史上最強の弟子ケンイチ 〜僕は二周目をこう生きる〜 作:眠眠バカ
思いつきで書いた話でしたが、自分の想像以上に良い評価だったので驚いております。
第二話もよろしくお願いします。
逆行、この言葉を辞書で引くと大凡このような答えが返ってくる。
ぎゃっこう【逆行】[名・自スル]
①物事の進むべき方向とは逆の方向に向かって進むこと。⇔順行。「時代にーする考え」②〔天〕天球上で天体が東から西へ動くこと。
>retrograde motion
(集英社国語辞典[第二版]より抜粋)
そして僕が「逆行」と聞いて思い浮かぶのが、太宰治の小説だ。タイトルもそのまま「逆行」。
この作品は「蝶蝶」、「盗賊」、「決闘」、「くろんぼ」の4篇で構成されているのだが、読み進めていくと、主人公の年齢が25歳、大学生、高校生、少年、と時代がまさに逆行していく仕組みになっているのだ。
第一回芥川龍之介賞の候補にも挙げられた作品なので、是非一度読んでみてほしい。
それで、なぜ先程から逆行について語っているのかというと…
「兼一、幼稚園のバスが来たわよー!」
「い、今行くよー!」
この通り、僕の年齢が3歳にまで戻っていたからである。まさに逆行。あり得ない事態に驚愕と多少の恐怖も感じたが、生きていたのでよしとした。
それにしてもこの身体、慣れてきたとはいえ頭でっかちの4頭身で酷く動きづらい。
試しに家のなかで、前の身体と同じ感覚で走ってみたところ、頭から床に突っ込んでしまい、滅茶苦茶痛かった。
やはり3歳児には3歳児に適した動きがあるようで、修正には時間がかかりそうだ。
幼稚園に到着しバスから降りると、いきなり背中に衝撃を受けた。とはいえ、倒れてしまう程のものではなかったので軽く前方に走って衝撃をいなす。
後ろを振り向くと、3歳にしては体の大きい男の子が機嫌の悪そうに立っていた。どうしよう、誰だか全く覚えていない。
「よぉ、けんいちぃ。おれにあいさつもなくあるいていくとはどういうことだぁ?」
「あ、おはよう?」
「おい、てめえ。あいさつは「おはようございます、けんとさま」だろうが」
そして漸く思い出す。
鹿島健斗、僕の人生で初めていじめを受けたのがこの子をリーダーとする男子3人組からだった。
そういえば3歳のときからいじめを受けてたことをすっかり忘れていた。
梁山泊での修行が、いじめとかどうでもよくなるくらいに厳しすぎて。
さて、どうするか。
波風立てないようにここは大人しく従うか?
いや、その選択肢は無い。僕が武術を始めた理由が
「誰もが見て見ぬふりをするような悪に立ち向かうため」なのだから。
「断る!僕と君は同い年だ、なのに何故君は上から目線でものを言っているんだ?背中に蹴りをいれたのも君だろう。確かに挨拶をしなかったのは悪かったかもしれない。でも、それは人を殴っていい理由にはならないはずだ!」
「こいつ…!」
先生たちに届くようにわざと叫ぶ。その声に気づいた先生がこちらに向かってきた。周りの子供たちも、「あれはかしまくんがわるいよ」と先生に言ってくれたので、この場は上手くおさめることができた。
「鹿島くん、白浜くんに謝りなさい」
「くっ…ごめん、なさい…」
「うん、分かってくれたならいいんだよ」
鹿島君は僕を睨みながら謝った。あの目は絶対やり返すつもりの目だけれど、先生もいるし特に何も言わず終えることにした。
「(あいつ、ぜったいゆるさねぇ…!)」
鹿島は酷く苛ついていた。原因は先程の一件。
今まで、鹿島の命令に何も言い返してこなかった兼一が、今日になって反撃してきたからだ。
周りに聞こえるように叫んでいたので、こちらは謝るしか選択肢はない。屈辱だった。
「おもちゃのくせに、たてつきやがって。クソがっ 」
「けんいちのやつ、はんこーしたのか。あーあ、おわったな」
「だね。おれたち、とくに、かしまをおこらせてタダですむわけがないのにな。それで、どうするんだ「リーダー」」
「…あいつには「しつけ」がいるみたいだ。おれにかんがえがある」
仲間の木下将吾と上田康成に作戦を話す。異論は無いようで、二人は頷いた。
早くこの苛立ちを鎮めたい。苦痛に顔を歪ませる兼一の顔を想像することで、鹿島はその時がくるまでを耐えていた。
「32…33…34…」
幼稚園から帰宅した僕は自室で形稽古をしていた。
体力と相談して、休み休みやっているが、それでも回数をこなす毎に少しずつ思い通りの動きが出来るようになってきた。まだ5回に1回くらいの成功率とはいえ進歩があるのは嬉しいことだ。
「(そういえば、結局今日は仕返ししてこなかったな)」
あの後、鹿島君は特に何かをするわけでもなく普通に家へと帰っていった。昼休みにでも仕返しにくるかと予想していただけにちょっと拍子抜けだ。
「(まぁ、何もないならそれが一番なんだけど。あまり期待しないでおくか)」
何せあの目だ、とても反省している人がするような目ではない。今日でなくともいずれその時が来るだろう。
いやはや、昔の僕も苦労してたんだねぇ…。
そんなことを考えているときだった。
家のチャイムが鳴り、応対した母さんが1階から僕を呼んだ。
「兼一、お友達が来てるわよー」
「誰ー?」
「鹿島くんとそのお友だち2人ー」
