不備があってもわからない。機械音痴なんですよ。
※蒼ルート要素含むのでプレイ後を推奨します
あ、これ単発です
木々が緑ではなく、茶色をまとい始める頃。俺は今日もこの島に来ていた。欠片程度の涼しさの中、ここ1か月ほど通っていないなじみの坂を上る。そうして目的の家の前、俺はインターホンを押す。
「はーい」
家から声がする。パタパタと音がして、彼女が顔を出す。目を覚ましてほどない、彼女の顔が……。
「おや、羽依里さん。いらっしゃったんですね」
「いやそこは蒼であれよ」
「本日の主役に手を煩わせるわけがないでしょう」
「いやいや藍も主役だろ」
「私は蒼ちゃんさえ盛大に祝えればそれでいいんです。それと、蒼ちゃんを祝うならもっと早く来てくれてもいいんですよ。あなたが最後ですから」
「こちとら船で来てるんだ。すこしぐらい許してくれ」
予想と反して最初に出会ったのは藍だった。さすがの超シスコン。世界が蒼中心に回っている。
「何突っ立ってるんですか。早く入ってください。蒼ちゃんはあなたが来るのを心待ちにしていたんですから」
「ああ、今行く。」
靴を脱ぎ、今の方へと向かう。その途中、少し話し声も聞こえてくる。
「ああ待って待って!私前髪大丈夫だっけ?」
「蒼、何時まで前髪を整えているんだ?」
「のみきの言う通りだ。つーか、そもそもみんなが集まる前にも藍に手入れして貰ったんだろ?」
「準備時間を過度に設けるのは相手に失礼だ。蒼よ」
「天善、多分お前の言っていることは的を射ていないと思うぞ」
「あーもう!せっかく今日のために本土からきゅーてぃくるを取り寄せたのに!」
いつもの面子がワチャワチャしている。これだけでも胸がいっぱいになってしまうほど、この1年間で色んな思い出を得たのだと心がいっぱいになる。だが立ち聞きしすぎて永遠に蒼が前髪を整え続けるというのはさすがに可哀想だ。
「よっ」
「お、来たか!羽依里」
「待ちわびたぞ。特に蒼がな」
「蒼、すごく面白かった」
のみき、良一、天善、しろはがまっさきに俺を迎え入れる。そしてその奥、いわゆるお誕生日席の位置に、蒼はいた。「本日の主役」と書かれた襷はなかなかどうして、誕生日パーティー特有の締まらないような、あるいは浮かれた雰囲気を醸し出しているのか。
「あ、えっと、羽依里......ようこ......そ?」
「ああ。誕生日おめでとう、蒼」
1ヶ月も顔を合わせていないとやはり小っ恥ずかしさが出てきてしまう。1か月会えなかった恋人との再会を喜ぶべきか、誕生日を迎えた恋人を祝うべきか。いや、これは両方だ。
「髪型も気合入ってるんだな」
「え!?あ、えっと、うん」
蒼が嬉しそうにうなずく。
「そっかぁ、わかるんだ……」
蒼が気づいてもらえた喜びをかみしめている。あんまり俺もとやかく言うまい。
俺は蒼を目覚めさせてから、皆から言われたことがあった。そう。
成績だ(血涙)。ただでさえ部活に打ち込み、その後に素行不良になり、さらに夏休みの宿題をミリもやらなかった俺は、留年こそしないものの志望校の判定がすこぶる悪かった。そんな俺が部活の後に短期バイトに打ち込んでいることを誰も咎めなかったが、すべてが済むと現実に目を向けざるを得なかった。そうして俺は八月初旬に蒼を目覚めさせたのち、蒼とは遠距離恋愛になってしまった。蒼は我慢をすると言ってくれているが、やはり俺の心が持たない。蒼が目覚めてから間もないのにこうなってしまったのは、俺の心が持たなかった。今でも久しぶりの蒼の声と表情と匂いで頭がくらくらするほどだ。
ああ、でも。やっぱり会えてよかった。誕生日パーティーという名目であっている以上、蒼を独り占めできないが、皆と笑いあえるというその姿はやはり眼福だった。
蒼と藍の誕生日パーティーは進んでいった。途中、余興としてしろはのチャーハンケーキが出された。甘いのにおいしいのずるいと思う。でも、だからと言って、「ろうそくが刺さってるからこれはケーキ」という理論がまかり通るこの島はやはりおかしい気がする。え?良一もそう思う?やっぱりそうだよなあ。いや人の心に裸で入るな。
「というわけで、今日のパーティーはこれで解散だな!」
のみきが場を取り仕切り、閉会の言葉を口にする。ちなみにしろはは結構中盤で帰った。
「じゃあな、羽依里、蒼」
「ああ。あとは2人で楽しんでくれ」
「おおー……お?」
うん?
