたとき、倉庫の中の温度が冷え切ったのが感じられた。正直。今の質問に答えたのは失敗だった。角人たちが古くから信仰している神は神獣。嵐の神のことだ。俺たちが信仰する真実の母とは別の神だ。云わば、今の俺は他宗派の者に、その宗派で行われている儀式をさせてくれと頼みこんでいる。そりゃあー、いい顔はされない。
「ワシら。角人が何を信仰しとるのか。知っとるか」
「ああ。知っている。塔の民は神獣を信仰しているのだろう」
「それを知りながら。アンタは神に成りにきたのかい」
「ああ、その通りだ」
「黄金律の王。女王マリカは私たちを裏切り。異教の黄金律を掲げた。そんな、マリカと同じ異教徒であるアンタを信じろというのかい」
「ああ、確かに。私は異教徒だ。だが、それ以前に角人だ。女王マリカとは違う。私は同じ角人として、貴方たちと同じ道を歩めると信じている。私が神になったならば貴方たちの一族にも救いを与えてみせる」
俺の言葉を聞いた老婆は黙り込んでしまった。そこから、老婆はぶつぶつと独り言を呟いていた。老婆の独り言が続くこと、しばらく。老婆は突然、視線を俺に向けると俺に語り掛け来た。
「アンタの頼みは分かった。その願いに私たち角人も協力しよう。でも、一つだけ条件がある。条件はあんたに勇人になってもらうこと。これさえ、叶えばいいよ」
「私が勇人に?」
「そう。あんたが勇人になるんだよ。あんたは同じ角人でもよそ者の異教徒だ。塔の民たちからは信用されん。信用がない者に秘術の儀は任せられん」
「だが、塔では霊性の高いものが尊ばれる。それがよそ者であろうとも。だから、ここで修行して立派な勇人になって信用を勝ち取りな。それに、修行と並行してあんたの信仰する神についても詳しく教えてくれんかの。儂らは血鬼からしか。その神について聞いておらんでな。その神の実態をあまり知らんのじゃ」
「了解した。貴方たちの協力も取り付けたことだし、私の計画についても話そう」
そこから、俺はこれから先の近い将来。ミケラとその同志たちが影の地に訪れ、ミケラによって秘術が行われること。また、俺が儀式の贄としてミケラに利用される主君を取り戻し、復活させることを望んでいること。そのために、この地で何がしたいのかを話した。
「その計画じゃ。あんた。儀式は失敗するよ」
「じゃあ。どうすれば……」
「そりゃー。あんたがより厳しく修行すれば解決するじゃろう」
「ええー。本当にそれで解決するのか」
老婆に計画を話した結果、俺の計画の穴が見つかったりもしたが老婆と相談することで解決していった。
「それじゃあ。修行に向かう。老婆よ。協力感謝する」
「計画はお主次第じゃ。精々励むことじゃ。孫には手伝いを頼んどるから利用せい」
老婆と相談で計画を練り上げた俺は勇人となるため。塔で角の戦士たちに混ざり、修行を開始した。修行する傍ら影の地を巡り、真実の母の布教も進めていった。修行や布教先では、メスメル軍との交戦や蠅人となった村人の治療など様々な出来事が起こった。
塔の街ベルラート。女王マリカの焼き討ちの命を受けたメスメルがメスメル軍を率い、焼き払った地。そこでは、普段はメスメルの戦火逃れた町民たちが細々と暮らしている。だが、今日は普段とは違い町民たちは浮足立った様子で広場の前に集まっていた。
そう。新しい勇人が現れたという久しぶりの嬉しい知らせが舞い込んだために。
俺は今。広場のど真ん中にいる。広場には沢山の町民や修行を共にした角の戦士たちがいた。前を向けば、そこには老婆がいる。俺は今からこの老婆から勇人に任命される。
「あんたを勇人の一員とする。後で、秘儀についても教えよう」
「本当にありがとう。ここまで来れたのは貴方たちのおかげだ」
「儂は何もしとらん。あんたが頑張ってきた結果じゃ」
「それでは、勇人の任命式を始める」
老婆と会話を終えると、俺は老婆から少し離れ。その場に片膝をつけ、その場に静止した。それを確認した老婆の一言によって、任命式が始まった。
「この者は、よそ者ながら。我々、角人の英雄たる勇人となるための厳しい修行をこなした。よって、この者を勇人に任命する。異論ないな」
老婆の言葉に異論を呈するものは誰一人としていなかった。
「それでは、この者を勇人とする。皆、これからは敬意込めて勇人様と呼ぶように」
こうして、修行を開始してから十年。俺はそういった出来事を乗り越え、遂に角人として勇人の一員になり。老婆から秘儀について教わった。
そこから、更に数年。俺が勇人となったことで俺が信仰する神に興味もった角人を相手に布教に勤しみ真実の母を信仰する信徒を増やしていった。また、血鬼の長とも同じ信徒であると交渉し、血鬼たちも派閥に加わってもらった。そうして、彼ら共に影の地に第二のモーグウイン王朝を造り上げた。
「これは!! やはり、モーグ様は倒されてしまったか」
「それでは、血鬼の長殿。赤き角の戦士殿。それに信徒の皆さん王朝に向かいましょう」
真実の母から受け取った信徒の状態を把握する能力でモーグ様が倒されたことを把握した俺は。影の地で新たに加わった信徒たちを率い。我らが故郷。モーグウィン王朝に帰還した。
──────モーグウィン王朝──────────────────
「そんな。モーグ様と王朝の皆さんが魅了を。ミケラ許せませんね。借りは返します。もちろん、あそこにいる私の貴方にも」
モーグウィン王朝。久しぶりにそこに訪れた俺は。信徒たちを率いて、山の山頂付近に隠れ潜み、そこから王朝の玉座の間を伺っている。ちなみに、山を登る過程で昔の同僚であるヴァレーが倒れていたので俺の血を与えて蘇生した。
最初は俺がどこいたのかと怒り狂っていたが。俺が王朝を離れた経緯を話し始めると、一度死にかけたことでミケラの魅了が解けたようで。段々と自分や王朝の皆が魅了されていたことに気がついていった。今は、俺の話に納得したようで後ろで、褪せ人とミケラに対しての復讐に燃えている。
ヴァレーの恨み言を聞き流しながら、望遠鏡をいじっていると。そこに人影が映った。急ぎ望遠鏡のピントを合わせると、狼の戦鬼シリーズを身につけた褪せ人と針の騎士レダが会話しているのが見えた。俺は直ちに全員を静かにさせると、その会話に耳を澄ませた。
「……ああ、君もミケラ様に導かれたのだね」
「私はレダ。君と同じように、導きに従い、あの方の足跡を追っている……」
その言葉は俺が生前、聞いたものと同じだった。きっと、これから褪せ人は影の地に向かうのだろう。
「皆さん。確認は取れました。あの者たちを追って影の地に向かいましょう」
「我らが主君。血の君主、モーグ様のため」
褪せ人殿、ミケラの同志たち。
「さあ、そこの枯れた腕に触れ、影の地に向かいたまえ」
「私もじきに行く。かの地で、再び見えよう」
「私たちもじきに訪れます。かの地にて、再びま見えましょう」
褪せ人は枯れた腕に触れ影の地へ向かった。それを追うように。レダは枯れた腕に触れ。新王朝勢力は祝福の力で。影の地へ旅立った。
それぞれが違う思惑を掲げ、三つの勢力は影の地に向かった。