来たか、やはり即日で仕返しにきたか。しかし、何故このタイミングなんだろう。不思議に思いつつ玄関へと向かうとそこにはあの3人に加えて1人の女性が立っていた。
「兼一くん、うちの健斗が色々とひどいことをしたみたいでごめんなさいね。ほら、健斗も」
「ほんとうにごめん、おれがわるかったよ」
あー…。成る程、そう来ましたか。
親に敢えて苛めていたことを報告することで、罪悪感がある、反省していることをアピール。
基本的に親にとって我が子は可愛いものなので、本人に謝るところを見せたらもう二度とやらないだろうと信じてしまう。同じく、僕の母さんも。
本当、とても3歳児が考えたとは思えないな。大方、ドラマか何かでそういうシーンがあったんだろう。
「ほら、兼一。健斗くんもこう言ってるんだし許してあげよ?」
「うん、勿論だよ。仲良くできればそれが一番だもの」
僕の言葉に安堵した様子の3人。でもそれは「許してもらえて良かった」という意味でないのはお見通しだ。
「ありがとうね、兼一くんが優しい子でよかったわ。よければ、仲直りの証に健斗と遊んでもらえないかしら」
そして、鹿島君のお母さんが意図せず僕の退路を塞ぐ。こちらも退く気はないから答えは一緒だけど。
「うん、いいよ。じゃあ行ってきまーす」
「行こうぜ、「けんいちくん」」
さぁて、ここから先は戦場だ。
僕は鹿島君たちと共に外へ踏み出した。
やって来たのは近くの公園、ではなく僕の家から離れた場所にある空き地だった。その間も3人は仕掛けてこなかった。他人には余程見られたくないらしい。後ろめたいなら初めからしなければいいのに。
「それで、鹿島君たちはいつ僕を襲ってくるの?」
「はっ、きづいててついてきたのか。バカなのか?」
「断れない状況にしといてよく言うよ。ほら、まだなの?僕、本が読みたいから早く帰りたいんだけど」
「バーカ、かえすわけないだろ。しょう、やす、やれ!」
鹿島君の合図で二人が襲いかかってきた。
僕はこのときになって初めて二人の名前を知った。
だってしょうがないじゃないか、クラスが違うんだもの。
掴みかかってきた一人をかわし、もう一人のパンチを手で払う。空手の回し受けだ。
武術は攻防一体。受けと攻めは流れるように行われ、本来ならば受けた後即座に反撃に転ずるのだが、敢えて僕は攻撃しない。終始回避と受けに専念した。
梁山泊では、師匠たちの指導と怪しい薬のおかげで丈夫な身体にさせられていたが、今の僕は3歳児。
下手に殴って拳を痛めたくはない。それに、反撃をしたら相手に口実を与えてしまうことになる。
だがこの集団リンチ、というには些か拙いが僕にもちゃんと利点があった。
組手主体。相手の行動に適切に、そして柔軟に対処できる実戦的な技法を養うために、少林寺拳法という武術においては二人一組での修練を原則としていると聞いたことがある。
梁山泊には少林寺拳法の達人はいないものの、実戦のなかで技法を学ぶ、という点では師匠たちも同じ考えであった。
回避と防御のみの組手。そういうことから、僕はこの戦いをあくまでも修練と位置づけて事に挑んでいた。
「クソっ、なまいきにもかわしやがって!」
「あたってるのに、ぜんぜんきいてないとかふざけんな!」
二人が僕を罵る。こちらは最小限の動きで対処しているのに対して、相手は大振りで殴りかかっている。
体力の消耗は明らかにあちらの方が激しかった。
ここで、今まで動きのなかった鹿島君が動く。
片手一杯に砂を掴んで僕に投げつけてきたのだ。
ここで逆風が起きて鹿島君が自滅したら面白かったのだが、生憎と風は僕のいる方向に吹いていた。
「いまだ、ぜんいんでやるぞ!」
鹿島の声で二人も動く。
僕は砂が目に入らないように腕で目の周辺をガードしたが、三人は既に目の前。
避けることも受け流すこともできなかった。
「おらぁ!」
「・・・っ!」
鹿嶋君渾身のパンチが腹に突き刺さる。
三戦立ちに構え、咄嗟に腹筋に力を入れたので多少ダメージは抑えられたが、それでも全く効かないわけではない。
二人もチャンスとばかりに殴りかかってきたが、
流石に何発も連続で当たってあげる僕ではない。
二人の攻撃を避け、体勢を立て直す。
「ちっ」
その後も、避けては払い、そして時々腹で受けることで三人を奮い立たせて…10分が経過した。
「はぁ…はぁ…」
「つかれて…、たてねーよ…」
「ク…ソがぁっ…」
三人は疲労の限界で地面に膝をついた。
とはいえ、僕の体力も大分削られていたのでいい頃合いだった。
「ふーっ、流石に僕も疲れたから帰るね。じゃあ、
「ちくしょう…!覚えてろよ!」
唯々捨て台詞を叫ぶ鹿島君たちに別れを告げ僕はその場を去った。
そして、次の日も、また次の日も三人は僕を
まぁ、良い修行になったとだけ報告しておこう。
「ただいまー。あー、疲れたぁ」
「あら、お帰り兼一。今日はお外で何して遊んだのかな?」
「んー。カンフーごっこ!」
「逆行」と聞いて思い浮かぶのが太宰治の小説だ~ とか適当に書いていたんですが、
兼一の第一巻で太宰治の「人間失格」を片手に教室に入るシーンがあったんですね。何たる偶然
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