「それでは鷹原、その、頑張るんだ……ぞ?」
のみきもなんだか歯切れが悪い。
「えーと、何を頑張るんだ?」
「……じゃあな!」
あ、のみきも行ってしまった。しょうがない。俺は加藤家に泊めてもらうか。
「じゃあ、俺もこれで」
「待ってください、羽依里さん」
「ん?どうした?藍」
「あなたにはまだ重大な使命が残っています」
「重大な、使命?」
「蒼ちゃんとイチャイチャすることです」
「……イマナンテ?」
「今日はうちに泊まってもらいます。今日は父も母も仕事が佳境なんです」
「いや、でも今日は鏡子さんのところに厄介になるって、伝えてあるし……」
『ごめんね。今日は急な来客があって、部屋が空いていないの』
「え?一昨日までは大丈夫だって……」
『ほら、急な来客だから。え?空門さん、ご飯なんて、いえいえ、お客様に作っていただくわけには……そんなに言われても……』
電話口の向こう、鏡子さんに突っぱねられた。むこうからかすかに聞こえる成人した男女の声。いや、ご両親いるんじゃん。
『だから、他の家のところに泊まったらどう?例えば空門さんとか』
確信犯じゃないか。
「んん……えへへぇにへへぁ」
蒼が俺の腕に抱き着き、すごくみっともない声を出している。みんな帰り、片付けが済んだ空門家。蝶の標本がびっしりの居間にて、俺はイチャイチャしていた。一方、藍は洗い物をしていた。
「藍は座っていて良いんだぞ?本日の主役がすることじゃないだろう」
「いえ、羽依里さんはそのまま一秒でも多く蒼ちゃんを甘やかしていてください。私はそれを見て頑張る、これぞWIN-WINです」
「藍がいいんならいいんだが……」
「羽依里ぃ……」
蒼がすごく甘えん坊になっている。
「蒼ちゃんはここ二週間ほど、羽依里さん成分不足だったんです。またしばらくこの島を離れるというのなら蒼ちゃんの気が済むまで甘やかしてあげてください」
そこまで言うんだったら、役得か。
「羽依里、その、ぎゅーってして?」
「お、おう」
いかん。キスはもうしたのにハグの方が緊張するなんて……いやでも1回砂浜でやったか。
ぎゅー。
「すごく、羽依里のにおいがする……落ち着く……」
こっちはすごくドキドキしているんだよなあ。
「もっと、強くだきしめて?」
「こ、こうか?」
ぎゅー。
「もうちょっと」
ぎゅーー。
「……すごく、羽依里の体、おっきくてがっちりしてるわね」
蒼の体は柔らくて細くて守りたくなるんだよなあ。
「これ、好きかも」
蒼がボソッとつぶやく。
「しばらく、このままでいて?」
「ああ」
すこしぶっきらぼうな返事になってしまう。変わらず蒼は身をくっつけている。
少し、静寂が流れる。
「あ、そういえばさっきから私がしてほしいことばかり要求してたわね。なにかしてほしいこととかある?」
「そうだな……」
蒼とくっつけるという多幸感のみで何も考えていなかった。
「じゃあ、キスしたい」
少し思い切った要求だったが、蒼は何もいわずに目を閉じ……。
「羽依里さん、お風呂が沸いたので入っちゃってください」
「「‼!??」」
「さすがにそこまではさせません」
藍の硬い意思が見られた。
翌朝。
「んんっ、あれ、もう朝?」
蒼が起きて伸びをする。
「ああ、起きたんですね、おはよう、蒼ちゃん、羽依里さん」
「ああ、藍。おはよう」
「おはよう、蒼、藍」
「羽依里もおはよ……羽依里?」
「おう」
「なんで羽依里が隣に……この布団の配置、川の字?」
「そうだったな」
「……」
すこし、蒼が黙り込む。状況を整理している。そしてそういう時は決まって。
「……羽依里のばかー!最初から三人でとか、そ、そんなのマニアックすぎるわよーー!!!」
「いったん落ち着けぇ!!」