史上最強の弟子ケンイチ 〜僕は二周目をこう生きる〜 作:眠眠バカ
駄菓子屋で起きた事件は、長老の登場により完全に終息する。
長老の気当たり混じりの説教で、意識を取り戻した男たちが、何度も何度も涙や汗、そして小便を流しながら意識を途切らせていたのがとても衝撃的…、印象的だった。
そして登場時、長老の肩に担がれていた龍斗だが、長老が駄菓子屋に到着したときに放った気当たりが原因で見事に気を失っていたので、龍斗も梁山泊へ連れていくことになった。
何でも、長老は荒れた事件現場やこれから行う説教を龍斗に見せないために敢えてやったと言うのだが、それが果たして本当なのかは少し怪しいところだ。
「ただいまですわー♪」
梁山泊に元気な声が響く。お客自体が少ないこの家に、同年代の子供が来るとあってか美羽さんのテンションはバッジを交換した時のように高い。
「お邪魔します」
「邪魔するなら帰るといいね」
「っ?!」
僕の挨拶に反応して一人の男が現れ、果たして冗談なのか判断しづらい返事をした。
その男は長い黒髪を後ろで束ねており、上背はないが美形である。
そして、喋り方には外国人特有の訛りがあった。
僕の知る顔とは随分と差があるのだが、背格好からして思い当たる人物は一人しかいない。
「馬さん!お客様に失礼ですわ!」
「(やっぱり馬師父!)」
美羽さんの発言でこれが馬師父だと判明し改めて驚く。
まさかこの美形が本当に「あらゆる中国拳法の達人、馬剣星」だとは思いもよらなかったのだ。
以前から、事ある毎に師父のモテ話を聞かされてはいたが、正直なところ疑っていたために僕は思わぬ衝撃を受けた。
それにしても、元の世界において、この先10年の間に馬師父の身(頭髪)に何があったというのだろう…。きっと、相当な苦労があったに違いない。
「おぉ、ついに美羽が友人を連れてきましたか。今日はお祝いですな。そして剣星、冗談でもそんなことを言うもんじゃない。そもそも、君も客人だろうに。」
冗談(?)を言った馬師父に対し、それを諌める人物が一人奥から現れた。岬越寺師匠だ。余り変わらない姿だったので、こちらは僕もすぐに分かった。
「あいやー、痛いところを突かれてしまったね。すまんね少年。ゆっくりしていくといいね」
「あ、はい。白浜兼一といいます、よろしくお願いします」
「…ふむ、随分と礼儀正しい子のようだ」
「じゃろう?美羽とは駄菓子屋で仲良くなったようでの―」
僕が挨拶を済ませたところで長老が母屋の玄関へと入ってきた。
しかし、先程まで長老が肩に担いでいた龍斗の姿がない。聞けば、此処にはお客様用の布団がないそうで、岬越寺師匠の診療所へ運んだとのことだった。
「…そうですか。しかし、知らない場所で目が覚めるというのも不安でしょう。後程ベッドごと此方に運んでおきます」
「そうじゃな、よろしく頼む。それでは兼ちゃんや、ついて―」
「さあ、参りますわよ兼一さん!」
「―ッ!?」
待ちきれなかったのか、美羽さんは長老が言い切るよりも早く、僕の手首を掴み走り出した。
突然掴まれたこともあり、僕の足は無意識のうちに踏みとどまろうとしていたが、美羽さんの顔を見るに
早く遊びたくて仕方がないという感情がありありと出ていたので、その力に逆らわず僕も走ることにした。
「―はい!行きましょう!」
「ではおじい様、先に道場の方に行ってますわ!」
「これこれ、そんなに慌てんでもよいじゃろうに」
「…行ってしまいましたね。友達が出来たことが余程嬉しかったのでしょう」
「あの子にはまだ数十回しか会ってないけど、あれほど嬉しそうな顔は見たことないね」
目の前の光景を見て、知らず内に長老、秋雨、剣正の頬は緩んでいた。
美羽はこの梁山泊の癒しなのだ。
「ところで、じゃ。あの兼一という少年。お主らの目にはどう映ったかの?」
コホン、と咳払いして長老は二人に問いかける。
長老が兼一を連れてきた理由、それは、ただ二人を遊ばせる為だけではないのだ。
