「ここが影の地。遥か遠くに見える巨大な樹。あれは何なのでしょうか」
「黄金樹と酷似していますね。しかし、影で出来ている。いわば、影樹といったところですね」
血の君主モーグとそれに付き従う純血騎士たち一行は影の地に訪れていた。
「モーグ様。ここに我らと同じ神を信奉する信徒たちがいるのですか」
「ええ、います。この地から我が神への祈りを感じますので」
この地から同じ神を信奉する信徒たちの祈りを感じ、彼らを新しい王朝の民に勧誘するために。
純血騎士褒章もらってから数か月、俺はワープ有効活用し、血の指活動に勤しんでいた。ある日、俺はモーグ様に呼び出されある頼まれごとをした。その頼まれごととは遠征についてきてほしいといいうものだった。
どうやら、遥か彼方から真実の母への信仰を感じるらしく、その信仰を捧げている存在を確認したいらしい。そして、彼らが話が通じる相手ならば、モーグウィン王朝に勧誘したいそうだ。
もちろん。モーグ様からの依頼は受けさせてもらい、俺は一行の一員として加わった。移動はモーグ様の力によって行われ、俺たちは影の地を訪れた。
「こんな洞穴に何のようだ。角人よ」
「私たち。血鬼の一族はかつて奴隷であったが今は違う。再び奴隷にするつもりならば、抵抗させてもらう」
「いえいえ、奴隷などと。そんなつもりは一切ございませんよ。ここへは勧誘に来たのですから」
「私たちはあの姦婦とその子であるメスメルが行った非道を許せない。同じ角人といえど共に道は歩むことはないだろう。帰ってくれ」
「残念です。また、お会いしましょう」
モーグ様と俺たち純血騎士はモーグウィン王朝の民の勧誘のために、塔の街ベルラート、川終わりの洞窟など影の地各所を回っていた。勧誘の成果は芳しくない。
どうやら、ほとんどの角人や血鬼からはマリカの子あるいは角人として恨まれているようで共存はあり得ないとのことだった。会話が成り立つのはいいほうで、向こうから襲い掛かってくることもあった。
だが、そんな中にも気のいい奴は何人かいたのか。一部の角人や血鬼たちはモーグウィン王朝に興味を持ったのか最後まで耳を貸してくれ。今度、王朝を訪れたいと返事を返してくれた。その言葉は影の地の住民と交友した俺の心を癒してくれた。また、変わったこともあり老婆に突然話しかけられ「あんたこそが角人の悲願を達成させる」とだけ伝えられることもあった。
「モーグ様。そろそろ遠征の期日です。一度王朝に帰還いたしましょう」
「そうですね。成果は少ないですが影の地の民とも顔を繋ぐことができました。一度帰りましょうか」
「皆さん。私に触れていますね」
「「「「はい。触れております!!」」」」
「それでは。帰還します!!」
俺たち純血騎士一同全員がモーグ様の手に触れた状態で待機し、号令の基一斉に王朝に帰還した。遠征からの帰還はすぐに王朝全体に広がり、王朝の民たちによって遠征の祝賀会が開かれた。そこで、俺たちは影の地での活動を王朝の民に話していった。
モーグたち純血騎士一行が影の地への遠征から帰還する少し前。 ミケラの聖樹の最下層。花畑の中で二人の兄弟が会話していた。妹は悔いるように、兄はそんな妹を励ますかのように。
「ごめんなさい。兄さま。私のせいで聖樹が腐敗を」
「マレニア。君のせいじゃない。聖樹が腐敗したのは私のせいだ」
「そんなことはありません兄さま。私が腐敗を抑えれていれば」
「あるんだよ。マレニア……」
聖樹を腐らせたことで失意にくれるマレニアと数時間による会話で、彼女を何とか励ましたミケラ。彼はマレニアを自室に帰らせた後。一人花畑の中で呟いた。
「私の生まれ持った呪いのせいだ」
マレニアがその身に宿した腐敗を癒すため、ミケラは聖樹を自身の聖血を与えて育てた。順調に成長していくかのように思えた聖樹。しかし、聖樹はある時、成長は止め腐った。
「そもそも、この計画は破綻していた」
ミケラの宿す無垢金には腐敗、狂い火などを癒す力がある。ミケラはその力に目をつけ、聖樹に無垢金の力を宿すことで腐敗から妹を救おうとした。聖樹を創り、そこに新しい律を打ち立てるミケラの計画。そこには致命的な弱点があった。それはミケラ自身の永遠の幼さであった。ミケラの聖血で育てられた聖樹は確かに無垢金の力を宿した。だが、永遠に成長しない性質までも受け継いでいた。これによって、ミケラの聖樹は成長は停滞し、腐敗の神を払うほどの力を持つことはなかったのだ。
「自分がいかに呪われた存在であるのか痛感させられるよ。マレニアが腐敗に蝕まれたのも私のせいだろうし」
兄弟は神人を生み出すためラダゴンとマリカの単為生殖で生み出された。単為生殖で生み出された二人はマリカの生き写しといえた。そんな兄弟が神の座に就くことは正に停滞といえた。だからこそ、一人目の子が永遠に幼い停滞の器として生まれ。二人目は停滞を感知した腐敗の女神によって呪われ腐敗の女神の器として生まれることは必然だった。
今回の計画の失敗でこの呪われた身を捨てなけばマレニアは救えないことが分かった。もう、あの計画にかけるしかないのだろう。
「すみません、モーグ。貴方を私の計画のために利用します」
「そして、見ていてください。ラダーン兄さま。私は神になります」
ミケラはその宣言と共に花畑の中を出ていき、マレニアや彼女の騎士団に星砕きの英雄ラダーンを殺害するように頼みにいった。すべては計画を進め、あまねく全ての者を救済するために。
こうして、ミケラの手によって破砕戦争は終結に繋がっていく。
無垢なる黄金。その第一歩である。