私の刃よ、そして祭りの英雄よ
貴方たちの戦いは、ずっと謳われる
そして約束は果たされ、強き魂が還ってくる
私の王となるために
褪せ人に続き、霧をくぐり抜けた先。神の門に繋がる広場へと入りこんだ。広場の奥に建てられた神の門。霧に包まれたその門から、俺たちの耳にミケラの声が届いてきた。
祭りの英雄、彼の刃。彼らを称えるミケラの宣誓が広場に響き渡る。宣誓が終わりに近づいていくにつれ、霧は徐々に消え。霧に浮かび上がっている人物の足、手が写っていく。そして、霧が晴れ渡ったとき、全貌が明らかとなった。
神の門。その頂上。そこには、腕を組んで仁王立ちするラダーン将軍がいた。ミケラの王となるため、遠い狭間の地から帰還したラダーン将軍が。
ミケラの敵である俺たちの存在に気付いたのだろう。ラダーン将軍は地面に突き刺さっている双大剣に手を翳し、重力の力で引き抜こうとする。二振りの双大剣が擦れることで火花が散る。そして、その両手に大剣を収めると、空に咆哮を上げ。構えをとった後、錐揉み回転しながらこちらに突っ込んできた。
「アンスバッハ殿!!」
「ええ、わかっております!!」
こちらに狙いを定め、突っ込んでくるラダーン将軍の攻撃を。アンスバッハと俺はバックステップや王朝鎌技で避ける。
「ラダーン将軍、お久しゅうございます」
「しかし、その体、返して頂きますぞ。我が主、モーグの尊厳のため」
若かりし頃、サリアの街でラダーン将軍で戦ったことをを振り返りながら。アンスバッハはかつて忠誠を誓ったモーグの尊厳のため、ラダーン将軍に切りかかった。
「私もです」
そんな彼に、俺も手に持った大剣を振り下ろすことで、二人の戦いに参加する。
「王として、お前と戦おう」
「ただ、トリーナ様のために」
そんな俺に続いて。褪せ人とティエリエの二人も。そう啖呵をきると、冷気を纏わせた暗月の大剣と調香瓶で生成した毒で。ラダーン将軍を攻撃する。
「ぐっ」
突撃し、前かがみの姿勢をとっていた。ラダーンが立ち上がり、双大剣を振るう。その攻撃の対象となった俺は。苦しいながらもラダーンの両手剣による連撃を回避する。
連撃が終わったラダーン将軍へ接近して、褪せ人たちと共に。ラダーン将軍を攻めたてる。
突如、ラダーンが大剣を片手に持って。それを空間に刺し込んで、横一文字に振るった。すると、空間に傷が入り、血炎の爆発が起きた。
「つっ。どこまで」
どこまで。どこまで、我が主を恥ずかしめるつもりなのだ。
虚空に傷を作り、そこから血炎の爆発を生じさせる技。敬愛する主が得意としていた祈祷の一つ。その力を他人に使われる。その事がミケラへの怒りをより深まらせた。
「……受けざるえないか」
だが、それがよくなかった。怒りで思考を埋め尽くされたせいで。判断が鈍っていまい、目の前のラダーンへの反応が遅れてしまった。左右に振られる剣を回避するが、避けた先での両手の剣によるクロス斬りが待っていた。
回避していては間に合わない!!
その直感に従い、俺は大剣を構え、訪れる衝撃に身構える。
「ぐうぅぅ」
大剣の一撃は凄まじく、あまりの重さに。大剣で受けたにも拘わらず、その場から俺は吹き飛ばされてしまう。
「だが!!」
だが、これでいい!!