「…とても不思議な少年ですね。醸し出す気は武術家のそれに近いですし。先ほどもほんの数瞬ではありますが、美羽を投げようとしていましたので、柔術を習っているのは確かです。が、他の武術の要素も見受けられました」
秋雨が告げたのは兼一が数瞬見せた技撃軌道が、柔術の技であったというもの。
実は、兼一は美羽に腕を引っ張られた際、無意識で踏みとどまろうとしていただけでなく、これもまた無意識のうちに技をかけようとしていたのだ。
秋雨の指摘に長老と剣星も同意であると相槌をうった。
「駄菓子屋の一件で『空手』は確定しておったが、まだまだありそうじゃな」
「本当に興味深い少年ね。少年の師匠は誰なのか、後で聞いてみるとするね」
あの少年はこの先どんな成長をするのだろうか。
梁山泊の豪傑たちに興味を持たれた兼一であった。
所変わって、梁山泊 武道場。
「着きましたわよ!」
美羽に案内され、武道場へと案内された兼一。
以前から何度も此処で修行していた兼一としては見慣れた場所ではあったが、今は体が小さいこともあり、何時もより少し広めに感じていた。
「広い武道場ですね」
「梁山泊自慢の武道場ですわ♪ いつもは此処で、私が修行したり、おじい様達が道場破りの相手をしているのですわ」
「へ、へぇ…。確かに、壁にドでかい穴が空いてたみたいだね」
美羽が言うように、この武道場は修行の場としての用途の他、道場破りを叩きのめす場としても利用しており、壁には補修された跡が至るところに見受けられた。
「やっぱり分かりますかですわ…。あの方達、何時も過剰にやってしまうから…」
「確かに、あの人たちは加減を知らなさそうだもんね。…それで、ここで何するの?」
話を切り、問いかけた兼一に、美羽はくすりと笑う。
「そんな事言って、何をするのか分かってるじゃありませんか。話をしながら、重心を落としているのがバレバレですわよ?」
「あらら。と言うことは、アレをやるんですね?」
「ええ、勿論ー」
「「組手だね(ですわ)!」」
言うや否や、美羽が一瞬で距離を詰める。
長老たち直々に修行をしているだけあって、そのスピードは兼一の予想を上回っていた。
「(くっ、駄菓子屋で見せた動きは、全力ではなかったのか?!)」
油断していたつもりはない。しかし、今から後方へ跳んだところで、それよりも早く美羽の拳が当たる。
ならば、攻撃を受け切るのみ!
人中を狙った一撃目を右腕で跳ね上げ、二撃目の肝臓打ち(レバーブロー)を半身になることでかわす。
さらに、半身になる際の回転力を腕へ伝え、こめかみを狙ったであろう三撃目を弾き、最後の上段蹴りは逆に間合いを詰め、美羽の太股を押さえることで防いだ。
美羽の四連撃を捌き切った兼一は、上段蹴りに失敗したことで生まれた一瞬を見計らって、美羽の追撃から離脱することに成功した。
「むむむ、受けが上手いですわね…」
一息つき美羽が唸る。
美羽には、今の攻撃を当てる自信があったようで、捌き切られたこと対する悔しさが見て取れた。
「防御の練習は大事ですからね。相手を倒せなくても身を守れれば、命を奪われずに済みます」
「なるほどですわ。しかし、相手が諦めずに攻め続けたらどうなるでしょう?」
またも、美羽が仕掛ける。
しかも、今度は四連撃ではなく、八連撃…十連撃…。
兼一もその悉くを捌き続けるが、どれだけ捌こうと、美羽の攻撃は一向に止まる気配を見せない。
それどころか、あまりの手数に兼一の受けが少しずつ追い付かなくなってきている。
一度、間合いから離れて仕切り直そうとするも、美羽がそれを許すはずもなく。
兼一のバックステップに完璧なタイミングで前へ踏み込んだ美羽は渾身の一打を兼一の腹部へと見舞った。
「これで決まり、ですわ!…あれ?」
完全に捉えたと確信し、したり顔で一撃を放った美羽であったが、想定したほどの手応えが無かったことにその表情を困惑へと変える。
ー 扣歩(こうほ) ー
美羽の視界から兼一の姿が消えた。
続く、のか…?