吹き飛ばされたことで、広がった視界の中で。ラダーンの巨体に隠されて見えていなかった。褪せ人たちが現れる。
俺は一人で戦っているわけではない。剣を振り終え、隙が生まれたラダーンに、褪せ人たちがそれぞれの獲物で攻撃していく。そして、状態異常が蓄積したのだろう。三人の攻撃によって、ラダーンに毒、出血、冷気が次々と発生する。
「はは。あのラダーン将軍といえども、血は流れますか」
「そのようですな」
漏れた言葉に。いつの間にか。隣に立っていたアンスバッハ殿が同意する。
ちょうどいい。先ほどから、疑問だったことがある。確認をとるとしよう。
「アンスバッハ殿。気づいておられますか」
「ええ。どうやら、ラダーン将軍は貴方に敵意を向けることが多いようですな」
「無論、私たちへの攻撃が一切ないというわけではありませんが」
やはり、そうだったか。褪せ人たちを攻撃してもいるが。先ほどから、ラダーン将軍の攻撃が。比較的、俺に向けられるのだ。
「まさか、あの状態で。私たちの作戦に気づかれたというのか」
褪せ人たちと戦っているラダーン将軍を見る。あの日、聖樹でミケラに魅了されたモーグ様と同様に。彼の目にも生気が宿っていない。ただ、操られた人形のように、鍛え上げた武を無感情に振るっている。
とても、こちらの作戦に気づくほど考えが回っているようには見えなかった。そもそも、今戦っているラダーンに。意思と呼べるものが一欠けらでもあるのだろうか。
「それでも。破砕戦争、最強のデミゴットと謳われた。かの将軍ならば、勘づくかもしれんな」
かの、破砕戦争をその武勇でもって最後まで生き抜いた。ラダーン将軍ならば、歴戦の勘で。こちらが何か画策していることに勘づいたのかもしれない。
そして、計画の中核を担っている俺を潰そうとしている。
「私が主にラダーン将軍の攻撃を受けましょう。その隙に、彼らと共に、ラダーン将軍への攻撃を」
「ええ、了解しました」
好都合だ。早めに、俺を潰そうとするラダーンの思惑。それを利用して、この戦いを有利に進めるまでだ。
防御に専念して、ラダーンの攻撃を主に俺が受ける。そうして、生まれた隙に、褪せ人たちが攻撃を差し込んでいく。時々、狙いが褪せ人たちへと向かうが。俺も攻撃に参加することで、狙いを戻す。
俺が倒されると、計画が崩れてしまう。その事だけは念頭に置いて。神の門から降りてくるであろうミケラとの戦いで。神を降ろせるだけの体力を残すことを意識して、戦っていった。
「星呼びか!? 避けろ、吸い寄せられるぞ!」
「っ。了解した。褪せ人殿」
追い詰められたラダーン将軍が足を止め、その場に留まった後。両手に力を込め、剣を掲げ咆哮を上げる。その動きに心当たりがあった褪せ人が、今から起こるラダーン将軍の攻撃。その危険性にいち早く気付き。三人に回避するよう声を呼びかける。
褪せ人の警告に従って、その場から離れようとする三人。そんな、三人を追うようにラダーンを中心に、重力の渦が起きる。引き寄せられていく三人に向かって、重力を纏った大剣が振り下ろされ。地面が炸裂した。
「お返しだ!!」
警告を聞いた一同が星呼びをギリギリのところで避けることに成功する。
そして、褪せ人が返す刀で。暗月の大剣から光波を生み出し、放つ。
放たれた光波はその勢いを衰えさせることなく進み。将軍の元へと直撃し。二度目の凍傷を引き起こし―
―遂にラダーン将軍の膝を着かせた。
膝を着くラダーン将軍。
突如、風が吹き抜けた。彼の赤髪を、獅子の刺繡が施されたマントを揺れ動かした。
赤い靄のような物が体から溢れだし、顔が眼前の戦士たちへと向く。
その目に、確かな闘志が宿った。その時
「……兄様」
神の門から帰還した新たな神。ミケラが出迎えた。
「やっと、還ってきてくれたのですね」
ミケラの足元から光の柱が生じる。それに呼応するように、ラダーンの体を覆っていた赤い靄が。金色の靄に塗り替えられた。
「……褪せ人よ」
「旧律の王たるものよ。貴方が罪を知り、世界を憂うのなら」
神となったことで三本腕となったミケラが。ラダーンの背に乗り移り、二本の腕をその首筋に絡める。そうして、赤髪と獅子のマント。その両方ともがミケラの金髪に覆い隠される。
「我らに道を譲りたまえ」
「ミケラと、我が約束の王、ラダーンに」
後光に照らされ。顔を俯かせたラダーンとその背に乗るミケラが浮かび上がった。
その後、ミケラが右手を天へと伸ばし、その場に来た皆へ
(道を譲れ)そう呼びかけた
「……お断りだ」
それに拒否を示して。武器を取って、ミケラと向き合った。
ミケラの王、ラダーンとの戦いが始まった。